宮崎陽江 ヴァイオリン協奏曲の夕べ 2016 (大友&札響)

ヴァイオリニストがコンサートのソリストとしてオーケストラと共演してヴァイオリン協奏曲を弾く機会は数多くある。ソリストの名を中心にして『宮崎陽江ヴァイオリン協奏曲の夕べ』というタイトルで開催されるコンサートは極めて稀である。
昨年12月のコンサートの時から今回のプログラムが決まっていて大友直人の出演があるので予定に入れていた。

指揮/ 大友 直人(Naoto Otomo)
ヴァイオリン/ 宮崎 陽江(Yoe Miyazaki)
管弦楽/ 札幌交響楽団(Sapporo Symphony Orchestra)

大友直人は1958年東京生まれ。桐朋学園大学卒業。22歳でN響デビュー。在京オーケストラに次々と客演。86年大阪フィルと欧州ツアー、92年東京響と東南アジアツアー、96年再び東京響と欧州ツアーと海外公演もこなし破竹の勢いで日本の俊英指揮者として活躍。コロラド響、インディアナポリス響、ロイヤル・ストックホルム・フィルなどの海外のオーケストラにも客演。88年、「魔弾の射手」でオペラデビューも行って、「リゴレット」、「魔笛」などの他に「忠臣蔵」、「ジュニア・バタフライ」の独特な演目を披露して意欲的な指揮活動を展開。イタリアのプッチーニ音楽祭でも注目を浴びた。
現在、群馬交響楽団音楽監督、東京交響楽団名誉客演指揮者、京都市交響楽団桂冠指揮者、琉球交響楽団ミュージックアドバイザー。
彼の指揮活動を初めて見たのが86年日本フィル正指揮者としての旭川公演。続いて、92年に日本フィル札幌公演。時を置いて06年、京都市響常任指揮者として京都市響創立50周年記念でKitaraに登場。近年は現ニューヨーク・フィル音楽監督のアラン・ギルバートと国際音楽セミナーを毎年開催して教育的活動にも従事している。10年ぶりの札幌公演。

2016年12月7日(水) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
〈オール・ベートーヴェン・プログラム〉
  プロメテウスの創造物 Op.43 より 序曲
  ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.61
  交響曲第7番 イ長調 Op.92

バレエ音楽として書かれた「プロメテウスの創造物」は現在は上演される機会は殆どない。「序曲」は度々コンサートで取り上げられる。昨年11月、アシュケナージ指揮札響定期でも演奏された。12年11月にもエリシュカ指揮札響演奏の記録もある。5分程度の序曲なのでコンサートのイントロに使われやすいのだろう。曲の詳細は解らなくてもタイトルから様々な想像力を生かして鑑賞できる。

4大ヴァイオリン協奏曲は演奏会が多いが何時聴いても素晴らしい楽曲。ベートーヴェンが書いた唯一のヴァイオリン協奏曲は定期的に耳にして50年にもなるが全然飽きない。べズロードニーのヴァイオリン独奏でロジェストヴェンスキー指揮モスクワ・フィルによるLPレコードは擦り切れるほど聴いた。今はCDが7枚あって、ハイフェッツ、シゲティ、グリュミオー、パールマン、クレーメル、キョン=ファなどの演奏を聴く。ソロとオーケストラが統合して響き合う交響的色彩が強い曲。美しく伸びやかに歌うソロとともに奏でられるオーケストラも抒情的で気品と壮大さを感じさせる。
ベートーヴェンはピアノ協奏曲と違ってカデンツァを書いていないことに今回注目した。カデンツァはクライスラーのものが有名のようである。ハイフェッツ、クライスラーは自らのカデンツァを使っている。宮崎陽江はかなり意欲的な活動を展開しているので、彼女自身のカデンツァを使ったのかもしれない。曲の細かいところまでは解らないが、宮崎は風格も身について堂々たる演奏を展開した。

「第7番」は13年2月のサロネン指揮フィルハーモニア管の演奏に感動した記憶が鮮明である。ベートーヴェンは最も好きな作曲家で交響曲は「第5番」、「第6番」、「第9番」により親しみを持っていた。演奏会に臨むモチヴェーションや集中度によって鑑賞の印象は異なることも間間ある。
「第7番」は2管編成で「英雄」、「運命」や「田園」に比べて少し軽めの交響曲に見られていた感じがする。この曲の特徴は何よりもリズムという要素に重点が置かれている。ヒロイズムや闘争心も描かれで生命感、躍動感に溢れた作品。10年ほど前から「第8番」とともにその曲の良さを味わい出したが、現在の日本における「第7番」の人気度は極めて高い。

