漆原啓子ヴァイオリンリサイタル

漆原啓子(Keiko Urushihara)は1963年、東京生まれ。81年第8回ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールに日本人初の最年少優勝。85年に3歳年下の妹、朝子と共に札響定期に出演してバッハの協奏曲を演奏。その後、札響とはたびたび協演。彼女の演奏を初めて聴いたのが札響定期では2度目となった93年5月。「サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番」を弾いた。彼女の演奏を聴くのは今回が24年ぶり。朝子の演奏は98年、08年と2回Kitaraで聴く機会があった。


2017年3月25日(土) 午後4時開演  六花亭札幌本店 ふきのとうホール

〈曲目〉
 モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第33番 変ホ長調 K.481
 ドホナーニ:ヴァイオリン・ソナタ 嬰ハ短調 op.21
 コルンゴルト:から騒ぎ op.11
 R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 op.18

リヒャルト・シュトラウスの曲を除いてコンサートで取り上げられることの少ない演目が目を引いた。

モーツァルトの「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」はピアノとヴァイオリンが対等とはいえ、古典派時代はやはりピアノが主旋律を奏でていた。モーツァルトのヴァイオリン・ソナタはK.301、K304の作品には親しんでいる。この2曲は2楽章構成。「K.481」は彼の29歳の時の作。この曲は3楽章構成。ピアノが主導する明解な旋律で始まるモルト・アレグロの第1楽章とアダージョの第2楽章は対照的な趣。第3楽章はかなり簡素な主題と6つの変奏曲から成る。ピアノの響きがかなり勝っていた感じだった。

ドホナーニ(1877-1960)はバルトークやコダーイと同時代のハンガリーの作曲家。ピアノ作品を多く書いたようだが、ドイツ的重厚さ、ロマンティックな雰囲気、現代風のリズムも入った曲でヴァイオリンの技巧も凝らされて、比較的に面白く聴けた。

コルンゴルト(1897-1957)はチェコ出身の作曲家。1930年代前半までにクラシック音楽の分野で成功を収め、ユダヤ系のためアメリカに移住。アメリカ映画音楽の作曲も手掛けて、ジョン・ウィリアムズなどにも影響を与えたといわれる。
「から騒ぎ」はシェイクスピアの同名の喜劇のための付随音楽。管弦楽曲として書いたが、後に作曲家自身がヴァイオリンとピアノヴァージョンにした。
《から騒ぎ》から「4つの小品」。①花婿花嫁の部屋の中の女中 ②林檎とワイン ③庭園の情景 ④仮面舞踏会(*プログラムで4つののタイトルがドイツ語で書かれていたので辞書で調べて適当に翻訳してみた。)曲を聴いている最中は内容のイメージは浮かんでこなかったが音楽そのものは面白かった。ヴァイオリンとピアノの対話も音楽的に興味深かった。

音楽の多くのジャンルで多大な作品を残したリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)が書いた唯一つのヴァイオリン・ソナタ。この曲は3年前に大谷康子のリサイタルで聴いて良い曲だと思った。華やかな演奏効果のある曲でヴァイオリンの高度な技術が発揮され、ヴァイオリンが主役となる漆原の面目躍如の演奏で満足した。演奏終了後にブラヴォーの声も上がった。

221席の小ホールは漆原を聴きに来たと思われる客で満席状態で盛り上がって良い演奏会になった。2014年録音の姉妹デュオCDが国内で話題を呼んだようだが、後進の指導のほかにソロ活動も期待したい。

ヤコブ・ロイシュナー(Yacob Leuschner)のピアニストとしての腕前も相当なもの。彼は1974年生まれでドイツ出身。89年からソリスト、室内楽奏者として世界中で幅広く活動を展開している。世界の主要ホールでの演奏経験も含め、08年からはケルン大学教授を務めながら、国内外で後進の指導に当たり目覚ましい活躍を収めているようである。

演奏終了後にステージに戻って最初に口を開いて日本語で挨拶したのがロイシュナー。これにはビックリ! 日本語もかなり流暢でアンコール曲に「モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ K.372」のほんの一部を演奏。一度ステージを下がって再登場した時には、漆原が挨拶したが残念ながら声が通らずに良く分らなかった。2曲目のアンコールは「ホ短調」と聞こえたが確かでない。5分ほどの心に響く演奏によるヴァイオリン曲。

