ティーレマンのブルックナー「第7」&ブッフビンダーのベートーヴェン「第1」

ベートーヴェンのピアノ協奏曲全5曲のうち「第1番」は演奏会で聴いた記憶がない。CDでもギーゼキング、ギレリス、ルービンシュタインなどでそれぞれ1度聴いた程度で、バレンボイム&ベルリン・フィルで数回聴いたぐらい。1番と2番が収録されているCDは10年ぐらい前にブロンフマンのCDを購入したのが一番新しい記憶。
今日では世界のトップ・ピアニストの地位を占めているブッフビンダーのコンサートは今までに聴いたことがなかった。ティーレマンとの共演による12月17日のデジタル・コンサートは願ってもないプログラムだった。遅ればせながら先日やっと聴く機会を得た。

今年70歳を迎えるRudolf Buchbinderはチェコ生まれ。10歳の時にウィーンでベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第1番」を演奏してデビューしたというから当日の選曲も納得できる。聴く方も意外性があって良かった。翌年ウィーン三重奏団を組織して61年のミュンヘン国際コンクールの室内楽部門で優勝。ソロ、室内楽、歌曲伴奏と幅広い分野で活躍。75年ウィーン響のソリストとしての来日以来、たびたび来演しているようである。ベートーヴェンのソナタ全曲演奏会でも知られるという。

「第1番」は実際には第2番より後に作曲されたとされる。典型的な古典協奏曲のスタイルで書かれた作品はモーツァルトの影響を受けているように感じられた。同じ旋律の繰り返しも多いが、親しみやすいメロディアスな曲で心地よい響き。最近は第3~5番しか耳にすることがなかったが、第1楽章から懐かしい聴きなれたメロディでクラリネット、トランペット、ティンパニも加わって表現が広がっていて観ていて興味が深まった。明るく快活な調べが華やかなフィナーレとなる。
ウィーンの伝統的なスタイルを継承する正統派ピアニストとして、ベートーヴェンの他にブラームス、シューベルトも聴く機会が増えるだろう。

Christian Thielemannは歌劇場のコレぺティトゥーアの修業を積んで指揮者として大成した異色の経歴を持つ。ベルリン・ドイツ・オペラの音楽総監督(1997-2004)、ミュンヘン・フィル音楽監督(2004-11)、2012年からシュターカペレ・ドレスデン首席指揮者。この世界最古のオーケストラは創設が1548年。ドレスデン国立歌劇場の専属オーケストラでKitaraに2000年、02年の2回来演している。
ティーレマンはPMF1993年の来日後、テンシュテットの代役でシカゴ響、カルロス・クライバーの代役“ばらの騎士”でMETデビューと世界の脚光を浴びた。その後はウィーン・フィル、ベルリン・フィルに定期的に出演。バイロイト音楽祭でも事実上の音楽監督としての活躍。2013年ザルツブルク復活祭音楽祭芸術監督に就任(*カラヤン創設の音楽祭はベルリン・フィル音楽監督が芸術監督を務めるのが慣例であった)。とにかく彼は世界最高の指揮者の一人と言える活躍ぶりである。

12月10日のブルックナーのミサ曲に続いての「第7番」。これまでベルリン・フィルとは4番、8番を指揮しており交響曲としては3回目の共演。70分の大曲。ベートーヴェンとワーグナーの要素を備えながら独自の世界を切り開いた音楽のように思えるが、正直に言ってブルックナー(1824-96)の偉大さがよくは判っていない。第4番「ロマンティック」は聴く回数も増えて、2015年12月札響定期で聴いたポンマー指揮の第4番は解りやすく聴けた。作曲家がオルガニストであった雰囲気の響きもあった。
「第7番」は「第4番」とともにブルックナーの交響曲の中では比較的に理解しやすい曲。1884年ライプツィヒでの初演が大成功を収め、彼の作曲家としての評価が高まった。ワーグナーのようなオーケストレーション、オルガン的な重層和声など晩年の巨大で深遠な第8番や第9番に繋がったと考えられている。木管、特にテューバを含む金管楽器の響きに迫力があった。指揮者とオーケストラが真剣に対峙して曲に取り組む様子も伝わった。ティーレマンとオーケストラ全員の集中力と高度な演奏技術が上手くかみ合っているように思われた。
聴衆の集中度の高さは演奏終了後の余韻がおさまるまで拍手のフライイングがなかったことにも表れていた。拍手・大歓声で何度かのカーテンコールがあり、楽団員全員がステージを下りたあとも絶え間なく拍手が続いて、ティーレマンがステージに出てくるのを見て観客の満足度が推し量れた。

