前橋汀子 アフタヌーン・コンサート2014

去る4月に「バッハ無伴奏ソナタ&パルティータ全曲演奏会」を聴いたが、年齢を感じさせない迫力ある前橋汀子の演奏に感動した。3時間にも及ぶ圧倒的な演奏はその姿が今でも眼前に浮かぶ。
昨年9月にも「アフタヌーン・コンサート」は聴いているが、前回のバッハとは違って肩ひじ張らないで聴けるので、今年も気軽に聴いてみることにした。

2014年9月28日(日) 1:30PM開演 札幌コンサートホール Kitara 大ホール

〈プログラム〉
 ヴィターリ:シャコンヌ ト短調
 モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第25番 ト長調 K.301
 ラヴェル:ハバネラ形式による小品
 ドビュッシー(ハルトマン編):亜麻色の髪の乙女
       :ヴァイオリン・ソナタ ト短調
 ヴィエニャフスキ:モスクワの思い出 Op.6
 ドヴォルザーク(クライスラー編):わが母の教え給いし歌
                  スラヴ舞曲 Op.72-2
 ショーソン:詩曲
 ファリャ(クライスラー編):スペイン舞曲第1番
 サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ Op.28

2012年から札幌でも始まった「前橋汀子アフタヌーン・コンサート」も今年で3回目を迎えた。毎年9月最終日曜日の恒例のコンサートになった。ピアノは松本和将。ほぼ同じ形式で開催されている。前半にヴァイオリン・ソナタを1曲か2曲。後半にヴァイオリンの小品を中心とした名曲集。
今年の演奏曲で昨年と重複するのは「序奏とロンド・カプリチオーソ」だけである。

ヴィターリ(1663-1745)はバロック期のイタリアの作曲家・ヴァイオリニスト。ヴァイオリンの当時のあらゆる技巧が駆使され、情熱をたたえた豊かな曲想の展開が見事でヴァイオリニスト必須のレパートリーとなっていると言われる。2012年のプログラムにも入っていた。名曲として心地よく聴けた。バッハの「シャコンヌ」は最近ピアノ曲で聴く機会が多い。何処か共通点があって共にバロック音楽の良さが味わえる。

モーツァルト(1756-91)のヴァイオリン・ソナタで最も親しまれている曲のひとつ。22歳の時に作曲した6曲からなるソナタ集の第1曲目。2楽章構成。主題がピアノとヴァイオリンで応答が交わされ、田園の雰囲気をもった伸びやかで素朴な曲。

ドビュッシー(1862-1918)のヴァイオリン・ソナタは彼の最後の作品。彼独特の音色と色彩を持つが、ピアノ曲とは違った感じの曲に仕上がっていた。詩情豊かな曲。彼のヴァイオリン曲を聴く機会は多くはない。一世を風靡したシュロモ・ミンツ(1990年来札)とイェフィム・ブロンフマン(2007年ゲルギエフとKitara登場)が1985年に録音した音源のCDを数年前にレコード店で見つけて手元にあり、偶に聴く。

前半の曲をステージを下がらずに一気に演奏。ラヴェルのハバネラのリズムによるスペイン情緒あふれる曲や聴き慣れたメロデイの「亜麻色の髪の乙女」の後には歓声が起こるくらい聴衆の反応も良かった。前橋は紫のドレス姿でいつもと同じ華やかな演奏で会場に詰めかけた前橋ファンの期待に応えた。ソナタの楽章間の拍手が無かったのも良かった。

後半の曲は前橋が得意にしていて思い入れの深い曲が中心のようだった。フランスの作曲家ショーソン(1855-99)の「詩曲」は詩情に満ちた曲。原曲はオーケストラとヴァイオリン独奏。イザイの初演で知られる。ハイフェッツのCDで久しぶりにコンサートの前に聴いてきた。15分弱の曲でヴァイオリンが存分に歌いまくる。

サン=サーンス(1835-1921)が天才ヴァイオリニスト、サラサーテのために作曲した。ヴァイオリニストの愛奏曲となっている。「序奏」はジプシー風、後半は華麗なテクニックが次々と繰り出され哀愁を帯びたスペイン風のリズムで最も親しまれているヴァイオリンの名曲。

前橋はあらゆる曲を演奏するとは言え、比較的に小品と言える演奏作品から判断すると、スペインものが好みなのかも知れないと思った。内に秘めた情熱や衣装などから、勝手な印象が浮かんだ。

前半の曲が終わる度にブラボーの声もあがり、後半は深紅のドレスでステージに登場した時には、その華やかさに一瞬溜息さえ起った。演奏終了近くに聴衆は徐々に気分が高揚していく感じであった。
当然とは言え、全曲暗譜で一気に弾き切った。凄い集中力! 古希を過ぎても、彼女の精神力と体力は並みのものではない。前橋自身も聴衆の反応に満足した様子であった。

アンコール曲は「マスネ:タイスの瞑想曲」の他に、ヒット曲のメドレー。「枯葉」、《ウエストサイド・ストーリー》より「マリア」、「イエスタディ」、「オペラ座の怪人」、「愛の讃歌」。
ヒット曲のメドレーは聴衆の心を掴んだ。聴き慣れた名曲が5曲も流れて、聴いていて極めて心地よい気持ちになった。アンコール曲にヴァイオリン曲に拘泥しないヒット・メドレーを選曲したのは大成功だったようである。聴衆も大満足で日曜の午後のひと時を楽しんだ様子がホールやホアイエに満ちていた。帰りに“いいコンサートだった”と口にする客もいた。

前橋汀子は日本のヴァイオリン界の第一人者で最近は札幌で聴く機会も増えた。90年代は3回、2000年代は3回だったが2010年代に入って6回と毎年彼女のコンサートを聴くようになった。(Kitara では今回が10回目となった。)70年代、80年代の記録はないが何回か聴いていると思う。来年以降も聴き続けることになりそうである。


 
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札響第572回定期演奏会(2014年9月)

