川畠成道ヴァイオリン・リサイタル

川畠成道(Narimichi Kawabata)は1971年、東京生まれ。80年ロスアンジェルス滞在中に風邪薬の副作用で倒れ、スティーヴンス・ジョンソン症候群と診断された。重い皮膚障害に陥り、一命は取り留めたが後遺症として視覚障害を負った。音楽を志して精進。桐朋学園大学音楽学部を経て、英国王立音楽院を首席で卒業。98年、小林研一郎指揮日本フィルと共演してデビュー。99年に発表したアルバムが20万枚の大ヒットを記録して大きな話題を集めた。英国と日本を拠点に、ソリストとして精力的な活動を展開して、毎年数多くのリサイタルを行っている。
01年の国内ツアーとなるリサイタルで初めて彼の演奏を聴いた。タルティーニの「悪魔のトリル」とフランクの「ヴァイオリン・ソナタ」が強烈な印象を残した。06年の日本ツアーでユベール・スダーン指揮ザルツブルク・モーツァルテウム管との共演で「モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番《トルコ風》」の演奏にも感激。07年にはリサイタルで「ベートーヴェン:スプリング・ソナタ」、「イザイ:無伴奏ソナタ第2番」などを弾いた。以来、頻繁に来札して音楽活動を行いチャリティコンサートも開催している。
今日は久しぶりに彼のコンサートを聴くことになった。

2014年2月28日(金)19:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

〈川畠成道チャリティープログラム〉              ピアノ:大伏啓太
 モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第28番 ホ短調 K.304
 ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第9番「クロイツェル」
 チャップリン(寺嶋陸也編曲)スマイル(映画「モダン・タイムス」より)
 マンシーニ(寺嶋陸也編曲):ムーン・リヴァー(映画「ティファニーで朝食を」より)
 ガルテル(寺嶋陸也編曲):ポル・ウナ・カべサ(映画「セント・オブ・ウーマン」より)
 ボック(井財野友人編曲):サンライズ・サンセット(映画「屋根の上のヴァイオリン弾き」より)
 ラヴェル:ツィガーヌ

モーツァルトのソナタでホ短調は唯一の調性。ト短調が他に1曲あるが、他は長調。このソナタは内面的でスピリチュアルな曲だが単純明快。
ヴァイオリンが最初の音を出した瞬間から、その美音に惹かれた。

ベートーヴェンの10曲のソナタの中で第5番と共に有名で演奏される機会の多い曲。当時の最高のヴァイオリニスト、クロイツエルに献呈されたのがニックネームの由来である。協奏風にピアノと競って演奏される様式で書かれ、ヴァイオリン・ソナタの最高傑作として知られる。その旋律は華やかで雄大であり、変化に富んだ曲。
川畠の驚くべき高度な技量が際立った。若い才能豊かなヴァイオリニストが排出しているが、彼の演奏のレヴェルは一味違う印象を受けた。
 
07年頃はロンドンを拠点にして活動していて、ピアニストも外国人であった。今回のピアニストは大伏啓太(Keita Obushi)。彼は1986年、福島生まれ。03年、全日本学生音楽コンクール高校生の部全国大会第1位。06年、日本音楽コンクール第3位。13年3月、東京芸術大学大学院修士課程を終了。4月より同大学院室内学科非常勤講師。川畠のパートナーに選ばれるくらいなので、その技量のほどが推測できる。「クロイツェル」以降の演奏でも力量を発揮していた。

後半は衣装を替えてステージに登場。以前はピアニストに介添えされて登場したほど目が不自由であったと思ったが、視力がある程度回復されたのは喜ばしい。堂々とした態度でステージへ。デビュー15周年を迎えて、12枚目のCDをリリースの記念に、余り演奏する機会のない映画音楽を取り上げたそうである。緊張せずにリラックスして聴いてほしいとの話をして、演奏に入った。

映画は観たが、曲は何となく聞いた感じがしても、はっきり覚えていて親しんでいる曲は「ムーン・リヴァ―」だけであった。オードリ・ヘップバーン主演の映画で、この曲のCDもアンディ・ウィリアムズの歌声で聴くことが偶にある。無伴奏で演奏されたが、曲の美しさが一層際立った。
「屋根の上のヴァイオリン弾き」は丁度15年前の東京帝国劇場で観た西田敏行・本田美奈子主演の舞台を思い出して懐かしかった。

