タリス・スコラーズ~モンティヴェルディ生誕450年記念~

コンサート鑑賞前に毎年開催される大学のゼミ仲間の会合が入っていた。道庁前のホテルで会食2時間の予定を途中で切り上げて地下鉄に乗り継いで急いで会場に駆け付けたがコンサート開始時間の直前に飛び込んだ感じになってしまった。レセプショニストにはお世話をおかけした。

世界最高のア・カペラ合唱団と言われる《タリス・スコラーズ》は前回はKitaraリニューアル・オープン記念として開催され4ヶ月の休館後の最初のコンサート(2015年4月17日)で特別な印象が残る合唱団でもあった。2年ぶいとなるが、同合唱団にとっては3度目のKitaraのステージ。
指揮はピーター・フィリップス(Peter Phillips)。1973年にフィリップスが創立し。年間70回の演奏を教会やコンサートで行っている。今回が16度目の来日。来日メンバーの歌手は前回同様10名。ソプラノ4名、アルト2名、テノール2名、バス2名。(*メンバー5人は前回とは違うメンバー)

今回の公演は《モンティヴェルデイ生誕450年記念》と銘打って開催された。
モンティヴェルディ(1567-1643)はルネサンス音楽とバロック音楽の過渡期にあたるイタリアの作曲家。ヴェネツィア音楽の最も華やかな時代を作り上げた。音楽の様式に変革をもたらした改革者とされる。オペラの最初期の作品「オルフェオ」で知られる。

2017年6月6日(火) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
 〈Program〉
  タリス:ミサ曲 “おさなごわれらに生まれ”(約25分)
  バード:“めでたし、真実なる御体”(約4分)、 “義人らの魂は”(約3分)、
       “聖所にて至高なる主を賛美もて祝え”(約6分)
  アレグリ:ミゼレーレ(約12分)
  モンティヴェルディ:無伴奏による4声のミサ(約22分)
  パレストリーナ:“しもべらよ、主をたたえよ”(約7分)

タリス(1505頃ー85)はヘンリ8世、エドワード6世、メアリ1世、エリザベス1世と4人の英国王に仕えて活動した。王室礼拝堂のために多くの教会音楽を書いた。この曲はメアリ1世時代の1554年作曲とみられる7声のミサ曲。
※この合唱団の名はこの作曲家に由来して正式名は“THE TALLIS SCHOLARS”.。

バード(1540頃ー1623)は1572年から女王エリザベス1世に仕えて王室礼拝堂の音楽家として活躍し、英語による教会音楽も書いたが、終生カトリックの信仰を持ち続けて伝統的なラテン語による教会音楽を数多く残した。
3曲共にラテン語で書かれた4声か5声のモテトゥス。今回初めて耳にした作曲家名。

ピアノ伴奏なしで聴く「ア・カペラ」は声の美しさが直接に伝わるので何とも心に染み入リ安らぎを覚えた。

プログラム前半はルネサンス時代に活躍したイングランドの2人の作曲家の宗教曲だったが、プログラム後半はルネサンス時代からバロック時代にかけてのイタリアの3人作曲家の宗教曲が歌われた。

アレグリ(1582-1652)は初期バロック時代のローマを代表する作曲家。《ミゼレーレ》はラテン語で「憐れみたまえ」という意味で、伝統的な手法で書かれたアレグリの代表作といわれ、5声合唱と4声合唱が交互に歌い合う2重合唱の形による9声曲。ステージに5名、オルガン演奏台前に1名(カウンターテナー、3階客席最後部に4名の歌手の配置。
合唱の掛け合いが面白くカウンター・テナーと後方から響き渡るソプラノの高音の歌声が素晴らしく特に心地良かった。前回はRA席で歌手全員の姿を見れたが、今回は真正面から声が聴きとれるように1階席にしたので、歌手の姿は退場の際に3階出口で確認できただけであった。ホールに響き渡るソプラノの歌声に魅了されて歌唱中に何度か3階後方を見渡す人もいたが、姿までは見えなかったようである。
タリス・スコラーズも何度も取り上げている代表曲で何度聴いても圧倒的で魅力的なア・カペラである。先月の札響定期でラトヴィア放送合唱団の「夕映えのなかで~マーラーのアダージェット」も絶品だったが、世界的な合唱団の無伴奏による合唱曲を続けて堪能できたのは幸運である。