2014年9月27日(土) 14:00開演 札幌コンサートホール Kitara大ホール

指揮/ 児玉 宏
ピアノ/ 田部 京子

児玉宏(Hiroshi Kodama)は1952年生まれ。桐朋学園大学卒業。齋藤秀雄、小沢征爾に師事。75年渡欧、東独ベルリン国立歌劇場音楽監督オトマール・スイトナーの下で研鑚を積む。デュッセルドルフ・ライン・ドイツ歌劇場第一オペラ専属指揮者(89-96年)、バイエルン州立コーブルク歌劇場音楽総監督(96-01)などを歴任。日本では新国立歌劇場に02年《サロメ》で初登場し、次いで《ナクソス島のアリアドネ》も指揮した。オペラ公演の他、東京都響、東京フィル、神奈川フィル等と共演。札響とは07年に北海道二期会オペラ《フィガロの結婚》で共演。08年より大阪交響楽団音楽監督・首席指揮者。就任当初からアッテルベリの交響曲などの珍しい作品をプログラムに組み込んで、オーケストラ界に新風を吹き込んで評判となっている。
11年11月の札響名曲シリーズにオール・モーツァルト・プログラムでKitaraに登場した時に彼の指揮を初めて観た。今回が札響定期初登場。ミュンヘン在住。

田部京子は1月のKitara小ホールでのリサイタルに続いて、今年2回目のKitara出演。前回の札響との共演は10年《夏の特別演奏会》で「グリーグのピアノ協奏曲」を演奏。札響定期には13年ぶりの出演。室蘭市出身。日本を代表する実力派ピアニスト。

〈プログラム〉
 モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K.488
 ブルックナー:交響曲第6番 イ長調

モーツァルトのピアノ協奏曲23番のCDはR.ゼルキン、ラローチャ、アシュケナージ、内田が録音したものを所有している。今日の演奏会の前に彼らのCDを連続して聴いてみた。さほど集中して聴いたわけではなかったが、大きな違いには気付かなかった。それでも内田とアシュケナージは何となく気に入った。
作曲家が30歳の時の作品であるが、既に円熟してまるで後期の作品のようである。この協奏曲ではクラリネットが用いられ、オーボエが使われていないのが特徴である。CDでは気が付かなかったが、打楽器は使われず、フルート1、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2と弦5部で、比較的に小編成のオーケストラ。

3楽章構成。美しい旋律に満ち溢れた第1楽章。第2楽章は緩徐楽章で抒情的な美しい旋律を持つ。嬰へ短調でメランコリックなメロディも表れる。明るくて軽やかな第3楽章。軽快な主題が繰り返され、変化に富んだ雰囲気の中に華麗なフィナーレ。
田部のピアノと弦、木管が織りなす音色が美しく鮮やかにホールに響きわたった。第1楽章での田部のカデンツァも良かった。

ソリストのアンコール曲は「シューベルト(吉松隆・田部京子編曲):アヴェ・マリア」。

ブルックナー(1824-96)の名を知り、一応全9曲の交響曲のCD1枚づつが棚にある。第4番、第7番は何度か耳にしようとするが、他は聴くことが稀である。コンサートで聴いて、以前よりその曲の迫力が伝わってくるが、1曲が約1時間の曲ばかりで長くて、ブルックナーを気軽に聴く習慣がついていない。カラヤン&ベルリン・フィルのCDが4番、7番。インバル&フランクフルト放送響が4枚、ヴァント&北ドイツ放送響が2枚、残り1枚はフルトヴェングラー&ベルリン・フィル。

朝比奈隆がブルックナーを得意として晩年に2度シカゴ響と共演したことは良く知られている。尾高&札響もこの五年でブルックナーを定期で3回は取り上げている。09年に第4番と第5番。昨年5月の第7番で少しブルックナーの良さが解りかけてきた。金管の迫力が味わえるようになってきた。今日は一応ヴァントによる演奏を予め聴いて出かけた。
児玉がブルックナーを得意としている様子が迫力ある指揮ぶりから伝わってきた。CDを漫然と聴いているより、生演奏を観ていると集中力が出て曲が親しみ易くなる。比較的に明るく力強い音楽。楽章ごとに特徴があって、第3楽章のスケルツォでは弦のピッツィカートのリズムにホルンが応答するところが興味をひいた。最終楽章での弦楽器と木管楽器による歌謡的なテーマと金管楽器の豪快なテーマの展開が印象的であった。

札響の演奏歴は1975年の初演以来、今回は約40年ぶりで2回目という。演奏終了後、聴衆からもブラボーの声が上がった。オーケストラ団員の指揮者への拍手がしばらく続く場面は珍しい光景であった。客演指揮者への感謝の気持ちの大きさの表れであった。
マーラーの交響曲も聴く回数が増えることで聴きやすくなったが、ブルックナーの曲も聴き慣れることが先ず第一であることを改めて実感した。

石川祐支&大平由美子 デュオ・リサイタル ~ドイツ音楽の夕べ~

5月末に行われた「札響くらぶ交流会」に大平由美子さんと石川祐支さんが参加されていて、その折に今日の演奏会の案内があって割引料金でチケットを購入していた。彼らと言葉を交わす機会もあって親近感も沸いた。

2014年9月22日(月) 7:00PM開演 札幌コンサートホール Kitara小ホール

石川祐支(Yuji Ishikawa)は1977年、名古屋生まれ。東京音楽大学に特待生として入学して首席で卒業。99年、第68回日本音楽コンクールチェロ部門第1位。その後、マリオ・ブルネロに学び、03年、東京響首席奏者を経て、05年4月より札幌交響楽団首席チェロ奏者に就任。ソリストとして東京シティ・フィル、セントラル愛知響、東京響、神奈川フィル、札響とコンチェルトを共演。New Kitaraホールカルテットを始め、室内楽でも幅広い活躍をしている。
彼のチェロから奏でられる音は繊細で響きが豊かで色々な感情が伝わってくる。チェロという楽器の持つ音の特徴をどのようなコンサートでも紡ぐ彼の魅力に惹かれている。

大平由美子(Yumiko Ohira)は札幌生まれ。東京藝術大学卒業後、ドイツに渡りベルリン芸術大学ピアノ科に入学。同大学卒業後、89年より08年までベルリン芸術大学・舞台演奏科の講師を務めた。その間、ドイツの放送番組、音楽祭に出演。ベルリンをはじめドイツ各地でソロ、コンチェルト、室内楽、リート伴奏など多岐にわたる演奏活動を行った。日本では日本フィルや札響との共演の他、リサイタル、室内楽などでも活躍。
08年に帰国。以後、札幌を拠点に積極的な音楽活動を展開している。私は10年8月のリサイタルを初めて聴いた。彼女は「シューマン:森の情景、ショパン:幻想即興曲、バラード第3番、シューベルト:ソナタ19番」などを弾いた。繊細で、深みのある演奏で、経験の豊富さを感じたことが印象に残っている。

