小山実稚恵 ピアノリサイタルシリーズ 「音の旅」 2013年秋 札幌公演

12年間・24回リサイタルシリーズ2006~2017
小山実稚恵「音の旅」
      ピアノでロマンを語る

[ワーグナー・ヴェルディ生誕200年]
 第16回  ~ピアノの魅力~ 
      イメージ〈麦の色〉:麦秋・実りの香・日差し

今回はシリーズ第16回になる。私は06年秋から聴き始め、10年春から欠かしたことが無かったが、前回の13年春は急遽ムターの演奏会が入って小山のコンサートは聴き逃す羽目になった。今回で11回出かけたことになるが17年秋の最終回まで聴きたいと思っている。

〈本日のプログラム〉
 ベートーヴェン=リスト:交響曲 第6番 ヘ長調 作品68 「田園」
 ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 作品22
      ポロネーズ 第2番 変ホ短調 作品26-2
      ポロネーズ 第5番 嬰へ短調 作品44
 シャブリエ:絵画風の小曲集より 第6曲「牧歌」
 ヴェルディ=リスト:リゴレット(演奏会用パラフレーズ)

≪ピアノの魅力≫というテーマで今回のプログラミングは特別なものになったようである。普段のリサイタルで交響曲の編曲版が演奏されることは極めて珍しいことである。私にとって初めてのことである。シプリアン・カツァリス演奏の「ベートーヴェン(リスト編曲):交響曲第6番《田園》のCDは所有していて聴いたことはあるが、今回のコンサートの前に十数年ぶりに聴いてみた。
ピアノ独奏版を初めて聴いた人は強烈な印象を受けただろう。CDと違って生演奏は迫力があることは確かである。小山実稚恵は今回は編曲ものに挑戦した。オーケストラのように様々な楽器の音を出せるピアノの魅力を紹介しようと試みたようである。
最後の演目「リゴレット・パラフレーズ」は聴く機会が増えてきたが、演奏時間が45分もかかる「田園」の演奏は注目に値する。

ショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」も本来は管弦楽付きの作品であった。華やかな演奏は聴衆の心を一段と引き立たせた。「ポロネーズ第5番」での田園風景、シャブリエの「牧歌」にも田園に共通するテーマが感じられた。(「牧歌」のCDだけは持っていないので馴染みのない曲であった。)

秋の装いが深まった時期に応じた季節感を感じさせる曲。アンコールにチャイコフスキーの【「四季」から 10月 秋の歌】。2曲目にプロコフィエフの「前奏曲 作品12-7」。あまり聴いたことが無い面白いメロディの曲。最後に、ショパンの「英雄ポロネーズ」で締めたが、Kitara小ホールを埋めた満員の聴衆には満足感の表情がみなぎっていた。
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内田光子ピアノリサイタル

〈Kitara ワールドソリストシリーズ〉

やっと念願が叶って内田光子のソロリサイタルが聴けた。

彼女がKitaraに初登場したのは2001年12月5日であった。「内田光子 室内楽の夕べ」というタイトルでコンサートが開かれた。モーツァルトの「ピアノ協奏曲第12番イ長調K414」を(ピアノ五重奏版)でアメリカのブレンターノ弦楽四重奏団と共演。シェ―ンベルクの「月に憑かれたピエロ」がフルート、クラリネット奏者と歌手を加えて演奏された。
シェ―ンベルクの曲は殆どその良さが解らなくて残念だった。今でも現代作曲家の中でシェーンベルクの曲は理解が難しいと思い込む状態が続いている。当時の曲目だけは忘れないで覚えているから不思議である。ザルツブルク音楽祭におけるライブ演奏がDVD化され、内田の名盤となっているようである。

2度目は2010年11月10日の≪内田光子(ピアノ&指揮)クリーヴランド管弦楽団≫の公演。私の最近25年間のコンサートでTop Tenに入る素晴らしいコンサートであった。
[オール・モーツァルト・プログラム]
ディヴェルティメント 二長調K136
ピアノ協奏曲第20番 ニ短調K466
ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調K595

内田の弾き振りはP席の真正面というこの上ない座席から存分に楽しめた。オーラを放つ内田のエレガントで知性と情感のバランスがとれた指揮ぶりは堂々としていた。ピアノ演奏と共に50名程度の室内楽的オーケストラを完全に掌握していると思った。コンチェルトを2曲も聴け、予想を超えた見事なコンサートに心を揺さぶられた。アメリカの本拠地クリーヴランドでの成果を見た思いがした。

本日の曲目
 モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第12番 ヘ長調 K.332
        アダージョ ロ短調 K.540
 シューマン:ピアノ・ソナタ 第2番 ト短調 作品22
 シューベルト:ピアノ・ソナタ 第18番 ト長調 作品18 