ツィガーヌとはロマ(ジプシー)を意味するタイトル。ハンガリーの女性ヴァイオリニストのために作曲したと言われる。前半の長大な部分は無伴奏のヴァイオリンの即興演奏のようで、ハンガリーの舞曲《チャルダッシュ》を連想させる。まさに超絶技巧が必要とされる曲。後半のピアノ・パートが入る演奏も興味深かった。

予定のプログラムの演奏終了後、トークも入った。淡々とした話ながらも、ユーモアが入って聴衆の笑いを誘う術も身に着けている。
アンコール曲にマイヤーズ:カヴァティーナ(映画音楽「ディア・ハンター」(?)より)、
       モンティ:チャルダッシュ(*毎回 定番のアンコール曲だそう)
最後の曲に ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 

川畠はこのところ毎年Kitaraで演奏しているとのことで、“Kitaraでの演奏を毎年楽しみにしている。また来年もよろしく。”と言葉を残して演奏会を終えた。客席を埋めた聴衆も大変満足した様子であった。私自身も小ホールの方がリサイタルでは演奏家との密着度が高いかなと改めて感じた。


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ベルリン・バロック・ゾリステン with エマニュエル・パユ

エマニュエル・パユがKitaraに初登場したのが2004年10月21日。ベルリン・フィルが初めてKitaraのステージで演奏する2週間ほど前のことであった。フルート・リサイタルでフランスの作曲家、ヴィドール、デュティユー、プーランクの作品と現代の作曲家の作品を《まるで神業か、魔法》のようにフルートから自由自在に音を生み出した。(ピアノはエリック・ル・サージュ)。2週間ほど経って、今度はベルリン・フィル首席フルート奏者としてドビュ―シーやラヴェルのフランス作品の演奏に加わった。
3度目は08年12月、無伴奏フルート・リサイタルを開いた。「テレマンの12の幻想曲」と「ジョリヴェの5つの呪文」を一人で演奏し続けた様子は今も鮮烈に記憶している。正にフルート界のス-パースターの極上の音楽であった。作曲家の名も知らず、曲の知識も全くなかったが、とにかく疲れも見せずに休憩時間をはさんで前半・後半を吹き続けた。(当初、チェンバロとチェロ奏者との共演でバッハのフルート・ソナタを中心にプログラミングされていたコンサートであった。共演者の病気で中止にならざるを得ないコンサートがパユのリサイタルに変更になったのである。)
木管楽器の無伴奏曲だけで、コンサートを開催してくれた演奏家に対する感謝の想いは今も忘れることができない。

エマニュエル・パユ(Emmanuel Pahud)は1970年、ジュネーヴ生まれ。パリ高等音楽院卒業後にオーレル・ニコレに師事。89年神戸国際コンクール第1位、92年には最難関のジュネーヴ国際コンクール第1位。93年、ベルリン・フィル首席ソロフルート奏者に就任。00年に退団して話題を呼んだが、02年に復帰。リサイタルの他、数多くのオーケストラとの共演も重ねている。

ベルリン・バロック・ゾリテン(Berliner Barock Solisten)は95年にライナー・クスマウルとベルリン・フィルの奏者たちが創設したアンサンブル。各々のメンバーがソリストの実力を備え、世界最高のアンサンブルの1つとして名高い。コンサート・マスターは元ウィ―ン・フィルのコンマスを務めたダニエル・ゲーデ。

2014年2月25日(火) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

〔プログラム〕
 C.Ph.E.バッハ:シンフォニア ロ短調
 バッヘルベル:カノン 二長調
 J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第5番 二長調 BWV1050(フルート:パユ)
 テレマン:フルート協奏曲 二長調(フルート:パユ)
 J.S.バッハ:音楽の捧げもの BWV1079より 6声のリチュカーレ
       管弦楽組曲 第2番 ロ短調 BWV1067 (フルート:パユ)

J.S.バッハの息子の作品は鍵盤楽曲が中心だったそうだが、この曲は6つのハンブルグ・シンフォニアとして作曲された中の1曲。明暗のコントラストが鮮やかな曲。

「カノン」はバロック時代を代表する名曲。聴き慣れたメロディで人気のある曲。

ブランデンブルク協奏曲全6曲の中で最も規模が大きい曲で、フルートが使われている唯一の曲が「第5番」。第1楽章ではチェンバロの長大なカデンツァがある。フラウト・トラヴェルソ(=フルート)、ヴァイオリン、チェンバロのための協奏曲で、当時の技巧の粋を尽くした絢爛豪華な作品。第1楽章ではチェンバロの長大なカデンツァがあり、バッハ自身が演奏したことでも知られている。

