松竹歌舞伎特別公演 『安宅・勧進帳』(市川海老蔵&中村獅童)

日本の古典芸能・歌舞伎を初めて観たのは50年前、1966年7月米国留学直前の歌舞伎座だった。演目の記憶も全然ない。海外に行く前に日本の伝統芸能に触れてみたいと単純に思って鑑賞したのかもしれない。
この5年程を振り返ると、2011年松竹花形歌舞伎で「瞼の母」、「お祭り」を中村獅童、片岡秀太郎主演で、2013年松竹大歌舞伎で「義経千本桜」を尾上菊五郎、中村時蔵、尾上松緑、尾上菊之助などの出演で鑑賞した。シネマ歌舞伎では坂東玉三郎&市川海老蔵主演の「海神別荘」、坂東玉三郎&中村獅童主演の「高野聖」なども鑑賞した。

若手の歌舞伎役者として市川海老蔵は歌舞伎の範囲を超えて幅広い活動を積極的に展開している。昨年3月の〈邦楽と洋楽のコラボレーションとしての舞台劇《源氏物語》は画期的な試みであった。

今回の〈秋の特別公演〉は本格的な歌舞伎の古典的な演目。ここ2年ほど歌舞伎は観ていないが、海老蔵の大ファンで彼のブログを数年前から毎日チェックしている妻の都合に合わせて札幌3日間4公演の初日のチケットを購入してあった。ホール入り口に「当日券なし。前売り券完売」の張り紙があって、入場時から活気がみなぎっていた。

2016年10月21日(金) 18:30開演  〔会場〕ニトリ文化ホール

秋の特別公演 古典への誘い(いざない)

一、能楽・舞囃子 『安宅』 (あたか)
ニ、歌舞伎・十八番の内 『勧進帳』 (かんじんちょう)

義経、弁慶の伝説を基にした〔能〕の「安宅」と〔歌舞伎〕の「勧進帳」という2つの名作。この2つの作品は、源頼朝に追われ奥州へ下向する源義経一行が安宅の関で咎められるが武蔵坊弁慶の機転によって難を逃れるという同じストーリーを題材としている。
(*安宅は現在の石川県小松市にあたる地名)。

能「安宅」は今から550年ほど前の作で上演時間が3時間もかかる大作だそうである。「舞囃子」(まいばやし)は能のいわば“サワリ”のところを囃子つきで部分的に演ずる形式。(*囃子は楽器を演奏する役)。物語の一場面。何とか関を通過した一行の元へ関守が非礼を詫びるために酒をふるまい、弁慶が舞を披露する作品のクライマックス。装束などは着けずに紋付袴姿での15分ほどの舞。能面を着けない珍しいステージは普段の能のイメージとは違うが能の多面性を感じた。

能は300年ほど前に歌舞伎に脚色されて「勧進帳」の物語として親しまれるようになったという。本作品は1840年、能の「安宅」を題材とした長唄の舞踊劇。「勧進帳」を初演した7世市川團十郎の時代から市川團十郎家の《歌舞伎十八番》とされている。安宅の関の場面はよく知られているが“荒事”と言われる演技は観ていて一番心が動いた。歌舞伎役者が簡単にできる業ではないように思った。非常に見ごたえのある演技で海老蔵の熱演が光った。関守・富樫役の中村獅童も好演だった。全体を通して緊張感ある見どころのある出し物。久しぶりの観劇で大まかな筋しか頭になかったが1時間余りの歌舞伎の醍醐味を楽しんだ。後でプログラムの解説を読んで詳しい話を読み取ることになった。事前に学習しておけばもっと理解が深まったと思う。
 
国内9都市27公演にもなる10月の巡業日程は役者にとって非常にきついと思う。来週の東京・浅草公演が千穐楽で無事に終ってほしい。当代随一の歌舞伎役者として成長している市川海老蔵の今後益々の活躍を祈りたい。





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市川海老蔵特別公演 源氏物語 (邦楽と洋楽のコラボレーションの舞台劇)

コンサート鑑賞がしばらく無かったので、先日のブログの話題は本年度のアカデミー賞候補の映画にしてみた。当日のクラシックの記事ランキング部門で第1位に載っていてビックリ仰天。音楽記事ではないから該当しないと思っていた。私のブログは固定した購読者が殆どいないはずなので基準が判らない。ブログ全体のランキングがあるのは判っていたが、各記事にランキングがあるのは1ヶ月ほど前に気付いたばかりである。
以前は全然気にしていなかったが、気付くと正直言って全く気にならないわけではない。