モンテヴェルデイの名は知っていたが、教会音楽に関する知識は皆無である。彼が書いたオペラの方に関心がある。「音楽の友」6月号に彼のオペラ「ウリッセの帰還」について書かれた記事があった。モーツァルトの「イドメネオ」の父と子の再会は「ウリッセ」の父と子の再会と似ている。オペラの原型を作った音楽家とオペラの伝統を引き継いだ音楽家の話が繋がるような記事を読んで興味を覚えたのである。

パレストリーナ(1525頃ー94)は16世紀後半の最も重要な作曲家のひとり。教皇庁をはじめローマ各地で活動し、様々な種類の教会音楽を書き残した。前回は「教皇マルチェルスのミサ曲」が演奏された。

ローマ教皇庁聖歌隊のために書かれた《ミゼーレ》は教皇庁システィナ礼拝堂以外では演奏できない門外不出の秘曲とされてきた。14歳のモーツァルトが教皇庁でこの曲を聴いた後に記憶だけで楽譜に書き記したというエピソードでも名高い曲。1994年、システィナ礼拝堂の大修復が終わったことを記念するコンサートでタリス・スコラーズがこの曲を演奏しているという。私も2000年8月に訪れたバチカン市国にあるシスティナ礼拝堂のミケランジェロが書いた有名な天井画を思い出して再び曲の重みを感じた。
演奏曲は全体的に良かったが、何といっても《ミゼーレ》が断然素晴らしかった。

アンコール曲はモンティヴェルディの曲を含む2曲。演奏終了後にスタンディング・オヴェイションをする人があちこちで目立つほど聴衆に無伴奏合唱の素晴らしさが伝わった。ホワイエでCDを買い求めてサイン会に並ぶ人の多さにも演奏会に感動した人々の様子が見て取れた。

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森 麻季 ソプラノ・リサイタル

森麻季ソプラノ・リサイタルをKitaraで初めて聴いたのが2007年11月。森麻季はプラシド・ドミンゴ世界オペラコンテストのソプラノ部門で上位入賞を飾って類まれなコロラトゥラの美声と華やな容姿で一気に世界の注目を集めた。ドミンゴ、アラーニャなど一流オペラ歌手と共演。オペラ、オラトリオ、リートの分野で数多くの国際コンクール受賞を重ね日本の代表的なソプラノ歌手として確固とした地位を築いた。

待望のKitara初登場から10年近くが経って彼女のリサイタルを聴きたいと思っていた。今回はKitaraコンサート会場でチラシの案内は無く、“Kitara News”で「森麻季ソプラノ・リサイタル」公演を知った。〈札幌友の会〉主催の音楽会だったので前回より低料金で聴けた。(*《友の会》は羽仁もと子が創刊した雑誌「婦人乃友」の愛読者によって昭和5年に創立され全国各地に生まれた団体)。組織がしかっりしているので内部広報が中心で外部での宣伝活動は余り行なわないで公演が開催された。

2016年9月6日(金) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
 
 札幌友の会 大人の音楽会
    森麻季 ソプラノ・リサイタル 
      ~愛と平和への祈りを込めて~    ピアノ/ 山岸茂人

《Program》
 菅野よう子:“花は咲く” ~NHK「明日へ」 東日本大震災復興支援ソング
 久石 譲:“Stand Alone” NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」メインテーマ
    〈ピアノソロ〉 シューベルト=リスト:「万霊節の祈禱」 
 モーツアルト:『レクイエム』より  「涙の日」
 ヴェルディ:『レクイエム』より  「涙の日」
 フォーレ:『レクイエム』より  「ピエ・イエス」   
    〈ピアノソロ〉 ドビュッシー:《映像第2集》より “葉末を渡る鐘の音”
 ヴェルディ:『レクイエム』より  「その日こそ怒りの日、災いの日、大いなる悲願の日~主よ、永遠の休息を彼らに与えたまえ~天地が震い動くその日、主よ、かの恐ろしい日に我を永遠の死から解放したまえ」