テレマンはJ.S.バッハと同時代の作曲家。独奏フルートが明るくて華やかな旋律を奏でる。テレマンはパユがコンサートで取り上げるまで、その名を余り耳にしたことがなかった。プログラム・ノートによると、彼は86年の生涯で約4千曲もの作品を書いたそうである。

フリードリッヒ大王の御前で、バッハが王の提示した主題による即興演奏をした曲をもとに再構成して作り上げ、王に献呈した作品と言われる。

バッハの管弦楽組曲は4曲ある。「第2番」はフルートを合奏の中心にした組曲で、4曲の中で最も優雅で、繊細な色合いのする曲。長大なフランス風序曲に始まり、親しみやすい旋律で知られるポロネーズではフルートが華麗な演奏を展開する。7曲から成る。

パユは類いまれなテクニックで色彩豊かな音色を響かせて聴衆を魅了。12名の合奏団と共にホールを埋めた聴衆に極上のバロック音楽を届けてくれた。
演奏終了後は素晴らしい演奏を称えて万雷の拍手が巻き起こった。普段のオーケストラやソロとは雰囲気の違う、18世紀の宮廷での演奏を想像しながら楽しめたように思った。
アンコール曲はC.Ph.E.バッハのフルート協奏曲ニ短調 第3楽章より Allegro di molto
 
ホアイエではCDを買ってサインを求める人々の長蛇の列を久しぶりに目にした。私は10年前に“Paris”のCDを買ってパユのサインを貰っていた。先月には彼の最新のCD“AROUND THE WORLD”(文字通り、世界の音楽が紹介され、ピアソラや細川俊夫の「五木の子守歌」も含まれている)を購入していたので列には加わらなかった。
多くの出演者がホアイエに出てきたのでホアイエに立ち留まって見守る客の姿も多かった。

 

ミニコンサート(by下司貴大) in Steinway Studio

ミニコンサート(Vol.19) イン スタインウェイ スタジオ (札幌)

2014年2月23日(日)14:00~14:45  会場:井関楽器3F スタインウェイスタジオ

出演:下司 貴大/バリトン
    新堀 聡子/ピアノ

下司貴大(Takahiro Shimotsuka)というバリトン歌手の名を知ったのは、彼がファビオ・ルイジに見い出されて、2010年PMFシンガーズに選ばれ、歌劇「ラ・ボエーム」にマルチェッロ役で出演した時であった。彼は当時、北海道教育大学岩見沢校に在学中の学生であったが、他のプロの歌手に交じって堂々たる歌声を披露した。12年7月にはKItaraオペラ・プロジェクトにおいて歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」にグリエルモ役で出演。演奏会終了後、ホアイエで挨拶して顔見知りになった。同年8月、第1回ハイメスオーケストラ演奏会において歌劇「リゴレット」から第3幕、四重唱と三重唱でバリトンとして熱唱。
13年4月の札幌西区オーケストラの演奏会ではベートーヴェンの「第九」のソリストとしてKitara のホールに素晴らしい歌声を響かせた。大学院卒業後はフリーランサーとして幅広い活躍をしている様子である。

ピアニストの新堀聡子(Satoko Shimbori)は北海道教育大学札幌校を経て、ドイツ・ヴュルツブルグ音楽大学、同大学院を首席で卒業。コンクール歴はスタインウェイコンクール第2位(ドイツ)、ブラームス国際コンクール第5位(オーストリア)など。ドイツ各地でソロ、及び室内楽活動を行った後、11年より活動拠点を日本に移した。ヴュルツブルグ音楽大学講師を経て、現在は北翔大学非常勤講師、井関楽器ピアノ講師を務めながら、ピアニストとして札幌を中心に様々なコンサートに出演している。第1回ハイメスオーケストラ演奏会ではソリストとして「ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲」を弾いた。

Kitaraでのチラシで下司のミニコンサートの開催を知った。オーケストラをバックにしての歌声しか聴いていなかったので、ピアノ伴奏で彼の歌声を聴いてみたいと思っていた。限定80席の小さな会場でのコンサートは彼の歌声をより身近に楽しめると期待して出かけた。

〈プログラム〉
 デンツァ:フニクリ・フニクラ、 ブロドスキー:Be my love,   グリーグ:君を愛す
 中田喜直:雪の降る街を、 木菟(みみずく)、 新井満:千の風になって
 ヴェルディ:乾杯、 湯山昭:電話、 モーツァルト:酒で頭がカッとなるまで、 ビゼー:闘牛士の歌                                       