ほぼ満席で埋まったKitara大ホールの聴衆が内田ワールドに引き込まれた。モーツァルト、シューマン、シューベルトのそれぞれの抒情的な美しい旋律がホールを包んだ。日本の聴衆は鑑賞態度が優れていると言われる。本日のコンサートでピアニストの奏でる音を聴き逃すまいとするオーディエンスの集中力は見事だと思った。彼女のソロ演奏を心待ちにして集中力が高まっていたことは間違いない。静と動の対比が巧みに表現される演奏技術も人々を惹きつけたことは言うまでもない。とにかく最初から最後まで聴衆は内田光子の奏でる音楽に心地よく浸ったのである。

内田光子は1948年熱海生まれ。世界的アーティストとして世界各地でリサイタルはもちろん、欧米のメジャー・オーケストラとの共演、室内楽など多彩な活動をしている。クリーヴランド管弦楽団のアーティスト・イン・レジデンスとしてモーツァルトの協奏曲の弾き振りの活躍は名高い。リチャード・グードと共にマールボロ音楽祭の音楽監督も務めている。
一時モーツアルト弾きとして名を成し、シューベルト弾きとしても注目された。
今晩はアンコールに「バッハのフランス組曲第5番《サラバンド》」を弾いた。バッハ、ベートーヴェン、シューマン、ショパン、ドビュッシーの他に現代作曲家、特にシェ―ンベルクは得意にしていて、レパートリーは広い。今日の選曲は自分も含めて聴衆の好みに合ったものだと思った。

後記:私のブログを読んでくださる方から、一部の聴衆の鑑賞態度についてコメントが寄せられた。私も演奏中に物を落とす音は聞こえたが、それほどひどい状態とは認識していませんでした。満席状態の時に楽章間で拍手が起こったりする際には少々気になることはありましたが、今回のコンサートでは私自身ピアニストの演奏に集中するあまり、周囲の状況に神経質にはなっていなかったのかも知れません。演奏者が下手後方を振り向いた動作に何があったのかと気にはなっていました。個人的な印象を綴っていますので、客観性に欠ける記述があることは承知の上です。

佐藤卓史デビュー十周年記念 リサイタルツアー2013

ベートーヴェン4大ピアノ・ソナタを弾く
 「悲愴」「ワルトシュタイン」「月光」「熱情」

佐藤卓史(さとう・たかし)は1983年秋田市生まれ。東京芸大附属高3年の時(01年)に第70回日本音楽コンクール第1位。数々の国際コンクールで上位入賞。07年シューベルト国際コンクール優勝と特別賞。東京藝術大学を首席で卒業後、ドイツ・ハノーファー音楽演劇大学に学び、同大学を修了後はウィ―ン国立音楽芸術大学に在籍して研鑚を重ねた。その間にも多くの国際コンクールに挑戦し、数々の受賞を通して日本を代表する若手ピアニストとして活躍している。12年第8回浜松国際コンクール第3位ならびに室内楽賞。ソロ、室内楽、協奏曲など幅広い分野での評価が確立している実力派ピアニスト。

03年のリサイタルデビューから10年。7年にわたるヨーロッパ留学を終えての全国ツァー。本人のブログによると、01年の日本音コン本選での演奏以来ずっと避けてきた曲目。今回あえてこの作品を取り上げるのは、この12年間の足跡を確かめる「チェックポイント」にする狙いのようである。

ベートーヴェン(1770-1827)のソナタ全32曲は作曲年代によって前期・中期・後期に分けられている。10曲ほどに俗称がついているが、作曲家自身がタイトルをつけたのは《悲愴》と《告別》の2曲だけとなっている。

4大ソナタと称せられる第8番「悲愴」は前期、第14番「月光」、第21番「ワルトシュタイン」、第23番「熱情」は中期に分類される。リサイタルで演奏されるベートーヴェンのソナタで最も人気の高い名曲である。これらのソナタのCDはそれぞれ各10人ほどのピアニスト(シュナーベル、バックハウス、ホロヴィッツ、グールド、ゲルバー、ポリーニ、ハイドシェクなど)のものを長年に亘って聴いているので素人の自分にもメロディが身体に染み着いている。Kitaraでのリサイタルでも3大or4大ソナタと銘打っての演奏会も結構あった。この数年でもブーニン、オピッツ、外山啓介、及川浩治などの演奏会は直ぐ思い浮かぶ。