演奏家が聴かせたい音楽を選曲してのコンサート。演奏家も聴衆の反応に満足した様子でもあり、私自身にとっては聴きごたえのある演奏会となって良かった。

※ポーランドで5年ごとに開催されるヴィニャエフスキ国際コンクールは4大ヴァイオリンコンクールの一つである。1935年に始まり、戦争で中断して第2回が52年、昨年が第15回コンクールとして開催された。1972年以降の大会で多くの日本人入賞者が毎回途切れなく続いているが、優勝者は漆原啓子だけである。昨年の大会でも2位、7位と日本人入賞者が出たが、世界から優勝の大本命と評判の服部百音(Mone Hattori)がセミファイナル(13名)にも進めずに二次予選で落選。専門家のi間やポーランド国内で大騒ぎとなったようである。審査で不正が行われたと悪評とのこと。本人の力の無さではなくて落とされてしまったらしい。ヴェンゲーロフが審査委員長でルールに則った審査が行われなかったと公然と後日談がSNSを通して広がっている。有名な世界的指導者ブロンもファイナル7名のうち少なくとも4名はファイナルに進む値のないヴァイオリニストと語っている。
スポーツと比べて文化で順位を決めるのは難しいが、委員長の独裁が幅を利かせる事態が2015年のチャイコフスキー・コンクールでもあったとされる。審査委員個々の判断に違いはあっても、ルールが無視される事態を審査委員長自らが引き起こすことを憂うる。
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川畠成道ヴァイオリン・リサイタル2017

川畠成道が毎年この時期にKitaraでリサイタルを開催するのが恒例になった。3月は聴きたいコンサートが少なくて毎年4回ほどである。川畠のリサイタルを初めて聴いたのが2001年、14年からは4年連続で今回が7度目であった。小ホールで5000円のチケット料金は少し高めだが、公演の利益の一部分を社会福祉法人に寄付するチャリティ・コンサートとなっているので、ここ数年は毎年聴きに来ている。

2017年3月2日(木) 18:30開演  札幌コンサートホール小ホール

〈Program〉
 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 Op.100
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004
 メンデルスゾーン:歌の翼に 作品34-2
 ブラームス:ハンガリー舞曲 第1番
 ファリャ:スペイン舞曲 第1番 オペラ“はかなき人生”より
 バルトーク(セイケイ編):ルーマニア民族舞曲
 グノー:アヴェ・マリア
 モンティ:チャルダッシュ
 
ブラームスは中学校の音楽の教科書に出てきた厳めしい顔の写真の影響もあってか、クラシック音楽に夢中になってからも彼の作品に親しんだのはヴァイオリン協奏曲だけであった。今では4曲の交響曲や2曲のピアノ協奏曲を含め、彼の重厚な曲が気に入っている。3曲しか書いていないヴァイオリン・ソナタも全て聴きごたえがある。
「第2番」も全体的に抒情的で美しい旋律に溢れている。とてもメロディアスな曲で聴いていて心地が良かった。

バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータはギドン・クレーメルとヒラリー・ハーンの演奏で親しんでいる。演奏者によって曲の長さが違うが「シャコンヌ」は5分の差があるのに改めて気づいた。ドイツ、フランス、スペイン、イギリスの様々な舞曲で構成された4楽章のあとの終楽章として長大な舞曲「シャコンヌ」が続いた。少し短めで全体が25分の演奏。冗長に陥らないで、聴き手に踊り子の姿を想像させる弾き方の工夫を凝らしたようである。他のヴァイオリニストとは違う川畠の特徴が出た演奏だったように思う。
第5楽章の“Chaconne”はピアノ曲に編曲され、ピアノ・リサイタルで特にブゾーニ編を弾くピアニストが最近は多い。

川畠は前半のプログラムに毎年ヴァイオリン・ソナタを入れて、後半はヴァイオリンの小品を組んでいる。
後半1曲目は彼のデビューの折に取り上げた作曲家メンデルスゾーンの作品の中から選ばれた曲。「歌の翼に」はハイネの詩に基づく歌曲が原曲で、彼の歌曲の中で最も有名な作品。格調のある整ったメロディで様々な楽器に編曲されて親しまれている。ピアノ曲として聴く機会が多い。この曲は川畠自身にとってデビュー間もない頃に抱いた将来の期待と不安の心情を思い出すものになっているようである。

