千住真理子ヴァイオリン・リサイタル

千住真理子のヴァイオリン・リサイタルを聴いたのが彼女のデビュー35周年記念として開催された2010年だった。史上最年少の15歳で優勝した日本音楽コンクールで全国的な脚光を浴び、20世紀後半までに国際的な活動をしていた。2012年にストラディヴァリウス「デュランティ」を手にしてから彼女は一層積極的な活動を始めた。
12歳でN響デビュー、87年ロンドン、88年ローマ・デビューして、日本国内ではプラハ響、ベルリン室内管、スーク室内オーケストラ、ワルシャワ国立フィルなど海外オーケストラのソリストとしての活躍が比較的多かった。そのようなコンサートのタイトルが〈千住真理子&うんぬん〉と銘打たれるほど彼女の知名度は高い。4大ヴァイオリン協奏曲の他にリサイタルで弾かれる小品も含まれる演奏会もあったが、今回のリサイタルを聴くのは7年ぶりで2回目だった。

2017年6月23日(金) 7:00PM開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
 〈Program〉
  J.S.バッハ:アダージョ(無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番より)
  モーツァルト:アンダンテ・グラティオーソ~トルコ行進曲
  ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」
  ブラームス:ハンガリー舞曲第1番
  ドヴォルザーク:我が母の教え給いし歌
  メンデルスゾーン(ハイフェッツ編):歌の翼に
  アイルランド民謡(クライスラー編):ロンドンデリーの歌
  岡野貞一(朝川朋之編):故郷
  サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン

コンサート活動以外にも、著書を出版したり、講演会やラジオのパーソナリティーを務めるなど知性的で多才ぶりを発揮して好感度大のヴァイオリニスト。彼女の言葉によると“憧れのKitara”でのリサイタルの演奏曲目はKitaraホールの素晴らしい響きを生かすように慎重に選んだようである。語り慣れた話し方で曲の解説などを織り交ぜながらコンサートを進めた。(*予備知識があるので彼女の話は大部分は理解できたが、マイクの使い方が良くなかったのか、1階6列正面席にもかかわらず耳のせいもあってか7割程度しか聴きとれなかったのは残念であった。)

バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番第1楽章のみの演奏は初めてかもしれない。「アダージョ」と言っても直ぐピンと来ていなかった。幻想的、即興的な調べでコンサートのスタートに相応しい壮麗な世界が広がって非常に良かった。

2曲目はピアノ曲として親しんでいるが、「アンダンテ・グラティオーソ」が第1・2楽章のどちらかが分からなかった。第3楽章は短くて有名なメロディ。ヴァイオリン曲として聴いたことがなく、第1楽章は長大で、どのように編曲してあるのかワクワクしていた。結果的には第1楽章の主題と6つの変奏のうち主題だけが取り上げられ、トルコ風な第3楽章がメインの編曲になっていた。演奏者自身か兄が編曲に関わっていたのかもしれない。トルコ軍楽隊の行進が超絶技巧を駆使した力強い音楽のリズム・パターンとなって繰り返し反復されて楽しい見事な演奏だった。
演奏終了後にブラヴォーの声が上がるほど聴衆を歓喜させた。

前半最後の曲がメインとなるヴァイオリン・ソナタ。ブラームスは「ヴァイオリン・ソナタ」を3曲しか遺していないが、3曲とも名曲で味わい深い。曲にタイトルが付く「第1番」はブラームス自身の歌曲「雨の歌」の主題をそのまま用いているための呼称。
穏やかに語りかけるように始まる美しいメロディ。ピアノとヴァイオリンの対話で愛情あふれる親密な雰囲気が生み出される。雨を背景にして様々な感情の動きも読み取れる。
この曲の演奏では樫本大進とリフシッツの名演が思い出される。デュオと違って千住に視点が偏りがちだが、ピアニストも好演だった。

ピアニストの丸山滋は東京藝大大学院修了後、ミュンヘン音楽大学に学ぶ。コンクールで歌曲伴奏特別賞を受賞するなど国際的経験を積む。97年国際歌曲コンクール(東京・大阪)で優秀伴奏者賞を受賞。2014年Kitaraで開いたリサイタルで札幌市民芸術祭大賞を受賞。現在、東京藝術大学非常勤講師。