佐藤卓史は5・6年前にその名を知ってから注目してきて、Kitaraでのコンサートを待ち望んでいた。今回はデビュー10周年記念ということで全国16都市での日本ツアー。ツアーの最中に〈ペーター・レーゼルと佐藤卓史による連弾とトーク〉というイヴェントが東京で行われる。ピアノの世界的巨匠との共演が企画されるぐらいだから、佐藤の実力のほどがうかがえる。活動拠点を日本に移したとのことで、今後の日本でのコンサートが定期的になることを期待している。

ベーゼンドルファーを使用してのベートーヴェンの演奏会はとても新鮮で強烈な印象が残った。ピアニストが小ホールのステージでピアノの鍵盤を弾いたときに直ぐ、いつものスタインウエイとは違う音がホールに響いた。聴き慣れた曲を最高の席から鑑賞できた。ピアニストの手の動きを含めて感情まで読み取れたような気がした。明晰な解釈に基づく曲の展開、音色の多彩さに感嘆。技巧に裏打ちされた堂々たる見事な演奏。重厚さの中に華やかさもあった。

Kitaraにもベーゼンドルファーのピアノは用意されているが、今回はヤマハの会社がベーゼンドルファーの楽器を持ち込んだ様子。アンドラ―シュ・シフがKitaraから依頼されて選定したべーゼンドルファーを97年12月Kitaraでの演奏会で弾いて以来、実際に自分自身が著名なピアニストのリサイタルをベーゼンドルファーで聴く機会はめったに無かった。07年10月にイエルク・デームスとのピアノ・デュオの折に使ったパウル・パドゥラ・スコダの楽器は鮮明に記憶している。ウィ―ン出身のピアニストはBOSENDORFERに特別なこだわりがあるようだ。それだけに今日の演奏会は印象深かった。
一般にピアノの鍵盤は88あるがベーゼンドルファーのインペリアルは97の鍵盤を有する。黒鍵だけが左側に並んでオルガンのような低音域が出せ、響きがより豊かになるそうである。

佐藤卓史は実力派ピアニストとしてヨーロッパでの活躍も顕著であるが、日本での知名度がそれほど高くないこともあって今晩の聴衆は多くなかったが、今後の日本での活動が増えると着実に高い評価の得れるピアニストである。
アンコールに[ベートーヴェンの《アンダンテ・ファヴォリ》]。聴いたことが有るような無いような曲。一瞬シューベルトの曲かなと思った。佐藤は演奏終了後に挨拶をしたが、その声量の素晴らしさに驚いた。テノール歌手にもなれそうな魅力ある声。ウイーンでベートーヴェンの曲をベーゼンドルファーで録音した様子も語った。最後に有名な《エリーゼのために》を弾いた。

極めて知的で、真面目な感じのする人物。FC2でブログを書いていることに数ヶ月前に気付いた。ただ、今回のプログラム解説はチョット専門家向け過ぎると感じた。一般の音楽愛好家を対象にくだけた内容にして、読み易いようにした方が良いというのが率直な感想。

佐藤卓史ソロアルバムで「ショパン:ピアノ・ソナタ全3曲」が発売されていた。第1番は持っていなかったので早速買ってサインを貰った。知性的で好印象を受けた。ファンになりそうである。

新専属オルガニスト オクタヴィアン・ソニエ デビューリサイタル

第16代札幌コンサートホール専属オルガニスト
オクタヴィアン・ソニエ デビューリサイタル

オクタヴィアン・ソニエ(Octavian Saunier)は1985年、ルーマニア生まれ。フランスで育ち、5歳でピアノを始め、10歳の時にオルガンに出会ってからオルガン一筋の生活だったそうである。リヨン国立高等音楽院に学ぶ。ソロコンサートの他、合唱や室内楽、オーケストラと共演。12年と13年にはリヨン国立管弦楽団とヤナーチェク「タラス・ブーリバ」、バルトーク「中国の不思議な役人」などで共演。Kitara専属オルガニストだった友人2人から勧められて招聘プログラムに応募。13年9月、第16代札幌コンサートホール専属オルガニストに就任。

Program
J.S.バッハ(1685-1750):[クラヴィーア練習曲集 第3部より] 《前奏曲とフーガ 変ホ長調 BWV552/1》 、《われらすべて唯一の神を信ず BWV680》、《深き苦しみの淵より、われ汝を呼ぶ BWV686》、《われらの主キリスト、ヨルダン川に来たれり BWV684》、《フーガ 変ホ長調 BWV552/2》。
           [シューブラ―・コラール集より] 《目覚めよ、と呼ぶ声あり BWV645》、《わが魂は主をたたう BWV648》、《ああ、われらとともにとどまりたまえ、主イエス・キリスト BWV649》。
           [トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV564]  
                  