〈プログラム〉
 ベートーヴェン:ピアノとチェロのためのソナタ第4番 ハ長調 Op.102-1
 シューベルト:アルぺジョーネとピアノのためのソナタ イ短調 D821
 シューマン:アダージョとアレグロ 変イ長調 Op.70
 ブラームス:ピアノとチェロのためのソナタ第2番 ヘ長調 Op.99

ベートーヴェンはチェロ・ソナタを5曲作ったが、第3番が一番親しまれている。(このデュオは2年前のコンサートで演奏したそうである。)他の4曲が2曲ずつまとめられて作品番号が各々付いている。「第4番」は後期の作品で、第3番ほどの華やかさはない。ソナタの枠組みを離れた自由な曲つくりになっていると言われる。2楽章構成。チェロとピアノが穏やかに交わす対話が美しい序奏に続いて、ダイナミックなアレグロで緊迫感のある第1楽章。瞑想的な気分のアダージョで始まり、第1楽章のアンダンテが再現され、ユーモラスな掛け合いで軽快さが混ざりあったアレグロでのフィナーレ。
ロストロポーヴィチとリヒテルのCDで数回聴いてコンサートに臨んだのでそれなりの鑑賞ができた。

「アルペジョーネ・ソナタ」は昨年ピリス&メネセスのデュオで初めて聴いた。1823年に発明された楽器のために作られたが、シューベルトの死後40年以上たって曲が出版された1871年にはこの楽器は姿を消していたようである。アルぺジョーネはギターのように指板のフレットがついた6本の弦を弓で弾く楽器だったが、チェリストの名手がこの曲に挑戦している。4弦でフレットを持たないチェロで演奏するのはチェリストには至難の技のようである。
3楽章構成。ピアノとの掛け合いで美しい第1楽章。第2楽章は歌曲のように始まり、静寂で落ち着いた雰囲気の中に不安感がよぎる。終楽章は哀愁を帯びながらも幸福感が溢れてくる。いろいろな感情が織り交ざった表現でフィナーレ。
この曲を意識して傾聴したのが2回目で前回よりは曲の良さを理解するように努めた。チェロの哀愁を帯びた特徴ある音色を期待する者にとっては感激度が薄まる印象は拭えなかった。

石川の熱演は手に取るように伝わってきた。前半の2曲の演奏の準備も大変であったように思えた。大平は4年前のリサイタルの時より若々しく生き生きとした演奏であったが、デュオとして相手に合わせて演奏するのにはもう少し時間が必要であったのかもしれない。

シューマンの曲は題名だけでは使用楽器が判らなく、多分、今回初めて耳にする曲。原曲はホルンとピアノのために書かれ、後に彼自身がチェロ版を書いたそうである。ロマンティックなアダージョ部分と躍動感溢れるアレグロ部分から成る。10分程度の演奏時間の小品。

ブラームスのチェロソナタは第1番と第2番のCD(デュプレとバレンボイム)が手元にあって偶に聴いている。彼は生涯にピアノとチェロのためのソナタは2曲しか書いていない。「第2番」は既に大作曲家としての名声を得ての円熟期の作品。力強く、若々しい第1楽章。ピアノとチェロが交互に現れ、躍動感がある。第2楽章ではチェロがピッツィカート奏法も入って個性的。ピアノとチェロの対話が美しいアダージョの第2楽章。第3楽章ではチェロが高音域で甘美なメロディを奏でてピアノが歌曲の伴奏のように寄り添う。終楽章は幸福感と優しさが感じられ、曲は力強く閉じられた。演奏時間30分の大曲。

演奏終了後、演奏者も疲れ切った様子。私自身も普段より力が入って、集中力が高まって少々疲れを感じた。会場は満席状態。地元の音楽家への期待も高かった。聴衆はそれなりの満足感を得たと思うが、演奏家の感想は満員の聴衆に対して“反省の言葉”が出た。演奏者にとっては満足のいく思い通りの演奏が実現できなかったようだ。ドイツ音楽の“重量級”の曲ばかりだったので、特に最後の曲の演奏は精神的にも体力的にも大変であったようだ。
聴く側にとっては、聴きごたえのある演奏会ではあった。

アンコール曲には札響事務局長としても活躍して札幌の音楽界に多大な功績を残した故竹津宜男氏と故谷口静司氏への感謝と哀悼の意味で「バッハ:G線上のアリア」が演奏された。

*コンサートの帰りに2週間前に初めて行った“名曲バーOLD CLASSIC”に立寄った。「第九」の第4楽章が聞こえてきた。若い先客がいた。今夜のコンサートの話をマスターにしていると、若い人が話しかけてきた。石川さんのファンらしい。彼のドヴォルジャークを聴いたか尋ねられたので、もちろん聴いた旨を伝えると、是非聴きたかったのに聴けなくて残念だったと繰り返していた。石川さんのチェロの魅力を話すと全く同意見だと言って話に花が咲いた。
Kitaraにコンサート用ピアノが8台あると話すと驚いていた。ブルーノ・ワルター指揮コロンビア響による「ブラームスの交響曲第4番」の曲がかかりだすと、前回この店でお会いした常連客が2人姿を見せた。お互いに顔を見合わせてビックリ! 4人でワルターの演奏を素晴らしい音響で聴き入りながら、クラシックの話題が多方面に及んだ。生演奏を思わせる音の迫力を楽しんた。感動的なブルーノ・ワルターだった。今度はワルターの「運命」と「未完成」をLPで聴くことになった。私もCDで所有している。ところが、同じ音源でもYAMAHAのスピーカーで聴くと迫力が違う。かなり遅い時間になったので曲の途中で店を出た。帰りの挨拶も旧知の間柄のようになっていた。楽しい時間を過ごせた。

今井信子&伊藤恵 デュオ・リサイタル ~魂のひびき~

世界的なヴィオラ奏者、今井信子の生演奏は聴いたことが無かった。小樽や江別で公演を開催していても、Kitaraでのコンサートの企画が無かった。今回は思い切って隣りの江別市に出かけて行くことにした。

2014年9月18日(木) 19:00開演  えぽあホール(江別市民文化ホール)

〈プログラム〉
 モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第28番 ホ短調 K.304(1779)
 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調 「雨の歌」 op.78(1789)
 ブリテン(今井信子編):無伴奏チェロ組曲 第3番 op.78(1971/arr.2013)
 クラーク:ヴィオラ・ソナタ(1919)