続く3曲は舞曲。マイクを使って3つの舞曲の説明があった。舞曲と言っても、曲に合わせて踊るのは難しく、バッハの曲と同じように器楽曲として作曲された。

「ハンガリー舞曲第1番」はピアノ連弾用として書かれ、のちにピアノ独奏、管弦楽用に編曲された。ヴァイオリン曲はヨアヒムが編曲し、ピアノとのやり取りが面白い。ハンガリーのジプシー(ロマ)の香り高いダンスで哀愁に満ちたメロディが心に響く。
「スペイン舞曲」はスペイン風のリズムやメロディ、生き生きとした色彩感豊かな明るい曲。
「ルーマニア民族舞曲」は民俗音楽収集家として名高いバルトークが若い時に書いた傑作。「棒踊り」、「腰帯踊り」、「足踏み踊り」、「角笛踊り」、「ルーマニア風ポルカ」、「速い踊り」の短い6つの舞曲が演奏された。今までに数回聴いた程度で、タイトル以外は親しんでいないが面白かった。

グノーの「アヴェ・マリア」は川畠にとって思い入れの強い曲となっていて、以前の演奏会で聴いてブログに書いた。彼が8歳の時にロスアンゼルスで命に係わるスティーヴン・ジョンソン症候群で皮膚障害と視覚障害に陥った時に、マリアンという名の人が献身的に彼の面倒をみた。その後、20年ぶりに訪れたLAでのコンサートで演奏した曲が「アヴェ・マリア」。この曲は彼を支えてくれた多くの人々への感謝の気持ちを込めて演奏する定番になっている。

モンティの曲はこの1曲しか聴いたことがない。しかし、今日では誰もが知っているメロディ。ハンガリーのロマの人々の哀しみを歌った第1部と器楽的な技巧を織り込んだ第2部から成る。ジプシー音楽の代表的な形式チャルダッシュ(Csardas)(*チャールダーシュと表記されることが多いと思うが、外国語を日本語に表記するのは難しい。)が曲のタイトルになっている。演奏者によって様々な即興演奏が可能ということで、川畠成道らしい曲として聴けたのも興味深かった。

2001年から毎年のように北海道で演奏会を開いているが、今回のピアニスト、佐藤勝重は札幌では初共演だと思う。パリ国立高等音楽院、パリ・エコール・ノルマル音楽院の高等演奏家課程を卒業。ソフィア国際ピアノコンクール優勝など、国内外のコンクールで入賞して数多くのコンサートに出演。ソロCD2枚、7枚の室内楽CDをリリースしている新進気鋭の若手ピアニスト。5月には東京で川畠とピアノ三重奏曲、8月には旭川で川畠とのジョイントコンサートが予定されている。

アンコール曲は3曲。①ショパン:ノクターン 第20番 嬰ハ短調  ②ディーニク:ひばり(*昨年のアンコール曲としても披露したが、鳥の鳴き声を変化させて聴かせる技巧の要る速い曲)  ③映画音楽「スマイル」(チャップリンの映画「モダン・タイムズ」より)
(*3年前の映画音楽特集で寺島睦也編で演奏された。)
1曲目のノクターンは毎年定番のアンコール曲と述べて演奏したが、私自身の記録では少なくとも14年以降は初めてでありピアノ作品と同様に心に染み入る演奏で映画「戦場のピアニスト」を思い出した。

川畠成道の視力もすっかり回復して、演奏にもトークにも渋みが出ているのは何より喜ばしい。来年もまた足を運ぼうと思う演奏会となった。

宮崎陽江 ヴァイオリン協奏曲の夕べ 2016 (大友&札響)

ヴァイオリニストがコンサートのソリストとしてオーケストラと共演してヴァイオリン協奏曲を弾く機会は数多くある。ソリストの名を中心にして『宮崎陽江ヴァイオリン協奏曲の夕べ』というタイトルで開催されるコンサートは極めて稀である。
昨年12月のコンサートの時から今回のプログラムが決まっていて大友直人の出演があるので予定に入れていた。