プログラムの後半は珠玉の名曲小品集。千住は各曲の演奏前に解説を加えながら演奏した。
◎ブラームスがハンガリーの民族色の濃いジプシー音楽をピアノ連弾用に書いた作品が原曲。
◎ドヴォルザークの歌曲集「ジプシーの歌」の第4曲が原曲。4年前に母を亡くした千住が想いを込めて弾いた。
◎メンデルスゾーンがハイネの詩に曲をつけた歌曲が原曲。
◎ロンドンデリーとはアイルランドの州の名前。英国の北アイルランドでは事実上の国歌として扱われているという。「ロンドンデリーの歌」には様々な歌詞によって歌われているが、「ダニー・ボーイ」が最も有名である。

◎唱歌「故郷」は大正時代以降、日本の自然風景の象徴的な歌として親しまれているが、東日本大震災後は特にコンサートなどで歌われる機会が増えた。高野辰之作詞、岡野貞一作曲の唱歌は、他に「春が来た」、「春の小川」、「朧月夜」、「もみじ」などがある。昨日の演奏はクラシック風の編曲によるもので、千住が個人的に委嘱してヴァイオリン曲に編曲してもらったらしい。
◎プログラムの最後を飾るに相応しい技巧の限りを尽くした超絶技巧の連続の曲。名手サラサーテならではの名曲。「ツィゴイネルワイゼン」とはドイツ語で「ジプシーの歌」の意。情熱的で哀愁を帯びた第1部、甘美で抒情的な第2部、急速で技巧的、華麗な第3部から成る。
曲の途中で弱音器をつけ、また外す場面をヴァイオリニストが演奏前に解説で説明してくれた。今まで何回もこの曲を聴いているが、弱音器をつけた時の音が急に変わったので直ぐに反応できた。弱音器を落として華麗な第3部に入る様子を観察出来て非常に興味深かった。
演奏終了後に千名以上の客席を埋めた聴衆の大歓声は凄かった。

拍手大喝采に応えてのアンコール曲は3曲。①マスネ:タイスの瞑想曲 ②クライスラー:愛の喜び ③バッハ:G線上のアリア。
マイクなしだったが、地声の曲の紹介は全て聴きとれた。安らぎを感じる曲ばかりで名曲に浸った。
周囲で“素晴らしかった”と声を上げる女性があちこちで見られた。帰りのホワイエにはサインをもらう人の列が長くつながっていた。
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天満敦子ソロ・ヴァイオリン・コンサート2017

昨年に続く珠玉の名曲を集めての天満敦子の無伴奏によるヴァイオリンのコンサート。ソリストとしてジャンルの枠にとらわれない演奏活動を続けている。
1992年のルーマニア訪問から話題を集め、「望郷のバラード」で一気にブレイク。彼女のコンサート・プログラム最後を飾る曲として長年続いた彼女の代名詞とも称された曲。近年は「ジュピター」で終わるプログラム編成。今回のプログラムの特徴は作曲家・和田薫が天満敦子に献呈した曲の演奏。

2017年4月2日(日) 1:30PM開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

〈プログラム〉
 J.S.バッハ:アダージョ(無伴奏ソナタ第1番より)、G線上のアリア
 フォーレ:夢のあとに、 シチリアーナ
 マスネ:タイスの瞑想曲
 ドヴォルザーク:ユーモレスク
 和田 薫:独奏ヴァイオリンのための譚歌より
        「琥珀」、「紅蓮」、「漆黒」、「萌黄」
 熊本県民謡:五木の子守唄、    山本正美:ねむの木の子守歌
 弘田龍太郎:叱られて、       菅野よう子:花は咲く
 ポルムべスク:望郷のバラ―ド
 ホルスト:ジュピター