 べッリーニ:歌劇『清教徒』より  “ここであなたの優しい声が”
    〈ピアノソロ〉 ショパン:べッリーニの『清教徒』の行進曲による変奏曲
 べッリーニ:“激しい希求”、 “フィッレの悲しげな姿”、 “優雅な月よ”
 べッリーニ:歌劇『カプレーティ家とモンテッキ家』より “ああ、幾度か”
    〈ピアノソロ〉 ショパン:ノクターン第8番 変ニ長調 作品27-2
 べッリーニ:歌劇『夢遊病の女』より “あぁ、花よ、お前がこんなに早くしぼんでしまうなんて・・・”

開演20分前には会場に着いたがエントランスホールは入場中でも多くの客が列をなしていた。全席自由席なので1階席と2階正面CB席を求めて開場前から並んだ人々が予想以上に多いようだった。開演15分前には2階RA・LA以外はほぼ満席状態で1000名ぐらいは既に入場していた。5000円前後のコンサートが3000円で聴けると予想以上に客が集まる。(*今週末の大阪のコンサートは5000円。)

入場時に手渡されたプログラムは予想外だった。2部構成で前半は『レクイエム』、後半は『べッリーニ』。オペラのアリア、リート、日本の歌曲を予想していた。
始めにソプラノ歌手が台風で亡くなられた方々に哀悼の意を表し、被災者に見舞いの言葉を述べた。2011年の東日本大震災をはじめとする多くの災害に直面する社会で、彼女が《愛と平和への祈りをこめて》プログラミングをしたものと思われる。総花的な曲目にならずにポイントが絞られた演目になったのは評価できると思った。

「レクイエム」はそれほど好みでないので、普段は聴いていない。これらの作曲家の名高いレクイエムの曲はタイトルだけは知っている程度である。「モーツァルト:レクイエム」は今月の札響定期の演目になっているのでタイミングは良かった。
第1部のプログラムでの彼女の重量感のある衣装が豪華であった。曲の前にマイクを握って話す言葉がほとんど聴き取れないのが残念であった。

べッリーニ(1801-35)はロッシーニ、ドニゼッティと並ぶベルカント・オペラで有名なイタリアの作曲家。最大の傑作は「ノルマ」で「夢遊病の女」、「清教徒」、「カプレーティ家とモンテッキ家」なども良く知られた作品。彼のオペラをMETビューイングで一度は観てみたいと思っているのだが未だ機会は無い。「カプレーティ家とモンテッキ家」は藤原歌劇団によって今週末に東京で上演される。

べッリーニは長くてゆったりとして感情をこめて歌う旋律が多いと思った。透明感のある美しい歌声の連続で森麻季のコロラトゥラを駆使する歌唱の場面がなかったのが惜しまれた。第1曲『清教徒』での有名なアリアで聴かせる場面の歌の直後に“ブラボー”の力強い歓声が上がったが、“ブラヴァー”の方が相応しい場面だと個人的な感想を抱いた。いずれにせよ盛り上がりを見せたオペラ待望のアリアであった。

後半からRB席に移動していた。ショパンはべッリーニやロッシーニのオペラを観に足しげく劇場に通った話をピアニストがしてくれた。ショパンのピアノ曲も彼らの影響を受けたのだろうと思った。
山岸茂人(Shigeto Yamaginishi)は東京藝術大学卒業後、同大学院修了。声楽の伴奏者して活躍中。二期会イタリア研究会ピアニスト。
歌唱の合い間に入ったピア二ストの小品と彼のトーク。最小限の彼の話はハッキリ聴き取れて演奏とともに良かった。