指揮/ 大友 直人(Naoto Otomo)
ヴァイオリン/ 宮崎 陽江(Yoe Miyazaki)
管弦楽/ 札幌交響楽団(Sapporo Symphony Orchestra)

大友直人は1958年東京生まれ。桐朋学園大学卒業。22歳でN響デビュー。在京オーケストラに次々と客演。86年大阪フィルと欧州ツアー、92年東京響と東南アジアツアー、96年再び東京響と欧州ツアーと海外公演もこなし破竹の勢いで日本の俊英指揮者として活躍。コロラド響、インディアナポリス響、ロイヤル・ストックホルム・フィルなどの海外のオーケストラにも客演。88年、「魔弾の射手」でオペラデビューも行って、「リゴレット」、「魔笛」などの他に「忠臣蔵」、「ジュニア・バタフライ」の独特な演目を披露して意欲的な指揮活動を展開。イタリアのプッチーニ音楽祭でも注目を浴びた。
現在、群馬交響楽団音楽監督、東京交響楽団名誉客演指揮者、京都市交響楽団桂冠指揮者、琉球交響楽団ミュージックアドバイザー。
彼の指揮活動を初めて見たのが86年日本フィル正指揮者としての旭川公演。続いて、92年に日本フィル札幌公演。時を置いて06年、京都市響常任指揮者として京都市響創立50周年記念でKitaraに登場。近年は現ニューヨーク・フィル音楽監督のアラン・ギルバートと国際音楽セミナーを毎年開催して教育的活動にも従事している。10年ぶりの札幌公演。

2016年12月7日(水) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
〈オール・ベートーヴェン・プログラム〉
  プロメテウスの創造物 Op.43 より 序曲
  ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.61
  交響曲第7番 イ長調 Op.92

バレエ音楽として書かれた「プロメテウスの創造物」は現在は上演される機会は殆どない。「序曲」は度々コンサートで取り上げられる。昨年11月、アシュケナージ指揮札響定期でも演奏された。12年11月にもエリシュカ指揮札響演奏の記録もある。5分程度の序曲なのでコンサートのイントロに使われやすいのだろう。曲の詳細は解らなくてもタイトルから様々な想像力を生かして鑑賞できる。

4大ヴァイオリン協奏曲は演奏会が多いが何時聴いても素晴らしい楽曲。ベートーヴェンが書いた唯一のヴァイオリン協奏曲は定期的に耳にして50年にもなるが全然飽きない。べズロードニーのヴァイオリン独奏でロジェストヴェンスキー指揮モスクワ・フィルによるLPレコードは擦り切れるほど聴いた。今はCDが7枚あって、ハイフェッツ、シゲティ、グリュミオー、パールマン、クレーメル、キョン=ファなどの演奏を聴く。ソロとオーケストラが統合して響き合う交響的色彩が強い曲。美しく伸びやかに歌うソロとともに奏でられるオーケストラも抒情的で気品と壮大さを感じさせる。
ベートーヴェンはピアノ協奏曲と違ってカデンツァを書いていないことに今回注目した。カデンツァはクライスラーのものが有名のようである。ハイフェッツ、クライスラーは自らのカデンツァを使っている。宮崎陽江はかなり意欲的な活動を展開しているので、彼女自身のカデンツァを使ったのかもしれない。曲の細かいところまでは解らないが、宮崎は風格も身について堂々たる演奏を展開した。

「第7番」は13年2月のサロネン指揮フィルハーモニア管の演奏に感動した記憶が鮮明である。ベートーヴェンは最も好きな作曲家で交響曲は「第5番」、「第6番」、「第9番」により親しみを持っていた。演奏会に臨むモチヴェーションや集中度によって鑑賞の印象は異なることも間間ある。
「第7番」は2管編成で「英雄」、「運命」や「田園」に比べて少し軽めの交響曲に見られていた感じがする。この曲の特徴は何よりもリズムという要素に重点が置かれている。ヒロイズムや闘争心も描かれで生命感、躍動感に溢れた作品。10年ほど前から「第8番」とともにその曲の良さを味わい出したが、現在の日本における「第7番」の人気度は極めて高い。