中継では様々な楽器演奏者の姿を映していた。日本人の第1ヴァイオリン町田琴和の姿もあった。ヴィオラ首席の清水直子、第2ヴァイオリンのイレーネ・イトウもベルリン・フィルのメンバーである。

演奏終了後のドイツ語のインタヴューが英訳されていた。ブルックナー・シリーズで指揮者としての名声を高めたギュンター・ヴァントの助言を引用して、ブルックナーを演奏するには別人格の人間になる必要があると語っていたのが特に印象に残った。

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“観て聴く”デジタル・コンサートホール

2008年にスタートしたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の《デジタル・コンサートホール》を定期的に聴く環境が整った。札幌コンサートホールがオープンしてから20年ほどになり、Kitaraにも1000回ぐらいは通った。Kitaraホールの魅力は失せることはないが、コンサートに通うのが身体的にも経済的にもいつまでも続ける状況にあるわけではない。
Kitaraがオープンした当初は世界の有名な指揮者、オーケストラが次々と来札したが、現在は当時とは比べ物にならない。観て聴きたい音楽家の来札が少なくなったのは止むを得ない。最近の話題の音楽家の演奏を“観て聴く”のにはベルリン・フィルのデジタル・コンサートは非常に魅力的である。

昨年12月に取りあえず1年間有効のチケットを149ユーロで購入した。ベルリン・フィルの年間50回ほどの演奏会がほぼ毎週中継される。画質はハイヴィジョンで音声はCD並みで、高品質のヘッドフォンで聴くと素晴らしい。巨匠だけでなく世界で話題の若手指揮者との共演も聴ける。生中継は真夜中で観ることはしないだろうが、数日後にはアーカイヴで観れる。400本以上がアーカイヴ・コーナーからアップでき、カラヤン時代の映像も相当数ある。月額にすると1500円程度は決して高くない。継続的に観ると極めて安くつく。英語版だけかと思っていたが解説が日本語化されている。

暮れの29日に早速、観てみた。先月3日の演奏会の模様をアーカイヴでアップした。指揮/アラン・ギルバート、ヴァイオリン/フランク・ペーター・ツィンマーマン。プログラムは「ジョン・アダムズ:Short Ride in a Fast Machine、管弦楽のためのロラパルーザ」、「バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番」、「チャイコフスキー:交響曲第4番」。
ギルバートは現在ニューヨーク・フィル音楽監督。母は日本人で日本での音楽活動も顕著な指導者。2004年にストックホルム・フィル(*ノーベル賞授賞式のオーケストラとして知られる。)を率いてKitaraに登場した。
ツィンマーマンはドイツを代表する正統派のヴァイオリニストでKitaraにも2回登場した(99年、05年)。05年にはブロムシュテット指揮ライプティヒ・ゲヴァントハウス管と共演した曲が今回と同じと知った。偶然とはいえビックリしたが、今や世界の巨匠として重厚で深みのある演奏に心を揺さぶられた。
今までにKitaraで聴いたことのある音楽家を身近に感じれるのもデジタルコンサートの楽しみである。
ジョン・アダムズはアメリカの現代作曲家で今シーズンのベルリン・フィルのコンポーザー・イン・レジデンス。5分から8分程度の現代曲が2曲取り上げられた。スポーツカーに乗った印象が金管楽器や打楽器を多用して綴られた。オーケストラのための作品でもファゴット、ピッコロ、ホルン、打楽器などの演奏を通してリズム感のある現代音楽の面白さが生き生きと伝わった。ここでもPMFで活躍するティンパニ奏者のゼーガスを見れて良かった。