本日は大友直人指揮のもと札響弦楽器陣の安定した演奏とともに木管・金管・打楽器奏者の健闘もあってリズム感のある「第7番」を大いに楽しめた。メロディに富み、聴衆の理解しやすい音楽が終わると一段と大きなブラヴォーの叫び声があちこちから沸き上がった。いつもの札響定期とは違って若い学生の姿もかなり多かった。各楽章におけるリズム・パターンが躍動感を生み、若者の心を揺さぶっていたような気がした。
演奏終了後の盛大な拍手大喝采と歓声は指揮者・大友直人と「第7番」の曲の相乗効果のように思った。アンコールを期待する雰囲気もあったが今回はその場ではなかった。どんな曲でも品の良い音楽を作り上げるマエストロに感服!
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前橋汀子アフタヌーン・コンサート2016

2005年に東京のサントリーホールで始まった「前橋汀子アフタヌーン・コンサート」。前橋の演奏活動50周年を記念して2012年から毎年アフタヌーン・コンサートが全国各地で開催されるようになった。札幌では公園の木の葉も色付き始める9月最後の日曜の午後に開かれている。
小品を中心にした親しみやすいプログラムのリサイタルを聴き始めて5年目。毎回聴きに出かけるほどではないと思いつつ毎年Kitaraに通っている。2年前には聴きごたえのあるバッハの無伴奏ヴァイオリン組曲全曲演奏会もあった。

〈Program〉
 J.S.バッハ(ヴィルへルミ編):G線上のアリア
 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調 Op.78 「雨の歌」
 J.S.バッハ:シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV1004より)
  ドビュッシー(ハルトマン編):亜麻色の髪の乙女
 クライスラー:中国の太鼓
 シャミナード(クライスラー編):スペインのセレナーデ
 サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ Op.28
 マスネ:タイスの瞑想曲
 《懐かしの名曲集》 丸山貴幸編
    枯葉~“ウエストサイド・ストーリー”より「マリア」~イエスタディ
    ~“オペラ座の怪人”より「序曲」~愛の讃歌 
 ブラームス:ハンガリー舞曲第1番、第5番
                             (ピアノ/ 松本 和将)

例年のコンサートの前半のプログラムはソナタが2曲。今回の最初のプログラムは追悼の曲にも演奏される「G線上のアリア」。熊本震災をはじめ災害で亡くなられた方々に対しての追悼の意も込められているのかもと思った。

ブラームスはこの30年の間で親しむようになり彼の交響曲を始めピアノ曲・ヴァイオリン曲を好んで聴くようになった。ヴァイオリン・ソナタ3曲は2000年にムローヴァのCDで聴き始めた。その後、10年近く経ってピアノがアンデルシェフスキが弾いているのを知った。(*2011年に彼のリサイタルを聴きにサントリーホールに出かけた。)2013年にはムターの来札の折にブラームスのソナタ入りのCDを購入してサインを貰った思い出もある。「第1番」は特に気に入って親しんでいる曲である。明るくて幸福感に満ちておりシューマンの妻クララを慰めたようとした作品と言われている。憂愁を帯びたメロディも印象深い。

「シャコンヌ」はバロック時代におけるヴァイオリンの最高傑作として知られ、《無伴奏パルティータ第2番》の第5楽章。威厳のある主題と30の変奏から成る壮大な音楽。前橋は12年と14年にヴィタ―リの「シャコンヌ」を弾いた。バッハの「シャコンヌ」はブゾーニなどの編曲でピアノ曲として演奏されることも最近は多いと思う。しかし、バッハの曲と感激度が違う。いつ耳にしても素晴らしい音楽。前橋の演奏は真摯で情感が豊かである。

後半のプログラムは小品集。「シャミナード:スペインのセレナーデ」と《懐かしの名曲集》は前回までのアンコール曲として演奏された。演奏プログラムに入れたのは初めてだろう。誰もが耳にしたことがある名曲をメドレーで聴けて懐かしかった。5曲をつなげて1曲に編集した試みを興味深く感じた。