本日は大友直人指揮のもと札響弦楽器陣の安定した演奏とともに木管・金管・打楽器奏者の健闘もあってリズム感のある「第7番」を大いに楽しめた。メロディに富み、聴衆の理解しやすい音楽が終わると一段と大きなブラヴォーの叫び声があちこちから沸き上がった。いつもの札響定期とは違って若い学生の姿もかなり多かった。各楽章におけるリズム・パターンが躍動感を生み、若者の心を揺さぶっていたような気がした。
演奏終了後の盛大な拍手大喝采と歓声は指揮者・大友直人と「第7番」の曲の相乗効果のように思った。アンコールを期待する雰囲気もあったが今回はその場ではなかった。どんな曲でも品の良い音楽を作り上げるマエストロに感服!

前橋汀子アフタヌーン・コンサート2016

2005年に東京のサントリーホールで始まった「前橋汀子アフタヌーン・コンサート」。前橋の演奏活動50周年を記念して2012年から毎年アフタヌーン・コンサートが全国各地で開催されるようになった。札幌では公園の木の葉も色付き始める9月最後の日曜の午後に開かれている。
小品を中心にした親しみやすいプログラムのリサイタルを聴き始めて5年目。毎回聴きに出かけるほどではないと思いつつ毎年Kitaraに通っている。2年前には聴きごたえのあるバッハの無伴奏ヴァイオリン組曲全曲演奏会もあった。

〈Program〉
 J.S.バッハ(ヴィルへルミ編):G線上のアリア
 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調 Op.78 「雨の歌」
 J.S.バッハ:シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV1004より)
  ドビュッシー(ハルトマン編):亜麻色の髪の乙女
 クライスラー:中国の太鼓
 シャミナード(クライスラー編):スペインのセレナーデ
 サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ Op.28
 マスネ:タイスの瞑想曲
 《懐かしの名曲集》 丸山貴幸編
    枯葉~“ウエストサイド・ストーリー”より「マリア」~イエスタディ
    ~“オペラ座の怪人”より「序曲」~愛の讃歌 
 ブラームス:ハンガリー舞曲第1番、第5番
                             (ピアノ/ 松本 和将)

例年のコンサートの前半のプログラムはソナタが2曲。今回の最初のプログラムは追悼の曲にも演奏される「G線上のアリア」。熊本震災をはじめ災害で亡くなられた方々に対しての追悼の意も込められているのかもと思った。

ブラームスはこの30年の間で親しむようになり彼の交響曲を始めピアノ曲・ヴァイオリン曲を好んで聴くようになった。ヴァイオリン・ソナタ3曲は2000年にムローヴァのCDで聴き始めた。その後、10年近く経ってピアノがアンデルシェフスキが弾いているのを知った。(*2011年に彼のリサイタルを聴きにサントリーホールに出かけた。)2013年にはムターの来札の折にブラームスのソナタ入りのCDを購入してサインを貰った思い出もある。「第1番」は特に気に入って親しんでいる曲である。明るくて幸福感に満ちておりシューマンの妻クララを慰めたようとした作品と言われている。憂愁を帯びたメロディも印象深い。

「シャコンヌ」はバロック時代におけるヴァイオリンの最高傑作として知られ、《無伴奏パルティータ第2番》の第5楽章。威厳のある主題と30の変奏から成る壮大な音楽。前橋は12年と14年にヴィタ―リの「シャコンヌ」を弾いた。バッハの「シャコンヌ」はブゾーニなどの編曲でピアノ曲として演奏されることも最近は多いと思う。しかし、バッハの曲と感激度が違う。いつ耳にしても素晴らしい音楽。前橋の演奏は真摯で情感が豊かである。

後半のプログラムは小品集。「シャミナード:スペインのセレナーデ」と《懐かしの名曲集》は前回までのアンコール曲として演奏された。演奏プログラムに入れたのは初めてだろう。誰もが耳にしたことがある名曲をメドレーで聴けて懐かしかった。5曲をつなげて1曲に編集した試みを興味深く感じた。