ヴィエルヌ(1870-1937):オルガン交響曲第2番 ホ短調 作品20より
フランク(1822-90):3つの小品より カンタービレ ロ長調
ヴィドール(1844-1937):オルガン交響曲第8番 ロ短調 作品42-4 フィナーレ
アラン(1911-40):間奏曲 JA66 bis
メシアン(1908-92):主の降誕より 御言葉
       聖霊降臨祭のミサより 閉祭唱ー聖霊の風

前半はバッハの作品、後半は19、20世紀のフランスの作品をそれぞれ約1時間も要した、やや盛り沢山の内容。意気込みは解ったが挨拶、休憩を含めて2時間半の演奏時間は少し長過ぎた感あり。

第15代が女性で柔らかい音を出していた印象が強かったせいかも知れないが、今回の男性オルガニストの演奏は力強かった。特に鍵盤を弾く力が強い所為か、バッハの演奏は何となく単調に聴こえた。聴き慣れた曲が「目覚めよ、と呼ぶ声あり」や「トッカータ、アダージョとフーガ」ぐらいで、自分自身が多分バッハの曲に固定観念があるためだろう。

ヴィエルヌの「オルガン交響曲第2番」は聴きごたえがあった。ヴィドールの「オルガン交響曲第8番のフィナーレ」も良かった。今度のオルガニストはオルガン交響曲が得意なのかも知れないと思った。
アンコールに弾いた「即興演奏」は今迄に聴いたことがない演奏ぶりでとても面白かった。ストップを頻繁に使用して鳥の鳴き声を連想させる美しい曲で、メシアンの鳥のテーマと関係があるのかと一瞬思ったが即興演奏と解ってビックリ。今日一番の印象に残った演奏。
オルガンは良く解らないので的外れの感想かも知れない。

第16代オルガニストは先月のKitaraボランティアのダイレクト・メールの作業の折に挨拶に来たが、愛想が良く、コミュニケーションの取り方も抜群で、人柄も良く、日本に溶け込む態度はボランティアに好印象を与えた。今後の活動が期待大である。











上杉春雄 2013 デビュ―25周年記念コンサートシリーズ

上杉春雄のコンサートは03、06、08、10、12年に続いて6回目である。最近は池辺晋一郎との共演による室内楽のコンサートが多くて、リサイタルは久し振りである。

上杉春雄は1967年北海道生まれ。1981年のピティナ・ピアノコンペティションG級で金賞を獲得して注目され、早くにCDデビュー。北海道大学医学部に進学しながら、マリア・カナルス国際コンクールに入賞。88年東京サントリー大ホール、大阪ザ・シンフォニーホールでデビューリサイタル。リサイタルの他に、オーケストラとの共演、諏訪内晶子との全国各地でのジョイント・コンサートを行なって、医学と音楽の両立を目指して活動したが、一時音楽活動を休止した。東京大学大学院やスウェーデン・ウプサラ大学で研鑚を積んだ後、03年に再デビュー。09年にクロアティアやオーストリアなど海外でもリサイタルを開いた。現在、札幌麻生脳神経外科病院神経内科医長。J.S.バッハ「平均律クラヴィーア曲集」連続演奏会の開催、月刊クラシック音楽情報誌《ぶらあぼ》で連載を受け持つ活動など、医者・ピアニストとしてのユニークな文筆活動も注目される。

デビュー25周年記念コンサートシリーズ  ”時を聴く”

〈本日のプログラム〉

バッハ[1685ー1750]:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調BWV903
クセナキス[1922-2001]:ヘルマ(1960~1961)
ベートーヴェン[1770-1827]:ピアノソナタ第31番 変イ長調 Op.110
ストラヴィンスキー[1882-1971]:ペトル―シュカからの3楽章(1914)
ショパン[1810-1849]:ピアノソナタ第3番 ロ短調Op.58

時代的にも音楽的にも異なる5人の作曲家の曲を演奏。バッハの曲はモダンピアノよりチェンバロの響きの方が似合うかなと思った。クセナキスという名は今回初めて聞いた。現代音楽で宇宙を飛んでいるようなつもりで興味津々。ベートーヴェンの第31番は今では聴き慣れた名曲。第1楽章は豊かな詩情が漂い、第3楽章は壮麗なクライマックスで独創的なソナタ。