「フニクリ・フニクラ」という馴染みの登山電車の歌が始まるや否や彼の声量のある圧倒的な歌声がホールを包んだ。第1番を日本語、第2番を原語で歌った。続いて英語、ドイツ語で「愛の歌」を熱唱。

下司は2週間前に旭川で行われた《第13回中田喜直記念コンクール》で大賞受賞。コンクールで歌った課題曲の「雪の降る街を」を叙情味あふれる温かさで歌い上げた。私が大好きでよく口ずさむ歌である。自由曲は聴いたことが無い曲であったが、心を揺さぶるドラマティックな熱唱で感動を呼び起こすような歌となった。グランプリに輝くのが納得できる熱唱。続いてオペラ歌手が歌うような声量が必要とされる一世を風靡した「千の風になって」。

最後のプログラムは[酒]をテーマにした歌。下司はこのミニコンサートをトークを入れながら展開したが、話術も極めて巧みである。かしこまって聴かないように聴き手をリラックスさせながら歌った。3曲は聞いたことも無い曲だった。「電話」は日本語で演技を入れながら、最後には〈落ちが付いて〉笑いを誘う歌唱ぶりには感心した。会場には一瞬笑いが広がった。「闘牛士の歌」はオペラ≪カルメン≫で有名な曲。コンサートの最後を飾るのに相応しい選曲。聴衆の手拍子も入って大団円。

アンコール曲も[酒]に因んで「ラヴェルの《シャンペンの歌》(?)」。酒にまつわる曲が多かったが、本人は酒が一滴も飲めないとのこと。それでも酒のうまさを知っているような歌いぶり。歌唱力だけでなく演技力も備わっている。声量だけでなく、声に艶があって、包容力のある歌いぶり。ルイジの眼鏡にかなったのも当然と再確認した次第。いずれ海外に留学して経験を積んで欲しい逸材。

期待以上のコンサートでとても楽しかった。日曜の午後のひとときーーーとても良い気分に浸れた。ピアニストが適度な司会役をつとめ、下司は新進バリトン歌手とも思えない、まるでプロのヴェテラン歌手並みの堂々とした演唱。また、彼のコンサートを聴いてみたい。

*今日のスタジオは初めて訪れたが、ユンディ・リが来札の折には練習場として使っていたらしい。スタインウェイのコンサートグランドモデルD-274が常設されている。

   

New Kitaraホールカルテット 8th Concert

〈Kitara弦楽四重奏シリーズ)
New Kitaraホールカルテット 8th Concert
2014年2月22日(土)14:00開演     札幌コンサートホールKitara 小ホール
 
〔出演〕 伊藤 亮太郎/ヴァイオリン (札響コンサートマスター)
     大森 潤子/ヴァイオリン(札響首席奏者)
     廣狩 亮/ヴィオラ(札響首席奏者)
     石川 祐支/チェロ(札響首席奏者)

〔プログラム〕
  ショスタコ―ヴィチ:弦楽四重奏曲第10番 変イ長調 作品118
  ドビュッシー:弦楽四重奏曲 ト短調 作品10
  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第9番 ハ長調 「ラズモフスキー第3番」 作品59-3

2010年にデビュー・コンサートを開いてから、このカルテットは毎回ショスタコーヴィチ(1905-75)の作品を取り上げてきた。第10番は初めて聴く曲かもしれない。第1ヴァイオリンの伊藤のソロで始まり、他の楽器が加わって展開された。ショスタコーヴィチ特有の曲の雰囲気が醸し出されるが、何回か聴かないと曲の良さが解らない。

ドビュッシーとベートーヴェンの第9番は12年7月13日の東京クヮルテット演奏会の曲目と同じであった。彼らは惜しまれながら昨年6月に解散してしまったが、その演奏会の様子を思い出す機会になった。
ドビュッシー(1862-1918)の唯一の弦楽四重奏曲である。フランスの伝統に根差した音楽と新しいスタイルを追求したドビュッシーの個性が生かされた曲として知られている。第1楽章は全員で力強い主題を奏でる。第2楽章はスケルツォ風の楽章。ピッツィカートの伴奏でヴィオラが主題を提示。リズミックな旋律と抒情的な旋律が対照的に表れる。第3楽章は緩徐楽章で第1ヴァイオリンの大森が美しい旋律をしみじみと歌う。ヴィオラも印象的なメロディを奏でる。第4楽章は緩やかな序奏に続いて、情熱的で起伏に富んだフィナーレ。
ショスタコーヴィチの重々しい曲に比べて、色彩が豊かで心が浮き立つ感じがした。