年配の客が多かったが、「序奏とロンド・カプリチオーソ」の演奏後の歓声と拍手が一段と大きかった。華麗な曲と高度なテクニックに魅了されてブラボーの声が上がってホールも盛り上がった。最後の「ハンガリー舞曲」で1000名弱の客も大満足の様子。ブラームスの情熱に溢れた第1楽章が終わった時に2階CB席あたりから曲終了と勘違いした人が多数いたが、前橋の軽く礼をする態度は好感が持てた。(以前の演奏会でも同様な反応をしたことがあった。)初めてコンサートに来る人もいるだろうが、周囲の状況を見て反応しても遅くはないと思う。

アンコール曲は①エルガー:愛の挨拶、②ショパン:ノクターン第2番、③クライスラー:愛の喜び。アンコール曲の紹介以外には余計な言葉は一切なく、若々しいエネルギッシュな演奏をするのが彼女の持ち味。あと1曲と指で合図して3曲目を弾いた。鳴りやまぬ拍手に最後はピアニストとともにステージ下手、上手の客席に近寄って挨拶する姿は好印象を与えた。






伊藤光湖ヴァイオリン・リサイタル

伊藤光湖ヴァイオリン・リサイタルは2007年7月に北海道立三岸好太郎美術館で開催された折にKitaraボランティアの仲間と一緒に聴きに行ったことがあった。彼女は北海道出身のPMFアカデミー修了生として音楽祭の折に札幌でコンサートを開いていた。美術館での絵画鑑賞と合わせて音楽鑑賞をするのも面白いと思った。30分のミニ・コンサートの後で地元新聞のインタヴューを受けて感想を述べたが、私の言葉は記者自身が勝手に書いた内容に変えられていた。伝聞での記事は正しくないことが多いことを経験しているのであまり気にもしなかった。10年前のコンサートを思い出して余計なことを書いてしまった。

数年前から彼女のコンサートが9月の初旬に開かれ、ヴァイオリン曲としては珍しい小品がプログラムに入っていてスケジュールの調整が出来れば聴きたいと思っていた。ヴァイオリニストの母の書家から紹介されて妻がコンサートに2年続けて出かけていた。今年は6月から彼女の本格的なリサイタルを聴く予定を立てた。

2016年9月3日(土) 14:00開演  札幌市生涯学習センターちえりあホール

〈プログラム〉
 モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第42番 イ長調 KV526
 グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第2番 ト長調 作品13
 バッハ:オルガンのためのトリオ・ソナタ BWV525より 「アレグロ」
 ボザ:アルトサックスのためのアリア
 ファリャ(伊藤光湖編):組曲「三角帽子」より “終幕の踊り(ホタ)”
 伊藤光湖:アネクドット(小さなお話)第9番
 ヴィエニアフスキー:コンサートポロネーズ第1番 ニ長調 作品4

モーツァルト(1756-1791)のヴァイオリン・ソナタは30曲ほど収録されているアッカルドのCD集を持っている。番号を見て曲の多さに改めて驚いて手元にないと一瞬思ったがKV526は何度か耳にしている。1787年に書かれ、モーツァルトが書いた最後から2番目のヴァイオリン・ソナタ。ベートーヴェンのクロイツェル・ソナタの前兆となるような曲で同じイ長調。ピアノとヴァイオリンが対等に渡り合い深みのある重厚な曲。伝統的な3楽章構成で静かで瞑想的な第2楽章の後の生き生きとした妙技の第3楽章が印象的である。モーツァルトのソナタのなかで聴きごたえのある傑作だと思った。(*伊藤の話によると最後のソナタは初心者向けのソナタ。)

グリーグ(1843-1907)が3曲書いたヴァイオリン・ソナタは先月の木野雅之のコンサートで第3番を聴いた。最も演奏会の多いのは3番で伊藤自身も今回が初めての演奏曲となる「第2番」。演奏してみて素晴らしい曲と実感したと言う。数日前にデュメイ&ピリスの曲を聴いて聴きやすい特徴のある音楽であると改めて認識した。1867年の結婚して間もない時期に作曲された。伝統的なノルウェー民俗音楽の香りを持つ曲作り。情熱的な旋律で始まって明るいダンスとなる第1楽章、民謡風の哀愁漂うメロディとともに北欧の自然の美しさを印象づける第2楽章、ドラマティックなフィナーレとなる第3楽章。エネルギーに満ち、若々しさが横溢する曲として聴けた。