私の妻は市川海老蔵フアンで彼のブログを毎日読んでいるようである。本日の公演も彼女を通して何ヶ月も前からチケットを手に入れていた。

市川海老蔵は今や歌舞伎界の中心人物であるが、まだ彼の歌舞伎の実演は観たことが無い。2003年NHK大河ドラマ「武蔵」での宮本武蔵役は彼が25歳ごろの作品。この頃、11代目市川海老蔵襲名披露フランス公演があったと思う。07年パリ・オペラ座で父の団十郎と共に行った初の歌舞伎公演は話題を呼んだ。
映画では11年「一命」、13年「利休にたずねよ」で主演。2014年の日本アカデミー賞では利休の演技で優秀主演男優賞を獲得。ドラマや映画界での活躍も目覚ましい。
シネマ歌舞伎では12年1月と2月に泉鏡花の戯曲による「天主物語」と「海神別荘」を坂東玉三郎と共演。凛々しい演技を披露した。「海神別荘」は今秋再上映される予定という。

紫式部の「源氏物語」は原文、口語訳は良く知られているが、全物語を読破するのは大変である。私自身はそれほどの興味・関心は無かったので全ての物語を詳細に知っているわけではない。
但し、昔から何度も映画化されたりして何回か観たことがある。02年「千年の恋 ひかる源氏物語(出演:吉永小百合、天海祐希)、つい最近では11年「源氏物語 千年の謎」(出演:生田斗馬、中谷美紀、東山紀之)が記憶に新しい。

海老蔵は2000年、歌舞伎座で「源氏物語」の光君を演じている。

14年4月、海老蔵は日本の伝統芸能の歌舞伎、能をオペラと融合させた幻想的な舞台を「源氏物語」という日本の代表的な作品を通して創作した公演を京都南座で成功させた。
この公演が大評判となって今年の全国公演に繋がったようである。

札幌公演は2015年3月25日(水) 昼夜2公演。夜の部を鑑賞。於:ニトリ文化ホール。

紫式部の全54巻に亘る物語は余りにも長大なので物語の一部を切り取って上演されるのが常である。
最初の舞台は石山寺の一室で作者である紫式部の登場で始まる。(*この場面は25年ほど前に修学旅行の引率の折に訪れたことがあり、歴史的に由緒ある場所である。)彼女の語りでストーリーが始まる。全2幕。
 
第1幕 冬の巻 雪の石山寺、     春の巻 宮中桜の巻
第2幕 夏の巻 夕顔の咲く頃     秋の巻 光と影の間

今回の舞台劇は海老蔵の新企画で歌舞伎を広める諸活動の一環で若者にも広く歌舞伎に親しんでもらうための新しい試み。日本の古典芸能である《歌舞伎・能》と西欧の《オペラ》をコラボレーションするという大胆な企画。

カウンターテナー歌手の歌声が厳かに響き渡って、更に物語が展開する。洋楽器(リコーダー、リュート、ヴィオラ・ダ・ガンバ)と和楽器(三味線、小太鼓)の音色がオーケストラの響きで静かなBMG.。舞台では満開の桜の下で宴が催される中で光源氏は父桐壷帝の妻の藤壺に亡き母の面影を探し求めて女性の間を彷徨う。その後、夕顔と巡り合うが嫉妬に燃える六条御息所(能楽師)の生霊が現れ紅葉の中で夕顔は嬲り殺される。周囲から“光の君”ともてはやされても、常にさびしい孤独感に陥っている光源氏。

六条御息所の恋慕の情と嫉妬の情が能面で対照的に演じられるのも歌舞伎に取り入れた新しい手法で興味津々。

光源氏は“光”ではなく“影”の中に身を置いてしまう。自分の生き方を問う光源氏に紫式部は「自分の信じる道を歩みなさい」と告げる。

衣装が豪華で、舞も美しく、舞台美術も優れていて、能の持つ幽玄さも表現されていた舞台。カウンターテナーやソプラノが原語で歌う歌唱も違和感なく歌舞伎・能の世界に融けこんていたように思えた。

人気の海老蔵の来演で満席の会場には歓迎ムードが漂っていた。闇夜の場面で光の君と夕顔がステージを降りてホールの通路を利用する様には観客も大喜び。歌舞伎だけでは集まらない観客も押し寄せて大人気の催し物となった。緞帳のあるホールで久しぶりの鑑賞だったが、カーテンコールが3回もあった。家路に着く年輩客の満足げな表情と興奮さめやらぬ若者のはしゃぎぶりが対照的であった。

2月28日の名古屋に始まり4月9日東京オーチャードホールの千穐楽まで全国18カ所、25日間、1日2公演を含む全43公演は正に驚異的な公演スケジュール。全国のファンの期待に応えてのスケジュールであると思うが、くれぐれも健康に留意して無事に全公演を終えることを祈りたい。歌舞伎専用の舞台が出来て、安い料金で鑑賞できる日が来ることを期待したい。