今井信子(Nobuko Imai)は1943年、東京生まれ。6歳でヴァイオリンを始め、桐朋学園大学で齋藤秀雄に師事、その後ヴィオラに転向。イェール大学大学院、ジュリアード音楽院に学ぶ。67年ミュンヘン、68年ジュネーヴともに国際コンクールで最高位獲得。ベルリン・フィル、ロンドン響、パリ管などと共演。室内楽ではクレーメル、マイスキー、ヨーヨー・マなどと共演。ソリストとして武満作品などを数多く初演。03年ミケランジェロ弦楽四重奏団結成。日本では92年から〔ヴィオラスペース〕を開催して企画・演奏に携わり、ヴィオラ界を牽引する国際的活動を行っている。音楽賞を含め数々の賞を受賞。アムステルダム音楽院,上野学園大学などで後進の指導にも当っている。(71年札響と共演)

伊藤恵(Kei Itoh)は1959年、名古屋生まれ。桐朋学園女子高校を卒業後、ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学、ハノーファー音楽大学に学ぶ。79年のエピナール国際コンクール第1位、80年のバッハ国際コンクール第2位、81年のロン=ティボー国際コンクール第3位と目覚ましい活躍の後、83年のミュンヘン国際コンクールピアノ部門で日本人としては初めての優勝の快挙を成し遂げた。83年サヴァリッシュ指揮バイエルン国立歌劇場管と共演してミュンヘン・デビュー。84年はN響と共演して日本デビュー。(札響と84・85年共演)
日本を代表するピアニストの一人。Kitaraで彼女の演奏を5回聴いているが、前回は昨年7月、New Kitaraホールカルテットとの共演でシューマンとブラームスのピアノ五重奏曲を演奏。2013年、香港でアントニオ・メネセスと共演、今年はN響とも共演している。東京藝術大学教授、桐朋学園大学特任教授としても活躍中。

モーツァルトやベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタはピアノとヴァイオリンがほとんど同等な役割を担っていると言われる。2楽章構成。彼のヴァイオリンソナタの曲は多分全曲持っていると思うが美しい旋律の曲が大部分である。30曲以上のヴァイオリンソナタのうちで短調の曲はK.304だけと言ってもいいくらい珍しい調性の曲。ピアノ協奏曲も含めて、明るくて軽やかな長調の曲が殆どである。この曲は短調であっても、明るくて楽しい曲で、特徴があるせいか聴く機会が多い。
第1楽章が終ったところで拍手を続けた人が1人いたのが少々残念であった。

ブラームスは40歳を過ぎて初めてヴァイオリン・ソナタを作曲した。作品は3曲しか残されていない。ムロ―ヴァとアンデルシェフスキーによるCD(第1番~第3番)を2000年に購入して聴き続けていた。(5年ほど前にアンデルシェフスキーの名が大きくなってサントリーホールに彼のピアノ・リサイタルを聴きに出かけたのが3年前の事である。) 昨年5月、ムターの演奏をKitaraで聴いて、その折にブラームスのソナタ3曲入りのCDを購入してサインしてもらったのを昨日の出来事のように懐かしく思い出す。
この曲は今年の4月に樫本大進とコンスタンチン・リフシッツのデュオで聴いたばかり。今ではヴァイオリン・ソナタの名曲として親しんでいる。「第1番」は優雅でロマン性に富む。明るくて美しいメロディで魅力的な第1楽章。哀愁を帯びた抒情的な第2楽章。心も高揚して充実感溢れる第3楽章。《雨の歌》と呼ばれるのは、第3楽章に1873年に作曲された歌曲の《雨の歌》の旋律が主題として用いられ、それが第1、第2楽章の主題のモチーフにもなっているからと言われている。
何度聴いても美しい曲で、ヴァイオリン協奏曲に次いで気に入っている彼のヴァイオリン曲である。

ヴィオラ曲の前にヴァイオリン曲で今井信子の素晴らしい演奏に満足した。ただ、楽器の大きさが普通のヴァイオリンより大きめであった。ヴァイオリン曲として極めて自然に聴けたのだが、ヴィオラの楽器を使用して演奏したのかどうか疑問が残った。(今になっても判らない)

プログラムに載っていた今井によると、彼女は数年前にロンドンの出版社から「ブリテンの無伴奏チェロ組曲」のヴィオラ版への編曲の依頼があり、ブリテンの生誕100年を迎えた2013年に出版にこぎ着けた。
曲は9楽章構成。第1楽章からショスタコーヴィチの現代曲を思わせる音楽。プログラム・ノートを読んでも素人には鑑賞が極めて難しい。ただ、有名な作曲家の作品の編曲を依頼されるヴィオラ奏者(編曲者)としての今井の偉大さは理解できた。
(*世界で名高いヴィオラ奏者、ユーリ・バシュメットがモスクワ・ソロイツ合奏団を率いて1997年にKitaraに登場し、3年前にも東京で彼と合奏団の演奏を聴いているが、ヴィオラ・ソナタを耳にするのは極めて珍しい。バシュメットのCDは手元にあっても聴くことは滅多にない。)

レベッカ・クラーク(1886-1947)の名は初めて聞いた。彼女がヴィオラ奏者、特に作曲家として、その功績が再評価されるようになったのは1970年代で、楽譜が出版されるようになったのは90年代に入ってからだそうである。
この曲は彼女が作曲家としての地位を確立した出世作と言われる。曲は3楽章構成。現代曲とは対照的に、どちらかと言えばロマン派的で親しみ易いメロデイ。憂愁と抒情性のある魅力的な作品になっていた。

伊藤惠は2010年5月、えぽあホールで開催された「今井信子ヴィオラリサイタル」でも共演していて、お互いに気もあっていて満足のいく演奏だった様子がうかがえた。

帰りの電車の時間表を詳しく調べていなかったので、アンコール曲はクライスラーの曲を聴いただけで、途中で退席した。
470席ほどの客席が8割ほどの聴衆で埋まっていたが、音響もそれなりのホールであった。地下鉄とJRの乗り換えで少々時間はかかっても札幌・大麻間の乗車時間は15分程度。駅からホールまで徒歩で5分もかからずに行けて片道1時間程度で通えることが判った。今後、機会があれば気軽に出かけられそうである。

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札響名曲シリーズ2014-2015 vol.3 巴里のアメリカ人