前半2曲の本格的なソナタに次いで、このコンサートの特徴と解ったのが後半のプログラム。伊藤光湖(Mitsuko Ito)は数年前からヴァイオリン以外の楽器で演奏される曲をヴァイオリンで演奏することに挑戦してリサイタルを開催しているようである。
彼女は京都市立芸術大学卒業後、英国ギルドホール音楽院、フランス・エコールノルマル音楽院に学ぶ。PMF音楽祭に3回参加。スイスの音楽祭に10年連続参加して毎年自作自演、2010年元旦フランスのオーケストラと共演するなど個性的な活動で多彩な音楽活動を展開している。アメリカのインターネットラジオで自作曲が4度クラシック部門人気第1位となり注目を浴びた。

ほかのヴァイオリニストには出来そうにもない伊藤光湖の才能が発揮された独特な“ちえりあホールのコンサート”。

バッハとボザの曲はオリジナルのままヴァイオリンで演奏。暗譜で演奏したのには驚いた。

ファリャ(1876-1946)はスペインの作曲家。ロシア・バレエ団を率いるディアギレフの依頼に応じて作曲されたバレエ音楽。1919年ロンドンで初演、指揮はアンセルメ、舞台装置と衣装がピカソ。管弦楽曲では組曲《三角帽子》として知られ、小澤指揮ボストン響のCDが手元にある。全8曲の中で「粉屋の踊り」と「終幕の踊り」が有名である。「三角帽子をかぶる代官が粉屋の美しい女房に手を出すが最後には権力者がやっつけられるハッピーエンドのストーリー」。全曲40分のオーケストラ曲の格好良さに魅せられた伊藤が5年かけてヴァイオリン曲に編曲したそうである。コンサートでは粉屋の夫婦をはじめ全員が悪代官を懲らしめた喜びに満ちて楽しくホタを踊る6分ほどの場面が情熱的な音楽で描かれた。

伊藤は現在はパリと札幌を拠点にして活動して、1年の半分はパリに戻って生活する中で“ヒョロヒョロ”と作って出来た即興曲。昨年12月に5日間で完成したという作品。今回が初演と言って笑いを誘った。何気ない話しぶりにユーモアが滲み出て彼女のこのコンサートが魅力あるものになっているように感じた。

最後の演奏曲は同じ作品番号で3つのバージョンがあると説明した。初耳である。ヴィエニヤフスキー(1835-80)はポーランドの大ヴァイオリニスト&作曲家。18歳の時に書かれた初期の小品でポーランドの3拍子の舞曲ポロネーズのリズムに高度な技巧を散りばめた民族的な色彩の濃い作品として親しまれている。ショパン国際ピアノ・コンクールが行われるポーランドはヴィエニヤフスキー国際ヴァイオリン・コンクールの地としても名高い。
伊藤はヴィエニヤフフスキー協会に原曲はどれかと尋ねる問い合わせをしたという話も織り交ぜてトークを展開した。協会から楽譜を購入するように求められたが、“お金を使わずに頭を使って”、彼女自身がオリジナルと思われる楽譜に基づいて今回の演奏(“初演”)を行った。タイトルが“華麗なるポロネーズ”でなくて“コンサートポロネーズ”となっている理由である。実際に聴いてみて違いは全然判らなかった。レーピンとヴェンゲーロフのCDでも同じ曲とはいえ曲のニュアンスが違って聞こえたので、演奏者の違いと思っていた。楽譜の違いが分るほど音楽に精通していない。

今回のコンサートは全て暗譜で弾かれたが驚愕するばかりであった。これも彼女の凄い才能なのだろう。

アンコール曲は①《ビゼー:組曲「こどもの遊び」より “運動会”》(*オーケストラ曲をピアノ曲に編曲してヴァイオリン演奏)、②賛美歌のメドレ―。

ピアノの浅井智子(Tomoko Asai)は東京藝術大学卒業後、北海道各地でリサイタル、オーケストラとの共演、室内楽、伴奏などの演奏のほかに幅広い活動を行っている経験豊富な演奏家。今演奏会での彼女のピアノ演奏での貢献度も見事であった。