コンサート前半の外国の作品6曲はクラシック音楽の名曲として親しまれているが、すべて無伴奏で暗譜による演奏。「ユーモレスク」は気恥ずかしくて演奏をためらっていたが、この曲を演奏した時に彼女の父が“やっと演奏してくれた”と語ったという曲。父への思いも込めての演奏だったようである。6曲の演奏終了後に2007年~10年に亘って和田薫から献呈された《独奏ヴァイオリンのための全5曲》より4曲が演奏された。天満の無伴奏のヴァイオリン演奏に感銘を受けた作曲家が書き上げた作品。
多彩な音色と技巧に彩られ、東洋的な詩情あふれる作品になっている。各曲に日本独自の色彩名が付いている。

後半のプログラム前半4曲は馴染みの曲。プログラム・ノートで初めて知り得たことが多々あった。「五木の子守唄」は赤ちゃんをあやすための子守唄ではなく、子守り奉公に出された娘の気持ちを歌った唄だそうである。
「ねむの木の子守歌」は皇后陛下美智子様が聖心女学院高等科在学中に作られた詩に、指揮者・作曲家だった故山本直純夫人の山本正美が清純な詩に感動して作曲して、1965年の秋篠宮様のご誕生を祝って皇后さまに献上したという話は初耳であった。
「叱られて」は久しぶりに耳にする懐かしいメロディ。郷愁を誘うメロディを持つ童謡を懐かしく思い出した。
「花は咲く」は東日本大震災の被害からの復興を応援するNHKによる支援プロジェクトのテーマソングとして広く知られている。

「望郷のバラード」はルーマニアの作曲家が祖国の独立運動に関わって投獄され、獄中で故郷を偲びつつ書いた作品。29歳の若さでこの世を去ったポルムべスクにスポットライトを当てることになった天満のヴァイオリン。心を揺さぶる旋律が、手にして30年目を迎えるストラディヴァリウスから紡がれ続ける。

ホルストが書いた《組曲「惑星」》の第4曲「木星」が最も親しまれている曲。この曲の第4主題に歌詞をつけた「ジュピター」は英国の愛国的賛歌として広く歌われているという。札幌の国際音楽祭PMFでは「ジュピター」(田中カレン編曲、井上頌一作詞)をPMF賛歌として聴衆全員が斉唱するのが恒例で人々に親しまれている。

2011年以降、天満は“日本のうた”を演奏曲目に入れ始めたようである。飾り気のない語り口と人々の心に染み入る演奏で人気を高めて、来年の札幌公演(4月8日)の予告もしていた。
1000人ほどの聴衆を集めたコンサートは盛会であった。彼女は“Kitaraで演奏会を開けて嬉しい”と今年も語った。アンコール曲は続けて2曲。①中田喜直:雪の降る街を ②岡野貞一:故郷(ふるさと)。

漆原啓子ヴァイオリンリサイタル

漆原啓子(Keiko Urushihara)は1963年、東京生まれ。81年第8回ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールに日本人初の最年少優勝。85年に3歳年下の妹、朝子と共に札響定期に出演してバッハの協奏曲を演奏。その後、札響とはたびたび協演。彼女の演奏を初めて聴いたのが札響定期では2度目となった93年5月。「サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番」を弾いた。彼女の演奏を聴くのは今回が24年ぶり。朝子の演奏は98年、08年と2回Kitaraで聴く機会があった。


2017年3月25日(土) 午後4時開演  六花亭札幌本店 ふきのとうホール

〈曲目〉
 モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第33番 変ホ長調 K.481
 ドホナーニ:ヴァイオリン・ソナタ 嬰ハ短調 op.21
 コルンゴルト:から騒ぎ op.11
 R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 op.18

リヒャルト・シュトラウスの曲を除いてコンサートで取り上げられることの少ない演目が目を引いた。

モーツァルトの「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」はピアノとヴァイオリンが対等とはいえ、古典派時代はやはりピアノが主旋律を奏でていた。モーツァルトのヴァイオリン・ソナタはK.301、K304の作品には親しんでいる。この2曲は2楽章構成。「K.481」は彼の29歳の時の作。この曲は3楽章構成。ピアノが主導する明解な旋律で始まるモルト・アレグロの第1楽章とアダージョの第2楽章は対照的な趣。第3楽章はかなり簡素な主題と6つの変奏曲から成る。ピアノの響きがかなり勝っていた感じだった。