森の響フレンドコンサート 札響名曲シリーズ 2014-2015 vol.3
 ~巴里のアメリカ人~

2014年9月13日(土) 14:00開演  札幌コンサートホール Kitara 大ホール

指揮/ キンボー・イシイ
ピアノ/ 舘野 泉

〈プログラム〉
 オッフェンバック(ロザンタール編):「パリの喜び」より (抜粋)
 ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
 ガ―シュウィン:パリのアメリカ人

Kimbo Ishiiは1967年、台湾生まれのアメリカ人指揮者。幼少期を日本で過ごし、ウィ―ン、ニューヨークでヴァイオリンを学んだ後、指揮に転向。92年から小澤やラトルに師事して、彼らの下で副指揮者を務めた後、ニューヨーク州のカユーガ室内管音楽監督(99-07年)、テキサス州のアマリロ響音楽監督(07-12年)。ベルリンのコーミッシェ・オーパーでのカぺルマイスター(06-08年)としてオペラ指揮の経験も積む。世界各地のオーケストラにも客演し、大阪シンフォニカー響の首席客演指揮者に就任(09-13年)。現在はドイツ・マグデブルク劇場音楽総監督を務める。
札響とは度々共演しているが、私が彼の指揮で聴くのは多分今回が初めてである。

Izumi Tatenoは1936年、東京生まれ。 60年東京藝術大学を首席で卒業。フィンランドに渡り、64年よりヘルシンキ在住。68年メシアン・コンクール第2位。同年よりシベリウス音楽院の教授を務め、81年以降フィンランド政府の終身芸術家給与を受けて演奏生活に専念し、世界各国で3500回以上のコンサートを開催。02年、脳溢血で倒れ右半身不随となるが、04年左手のピアニストとして復活。06年、フィンランドのシベリウス協会から「シベリウス・メダル」を授与。08年旭日小綬章受章。これまでにリリースされたLP・CDは130枚にものぼる。

舘野泉のコンサートはかなり以前から聴いているが、はっきり記憶している最初の公演はヘルシンキ・フィル1982年旭川公演。ソリストが舘野で「グリーグのピアノ協奏曲」を弾いた。89年日本フィル北海道定期札幌公演では渡辺暁雄指揮で曲は「グリーグのピアノ協奏曲」。北欧の代表的なピアノ協奏曲はやはりグリーグの作品なのだろう。 その後、92年は札響と「ハチャトリアンのピアノ協奏曲」。95.、96年はピアノ・リサイタル。
復帰後は05、08、10、12年。 05年日本フィル札幌公演、08年札響定期の両演奏会では「ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲」であった。10年は〈演奏生活50周年記念公演〉として開催し、《彼のための音楽を 彼が弾く Vol.4》と銘打ってのリサイタル。舘野のために作曲され献呈された「間宮芳生、末吉保雄、Coba, 吉松隆」による各々の作品の演奏。特に末吉と吉松の室内楽は世界初演となった。12年は子息のヴァイオリニスト、ヤンネ・舘野とのデュオ・リサイタル。
今回は久しぶりの大ホールでの公演で、彼のコンサートを聴くのは2年ぶりで記録しているだけで11回目となる。

オッフェンバック(1819-80)の代表作である喜歌劇「天国と地獄」は20年前の1994年2月、北海道二期会30周年記念公演で札幌教育文化会館大ホールに於いて鑑賞した。(管弦楽は札幌交響楽団、合唱は札幌アカデミ―合唱団。当時は毎年のように北海道二期会のオペラ上演を鑑賞していた。
19世紀後半、ウィ―ンでヨハン・シュトラウス一族の音楽があふれていたが、パリではオッフェンバックが人々を魅了していたと言われる。オッフェンバックが残した様々な作品をもとに20世紀フランスの作曲家・指揮者ロザンタール(1904-2003)がバレー音楽としてまとめたのが「パリの喜び」。

ポルカ、マズルカ、ワルツなどと共にロザンタール自らが書いた小曲も加えられている。オリジナルの23曲のうち18曲が演奏された。パリの街角の雰囲気が良く表現されていた。パリの街を行き交う人々、街の賑わいと喧騒も見事に音楽で表現されていて、街の様子が目に浮かぶように鑑賞できた。ロマンティックな夜の雰囲気も味わえ、気軽に楽しめて心も踊る曲の数々。終盤には運動会で馴染みのメロディに心も浮き立った。結びは彼の最後の歌劇《ホフマン物語》から「舟歌」で幕を閉じた。およそ40分にわたる演奏で打楽器も大活躍。

ラヴェル(1875-1937)はオーストリアのピアニストのパウル・ヴィトゲンシュタインから「左手のためのピアノ協奏曲」の作曲の依頼を受けた。彼は第一次世界大戦に参戦して右手を失って以来、左手だけで演奏してヨーロッパ各地で人気を博していた。ラヴェルは作曲中だったピアノ協奏曲の並行して、依頼を受けたピアノ曲にも力を注いだ。
協奏曲としては大編成のオーケストラ。冒頭からコントラファゴットの独奏による重々しい序奏。作品全体の中心となる主題が提示され独奏ピアノが力強い旋律を奏でる。豊かで濃密な調べが展開され、各楽器の絡み合いが印象深い。カデンツァが片手だけで演奏されていると思えないほどの迫力を感じた。オーボエとフルートが美しい旋律を奏でる場面も良かった。ジャズの要素が取り入れられいるのも面白いと思った。
クリスティアン・ツィメルマンのCDで偶に聴いているので、左手だけの演奏に拘っていなかったが、今度舘野のCDを改めて聴いてみたい気がした。2回CBの中央の席からピアニストの手の動きやオーケストラ全体の動きが把握しやすかった。

ソリストのアンコール曲は「カッチーニ:アヴェ・マリア」。

ガ―シュウィン(1898-1937)は“Rapsody in Blue”で知られるアメリカの作曲家。Gershin は1928年の春、パリに旅行したが「パリのアメリカ人」はその時の印象を曲にした。タイトルのアメリカ人は作曲者自身である。映画化されて世界中で有名になったが、以前借りて観たDVDを今日のコンサートの前に借りてきて先月鑑賞したばかりである。とても懐かし想いをした。100年近くも前のパリの様子が生き生きと描かれていた。ミュージカル映画の傑作。
曲はヴァイオリンとオーボエによる「散歩のテーマ」で始まる。タクシーのクラクションが聞こえてきたり、トランペットによる哀調を帯びたブルースなども含めて華やかなパリの情景が映し出される。
木管、金管の他にジャズ音楽に必須の楽器サクソフォンが3本加わっての音楽は独特のリズムを作り出していた。
この曲はPMFでもたびたび演奏されて親しまれている。
指揮者はアメリカ人でこのようなポピュラーな曲を得意にして、演奏経験が豊富なように感じられた。