「ペトルーシュカからの3楽章」は今年のヴァン・クライバーンコンクールでオンデマンド・ビデオで初めて聴いて魅せられた曲。バレー音楽のための曲は聴いたことがあるので、メロディは親しみがあった。見ていても難曲と思えるほどの素早い手の動きとリズム感は魅力的で、直ぐその音楽に惹きこまれてしまう。上杉自身のプログラム・ノートによると、彼が高校1年の時にアメリカ演奏旅行で楽譜を見つけて、その後、この曲を日本で最初に録音したピアニストになったそうである。
圧倒的な演奏テクニックで聴衆を惹きつけ、演奏終了後、一段と大きな拍手がホールに鳴り響いた。初めて聴いた人が多かったのではないかと思った。

10年前のリサイタルでは「ソナタ第2番」を弾いた。当時のプログラムによると、ラヴェル、リスト、メシアンも弾いている。今夜も、すべて持ち味の違った作曲家の大曲を難なく弾きこなして見せた。このピアニストに苦手な曲はないのではと思わせるような見事な演奏。
上杉のコンサートで今日ほど感動したことはない。室内楽での印象とは比べようもないほどの迫力。今日のプログラムでの体力・精神力も合わせて凄いと感じた。
プログラム・ノートでの文筆力、コンサート当日の理路整然とした話も含めて、知性的ピアニストとしての人間力を改めて印象づけた。感性と知性の二つの局面を持つ上杉春雄。医師とピアニストの両立を果たしている能力に感服するのみである。

アンコールに「ショパンのノクターン第21番」。若いころの作品で遺作。もう1曲は良く聞き取れなかったが、乞食同然の生活をしながら80歳近くになって話題になり、85歳で野垂れ死にしたというモーツァルトと同時代の作曲家の作品。

札幌交響楽団第563回定期演奏会(10月)

指揮:ラドミル・エリシュカ(札響首席客演指揮者)

〈本日のプログラム〉
 
ドヴォルジャーク:チェロ協奏曲 ロ短調 (チェロ:石川祐支)
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調


エリシュカは先週の《札響特別演奏会》に続いての出演で、定期演奏会は4月に続いて今シーズン2回目の登場。4年前から札響首席チェロ奏者の石川祐支に『“ロ短調”をいつか一緒に演奏しよう』と言っていて、今回ようやく実現。

石川は東京交響楽団首席奏者を務めていたが、札響にゲスト首席として出演する機会があり、05年4月から札響首席奏者に就任。Kitaraボランティアの機関紙の編集委員のインタビューに本人は『札響に客演の折に“この楽団に入りたいな”と思っていたところに勧誘されて、二つ返事で快諾した』と答えている。
札響ではソリストとして、これまで07年2月の定期演奏会でショスタコ-ヴィチの協奏曲第1番、09年3月の定期演奏会でR.シュトラウスの「ドン・キホーテ」を演奏。今回、満を持してエリシュカの期待に応えることとなった。『ドヴォルジャークの協奏曲はこれまでに何度も演奏したことがあるが、今回が一番練習している気がする』と意気込みを語っていた。

聴衆の期待も大であったが、オーケストラ、ソリスト、オーディエンスが一体となった素晴らしい演奏会となった。私はチェロ協奏曲ではドボルジャークが一番の気に入りで、デュ・プレ、ロストロポーヴィチ、ヨー・ヨー・マ、カザルスなどのチェリストのCDも7・8枚は持っている。Kitaraでミッシャ・マイスキーやペレーニ等の生演奏を聴いたことがあるが、会場全体で三者一体となった今回のような演奏会は極めて稀である。演奏家と聴衆が一緒に音楽を作り出すことを実感できた貴重な機会となった。

演奏終了後、エリシュカはごく自然体でソリストに頬を寄せて祝福し、大平コンマスの手にキスをする仕草に会場から笑いも起こった。札響に親しまれている外国人指揮者ならではの振る舞い。
石川はアンコールに応えて「J.S.バッハの無伴奏組曲第6番から第4曲サラバンド」を弾いた。

ブラームスの交響曲は演奏される機会が多い。何と言っても最も印象に残っているのは、09年10月、ジョナサン・ノット指揮バンベルク交響楽団の2日連続公演、〈ブラームス交響曲全曲演奏会〉である。管楽器の素晴らしい響きが特に印象に残っている。