木野雅之 ヴァイオリンの魅力 Vol.7

連日リオ・オリンピックを楽しんでいる。毎日、日本選手の健闘が続いている。今朝素晴らしいニュースが飛び込んできた。レスリング女子3階級で3人の選手全員が金メダルの快挙! 昨夜は順調な滑り出しを確認して、一人か二人は金メダルは獲得できそうとは思ったが、まさか3人とも優勝するとは夢にも思っていなかった。午後の再放送で彼女らの活躍を目にした。伊調馨が全競技を通して個人種目の女子選手初のオリンピック4連覇を達成した偉業は凄い。3選手ともに慎重な試合運びで焦ることなく決勝は大熱戦で逆転で勝利を収めた試合が興奮度を増した。最後まで試合を諦めない彼らの勝負強さと精神面の充実も見て取れて感動的なドラマとなった。明日のレスリング女子でも吉田沙保里のオリンピック4連覇をはじめ他の選手のメダルが期待できる。

昨夜から台風の北海道上陸で広範囲にわたって被害が広がっているようである。今日は何とか天候も回復して予定通りにコンサート鑑賞に出かけた。

木野雅之のヴァイオリン・リサイタルを3年連続して聴くことになった。前2回は面白い小品が入っていたが、今年のプログラムは少々新鮮味に欠ける印象を持ったが、8月はコンサートが少ないので聴いてみることにした。

2016年8月18日(木) 7:00PM 開演 札幌コンサートホールKitara小ホール

〈プログラム〉
 ヴィタ―リ:シャコンヌ ト短調
 グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ短調 Op.45
 ブラームス:スケルツォ 《F.A.E.ソナタ》より
 ショーソン:詩曲 Op.25
 サラサーテ:序奏とタランテラ Op.43
 ヴュータン:夢
 サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン 

本日のプログラムの中で「ヴュータン:夢」だけは聴き慣れていない曲名。ブラームスの「スケルツォ」も余り知られた作品ではないが、偶々シューマンのヴァイオリン・ソナタのCDに収録されていた。カントロフが40年前に録音して7年前にデジタル化されたCD。1853年に3人の作曲家が合作で書いた珍しい曲。シューマンが第2楽章と第4楽章、彼の友人ディートリッヒが第1楽章、ブラームス(*当時20歳)が第3楽章の「スケルツォ」を書いた。3人の共通の友人である大ヴァイオリニスト、ヨアヒムに献呈された。
現在ではブラームスの曲のみ演奏されることが多いという。5分程度のリズミカルな曲。

ヴィターリ(1663-1745)はイタリアのヴァイオリニスト・作曲家。「ヴァイオリンと通奏低音のためのシャコンヌ」が最も良く知られた作品。冒頭にピアノで奏でられる主題がヴァイオリンの技巧を凝らした華やかな変奏で展開される。10分程度の曲。
ピアノ伴奏は毎回,藤本史子が務めているが結構、力強い演奏を展開していたように思った。
バッハの「シャコンヌ」は無伴奏のヴァイオリン曲で演奏会が多く親しまれている名曲。この数年はブゾーニ編曲のピアノ独奏曲としてピアニストが弾くことも増えてきた感じがする。

グリーグ(1843-1907)はノルウエー・ベルゲン生まれ。彼が書いた3曲のヴァイオリン・ソナタはデュメイ(現在、関西フィル音楽監督)とピリスのCDでコンサートの曲目になる度に聴く。北欧の民族的色彩の濃い作品で親しまれているグリーグの音楽。いずれのヴァイオリン・ソナタも美しい旋律が印象的であるが、「第3番」が最も有名で演奏機会も多い。前2曲のソナタから20年ほど後の作品で情熱も汲み取れるドラマティックな要素もある。3楽章を通して叙情味溢れる約25分の曲は聴きごたえがあった。

ショーソン(1855-99)はフランスの作曲家でドビュッシーやラベルのの印象主義音楽の先駆者と言われたが、若くして事故で亡くなった。よく演奏される作品は「詩曲」。オリジナルはオーケストラとヴァイオリンのための曲でハイフェッツの演奏で専ら親しんでいる。1896年イザイが初演。現在はピアノ伴奏で演奏されることが多いようである。
ピアノの陰鬱な序奏のあと途中からヴァイオリンが情熱的な主題を奏で、独特な詩情を醸し出す。15分弱の曲。