オーケストラのアンコール曲は「サティ(ドビュッシー編):ジムノぺディ 第1番」。
*サティ(1866-1923)が21歳の時の曲をドビュッシー(1862-1918)が編曲したことになる。ドビュッシーよりサティはずっと後の世代の作曲家だと思っていたので、ホアイエ出口のボードを見て少々驚いた。

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外山啓介 ピアノ・リサイタル2014

外山啓介が日本音楽コンクール・ピアノ部門で第1位になったのが2004年。それから10年が経過したが、彼は日本第一線の若手ピアニストとして順調に活躍を続けている。
私が初めて彼のコンサートを聴いたのが05年。Kitaraのオータムコンサートとして企画され「日本音楽コンクール優勝者によるコンサート」が開催された。同じ札幌出身の外山啓介と橘高昌男(1996年第1位)の二人が出演。
***「日本音楽コンクール」は1932年に毎日新聞社が始めた「音楽コンクール」が82年にNHKとの共催になって改称され、ピアノ部門は毎年開催されている。このコンクールはピアニストの登竜門になっているが輝かしい活躍をしているのは一部のピアニストにしか過ぎない。外山は最前線で活躍している数少ない音コン入賞者の一人と言えよう。

その後、外山は07年に華々しく全国デビューを飾り、毎年リサイタルを開いている。私は彼独特の繊細で色彩感豊かな音色で彩られるコンサートを楽しみにしている。私が聴くのは今回で13回目になる。
今回のプログラムで一番楽しみな曲目はリストの「ソナタ・ロ短調」である。


2014年9月12日(金) 7:00PM開演  札幌コンサートホール Kitara大ホール

Keisuke Toyama Plays Favorite Piano Sonatas

〈プログラム〉
モーツァルト:ロンド イ短調 K.511
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調 K.331 「トルコ行進曲付き」
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 op.13 「悲愴」
リスト:愛の夢 第3番 
リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調

「ロンド」の主題が静かに繰り返されるが、聴き慣れない者にはどことなく単調な感じがしないわけではなかった。モーツァルトの小品のなかでもK.485とともに名作のひとつになっているのは知っているが、、、。

ピアノ・ソナタの分野を確立したモーツァルトの作品で最も親しまれている曲。第1楽章は子守歌風の優美な主題と6つの変奏。様々な音の変化が楽しい。ピアノ・ソナタでは唯一のメヌエットで舞曲による第2楽章。トルコの雰囲気も感じられた。
第3楽章は「トルコ風に」と書かれ、左手低音の独特なリズムは太鼓の響きを伴ってトルコ音楽を思わせ異国情緒たっぷり。「トルコ行進曲」として単独で演奏されるほど有名である。
外山の演奏会でこの曲を初めて聴いたが彼の魅力が味わえて良かった。
CDで聴く時にはトルコ出身のファジル・サイに何となくより親しみを感じてしまうものだ。

ベートーヴェン前期の代表作で彼自身が付けたサブタイトル「悲愴」は何度聴いても素晴らしい曲。重苦しい序奏と激しい情熱で始まる第1楽章。哀しみに溢れた主題をカンタービレで綴った第2楽章。第3楽章は感傷的ではあるがロンド形式の終曲。第1楽章の主題が再び現れ、力強く曲が閉じられる。サブタイトルが持つほどの悲愴性はないが、さすがベートーヴェンのいくつかの有名なソナタのひとつとして鑑賞できたのは良かった。
座席は1階中央のピアニストの手が見える場所であった。左手のオクターヴ連打や両手の交叉を自分の目でしっかりと見れ、外山の感情のほかに手の動きが見えていつもより感情移入が出来た感じがした。

1階は満席で2階席もかなりの客の入りだった。だが、聴衆の反応は静か過ぎて感動がホールを覆うまでには至らなかった。拍手も儀礼的の範囲のような気がした。別に演奏に不満があった訳ではないようだった。控えめな拍手で前半が終ったが、演奏終了後にはもっと感情を表現しても良いと思った。

後半の2曲はリスト(1811-86)の作品。ピアノ独奏曲集「愛の夢~3つの夜想曲」はショパンのノクターンを思わせる美しいメロディを持つ作品。3曲ともピアノのために書かれた作品ではなく、歌曲を編曲した小品である。私自身、そのことを歌曲を聴いて思い出した次第である。
「愛の夢」と言えばこの曲を指すぐらい余りにも有名なのが「第3番」でオーケストラ用にも編曲されて親しまれている。原曲はドイツ・ロマン派の詩人フェルディナンド・フライリヒラート(1810-76)の詩集「墓のあいだで」の中にある「愛しうる限り愛せ」による歌曲。
冒頭の美しいメロディが曲全体にわたって奏でられて愛を賛美する。最も親しまれている名曲のひとつ。

私が「ソナタ・ロ短調」の曲名を知ったのは21世紀に入ってからの事である。2001年にLisztのCDを輸入盤で購入した時の曲目に“Sonata for Piano in B minor”が入っていた。アルゲリッチの演奏で何気なく何回か聴いていたが余り気にも留めていなかった。06年の小山実稚恵の「音の旅」第2回のコンサートで意識し出した。08年に「音楽の友」11月号の特集記事「日本のピアニスト50人が選ぶ究極のピアノ名曲50」で「リスト:ピアノソナタ・ロ短調」&「ラヴェル:夜のガスパール」が第1位となっていた。その後、意識してそれらの曲を聴いてみるようになって、徐々に親しめるようになったが鑑賞が難しい曲だと思う。 09年のケマル・ゲキチの演奏会でもこの曲が取り上げられたのは今でも記憶に残っている。Kitara小ホール1階6列6番の座席から彼の圧倒的な演奏を目の当りにして感動したのである。演奏家にとっても難曲に入るのか、札幌の演奏会では演奏の頻度は高くない。