エリシュカがブラームスの交響曲を指揮するのは初めてで、どのように演奏するのか予想できなかった。ブラームスの第3番はベートーヴェンの第5番に例えられることがある。初演時の指揮者ハンス・リヒターがこの曲を「ブラームスの英雄交響曲」と呼んだ。この曲には悲劇的要素もないし、勝利の叫びのような凱歌もない。ブラームス特有の重々しさや複雑な要素もなく、実に明快で、力強く、美しい旋律が歌曲のように謳われる。第3楽章はロマンティックな楽章。
エリシュカが「第3番」を選曲した理由が良く解った。管楽器がそれなりの演奏をしたが、弦楽器の響きが優れていると思った。ドボルジャークの交響曲との繋がりを感じ取った気がした。座席にもよるが、P席で聴いていた時の印象との違いかなとも思った。勿論、エリシュカを過剰に意識した所為かも知れない。
ブラームスがドヴォルザークの音楽を高く評価して、「スラヴ舞曲集」の作曲に繋がったことは、先週のブログでも書いた。ドヴォルジャークもブラームスの葬儀(1897年4月)にも参列して、彼の追悼演奏会で自分自身のチェロ協奏曲を指揮したと言われている。
こんなわけで、ブラームスとドヴォルジャークの関係がこれほど深いものがあったのかと改めて気付いた次第である。

エリシュカにとって今シーズンの札響での共演は今回が最後であったが、各パートの首席・副首席奏者と握手を交わしてオーケストラ団員とステージ上での暫しの別れ。最後に、今月末に定年で退団するホルン奏者を称える場面にも登場。人間味あふれる対応に聴衆からも一段と大きな拍手。

今月21、22の両日、大阪フィルの定期演奏会でドヴォルジャークの交響詩《野鳩》、交響曲第9番などを演奏する予定になっている。多分Kitaraには2014年4月に帰ってくる。

札響名曲シリーズ 2013-2014 vol.3

森の響フレンドコンサート 札響名曲シリーズ 2013-2014 vol.3

エリシュカの田園

ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調「田園」
ドヴォルジャーク:スラヴ舞曲集 作品46(全8曲)

チェコ出身のラドミル・エリシュカが2008年に札幌交響楽団の首席客演指揮者に就任してから、毎年4月に定期演奏会に出演してきた。過去6年間でチェコ音楽シリーズを6回開催して、ドヴォルジャーク、ヤナーチェクの音楽を紹介してきた。ドヴォルジャークの交響曲第5番、第6番、第7番をいち早く演奏曲目に取り入れ、スターバト・マーテルや交響詩など比較的に馴染みの薄いチェコの曲を紹介してくれた功績は大きい。

2012-2013年の札響名曲シリーズでは≪古典神話の主人公≫というタイトルで、「ベートーヴェンの《プロメテウスの創造物》序曲」、「ハイドンの交響曲第88番《V字》」、「モーツァルトの交響曲第41番《ジュピター》」を演奏。12月には札響特別演奏会で「ベートーヴェンの第九」も指揮。
これまでにチェコ音楽の祖、スメタナの「わが祖国」も指揮したと思うが、残念ながらその折は聴く機会を持たなかった。

チェコ音楽シリーズは一区切りついたが、今日は「ドヴォルジャークのスラヴ舞曲集 第1集」。来週の10月定期では「ドヴォルジャークのチェロ協奏曲」が予定され、まだまだチェコ音楽は続く。

本日の最初のプログラムはベートーヴェンが自然を愛し、田園への愛情を綴った交響曲。ベートーヴェンの奇数の番号の交響曲と比べて偶数の曲が演奏されることは極端に少ない。ほぼ同じ時期に作曲された「運命」と「田園」は若い時に好んでLPで聴いていた。「田園」は室内楽的なところがあって、聴いていて心が落ち着いて平和的な気分になる。
朝比奈隆はヨーロッパ中で「第6番」を演奏しまくっていたようだ。彼の話によると、オケの常任指揮者が「運命」とか「英雄」みたいな派手な、聴衆に受ける曲を先に取ってしまうので、残った曲が客演指揮者に回ってくる。ベートーヴェンの9曲の中で「田園」は指揮者にとって一番難しい曲になっているらしい。彼自身も常任指揮者になって、第6番を避けることになったと述べている。

交響曲第6番《田園》は5楽章構成。各楽章に標題がついている。
第1楽章:〈田舎に着いたときの愉快な感情の目覚め〉。田園の楽しさが横溢している。
第2楽章:〈小川のほとりの情景〉。木管楽器で奏でられる小鳥の鳴き声が印象的。
第3楽章:〈農民たちの楽しい集い〉。野性味あふれる舞曲。
第4楽章:〈雷雨、嵐〉。
第5楽章:〈牧人の歌。嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち〉。全体に感謝の感情が満ち溢れていて、美しい楽章。
全体的に標題音楽ではなく、ベートーヴェン自身も「絵画描写というよりも感情の表出」と但し書きを付けている。エリシュカにとって、この「第6番」は、むしろ得意とする曲ではないかと思った。ボヘミアの自然を感じながら、札響から美しい音を引き出したのではないか。自然をあるがままに受けいれて生活する人々の感謝の気持ちが聴衆の心にも響きわたったとしたら嬉しいことである。