サラサーテ(1844-1908)はスペインの作曲家でヴァイオリンのヴィルトオーゾとして名高い。「ブルッフ:スコットランド幻想曲」、「ラロ:スペイン交響曲」などは彼のために書かれた作品。自らの才能を示す超絶技巧を凝らしたヴァイオリンの名曲が多い。
「序奏とタランテラ」は高度な演奏技巧が要求される曲でアンコール・ピースとして偶々演奏される馴染みのメロディ。“タランテラ”はイタリアの急速で激しい舞曲。難曲とされているようである。

ヴュータン(1820-81)の名は知っていても彼の作品を演奏会で聴いた記憶はあまりハッキリしない。ベルギーのヴィルトオーゾとしてヨーロッパ各地で活躍したそうである。イザイを育て上げたというから、グリュミオー、デュメイなどフランコ=ベルギー派の流れにあるヴァイオリストに属するのだろう。木野雅之もその流派に属して選曲しているのかもしれないと勝手に想像してみた。
オリジナルはヴァイオリンとハープの二重奏曲という。ハープ独特のロマンティックな旋律がピアノで奏されてヴァイオリンの華麗な技巧が楽しめる曲であった。
初めて耳にする曲かと思っていたら、昨年、このコンビのアンコール曲として演奏されていた。

コンサートの最後を飾った曲は最もポピュラーな「ツィゴイネルワイゼン」。哀愁と華麗さを備えたドラマティックな曲。フィナーレに相応しい曲で会場から歓声が沸き起こった。

アンコール曲は「ジョン・オードウエイ:旅愁」。熊本県人吉市出身の作詞家が付けた日本語の歌詞があって人々に広く親しまれているメロディ。アメリカ民謡とは知らなかった。聴いていて意外に思うと同時に歌詞も覚えていた。ピアニストの藤本も熊本出身で被災者。
木野のリサイタルが熊本地震本震の当日に熊本で開催予定であったが中止になったという。熊本支援の募金活動の一環としての“熊本に関わるアンコール曲”であった。(帰りに募金箱に寸志を入れてきた。)
最後のアンコール曲は「ラフマニノフ:ハンガリー舞曲」。

天満敦子ソロ・ヴァイオリン・コンサート

《望郷のバラード》でブレークして話題となり、親しみのある飾り気のない雰囲気の演奏会で人気のヴァイオリニスト、天満敦子。彼女のコンサートを初めて聴いたのはKitaraがオープンした年の1997年11月。大ホールでの演奏曲目を当時のプログラムで確認すると「ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番」、「ポルムべスク:望郷のバラード」、「バルトーク:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」、「バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番」という本格的なもの。2回目は2003年スワロフスキ―指揮スロヴァキア・フィルとの共演で「ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲」、「望郷のバラード」、「ツィゴイネルワイゼン」と今ではビックリするほどのプログラム。2010年は「フランク:ヴァイオリン・ソナタ」以外は名曲の小品集。
しばらく彼女のコンサートは聴いていなかったので、昨年12月〈ふきのとうホール〉での公演を聴くつもりだった。その時は入院中のため妻にチケットを譲っていた。今回はその埋め合わせのコンサート。Kitaraでは3年半ぶりのリサイタルになるそうである。

2016年5月29日(日) 1:30pm 札幌コンサートホールKitara大ホール

〈Program〉
 J.S.バッハ:無伴奏パルティータ第2番より 「アルマンド」
 カタロニア民謡/カザルス編曲:「鳥の歌」
 シューマン:「トロイメライ」、フォーレ:「シチリア―ノ」、マスネ:「タイスの瞑想曲」
 イギリス民謡/和田薫編曲:「グリーンスリーヴズ」、 フォスター:「スワニー河」
 黒人霊歌:「アメイジング・グレイス」、 ポルムべスク:「望郷のバラード」
 山田耕作・梁田貢/竹内邦光編曲:「この道・城ヶ島の雨」
 熊本県民謡:「五木の子守唄」
 岡山県民謡ー山田耕作/和田薫編曲:「中国地方の子守唄」 
 中田喜直:「雪の降る街を」、 小林秀雄:「落葉松」
 ホルスト:「ジュピター」