ベートーヴェン(1770-1827)の全16曲の弦楽四重奏曲の中で中期の作品にあたるラズモフスキー3曲セット。1806年に作曲された第7番、第8番、第9番には委嘱者であるウィーン駐在ロシア大使、ラズモフスキー伯爵の名前が付けられている。
≪弦楽四重奏曲第9番≫「ラズモフスキー第3番」はラズモフスキー3曲の中で最も明るく朗らかな曲として親しまれている。活気のある朗らかな第1楽章。第2楽章は暗い気分でありながら情緒のある楽章。第1ヴァイオリンの伊藤が抒情的な旋律を奏でる。チェロのピッツィカートの伴奏も印象的。第3楽章がスケルツォでなくて、気品のあるメヌエット。ベートーヴェンの曲では珍しい。切れ目なく第4楽章に入る。全曲中で最も充実した楽章で、人生の喜びが高らかに歌われる。圧倒的なフィナーレがこの曲を際立たせていると思う。

演奏終了後に花束が4人の演奏者に手渡されたので、いつもと違う状況だと思ったら、今回が最終回のコンサートということが判った。
4人の演奏者がそれぞれ主催者のKitaraホールと聴衆に対して感謝の言葉を述べ、最後にアンコール曲を演奏。
ハイドン:弦楽四重奏曲第77番 ハ長調 作品76-3《皇帝》より第2楽章
「オーストリアの国歌となっている曲で、ハイドンの第77番より第2楽章を演奏する」と大森さんの説明があって、演奏された。馴染みのある曲だと思って聴いていたら、CDで親しんだ《皇帝》だと判ったが、オーストリアの国歌になっているとは知らなかった。

帰宅して調べたら、ハイドンは1790年代の2回のイギリス訪問で同国民が愛唱する国家を聴いて感銘し、オーストリアにも国歌が必要と考えて、1797年1月に当時のオーストリア皇帝フランツⅡ世を称える歌曲を作曲した。同年2月12日の皇帝の誕生日に初演され、民衆の熱烈な支持を得て、間もなくオーストリアの正式な国歌に制定されたそうである。

本日のコンサートの折にエントランス入り口で〔New Kitara ホールカルテット Debut Concert~8th Concert〈演奏曲一覧〉〕の紙が渡されて、これは良いものを貰ったと思って意外な感じを受けた。(今回のコンサートのチラシの裏面に昨年の9月、11月の札幌コンサートホール主催コンサート案内の記事が印刷されていたので、いい加減なホールの仕事だと思っていた。表は14年、裏は13年のものだったのである。)今回がNew Kitaraホールカルテットの最後の演奏会となるので配られた。とにかく良いまとめのプリントを貰った。

レジデント・カルテットとして人気も高く、毎回満席に近い客が集まっていただけに、今回で終了となったのは誠に残念である。ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲も15曲あって、メンバーは全曲演奏の意気込みで演奏会を続けていたのではなかろうか。札響のメンバーとして活躍する場面は今後も続くだろうが、ホールカルテットとしての活動は今回で一区切りになったのは止むを得ない。彼らの室内楽活動で貢献した役割は計り知れない。これまでのレジデント・カルテットとしての演奏活動に感謝すると同時に、今後の幅広い活動を祈りたい。








札響名曲シリーズ2013-2014 vol.5  ロシア

森の響フレンドコンサート 札響名曲シリーズ 2013-2014 vol.5
ロシア・作曲家たちのプロムナード

指揮/ロッセン・ミラノフ(Rossen Milanov)
ピアノ/ニコライ・ホジャイノフ(Nikolay Khozyainov)

ロッセン・ミラノフはブルガリアのソフィア生まれ。ブルガリア国立音楽院でオーボエと指揮を学び、その後、ジュリアード音楽院、カーティス音楽院で指揮を学ぶ。フィラデルフィア管弦楽団の副指揮者を11年間務めた後、アメリカ各地の他にヨーロッパ、アジアの数多くの著名なオーケストラと共演。日本ではN響、東京響や兵庫県立芸術センター管と共演。ソリストではヨーヨー・マ、五嶋みどり、パールマン、アンドレ・ワッツ、ジョシュァ・ベルなどと共演。ブルガリア国内や国際的な音楽活動で、2005年にブルガリア・ミュージシャン・オブ・ザ・イヤーを受賞。ブルガリア国立放送響首席指揮者(07-08)、ソフィアの新交響楽団音楽監督(97-13)。ウィ―ン・ムジークフェラインにもデビュー。現在はアメリカのプリンストン響とスペインのアストゥ―リアス響の音楽監督。ブルガリアやアメリカのユース・オーケストラの音楽監督としても献身的な活動を続けている。