後半のドヴォルジャークの「スラヴ舞曲集」。演奏会のアンコール曲などとして、その1曲か数曲が演奏されることが多くて、全曲が演奏されることは稀である。「スラヴ舞曲集」は第1集作品46 全8曲と第2集作品72 全8曲があり、全部で16曲ある。ブラームスのお蔭でこの曲集が生まれたことは良く知られている。

第1番:フリアント ハ長調。ボヘミアの代表的な舞曲。
第2番:ドゥムカ ホ短調。ウクライナを起源とする舞曲。
第3番:ポルカ 変イ長調。チェコの代表的な舞曲。
第4番:ソウセツカー ヘ長調。ボヘミアの優雅な舞曲。
第5番:スコチナー イ長調。チェコの急速な舞曲。
第6番:ソウセツカー 二長調。第4番と同じスタイル。
第7番:スコチナー ハ短調。第5番と同じスタイル。木管が印象的。
第8番:フリアント ト短調。第1番と同様、急速なフリアント。

最初と最後にフリアントをもってきているのが特徴的。ボヘミア民謡の旋律が効果的に使われている。チェコ出身の偉大な指揮者ラファエル・クーベリックやヴァ―ツラフ・ノイマンたちの流れを引き継ぐチェコの音楽家には彼ら独特の「口承伝承」の部分がその音楽のなかにあるようだ。

エリシュカはその音楽性と共に、札響のメンバーと心を通わせるものを作り上げた人間性が素晴らしい。札幌コンサートホールKitaraに彼の音楽を染み込ませた。聴く者すべての心に染み入る音を届ける指揮者と言えよう。1931年生まれで80歳を超えているが、その指揮台に立つ姿は若々しい。

アンコール曲に「ドヴォルジャーク:弦楽セレナード ホ長調 作品22から 第1楽章」。ホアイエ出口のボードに「変ホ長調」と書かれていたが、変ではないか。正しくは「ホ長調」だと思う。





シネマ歌舞伎 「ヤマトタケル」

シネマ歌舞伎は坂東玉三郎主演の泉鏡花の作品「海神別荘」、「高野聖」を観たことがある。
4代目市川猿之助の襲名披露(?)の演目「ヤマトタケル」が今回シネマ歌舞伎として上映された。スーパー歌舞伎は3代目市川猿之助が1986年に始めて、当時は大変な話題を集めた。古典芸能としての歌舞伎が現代風歌舞伎に仕上げられた。言葉が日常使われる日本語なので解りやすいのが特徴。演出も現代風。今迄になかった新しい歌舞伎は日本だけでなく海外でも上演された。

「ヤマトタケル」は《新橋演舞場》で上演されたが、舞台での役の入れ替わりや、最後に鳥になって大空を駆け巡り、雲の中に消えていく場面は圧巻であった。
脚本は梅原猛。演出は蜷川幸雄。大和の国の双子の皇子役は市川猿之助、父帝役が市川中車。猿之助は市川亀治郎として多方面で活躍し、中車は香川照之として長い期間に亘って俳優として活躍している。
梅原猛は日本を代表する哲学者として有名であるが、この歌舞伎の脚本家とは意外であった。猿之助は蜷川演出によるシェクスピア劇「ヴェニスの商人」のシャイロック役で、香川照之は連続テレビドラマ「半沢直樹」で大喝采を受けており、今後の活躍がますます注目される。

宮崎陽江 ヴァイオリン協奏曲の夕べ

宮崎陽江というヴァイオリニストの名前はコンサートのチラシで何度か目にしていた。2007年から毎年Kitaraでリサイタルを開いているようである。11年、12月の「宮崎陽江ヴァイオリンの夕べ」に出かけてみる気になった。サン=サーンスの「ヴァイオリン・ソナタ第1番&第2番」の曲目に惹かれたのである。今までのヴァイオリニストのリサイタルで聴く機会のない曲だったので、チケットを購入した。小ホールでの開催で自由席だったが、行ってみると満席状態だった。札幌と繋がりのあるソリストなのかなと思ったほどであった。その演奏にも満足したことを覚えている。

今回のコンサートは、「宮崎陽江ヴァイオリン協奏曲の夕べ」というタイトルで小ホールでの開催ながら、矢崎彦太郎指揮札幌交響楽団と共演。

宮崎陽江(Yoe Miyazaki)はニューヨーク洲生まれ。幼少期をパリで過ごし、3歳よりヴァイオリンを始める。桐朋学園大学卒業後、奨学金で米国タングルウッド音楽祭に参加。97年、ジュネーヴ高等音楽院卒業。
これまでにヨーロッパ各地での演奏会、音楽祭に多数出演。スイスと日本を拠点として音楽活動を行っている。日本では札幌と東京でリサイタルを定期的に開催している。