年配の客が多かったが、「序奏とロンド・カプリチオーソ」の演奏後の歓声と拍手が一段と大きかった。華麗な曲と高度なテクニックに魅了されてブラボーの声が上がってホールも盛り上がった。最後の「ハンガリー舞曲」で1000名弱の客も大満足の様子。ブラームスの情熱に溢れた第1楽章が終わった時に2階CB席あたりから曲終了と勘違いした人が多数いたが、前橋の軽く礼をする態度は好感が持てた。(以前の演奏会でも同様な反応をしたことがあった。)初めてコンサートに来る人もいるだろうが、周囲の状況を見て反応しても遅くはないと思う。

アンコール曲は①エルガー:愛の挨拶、②ショパン:ノクターン第2番、③クライスラー:愛の喜び。アンコール曲の紹介以外には余計な言葉は一切なく、若々しいエネルギッシュな演奏をするのが彼女の持ち味。あと1曲と指で合図して3曲目を弾いた。鳴りやまぬ拍手に最後はピアニストとともにステージ下手、上手の客席に近寄って挨拶する姿は好印象を与えた。






伊藤光湖ヴァイオリン・リサイタル

伊藤光湖ヴァイオリン・リサイタルは2007年7月に北海道立三岸好太郎美術館で開催された折にKitaraボランティアの仲間と一緒に聴きに行ったことがあった。彼女は北海道出身のPMFアカデミー修了生として音楽祭の折に札幌でコンサートを開いていた。美術館での絵画鑑賞と合わせて音楽鑑賞をするのも面白いと思った。30分のミニ・コンサートの後で地元新聞のインタヴューを受けて感想を述べたが、私の言葉は記者自身が勝手に書いた内容に変えられていた。伝聞での記事は正しくないことが多いことを経験しているのであまり気にもしなかった。10年前のコンサートを思い出して余計なことを書いてしまった。

数年前から彼女のコンサートが9月の初旬に開かれ、ヴァイオリン曲としては珍しい小品がプログラムに入っていてスケジュールの調整が出来れば聴きたいと思っていた。ヴァイオリニストの母の書家から紹介されて妻がコンサートに2年続けて出かけていた。今年は6月から彼女の本格的なリサイタルを聴く予定を立てた。

2016年9月3日(土) 14:00開演  札幌市生涯学習センターちえりあホール

〈プログラム〉
 モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第42番 イ長調 KV526
 グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第2番 ト長調 作品13
 バッハ:オルガンのためのトリオ・ソナタ BWV525より 「アレグロ」
 ボザ:アルトサックスのためのアリア
 ファリャ(伊藤光湖編):組曲「三角帽子」より “終幕の踊り(ホタ)”
 伊藤光湖:アネクドット(小さなお話)第9番
 ヴィエニアフスキー:コンサートポロネーズ第1番 ニ長調 作品4

モーツァルト(1756-1791)のヴァイオリン・ソナタは30曲ほど収録されているアッカルドのCD集を持っている。番号を見て曲の多さに改めて驚いて手元にないと一瞬思ったがKV526は何度か耳にしている。1787年に書かれ、モーツァルトが書いた最後から2番目のヴァイオリン・ソナタ。ベートーヴェンのクロイツェル・ソナタの前兆となるような曲で同じイ長調。ピアノとヴァイオリンが対等に渡り合い深みのある重厚な曲。伝統的な3楽章構成で静かで瞑想的な第2楽章の後の生き生きとした妙技の第3楽章が印象的である。モーツァルトのソナタのなかで聴きごたえのある傑作だと思った。(*伊藤の話によると最後のソナタは初心者向けのソナタ。)

グリーグ(1843-1907)が3曲書いたヴァイオリン・ソナタは先月の木野雅之のコンサートで第3番を聴いた。最も演奏会の多いのは3番で伊藤自身も今回が初めての演奏曲となる「第2番」。演奏してみて素晴らしい曲と実感したと言う。数日前にデュメイ&ピリスの曲を聴いて聴きやすい特徴のある音楽であると改めて認識した。1867年の結婚して間もない時期に作曲された。伝統的なノルウェー民俗音楽の香りを持つ曲作り。情熱的な旋律で始まって明るいダンスとなる第1楽章、民謡風の哀愁漂うメロディとともに北欧の自然の美しさを印象づける第2楽章、ドラマティックなフィナーレとなる第3楽章。エネルギーに満ち、若々しさが横溢する曲として聴けた。