ニコライ・ホジャイノフは1992年、ロシアのシベリア南部の生まれ。6歳でモスクワ音楽院附属音楽学校に入学し、7歳でモスクワ音楽院オーケストラとの共演で神童ぶりを発揮して、05年からモスクワ音楽院で研鑚を積み、08年スクリャ―ビン国際コンクール優勝。数々の音楽祭にも出演して実績を積み上げ、10年のショパン国際コンクールでファイナリスト、12年のシドニー国際コンクール第2位、ダブリン国際コンクール優勝。13年にはカーネギー・ホールにデビュー。7月の日本ツアーでリサイタル5公演を開催。

《本日のプログラム》
 バルトーク(ウイルナー編曲):ルーマニア民俗舞曲
 チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調
 リャードフ:交響詩「バーバ・ヤガー」
 ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲「展覧会の絵」

ロシアのソチで冬季オリンピックが始まった時期にピッタリあったコンサートのプログラム。(2月8日は開会式当日でテレビでオリンピック旗を手にして行進するゲルギエフ、オリンピック賛歌を歌うネトレプコの姿も目にした。)

バルトーク(1881-1945)はハンガリーの作曲家。今から100年ほど前(1915年)に作曲された6曲から成るピアノ小品の組曲。1917年、小管弦楽曲に編曲。ハンガリー領であった地域音楽を調査したバルトークは隣国の民俗音楽にも関心を示して作品を発表した。本日はウィルナー編曲の弦楽合奏で演奏された。各曲1分程度で全体で約6分の小品。ルーマニア民族の生き生きとした逞しさが感じられる舞曲で印象深かった。

チャイコフスキー(1840-93)はピアノ協奏曲を3曲作曲しているが、「第1番」が余りにも有名であり、「第2番」や「第3番」の生演奏は聴いたことが無い。(他の2曲はプレトニョフによる演奏のCDで偶に聴くが良い曲ではある。)「ピアノ協奏曲第1番」は独創性に溢れたもので、作品が発表された当時は有名な逸話が伝わっている。この協奏曲は古今のピアノ協奏曲の中でも最も人気の高い曲ではないだろうか。
豪壮な導入部に導かれて、ピアノがウクライナ民謡に基づく抒情的な主題を奏で、オーケストラとの応答を繰り返しながら、ピアノ独奏のカデンツァが入る非常に長大な第1楽章。ホジャイノフの迫力が感じられる豪華な楽章。第2楽章はフルートの優しい旋律で始まる緩徐楽章。(フルート首席奏者の高橋聖純が奏でる音色は実に美しくて心の奥深くに響く。) 第3楽章にもチャイコフスキーが好んだウクライナ民謡がテーマに用いられている。輝かしいフィナーレとなる華麗な楽章。

演奏終了後、ほぼ満席状態であった客席から絢爛豪華な演奏を称えて盛大な拍手喝采。21歳のまだ幼さが残る顔立ちのホジャイノフも満足した様子。アンコールに応えて、リスト作曲《モーツァルトの「フィガロの結婚」の主題による幻想曲》を弾いてくれたが圧巻であった。聞いたことのある旋律が何度も繰り返されて出てくるが初めて聴く曲な筈だと思っていたら、その理由がホール出口のボードの題名で判った。アンコール曲にしては長いが、とても良かった。ピアニストのサービス精神が表れて好印象だった。実は今回のコンサートはホジャイノフに興味があって聴きに来た。昨年のクライバーン・コンクールの時の彼の演奏、特にラヴェルの「夜のガスパール」の演奏に魅せられていたのである。見事なテクニックを持ち難度の高い作品を余裕綽々で弾きこなしていた。
ホジャイノフは10日に東京のヤマハ・ホールでリサイタルがあってショパンを中心に弾く予定だが、今度はここ札幌で是非リサイタルを聴いてみたい。

リャードフ(1855-1914)はサンクトペテルブルク生まれのロシアの作曲家。没後100年を記念してのプログラム。ロシアの民話をもとにしての作品。「バーバ・ヤガー」はロシア民話に出てくる魔女の名前で、ムソルグスキーの「展覧会の絵」にも扱われている。魔女が臼にのって飛び立つ様子を描いている3分あまりのユーモラスな曲。
マリンバが使用されているのが生演奏でないと簡単には解らないのではないか。