矢崎彦太郎は1947年生まれ。東京藝術大学卒業。ブザンソン国際指揮者コンクールなどに入賞し、79年よりパリを拠点に指揮活動。イギリス、フランス、スイスの名門オーケストラに客演。これまでに東京交響楽団指揮者、ドイツやフランス等のオーケストラの指揮者を務め、02年以降東京シテイ・フィルの首席客演指揮者。04~09年、バンコク交響楽団音楽監督・首席指揮者。その他、アジアのオーケストラの指揮者を兼任。パリ在住。
彼の指揮するコンサートを聴くのは91、99、00、03年の札響との共演に続いて5回目である。

≪プログラム≫
 モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲
        ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調K.219 「トルコ風」
 パガニーニ:イ・パルピティOp.13(ロッシーニの歌劇『タンクレディ』のアリア
                    「こんなに胸騒ぎが」による序奏と主題と変奏曲)
 フォーレ:組曲「マスクとベルガマスク」Op.112
      ヴァイオリン協奏曲 ニ短調Op.14

モーツァルトの序曲で幕をあげた。50名程度の編成とはいえ、小ホールでオーケストラの演奏を聴き慣れていないせいか、最初はうまく溶け込めなかった。

「第5番」はモーツァルトの5曲のヴァイオリン協奏曲の中で最も有名で親しまれている。第1楽章は力強くて堂々たる音楽。第2楽章はノクターンのような調べ。第3楽章は優美な旋律とトリオでのトルコ風の音楽の対比が印象的。トルコの軍楽隊のリズムがこの曲を際立たせている。40名弱のオーケストラをバックに宮崎陽江は最初は固い感があったが、次第にヴァイオリンの音を巧みにホールに響かせた。

後半のプログラムは3曲とも多分初めて聴いた曲。
パガニーニはヴァイオリンの技巧を最大限に発揮させ、オペラのアリアをヴァイオリンが歌う様は正に圧巻。宮崎はこの曲を弾き込んで得意にしているようで、技巧を駆使した見事な演奏。ヴァイオリン+オーケストラ版では日本初演だそう。

フランスの作曲家フォーレ(1845~1924)が1919年、モナコ大公の依頼で作曲したバレー音楽「マスクとベルガマスク」からの組曲。今夜は管弦楽曲化した〈序曲〉、〈メヌエット〉、〈ガヴォット〉、〈パストラル〉の4曲を演奏。抒情的な作品で知られるフォーレの曲がパリの風景を連想させながら、矢崎は踊るような仕種で身体全体をしなやかに使って、優美に、幻想的に躍動感あふれる指揮ぶりであった。

フォーレの協奏曲はこの「ヴァイオリン協奏曲」だけらしい。第1楽章のみの未完成のまま残された作品だが、単一楽章だが初めて聴いても盛り上がる部分があり、それなりにまとまった曲として聴ける。

宮崎陽江はヨーロッパでの活動で日本のコンサートではあまり演奏されないヴァイオリンの作品を弾く機会があって、それらの珍しい曲を日本で紹介しているのかなと感じた。今日は演奏を重ねるごとに、彼女のつやのある響きが伝わってくる印象を受けた。

アンコールに「タイスの瞑想曲」を弾いたが、札響との共演による演奏は一昨日の≪前橋汀子≫のピアノとの共演とはかなり違った感じの演奏が展開されて興味深かった。ピアノ版とオーケストラ版はCDではさほど違いが判らないが、実演でとその違いの大きさに意外な感じを受けた。

「2014年宮崎陽江ヴァイオリン協奏曲の夕べ」のチラシによると、来年の10月に東京オペラシテイとKitara大ホールでのコンサートが予定されている。日本公演に先立ってスロヴァキアでスワロフスキー指揮スロヴァキア・フィルとの共演も決まっている。満を持して活動の幅を大きく広げていくようである。

本日も満席状態のコンサートで、彼女の公演を祝う大きな花束が小ホールの入口に飾られていた。帰りに一人づつ見事なバラ一輪をお土産にもらうお客さんたちの列。みな嬉しそうな表情。
コンサートが終ってから、時計台ボランティアの仲間3人に声を掛けられ、帰りの道すがら交流が出来たのも、貴重なお土産になった。彼らは「札幌国際プラザ外国語ボランティアネットワーク」という組織の役員をしていて、偶に会うぐらいの関係だが、このような機会に音楽の話で意気投合して話し合えるのも得難い収穫。いつもより良い気分で家路についた。

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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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