ドホナーニ(1877-1960)はバルトークやコダーイと同時代のハンガリーの作曲家。ピアノ作品を多く書いたようだが、ドイツ的重厚さ、ロマンティックな雰囲気、現代風のリズムも入った曲でヴァイオリンの技巧も凝らされて、比較的に面白く聴けた。

コルンゴルト(1897-1957)はチェコ出身の作曲家。1930年代前半までにクラシック音楽の分野で成功を収め、ユダヤ系のためアメリカに移住。アメリカ映画音楽の作曲も手掛けて、ジョン・ウィリアムズなどにも影響を与えたといわれる。
「から騒ぎ」はシェイクスピアの同名の喜劇のための付随音楽。管弦楽曲として書いたが、後に作曲家自身がヴァイオリンとピアノヴァージョンにした。
《から騒ぎ》から「4つの小品」。①花婿花嫁の部屋の中の女中 ②林檎とワイン ③庭園の情景 ④仮面舞踏会(*プログラムで4つののタイトルがドイツ語で書かれていたので辞書で調べて適当に翻訳してみた。)曲を聴いている最中は内容のイメージは浮かんでこなかったが音楽そのものは面白かった。ヴァイオリンとピアノの対話も音楽的に興味深かった。

音楽の多くのジャンルで多大な作品を残したリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)が書いた唯一つのヴァイオリン・ソナタ。この曲は3年前に大谷康子のリサイタルで聴いて良い曲だと思った。華やかな演奏効果のある曲でヴァイオリンの高度な技術が発揮され、ヴァイオリンが主役となる漆原の面目躍如の演奏で満足した。演奏終了後にブラヴォーの声も上がった。

221席の小ホールは漆原を聴きに来たと思われる客で満席状態で盛り上がって良い演奏会になった。2014年録音の姉妹デュオCDが国内で話題を呼んだようだが、後進の指導のほかにソロ活動も期待したい。

ヤコブ・ロイシュナー(Yacob Leuschner)のピアニストとしての腕前も相当なもの。彼は1974年生まれでドイツ出身。89年からソリスト、室内楽奏者として世界中で幅広く活動を展開している。世界の主要ホールでの演奏経験も含め、08年からはケルン大学教授を務めながら、国内外で後進の指導に当たり目覚ましい活躍を収めているようである。

演奏終了後にステージに戻って最初に口を開いて日本語で挨拶したのがロイシュナー。これにはビックリ! 日本語もかなり流暢でアンコール曲に「モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ K.372」のほんの一部を演奏。一度ステージを下がって再登場した時には、漆原が挨拶したが残念ながら声が通らずに良く分らなかった。2曲目のアンコールは「ホ短調」と聞こえたが確かでない。5分ほどの心に響く演奏によるヴァイオリン曲。

演奏家が聴かせたい音楽を選曲してのコンサート。演奏家も聴衆の反応に満足した様子でもあり、私自身にとっては聴きごたえのある演奏会となって良かった。

※ポーランドで5年ごとに開催されるヴィニャエフスキ国際コンクールは4大ヴァイオリンコンクールの一つである。1935年に始まり、戦争で中断して第2回が52年、昨年が第15回コンクールとして開催された。1972年以降の大会で多くの日本人入賞者が毎回途切れなく続いているが、優勝者は漆原啓子だけである。昨年の大会でも2位、7位と日本人入賞者が出たが、世界から優勝の大本命と評判の服部百音(Mone Hattori)がセミファイナル(13名)にも進めずに二次予選で落選。専門家のi間やポーランド国内で大騒ぎとなったようである。審査で不正が行われたと悪評とのこと。本人の力の無さではなくて落とされてしまったらしい。ヴェンゲーロフが審査委員長でルールに則った審査が行われなかったと公然と後日談がSNSを通して広がっている。有名な世界的指導者ブロンもファイナル7名のうち少なくとも4名はファイナルに進む値のないヴァイオリニストと語っている。
スポーツと比べて文化で順位を決めるのは難しいが、委員長の独裁が幅を利かせる事態が2015年のチャイコフスキー・コンクールでもあったとされる。審査委員個々の判断に違いはあっても、ルールが無視される事態を審査委員長自らが引き起こすことを憂うる。