正月の3日は早朝からラトルのベートーヴェン・ツィクルス第4弾(2015年10月15日)のアーカイヴ。「第4番」と「第7番」。暮れのドキュメンタリー番組でラトル&ベルリン・フィルのベートーヴェン・シリーズの新たな取り組みを聴いた後での視聴だったので新鮮な気分で聴いた。
「第4番」は生き生きとして陽気でこの上ない優しさが横溢した曲。「第7番」は勝利の高揚感に満ちた第1楽章に始まり、全楽章を通してリズム感が途切れなく新鮮な曲として聴けた。フルートのパユ、オーボエのマイヤーは何回見てもその演奏姿に見入ってしまう。今回のティンパニ奏者はヴェルツェルのようだった。ドキュメンタリー番組でインタヴューを受けて演奏への取り組み方を語っていたので印象に残っていた。顔の知らないメンバーを覚えていくのもそう遠くはないだろう。

3日の午後は12月10日ライヴのコンサート。指揮はクリスティアン・ティーレマン。ヴァイオリニストはギドン・クレーメル。他に独唱者4名とベルリン放送合唱団。曲目は「グバイドゥーリナ:ヴァイオリン協奏曲“今この時の中で”」、「ブルックナー:ミサ曲第3番」。
現在における世界最高の指揮者の一人ティーレマンの名声を知って20年にもならない。彼はPMF1993年に来札してサンタチェチーリア国立アカデミー管を指揮していた。同年にはエッシェンバッハ指揮同管の演奏会に行っていた。エッシェンバッハはその後も聴く機会の数多い指揮者だが、ティーレマンはその当時は34歳の若手でボローニャ・コムナーレ劇場首席客演指揮者で、21世紀に入って頭角を現した。札幌での彼の演奏会を聴くチャンスを逃したのは今でも残念でたまらない。
クレーメルは01年に彼の室内管弦楽団クレメラータ・バルティカを率いてKitaraに登場し、14年にもオーケストラのソリストとして来札した。今回のベルリン・フィル登場は約10年ぶりだそうである。1981年にはソ連の女性作曲家グバイドゥーリナから献呈されたヴァイオリン協奏曲“オッフェルトリウム”を初演したという。当時はソ連の作曲家協会が彼女の作品を拒否したため国内では無名であったらしい。この作品が西側で反響を呼び起こしてから25年後、彼女は「ヴァイオリン協奏曲第2番」を作曲してアンネ=ゾフィ・ムターに献呈した(2007年)。ソロ・ヴァイオリンの冒頭部分でB-A-C-Hの半音階を奏でるというからバッハを意識しての作品なのだろう。フルート、クラリネット、ハープ、チェレスタ、打楽器に加え4人のソロ・ヴィオラも入る曲は変化があって興味深い。ヴァイオリンの日々ア独特で人々の苦悩の叫びにも聞こえる。旧ソ連を出て現在ドイツに住む作曲家の名は7・8年前から耳にしていた。
演奏前の英語でのインタヴューでクレーメルは彼女にヴァイオリン曲を書くように勧めていたが、すっかり忘れてしまっていたと述べた。推測だが作曲家は結果的にこの作品をムターに捧げることになったのかも知れない。その後は作曲家との交流も続いて今作品はクレメータ・バルティカをはじめとして演奏会で何回も取り上げているという。ベルリン・フィルのオーケストラとは一味は違うのかもしれないと思った。インタヴューでクレーメルらしい主張をしていた。それぞれの演奏家によって表現の仕方が違う演奏を同じような角度から言及されることへの反骨心は彼の書物で知る人物像と重なった。今年で70歳を迎えるクレーメルが来札する機会も再びありそうである。とにかく初めて聴いた作品はとても印象に残った。

ブルックナーの曲にはあまり親しんでいなくて、ましてや「ミサ曲」は初めて聴いてみた。70分の大作。ベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」などミサ曲はヨーロッパの教会音楽で親しむのは容易ではない。荘重な音楽でティーレマンはブルックナーを得意としているらしい。1959年生まれでルイジ、メスト、パーヴォ、ガッテイとほぼ同年代の中堅。さすが若々しく堂々たる指揮ぶりでベルリン・フィルも熱演。
ティーレマンの特徴を味わうには聴きなれた交響曲を何曲か聴いてからになるだろう。

年末年始は聴きたいライヴのコンサートがないことで、かなりの時間が空いた。つい、普段は書かないことも長々と書き綴った。
プロフィール

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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