ムソルグスキー(1839-81)が友人の追悼展覧会で感銘を受けて作曲したピアノ曲(1874年)をラヴェル(1875-1937)がオーケストラ版に編曲(1922-23)して広く知られるようになったと言われる。ストコフスキーの編曲版など、他にもいくつかあるようだが、手元にアシュケナージがピアノのオリジナル版とフィルハーモニア管で弾き振りした自らの解釈に基づくオーケストラ版の2曲のCDがある。ラヴェル版には当時の不正確なピアノ独奏版に起因する間違いが多く見られると書かれている。ラヴェル編曲には違いないが、細かい部分で解釈の違いがあるのかも知れない。
最近ピアノ曲として聴くことが多かったので今日は久しぶりに管弦楽曲として聴いた。やはりオーケストラの響きとしての良い特徴が出ていてダイナミックでスケールの大きさを感じ取ることができた。

オーケストラのアンコール曲はチャイコフスキーの「くるみ割り人形」から《ロシアの踊り》(トレパーク)。ロシアの音楽でコンサートを締めた。真冬の寒さに見舞われた札幌が温かい雰囲気で包まれる午後のひとときとなった。

ミラノフは日本では知名度が広がっていないようだが、かなりの実力を備えた若手指揮者だと思う。今日は最初の曲の指揮ぶりからオーケストラの音を引き出す力が伝わってきた。最初から最後まで、特に最後の「展覧会の絵」では管楽器の良さを引き出していたと思う。今回のコンサートを機に札響定期にも出演依頼がありそうな予感のする指揮者であった。

ミラノフは来週の14日に東京シティ・フィル管の定期に出演し、5月には再来日して兵庫県立芸術文化センター管の定期で3回出演予定。彼のスケジュールによると、北米・南米・ヨーロッパ・アジアのオーケストラの指揮活動で世界を駆け巡る。リンクアップ教育プログラムなどの子どもたちの教育活動も入っていて驚異的な活躍ぶりは称賛に値する。Kitara再登場を期待したい。


元英語教師の勝手なクラシック評論 札幌交響楽団第566回定期演奏会(コメント返礼)


元英語教師の勝手なクラシック評論 札幌交響楽団第566回定期演奏会



お名前が三連星さんという方からコメントを頂きました、返事を書こうとしましたらこの欄になりました。以前と違う状況で当惑しています。三連星さんへの返礼のつもりで以下に書いておきます。

自分の記録の意味もあって長いブログを書いています、以前より少し短いとはいえ、読むのに忍耐力が必要かも知れません。クラシック音楽好きの方には斜め読みなどで、さほど抵抗はないかもしれません。それでも私は音楽は専門ではありませんので、コンサートの印象は大雑把なのです。楽譜に忠実に演奏しているかどうかの判断は出来ません。全体的に聴いた印象を書き綴っているだけですので、音楽専門の人からは的外れな感の記事もあるでしょう。

楽しむのを目的にしてコンサートに通っていますので、人それぞれの印象を持つのは自由であると考えています。自分の好きな曲やアーティストには思い入れがあるので、その日の演奏の出来・不出来には余り影響を受けません。勿論、聴衆と一体感を味わえる演奏に接する感激は一入です。

先日のコンサートの曲目は古典派中心でしたので、BGMとして心地よく聴けても、大ホールで多くの聴衆を集めるのは難しかったかも知れませんね。ポピュラーな向こう受けする曲ばかりというわけにもいかない定期演奏会の曲目選びは簡単ではないと思います。ただエリシュカさんの人気度は凄いですね。4月の定演の期待度が断然高くて楽しみです。(*昨シーズンの定演2公演の満足度1位、2位独占。来シーズンの定演2公演の期待度1位、2位独占)

クラシック音楽を主にしたブログを書き始めて一年半になります。これまでに160本あまり書きました。北海道が多いのですが、日本中はもとより世界各国からアクセスがあるのは嬉しい限りです。過去のブログを読んでくださる方が多いのが特徴です。以前と違ってブログ名で一覧が直ぐ出て来ないのが難点です。広告も載せずに気儘に書いていますが、興味のある記事がありましたら読んでみてください。

札幌交響楽団第566回定期演奏会

2014年2月1日(土) 15・00開演 札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/マティアス・バーメルト(Matthias Bamert)
ヴァイオリン/ペク・ジュヤン(Ju-Young Baek)
 