川畠成道ヴァイオリン・リサイタル2017

川畠成道が毎年この時期にKitaraでリサイタルを開催するのが恒例になった。3月は聴きたいコンサートが少なくて毎年4回ほどである。川畠のリサイタルを初めて聴いたのが2001年、14年からは4年連続で今回が7度目であった。小ホールで5000円のチケット料金は少し高めだが、公演の利益の一部分を社会福祉法人に寄付するチャリティ・コンサートとなっているので、ここ数年は毎年聴きに来ている。

2017年3月2日(木) 18:30開演  札幌コンサートホール小ホール

〈Program〉
 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 Op.100
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004
 メンデルスゾーン:歌の翼に 作品34-2
 ブラームス:ハンガリー舞曲 第1番
 ファリャ:スペイン舞曲 第1番 オペラ“はかなき人生”より
 バルトーク(セイケイ編):ルーマニア民族舞曲
 グノー:アヴェ・マリア
 モンティ:チャルダッシュ
 
ブラームスは中学校の音楽の教科書に出てきた厳めしい顔の写真の影響もあってか、クラシック音楽に夢中になってからも彼の作品に親しんだのはヴァイオリン協奏曲だけであった。今では4曲の交響曲や2曲のピアノ協奏曲を含め、彼の重厚な曲が気に入っている。3曲しか書いていないヴァイオリン・ソナタも全て聴きごたえがある。
「第2番」も全体的に抒情的で美しい旋律に溢れている。とてもメロディアスな曲で聴いていて心地が良かった。

バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータはギドン・クレーメルとヒラリー・ハーンの演奏で親しんでいる。演奏者によって曲の長さが違うが「シャコンヌ」は5分の差があるのに改めて気づいた。ドイツ、フランス、スペイン、イギリスの様々な舞曲で構成された4楽章のあとの終楽章として長大な舞曲「シャコンヌ」が続いた。少し短めで全体が25分の演奏。冗長に陥らないで、聴き手に踊り子の姿を想像させる弾き方の工夫を凝らしたようである。他のヴァイオリニストとは違う川畠の特徴が出た演奏だったように思う。
第5楽章の“Chaconne”はピアノ曲に編曲され、ピアノ・リサイタルで特にブゾーニ編を弾くピアニストが最近は多い。

川畠は前半のプログラムに毎年ヴァイオリン・ソナタを入れて、後半はヴァイオリンの小品を組んでいる。
後半1曲目は彼のデビューの折に取り上げた作曲家メンデルスゾーンの作品の中から選ばれた曲。「歌の翼に」はハイネの詩に基づく歌曲が原曲で、彼の歌曲の中で最も有名な作品。格調のある整ったメロディで様々な楽器に編曲されて親しまれている。ピアノ曲として聴く機会が多い。この曲は川畠自身にとってデビュー間もない頃に抱いた将来の期待と不安の心情を思い出すものになっているようである。

続く3曲は舞曲。マイクを使って3つの舞曲の説明があった。舞曲と言っても、曲に合わせて踊るのは難しく、バッハの曲と同じように器楽曲として作曲された。

「ハンガリー舞曲第1番」はピアノ連弾用として書かれ、のちにピアノ独奏、管弦楽用に編曲された。ヴァイオリン曲はヨアヒムが編曲し、ピアノとのやり取りが面白い。ハンガリーのジプシー(ロマ)の香り高いダンスで哀愁に満ちたメロディが心に響く。
「スペイン舞曲」はスペイン風のリズムやメロディ、生き生きとした色彩感豊かな明るい曲。
「ルーマニア民族舞曲」は民俗音楽収集家として名高いバルトークが若い時に書いた傑作。「棒踊り」、「腰帯踊り」、「足踏み踊り」、「角笛踊り」、「ルーマニア風ポルカ」、「速い踊り」の短い6つの舞曲が演奏された。今までに数回聴いた程度で、タイトル以外は親しんでいないが面白かった。