1100名ほどの聴衆が集まったことで歌手も心をこめて全曲を歌い切ったが、ほっそりとした体形で十数曲も歌いこなすのはデビュー当時と違って大変なのだろうと思った。外国の歌手は男性・女性を問わず立派な体躯が必要とされているように思う。最後のアリアも名場面で素晴らしい演唱であったが、聴き慣れた曲でないと客の反応が十分でないのは止むを得ないところ。もちろん盛大な拍手がおくられた。

アンコール曲に①Rolf Lorland:You Raise Me Up.(*英語の曲で以前、ポップ歌手がアンコール曲に歌った。彼女の好きな曲でプラグラムには入れづらいので、アンコール曲として歌ったのかもと余計な想像をした。)
②グノー:歌劇『ロメオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」。森麻季が使い切った喉の調子を心配しながら歌い切った曲。コロラトゥラを駆使した高音域の見事な歌唱で本日Kitaraに詰め掛けた聴衆も大感激! 期待した大迫力の歌声が最後に聴けて聴衆の拍手喝采がしばらく鳴りやまなかった。








中村恵理ソプラノリサイタル

ヨーロッパを中心に世界の歌劇場で活躍を続けるソプラノ歌手、中村恵理がKitaraに初登場した。2008年より英国ロイヤル・オペラハウスに在籍して、ネトレプコの代役として「カプレーティ家とモンテッキ家」に出演する幸運を掴んで注目を集めた。10年以降、バイエルン国立歌劇場専属ソリストとして活躍中。

2016年6月2日(木) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

〈プログラム〉
 シューベルト:ガニュメート、ます、糸を紡ぐグレートヒェン 
 C.シューマン:私はあなたの眼の中に、彼は雨と嵐のなかをやってきた、
          美しさゆえに愛するのなら
 R.シューマン:子供の情景 Op.15より トロイメライ(ピアノ・ソロ)
 R.シュトラウス:献呈、 薔薇のリボン、 ツェツィーリェ
 小山作之助:夏は来ぬ
 中田喜直:すずしきうなじ、 霧とはなした
 プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より “私の大好きなお父さん“
 マスネ:歌劇「マノン」より “さようなら、私たちの小さなテーブルよ”
      歌劇「エロディア―ド」より “彼は優しい人”
 ヴェルデイ:歌劇「椿姫}より “ああ、そはかの人~花から花へ”

ドイツ・リート9曲、日本の歌曲3曲、オペラのアリア4曲。バラエティーに富んだ内容でバランスの良いプログラム。圧巻はオペラのアリアでヨーロッパの歌劇場専属歌手として活躍中の現役ソプラノ歌手の演唱を堪能した。

ドイツ・リートの中にピアノ五重奏曲に引用されたメロディがあって心地よく聴けた。ゲーテの「ファウスト」のグレートヒェンが歌う曲は歌のタイトルを知っていた程度。ピアニストとして有名だったクララ・シューマンがリュッケルトの詩につけた3曲の作品は新鮮に感じた。シューベルトは歌曲王と呼ばれ、R.シューマン、R.シュトラウスも歌曲をたくさん書いているが、ドイツ・リートの良さは簡単には解らないのが正直なところである。

愛の歌が多かったが、中村が短い時間で歌に気持ちを投入して大きく口を開けて歌う発声が印象に残った。ドイツ語で言葉が明確に伝わる基本を大切にしている様子が伝わった。

「夏は来ぬ」は懐かしい唱歌で1番の歌詞が自然と出てきた。作詞家の佐々木信綱の名は知っていたが、“日本音楽教育の母”と呼ばれる小山作之助(1864-1927)という作曲家の名は知らなかった。中田喜直(1923-2000)は名曲の数々で有名であるが、歌われた2曲は知らない曲だった。

オペラ歌手の歌声が存分に楽しめたのが最後のプログラムのアリア。プッチーニとヴェルデイの有名なアリアはCDやライヴで聴く機会もたまにあり親しんでいる歌。マスネの歌劇「エロディア―ド」は初めて耳にした。「マノン」は数年前のMETビューイングで観た。マノン役がネトレプコだったので、中村とネトレプコの繋がりを知って更に興味深く聴けた。世界のディーヴァと渡り合うだけの実力を身に着けている中村恵理を一層頼もしく感じた。