マティアス・バーメルトは1942年、スイス生まれの指揮者・作曲家。ザルツブルグ・モーツァルテウム管弦楽団の首席オーボエ奏者(1965-69)としてキャリアをスタートしたが指揮者に転向。クリーヴランド管でセルやマゼールのアシスタントを務めた。その後、スイス放送管の首席指揮者(1977-83)、スコティッシュ・ナショナル管の首席客演指揮者(85-90)、ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズの首席指揮者(92-00)などを歴任。ルツェルン音楽祭の監督(92-98)も務めて、革新的なプログラミングで話題を集めた。2000年以降、オーストラリアやマレーシアなどのオーケストラの音楽監督を務めたり、世界各地のオーケストラを客演指揮している。N響には00、03、05、07年に登場。非常に幅広い指揮活動で、これまで武満徹を含めて現代作曲家の作品を多く初演して、珍しい作品のディスクを数多く録音している。

ペク・ジュヤンは韓国出身のトップ・アーティスト。カーティス音楽院、パリ音楽院、ジュリアード音楽院に学ぶ。95年シベリウス国際コンクール、96年パガニーニ国際コンクール入賞。02年、アメリカ・デビュー。これまでに世界各地のメジャー・オーケストラと共演。08年、ファビオ・ルイジ指揮N響との共演で絶賛された。20代でソウル大学音楽学部教授に就任し、韓国で大きな話題となった。

〈演奏曲目〉
 ハイドン:交響曲第55番 変ホ長調「校長先生」
 ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調
 モーツァルト:セレナード第9番 二長調 K.320 「ポストホルン・セレナード」

ハイドン(1732-1809)の交響曲で番号の付いているものは104曲ある。私が所有しているCDは80番台以降が中心で20曲足らずである。「校長先生」は題名を聞いたことがあるくらいで曲の内容は全然わからない。曲のイメージは何となく連想できても、メロディを聴いてハイドンの交響曲だと判る曲は多分ないと思う。
アレグロ、アダージョ、メヌエット、プレストと流れるような綺麗な調べで耳に心地よい響き。リズミカルな感じ。管楽器がオーボエ、ファゴット、ホルンだけで、ティンパニが使用されなかったのに気付いた。札響初演。

ブルッフ(1838-1920)はドイツの指揮者・作曲家。3曲のヴァイオリン協奏曲を書き残しているが、「第1番」がいわゆる四大ヴァイオリン協奏曲に並ぶ名曲。ハンガリー出身の大ヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒムに献呈され、初演された。ヴィルトゥオーソ的ならではの妙技が展開される魅力のある曲で、ハイフェッツ、キョン=ファ、ムターなどのCDでよく聴いていて馴染みの曲。今日はコンサートで久しぶりに聴けた。
木管楽器とティンパニの印象的な音に導かれたヴァイオリンのカデンツァ風の調べで曲が始まる。スケールの大きな主題と抒情的で優美な主題が展開される第1楽章に続いて、歌うような美しい旋律に満ち溢れて瞑想的な気分になる緩徐楽章。第3楽章のフィナーレは快活で生き生きとして、ヴァイオリンの華やかな響きで華麗なクライマックスへ。
ソリストは経験豊富で、この曲は得意にしていそうな感じ。堂々として貫録十分であり、この華やかな曲の魅力を伝えた。
ソリストのアンコール曲:パガニーニの「24の奇想曲」より第9番

モーツァルト(1756-91)の「ポストホルン・セレナード」は聞いたことのない曲。当時の《郵便馬車のホルン》からの旋律が用いられていることから、このタイトルで呼ばれているという。7楽章から成る大規模な編成のセレナードで交響曲に劣らない名作として知られているそうである。第3楽章と第4楽章で木管楽器がソロ的に用いられていて、協奏曲風の楽章になっていた(フルート、オーボエ)。第7楽章は曲の締めくくりに相応しいフィナーレ。
札響の演奏歴は今回が2回目。(前回は92年1月となっていたので、帰宅して当時のプログラムを見てみたが、期日も会場も違うので定期演奏会ではない特別演奏会だったらしい。)

大ヴェテランの指揮者は古典派から現代音楽まで非常に幅の広いレパートリーを持ち、ハイドン・モーツァルトは大得意であり、今回の珍しい演奏曲目になったのかも知れない。いずれにしても、聴衆も聴く機会の少ない珍しい曲を聴けたことで、演奏終了後に指揮者を称える拍手は思ったより一段と大きくてブラボーの声も上がった。

去る28日のオール・モーツァルト・プログラムに続いて18世紀の音楽を聴いたが、当時の宮廷やホールを思い浮かべながら、自分なりの空間を作って鑑賞してみた。



 
プロフィール

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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