グノーの「アヴェ・マリア」は川畠にとって思い入れの強い曲となっていて、以前の演奏会で聴いてブログに書いた。彼が8歳の時にロスアンゼルスで命に係わるスティーヴン・ジョンソン症候群で皮膚障害と視覚障害に陥った時に、マリアンという名の人が献身的に彼の面倒をみた。その後、20年ぶりに訪れたLAでのコンサートで演奏した曲が「アヴェ・マリア」。この曲は彼を支えてくれた多くの人々への感謝の気持ちを込めて演奏する定番になっている。

モンティの曲はこの1曲しか聴いたことがない。しかし、今日では誰もが知っているメロディ。ハンガリーのロマの人々の哀しみを歌った第1部と器楽的な技巧を織り込んだ第2部から成る。ジプシー音楽の代表的な形式チャルダッシュ(Csardas)(*チャールダーシュと表記されることが多いと思うが、外国語を日本語に表記するのは難しい。)が曲のタイトルになっている。演奏者によって様々な即興演奏が可能ということで、川畠成道らしい曲として聴けたのも興味深かった。

2001年から毎年のように北海道で演奏会を開いているが、今回のピアニスト、佐藤勝重は札幌では初共演だと思う。パリ国立高等音楽院、パリ・エコール・ノルマル音楽院の高等演奏家課程を卒業。ソフィア国際ピアノコンクール優勝など、国内外のコンクールで入賞して数多くのコンサートに出演。ソロCD2枚、7枚の室内楽CDをリリースしている新進気鋭の若手ピアニスト。5月には東京で川畠とピアノ三重奏曲、8月には旭川で川畠とのジョイントコンサートが予定されている。

アンコール曲は3曲。①ショパン:ノクターン 第20番 嬰ハ短調  ②ディーニク:ひばり(*昨年のアンコール曲としても披露したが、鳥の鳴き声を変化させて聴かせる技巧の要る速い曲)  ③映画音楽「スマイル」(チャップリンの映画「モダン・タイムズ」より)
(*3年前の映画音楽特集で寺島睦也編で演奏された。)
1曲目のノクターンは毎年定番のアンコール曲と述べて演奏したが、私自身の記録では少なくとも14年以降は初めてでありピアノ作品と同様に心に染み入る演奏で映画「戦場のピアニスト」を思い出した。

川畠成道の視力もすっかり回復して、演奏にもトークにも渋みが出ているのは何より喜ばしい。来年もまた足を運ぼうと思う演奏会となった。

宮崎陽江 ヴァイオリン協奏曲の夕べ 2016 (大友&札響)

ヴァイオリニストがコンサートのソリストとしてオーケストラと共演してヴァイオリン協奏曲を弾く機会は数多くある。ソリストの名を中心にして『宮崎陽江ヴァイオリン協奏曲の夕べ』というタイトルで開催されるコンサートは極めて稀である。
昨年12月のコンサートの時から今回のプログラムが決まっていて大友直人の出演があるので予定に入れていた。

指揮/ 大友 直人(Naoto Otomo)
ヴァイオリン/ 宮崎 陽江(Yoe Miyazaki)
管弦楽/ 札幌交響楽団(Sapporo Symphony Orchestra)