外山は昨年「展覧会の絵」に取り組んだが、今年は30歳の節目に「ロ短調ソナタ」に挑戦した心構えを語っている。リスト唯一のピアノ・ソナタで30分近くに及ぶ単一楽章の大作。伝統的なソナタとは違う作品であり、当時の音楽界に波紋を引き起こした。それだけに当時の革新的な作品にピアニストとして挑戦する価値のある曲なのであろう。
ソナタの他の楽章の要素を盛り込んで、主要主題が繰り返されて複雑で緻密な構成を持つ曲。超絶技巧が必要な難曲として知られる。独創的でドラマティックな曲の展開が手の動き、指の動きが見えて一層楽しめた。

演奏終了後の聴衆の拍手は前半より大きくなって喜びの感情が高まった雰囲気となった。6月に旭川から始まった2014年の全国ツアーも半分は終わり、外山も安定した演奏を披露した。リストの「ロ短調」はアルバムが発売されれば是非購入しようと思う。来年のコンサートを心待ちにしたい。

アンコール曲は「リスト:コンソレーション(慰め)第3番」。(6曲構成で「第3番」が最も有名な曲)

トリオ・レイラ コンサート Vol.4

トリオ・レイラは鎌田泉(紀尾井シンフォニエッタ・ヴァイオリニスト)、廣狩亮(札幌交響楽団首席ヴィオリスト)と廣狩理栄(札幌交響楽団チェリスト)による弦楽三重奏団。2008年札幌公演、09年東京公演でデビュー。10年、12年に続いて第4回目の演奏会。演奏会では弦楽三重奏曲の他に、毎回ゲストを迎えて幅広い室内楽にも取り組んでいる。
第4回演奏会のゲストは金子亜未(札幌交響楽団首席オーボエ奏者)。

2014年9月10日(水) 19:00開演  ザ・ルーテルホール
《弦楽三重奏団レイラ コンサート Vol.4》

Kamata Izumi は東京生まれ。桐朋女子高等学校卒業後、奨学金を得てジュリアード音楽院に学ぶ。日本室内楽コンクール第2位、サラサーテ国際ヴァイオリンコンクール第2位。スペイン、アメリカ、日本の各地でリサイタルを開催。現在は紀尾井シンフォニエッタ東京のメンバーとしてソロ、室内楽活動を行い、日本フィルのゲストコンサートマスターを務める。

Hirokari Akiraは1970年神戸生まれ。東京藝術大学卒業。東京現代音楽祭室内楽コンクール第1位、東京国際室内楽コンクール第2位。広島交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団の首席ヴィオラ奏者を務めた後、札幌交響楽団首席ヴィオラ奏者に就任。ソリストとしてオーケストラと共演のほか、New Kitaraホールカルテット演奏会(10~14年まで8回)に於いても活躍。北海道教育大学岩見沢校非常勤講師。

Hirokari Rieはエリーザべト音楽大学に学ぶ。1992年より1年間、アフィニス海外研修員としてパリに留学。エコール・ノルマル音楽院にて室内楽を学ぶ。広島交響楽団、関西でのフリーランスを経て、99年より札幌交響楽団チェロ奏者。札幌大谷大学非常勤講師。

Kaneko Amiは1990年、千葉県生まれ。2012年東京芸術大学音楽学部器楽科管打楽器専攻を首席で卒業。第79回日本音楽コンクール・オーボエ部門第3位。第28回日本管打楽器コンクール・オーボエ部門第1位。12年4月札幌交響楽団入団。12年9月、第10回国際オーボエコンクール軽井沢では日本人最高位の第2位に入賞して全国的に注目を浴びた。北海道教育大学非常勤教師。

〈プログラム〉
 モーツァルト:弦楽三重奏のためのディヴェルティメント 変ホ長調 K.563
 ナウマン:弦楽三重奏曲 二長調Op.12
 ブリテン:ファンタジー(オーボエ四重奏のための) Op.2
 モーツァルト:オーボエ四重奏曲 ヘ長調K.370

モーツァルト(1756-91)が16歳の時に作ったディヴェルティメント3曲は3楽章構成。CDも所有していてよく聴く。この曲は初めて聴いた。“気晴らし”の雰囲気のある曲名とは違って娯楽性の少ない本格的な曲で演奏時間も約45分。「ジュピター」の完成後に作曲された(1788年)。6楽章構成でヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの各楽器が均等に活躍し、各楽章は変化に富む曲の展開で重厚な作品に仕上がっていた。ヴァイオリンが生き生きとして全体の演奏を弾きたさせていた。
鎌田はサイトウ・キネン・オーケストラでも活躍し、08年の「紀尾井シンフォニエッタ東京」札幌公演でもメンバーとして来ていたが、今回は素晴らしいヴァイオリニストとして印象付けられた。

エルンスト・ナウマン(1832-1910)の名は初めて聞く。ドイツ生まれで、ライプツィヒ音楽院に学ぶ。主にオルガン奏者、指揮者として活躍していたそうである。シューマン、ブラームスと交流があり、作曲を手掛けた作品のほとんどが室内楽と言う。83年に作られたこの作品はウィ―ン古典音楽の影響を受けているようで優美で魅力的な曲。

ベンジャミン・ブリテン(1913-76)がイギリス人作曲家対象の「ファンタジーのためのコンクール」のために1932年に作った曲。この作品で19歳のブリテンは世界に知られることになり、その後、イギリスが生んだ名作曲家になった。単一楽章の作品で、20世紀の香りのする現代音楽。
オーボエを通して金子が奏でる聴き慣れた音とは違っても、高度な技巧で何となく現代的な雰囲気を醸し出した演奏。弦楽トリオとの絡み合いが面白かった。

モーツァルトの「フルート協奏曲第2番」の原曲が「オーボエ協奏曲」としてPMFの演奏会などで数回聴いたことがある。彼の唯一の「オーボエ四重奏曲」は名オーボエ奏者Friedrich Rammのために作曲されたと言う。
オーボエを協奏的な役割を担う独奏楽器として扱っているのがよく判った。金子がカデンツァを弾いてオーボエという楽器の魅力をたっぷりと聴かせてくれた。モーツァルトらしい室内楽曲として楽しめた。

Kitaraでばかり聴いているが、偶に違う会場で聴くのも良い。9月初旬はコンサートが入っていなかったので、今回は弦楽トリオの演奏会のチケットを購入してみた。ザ・ルーテルホールは2年ぶりである。いわゆる、通の人たちが聴きに来ている感じがした。
18日には江別えぽあホールに初めて出かけて「今井信子&伊藤恵のデュオ・リサイタル」を聴く予定にしている。