今回は小品集のプログラムによる全15曲。前半は外国の作品9曲。後半は日本の曲5曲とホルストの作品。全ての曲が無伴奏で演奏された。叙情味あふれる曲ばかり。
前半の曲は馴染みの名曲小品集だが、選曲に天満の特徴も出ている。アメリカ的性格を持つ歌曲や、黒人霊歌も入れた。
シチリアーナとはイタリアのシチリア島が発祥の舞曲。一昨日の三浦文彰のコンサートでもアンコール曲として演奏され、曲名は同じだが作曲家名が違った。

天満敦子の代名詞とも称される「望郷のバラード」はルーマニアの作曲家の作品。ポルムべスクはブルックナーに師事し、将来を嘱望されていたが29歳の若さでなくなった。この曲は祖国の独立運動に参加して投獄されていた収容所で故郷を偲びつつ書かれたと言う。1992年に天満は文化施設としてルーマニアを訪問した。それが縁で翌年に「望郷のバラード」の日本初演を行い、CDの発表に繋がり大ブレイク。これ以降、彼女はクラシックという従来の枠にとらわれない幅広い音楽活動を展開するようになった。

前半終了後、主催者に促されてのトークだったが、彼女の話を待ち望んでいた客が大部分であったようである。“ピアノなしの無伴奏によるコンサートは節約の為か?”という雑音も聞こえてくるが、“ヴァイオリンだけが奏でる音が堪らなくて”敢えて「ソロ・ヴァイオリン・コンサート〉も企画していると語った。
ストラディヴァリウスの楽器に出会って29年目を迎えると言う。楽器の29回目の誕生日、6月6日にはウィーン楽友協会のブラームス・ザールでコンサートを開くそうである。“人間とは未婚であるが、ヴァイオリンという旦那さんと結婚して29年目”という彼女の率直な語りに愛器ストラディヴァリウスに寄せる想いが感じとれた。
天満はKitaraホールを埋めた約千名への感謝の気持ちを何度も表し感激している様子であった。何度も来札公演を行っているが還暦を迎えてのKitaraでのコンサートに感慨も一入だったと想像される。
私自身、大ホールではリサイタルでも7・8列目中央に座席をとるのが普通であるが、今日は特別に3列目のほぼ中央に座ってヴァイオリンの弱音を聴きとれるようにした。ステージに近いところで演奏家に密着できた気がした。

後半は日本の童謡・民謡などが中心のプログラム。
「この道」の歌詞には“あかしやの花”や“白い時計台”が出てくる。北原白秋が札幌の思い出を綴った詩とされている。昨日は時計台でボランテイア活動をして観光客に時計台の案内をしたばかりだった。歌曲“城ヶ島の雨”とともに1曲の無伴奏ヴァイオリン曲として味わい深く聴けた。
日本の童謡・唱歌・民謡などはオペラ歌手のプログラムで聴くこともあるが、無伴奏のヴァイオリン曲として聴いたのは初めてかも知れない。叙情味あふれる曲なので、歌詞から情景を思い浮かべながら独特の音を奏でる曲に浸った。特に、「雪の降る街を」は素晴らしくて堪能できた。

天満はコンサートの最終曲はいつも「望郷のバラード」にしていた。2011年東日本大震後の東北のコンサートで最後に「ジュピター」を演奏した。その時以来、「ジュピター」を最後の演奏曲にしているという。札幌では数年来PMF賛歌として親しまれている曲で、客の反応も良くブラボーの声も一段と高かった。ヴァイオリニスト自身もKitaraで思い通りの演奏が出来たようでガッツポーズをしていた。

アンコール曲は「山田耕作:からたちの花」、「佐々木すぐる:月の砂漠」。

昼間に開催されるコンサートではKitaraの行き帰りに通る中島公園の緑の木々の間で、午後の陽射しを浴びて輝くつつじやライラックなどの花が見られる。藤棚の下を通るとウィステリアの独特な香りが漂ってくる。コンサートで演奏されたアンコール曲の余韻に浸りながら歩く楽しさは至福のひと時でもある。(*天気に恵まれないときなどは別にして、地下鉄と直結していないKitaraホールの環境の素晴らしさを改めて痛感!)



プロフィール

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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