シネマ歌舞伎 「ヤマトタケル」

シネマ歌舞伎は坂東玉三郎主演の泉鏡花の作品「海神別荘」、「高野聖」を観たことがある。
4代目市川猿之助の襲名披露(?)の演目「ヤマトタケル」が今回シネマ歌舞伎として上映された。スーパー歌舞伎は3代目市川猿之助が1986年に始めて、当時は大変な話題を集めた。古典芸能としての歌舞伎が現代風歌舞伎に仕上げられた。言葉が日常使われる日本語なので解りやすいのが特徴。演出も現代風。今迄になかった新しい歌舞伎は日本だけでなく海外でも上演された。

「ヤマトタケル」は《新橋演舞場》で上演されたが、舞台での役の入れ替わりや、最後に鳥になって大空を駆け巡り、雲の中に消えていく場面は圧巻であった。
脚本は梅原猛。演出は蜷川幸雄。大和の国の双子の皇子役は市川猿之助、父帝役が市川中車。猿之助は市川亀治郎として多方面で活躍し、中車は香川照之として長い期間に亘って俳優として活躍している。
梅原猛は日本を代表する哲学者として有名であるが、この歌舞伎の脚本家とは意外であった。猿之助は蜷川演出によるシェクスピア劇「ヴェニスの商人」のシャイロック役で、香川照之は連続テレビドラマ「半沢直樹」で大喝采を受けており、今後の活躍がますます注目される。

古典芸能 ~ 文楽セミナー

 日本の伝統古典芸能である文楽、歌舞伎、能・狂言などを鑑賞する機会はそれほど多くないが、年に一・二度はどれかを鑑賞している。近年では2011年7月に「バイリンガル狂言」、9月に「狂言師、野村万作の世界」で狂言の面白さを味わった。12年7月には歌舞伎「義経千本桜」を鑑賞した。

 今日は今まで何回か鑑賞しているとはいえ「文楽」を初歩から学び直す気持ちで、≪文楽セミナー≫に参加した。毎年のように鑑賞していないと、何となく漠然と観ていることになりかねない。
 
 ここ札幌では伝統古典芸能の上演会場は札幌市教育文化会館であることが多い。このホールには能舞台や歌舞伎の花道などの本格的な舞台機能が備えられている。09年10月、人形浄瑠璃文楽「三十三間堂棟由来」と「本朝廿四考」が上演された。4年も経つと、演目だけでは当時の舞台が思い浮かんでこない。昨年の歌舞伎では尾上菊五郎・松緑・菊之助などの役者の演技と共に、荒事や所作などをはじめ、狐言葉や早替りなどの舞台での趣向も眼前に浮かんでくるのだが、、、。

 文楽セミナー ~分かればきっと面白い文楽の世界

第1部 「文楽のおはなし」講師 河内厚郎(兵庫県立芸術文化センター特別参与)
 「文楽」の語源は17世紀に演芸小屋を建てて興行した植村文楽軒という人の名に由来。
 男性によって演じられ、太夫・三味線・人形遣いの三業で成り立つ演芸。1734年から一つの人形を3人で操るのが普通になったが、これは近松門左衛門の活躍に符合するという。1740~60年代に文楽は歌舞伎と共に庶民の人気のある娯楽となった。
 作品は時代物と世話物の二種類に大きく分類されるが、歌舞伎に翻案されていて、同名の出し物が多い。
 北海道の開拓史に大きな足跡を残した高田屋嘉兵衛はロシア船に連行されカムチャッカへ渡った折、浄瑠璃本の「曽根崎心中」を携えていたという。大阪の人形浄瑠璃の台本が北国でも流布していたのは、浄瑠璃言葉が江戸時代の共通語だったという話は特に興味深かった。
 20分の講演時間がアッという間と思えるぐらいに過ぎ、ユーモアを交えた面白い話だった。

第2部 人形浄瑠璃文楽座による三業の解説と体験ワークショップ
 出演 〈太夫〉竹本相子大夫、 〈三味線〉竹澤團吾、 〈人形〉吉田和生 
3名による詳しい演技内容の説明と超満員の観客を巻き込んでの義太夫体験、数名の客がステージに上がっての三味線、人形遣いの体験は少々時間を要したが、当人たちにとっては得難い体験。

第3部 「伊達娘恋緋鹿子」より ≪火の見櫓の段≫
 出演 〈太夫〉竹本相子大夫、 〈三味線〉竹澤團吾
    〈人形〉吉田和生、吉田玉佳、吉田玉翔、吉田和馬
 10分程度の出し物であったが、舞台装置も見ごたえがあり、火の見櫓に登る場面は難しい演技に迫力があって、流石プロ。

 文楽は歌舞伎や能・狂言のように世襲制は成立しない伝統芸能。歌舞伎のような華やかさは無いが、奥深いものがある。日本の伝統芸能として一般国民がもっと親しめる実演の機会が増えることを期待したい。 
 


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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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