*20年ほど前はよく気になっていた街やビル内の英語の誤表記。現在は以前より良くなっているとは言え、ルーテルセンターのビルの手洗いの誤表記は久しぶりで気になった。“MAN”、“ LADY”。イラストで表示してあるので、それだけで充分だと思うが、英語表記するなら“Men”、“Ladies”が正しい。(Men と Women。 Gentlemen と Ladies が普通)。日本語で単数と複数の表し方が同じ場合があるから間違えるのだが、利用者が複数いるのだから複数形の英語にするのは当たり前なのです。
日本語でプログラム・ノート、 メンバーという場合に、英語では“Program Notes”, “Members”などの複数形を使う必要があることを理解してほしいと思っています。(先月のHIMESオーケストラのプログラムにも“Orchestra Member”と書かれていて気になった。)

*演奏会終了後、会場(大通西6丁目)の近くの知人(札響くらぶ会員)が経営している「名曲ミニバーOLD CLASSIC」(南3西5)に立寄ってみました。同じコンサートに来ていたクラシック好きの方々と出会いました。パーボ・ヤルヴィの「第九」、カール・ベームの「未完成」など大音量で聴きながら、音楽に関する会話もはずみ和やかな雰囲気で楽しい時を過ごしました。リーズナブルな料金で珍しいビール、ワインも飲めて素敵な店でした。近いうちに、また寄ってみたいと思う。

札幌国際芸術祭2014

札幌初の国際的なアートフェスティバルである「札幌国際芸術祭2014」は「都市と自然」をテーマに7月19日から9月28日まで開催されている。
札幌駅前通り地下歩行空間や札幌大通地下ギャラリー500m美術館における企画展示は7月下旬に一応鑑賞を済ませていた。有料の鑑賞チケットが必要な美術館の前売券は7月中旬に購入していた。

8月1日に北海道立近代美術館に出かけたが、最も印象的な展示作品はインドの作家によるものであった。高さ5mに及ぶ作品(2008年製作)は、インドで使われる鍋や皿などを組み合わせたもので、スケールが途轍もなく大きくて凄い迫力があった。
日本人5人、外国人3人の作品が展示されていたが、雪の結晶で有名な中谷宇吉郎の火花放電の写真展示は意外性があった。

このところ札幌は好天が続いている。今朝も目覚めると温かい日の光が差し込んでいて、札幌芸術の森美術館へ出かける気分になった。PMF音楽祭では真駒内駅と芸術の森まで臨時バスが多く出るので時間を気にしないで出かけていた。平日のバス時刻表を前夜インターネットで調べていたら、運行本数が意外に多くて便利なことが判った。

平日で来館者が少ないことを予想していたが、小学生の団体見学と行き違った。見学がかち合うことはなくて、ゆっくり鑑賞できたが、急に暗い空間に入ったり、狭い通路を歩いたりとか、混雑したら大変という展示場所もあった。
アイヌの彫刻家、砂澤ビッキの2つの作品が入館者を迎えてくれた。他は現代の日本人芸術家6人、外国人アーティスト3人の出品作。興味深い展示作品が多くて予想以上に面白かった。特に印象に残ったのは3種類のクモが作り出した巣の展示。真っ暗な部屋でライトに照らされて輝く緻密な構造物が不思議な空間作り上げていた。クモの巣が美しい素材になるとは思いもよらなかった。

札幌芸術の森に有島武郎旧邸が復元されたのが昭和61年(1986年)。有島武郎は大正2年(1913年)に北12条西3丁目に自邸を新築した。昭和28年(1953年)に北28条の大学村に移築され、昭和35年から北海道大学の「有島寮」として利用された。その年に私は友人とその場所を訪れたことがある。芸術の森に復元されてから、PMFの会場になる前に有島武郎旧邸の中に入った。その後も二度は訪れたことがあると思うが、今回は旧邸内で国際芸術祭に関わる作品展示もあったので久しぶりに訪れてみた。

札幌市時計台のボランティアをしていて、札幌農学校の19期生として館内に有島武郎の写真もあるので、今回は今までより関心も深まって時間をかけて有島旧邸を見学した。熱心なボランティアから初めて耳にすることもあった。有島が農学校に入学した理由の一つが明確になった。新渡戸稲造を慕って入学したことは知っていたが、親戚同士とは知らなかったのである。以前に訪れてから10年以上も経っていたが、写真に収めた外壁の赤褐色ペイントは前の印象と違っていた。(大正時代にこのような色に塗られていたことがあって途中で復元作業が行われたらしい。)
IMG_1299 (300x225)

芸術の森を訪れたのを機に野外美術館にも入ってみた。昨年、十数年ぶりに入ってみた野外美術館で新しい作品群を目にしたが、全部を観て廻る時間がなかった。季節や時間帯によって彫刻の表情も違うが、開館当初から比べると作品も随分増えた。作品が自然にさらされて倒れたり、さびたりしている。砂澤ビッキの「四つの風」が2本倒れているのに少々衝撃を受けた。今年はついに1本になってしまっていた。彫刻家の意志で土に還るのを待つようである。
ノルウェーの彫刻家、ヴィーゲランの5点の作品はいつ観ても素晴らしい。今回も74ある彫刻のうち半分くらい観ただけだが、違った季節にまた訪れたいと思った。
国際芸術祭に際してのプログラムに参加して、臨時に設置された数十メートルの長さの踏み板の上を先端を目がけて歩いてみた。高所恐怖症の人は挑戦出来ないかもしれない。年齢を訊かれて、“今迄の参加者の中で最高齢でしょう”と言われて、記念に写真に納まった。
  IMG_1301 (225x300)  IMG_1302 (300x225)
写真右は野外美術館のシンボルレリーフで1986年の開館の折に制作された作品。この作品は館内に入らなくても芸術の森を訪れる人々の目に入るところにある。逆光で写真の出来映えが良くないが、前面が池になっている。

地下鉄・バスを乗り継いで要領よく利用すると、気軽に芸術の森に来れるのを実感した。四季折々の変化に富む自然を楽しみながら、芸術作品に接し都市での芸術鑑賞とは違う角度からいろいろな幅広い文化を享受できる空間でもある。
札幌国際芸術祭も今回で終わるだけでなく今後の開催が期待されるタイトルになっている。

後期高齢者になってもあちこちに足を運んでいるが、自分の気持ち次第でもっと遠くへ踏み出す意欲を感じ取れた。今までしばしば通っていた場所も含めて、億劫にならないで新たな行動範囲を更に広げていこうかなと考えるきっかけになった。

  
プロフィール

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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