大友直人は1958年東京生まれ。桐朋学園大学卒業。22歳でN響デビュー。在京オーケストラに次々と客演。86年大阪フィルと欧州ツアー、92年東京響と東南アジアツアー、96年再び東京響と欧州ツアーと海外公演もこなし破竹の勢いで日本の俊英指揮者として活躍。コロラド響、インディアナポリス響、ロイヤル・ストックホルム・フィルなどの海外のオーケストラにも客演。88年、「魔弾の射手」でオペラデビューも行って、「リゴレット」、「魔笛」などの他に「忠臣蔵」、「ジュニア・バタフライ」の独特な演目を披露して意欲的な指揮活動を展開。イタリアのプッチーニ音楽祭でも注目を浴びた。
現在、群馬交響楽団音楽監督、東京交響楽団名誉客演指揮者、京都市交響楽団桂冠指揮者、琉球交響楽団ミュージックアドバイザー。
彼の指揮活動を初めて見たのが86年日本フィル正指揮者としての旭川公演。続いて、92年に日本フィル札幌公演。時を置いて06年、京都市響常任指揮者として京都市響創立50周年記念でKitaraに登場。近年は現ニューヨーク・フィル音楽監督のアラン・ギルバートと国際音楽セミナーを毎年開催して教育的活動にも従事している。10年ぶりの札幌公演。

2016年12月7日(水) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
〈オール・ベートーヴェン・プログラム〉
  プロメテウスの創造物 Op.43 より 序曲
  ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.61
  交響曲第7番 イ長調 Op.92

バレエ音楽として書かれた「プロメテウスの創造物」は現在は上演される機会は殆どない。「序曲」は度々コンサートで取り上げられる。昨年11月、アシュケナージ指揮札響定期でも演奏された。12年11月にもエリシュカ指揮札響演奏の記録もある。5分程度の序曲なのでコンサートのイントロに使われやすいのだろう。曲の詳細は解らなくてもタイトルから様々な想像力を生かして鑑賞できる。

4大ヴァイオリン協奏曲は演奏会が多いが何時聴いても素晴らしい楽曲。ベートーヴェンが書いた唯一のヴァイオリン協奏曲は定期的に耳にして50年にもなるが全然飽きない。べズロードニーのヴァイオリン独奏でロジェストヴェンスキー指揮モスクワ・フィルによるLPレコードは擦り切れるほど聴いた。今はCDが7枚あって、ハイフェッツ、シゲティ、グリュミオー、パールマン、クレーメル、キョン=ファなどの演奏を聴く。ソロとオーケストラが統合して響き合う交響的色彩が強い曲。美しく伸びやかに歌うソロとともに奏でられるオーケストラも抒情的で気品と壮大さを感じさせる。
ベートーヴェンはピアノ協奏曲と違ってカデンツァを書いていないことに今回注目した。カデンツァはクライスラーのものが有名のようである。ハイフェッツ、クライスラーは自らのカデンツァを使っている。宮崎陽江はかなり意欲的な活動を展開しているので、彼女自身のカデンツァを使ったのかもしれない。曲の細かいところまでは解らないが、宮崎は風格も身について堂々たる演奏を展開した。

「第7番」は13年2月のサロネン指揮フィルハーモニア管の演奏に感動した記憶が鮮明である。ベートーヴェンは最も好きな作曲家で交響曲は「第5番」、「第6番」、「第9番」により親しみを持っていた。演奏会に臨むモチヴェーションや集中度によって鑑賞の印象は異なることも間間ある。
「第7番」は2管編成で「英雄」、「運命」や「田園」に比べて少し軽めの交響曲に見られていた感じがする。この曲の特徴は何よりもリズムという要素に重点が置かれている。ヒロイズムや闘争心も描かれで生命感、躍動感に溢れた作品。10年ほど前から「第8番」とともにその曲の良さを味わい出したが、現在の日本における「第7番」の人気度は極めて高い。

本日は大友直人指揮のもと札響弦楽器陣の安定した演奏とともに木管・金管・打楽器奏者の健闘もあってリズム感のある「第7番」を大いに楽しめた。メロディに富み、聴衆の理解しやすい音楽が終わると一段と大きなブラヴォーの叫び声があちこちから沸き上がった。いつもの札響定期とは違って若い学生の姿もかなり多かった。各楽章におけるリズム・パターンが躍動感を生み、若者の心を揺さぶっていたような気がした。
演奏終了後の盛大な拍手大喝采と歓声は指揮者・大友直人と「第7番」の曲の相乗効果のように思った。アンコールを期待する雰囲気もあったが今回はその場ではなかった。どんな曲でも品の良い音楽を作り上げるマエストロに感服!
プロフィール

fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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