前半2曲の本格的なソナタに次いで、このコンサートの特徴と解ったのが後半のプログラム。伊藤光湖(Mitsuko Ito)は数年前からヴァイオリン以外の楽器で演奏される曲をヴァイオリンで演奏することに挑戦してリサイタルを開催しているようである。
彼女は京都市立芸術大学卒業後、英国ギルドホール音楽院、フランス・エコールノルマル音楽院に学ぶ。PMF音楽祭に3回参加。スイスの音楽祭に10年連続参加して毎年自作自演、2010年元旦フランスのオーケストラと共演するなど個性的な活動で多彩な音楽活動を展開している。アメリカのインターネットラジオで自作曲が4度クラシック部門人気第1位となり注目を浴びた。

ほかのヴァイオリニストには出来そうにもない伊藤光湖の才能が発揮された独特な“ちえりあホールのコンサート”。

バッハとボザの曲はオリジナルのままヴァイオリンで演奏。暗譜で演奏したのには驚いた。

ファリャ(1876-1946)はスペインの作曲家。ロシア・バレエ団を率いるディアギレフの依頼に応じて作曲されたバレエ音楽。1919年ロンドンで初演、指揮はアンセルメ、舞台装置と衣装がピカソ。管弦楽曲では組曲《三角帽子》として知られ、小澤指揮ボストン響のCDが手元にある。全8曲の中で「粉屋の踊り」と「終幕の踊り」が有名である。「三角帽子をかぶる代官が粉屋の美しい女房に手を出すが最後には権力者がやっつけられるハッピーエンドのストーリー」。全曲40分のオーケストラ曲の格好良さに魅せられた伊藤が5年かけてヴァイオリン曲に編曲したそうである。コンサートでは粉屋の夫婦をはじめ全員が悪代官を懲らしめた喜びに満ちて楽しくホタを踊る6分ほどの場面が情熱的な音楽で描かれた。

伊藤は現在はパリと札幌を拠点にして活動して、1年の半分はパリに戻って生活する中で“ヒョロヒョロ”と作って出来た即興曲。昨年12月に5日間で完成したという作品。今回が初演と言って笑いを誘った。何気ない話しぶりにユーモアが滲み出て彼女のこのコンサートが魅力あるものになっているように感じた。

最後の演奏曲は同じ作品番号で3つのバージョンがあると説明した。初耳である。ヴィエニヤフスキー(1835-80)はポーランドの大ヴァイオリニスト&作曲家。18歳の時に書かれた初期の小品でポーランドの3拍子の舞曲ポロネーズのリズムに高度な技巧を散りばめた民族的な色彩の濃い作品として親しまれている。ショパン国際ピアノ・コンクールが行われるポーランドはヴィエニヤフスキー国際ヴァイオリン・コンクールの地としても名高い。
伊藤はヴィエニヤフフスキー協会に原曲はどれかと尋ねる問い合わせをしたという話も織り交ぜてトークを展開した。協会から楽譜を購入するように求められたが、“お金を使わずに頭を使って”、彼女自身がオリジナルと思われる楽譜に基づいて今回の演奏(“初演”)を行った。タイトルが“華麗なるポロネーズ”でなくて“コンサートポロネーズ”となっている理由である。実際に聴いてみて違いは全然判らなかった。レーピンとヴェンゲーロフのCDでも同じ曲とはいえ曲のニュアンスが違って聞こえたので、演奏者の違いと思っていた。楽譜の違いが分るほど音楽に精通していない。

今回のコンサートは全て暗譜で弾かれたが驚愕するばかりであった。これも彼女の凄い才能なのだろう。

アンコール曲は①《ビゼー:組曲「こどもの遊び」より “運動会”》(*オーケストラ曲をピアノ曲に編曲してヴァイオリン演奏)、②賛美歌のメドレ―。

ピアノの浅井智子(Tomoko Asai)は東京藝術大学卒業後、北海道各地でリサイタル、オーケストラとの共演、室内楽、伴奏などの演奏のほかに幅広い活動を行っている経験豊富な演奏家。今演奏会での彼女のピアノ演奏での貢献度も見事であった。


プロフィール

fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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