歌劇「椿姫」は実演などでも数回見ているが、外国の歌手に劣らぬ歌唱ぶりであった。ヴィオレッタが歌い上げるアリアをピアノ伴奏だけのステージでオーラを放ちながら堂々と演唱する姿には心を揺さぶられた。
(*ピアノの木下志寿子は新国立劇場ピアニスト、同劇場オペラ研究所講師などとして活躍中。)

中村恵理は生まれ持って恵まれた声の持ち主だが、ドイツ語・フランス語・イタリア語で歌い分けながら演ずる今日までの努力は並大抵のものではないと改めて思った。彼女のプロフィールに「2014年NHKニューイヤーオペラコンサート出演」とあったので、当時の自分のブログを読み返すと、彼女の名があった。この頃には日本でも彼女のオペラ歌手としての名声は高まっていたようである。

割れんばかりの盛大な拍手に応えて、アンコール曲」が2曲。「プッチーニ:歌劇「つばめ」より “ドレッタの美しい夢”」と「岡野貞一:おぼろ月夜」。


アンネ・ソフィー・フォン・オッタ―&カミラ・ティリング in リサイタル

スウェ-デンが生んだ稀代のディ―ヴァ、アンネ・ソフィー・フォン・オッタ―がKitaraのステージに初めて登場。同じスウェーデン出身の新鋭カミラ・ティリングも一緒のステージに立った。

20世紀最大の歌姫といえばマリア・カラス。1950・60年代、他に活躍した世界的女性歌手でテバルディ、シュヴァルツコップ、シミオナートなどの名前が思い浮かぶが、その後の時代ではフレーニ、グルベローヴァぐらいしか名が浮かんでこない。最近ではネトレプコ、バルトリ、フリットリ、フレミングはオペラで馴染みである。数年前に映画館で始まったMETビューイングのお蔭で何人かの歌手の名を知るようになったとはいえ、オペラ歌手の知識は余りない。
今回来札したフォン・オッターの名もそれまで聞いたこともなかった。Kitaraのステージに登場したコッソット、ペーターゼン、ロストなどのディ―ヴァも実際に素晴らしい歌声を耳にして彼女たちが偉大な歌手であることを実感した次第である。

2015年9月28日(月) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

アンネ・ソフィー・フォン・オッタ― and カミラ・ティリング in リサイタル

Anne Sofie von Otter(メゾ・ソプラノ)はスウェーデン生まれ。ロンドンのギルドホール音楽大学で学び、1983年バーゼル歌劇場でオペラ界デビュー。メトロポリタン歌劇場、ミラノ・スカラ座にも出演してキャリアを積み上げる。以後、世界一流のオーケストラや指揮者と共演。レパートリーは非常に広く、オペラのほか歌曲でもバロックから現代まで多彩な音楽を作り上げる世界最高峰のアーティストとして輝き続けている。来日は2006年以来、9年ぶり。

CamillaTilling(ソプラノ)はスウェ-デン生まれ。ロンドン王立音楽大学で学ぶ。1999年、ニューヨークでデビュー。2002年には英国ロイヤルオペラでデビュー。その後、メトロポリタン歌劇場、ミラノ・スカラ座、パリ・オペラ座などで活躍。ラトル指揮ベルリン・フィルはじめ世界的な指揮者・オーケストラとの共演も多い。

ピアノのジュリアス・ドレイク(Julius Drake)は室内楽の専門家として世界の主要コンサートホールで共演を重ねている。

〈PROGRAM〉
 メンデルスゾーン:挨拶 Op.63-3 (デュエット)
 リンドブラ―ド:夏の日(ティリング)、警告(オッタ―)、少女の朝の瞑想(デュエット)
 グリーグ:6つの歌 Op.48 (デュエット)
        「挨拶」、「いつの日か、わが想いよ」、「世のならい」、
        「秘密を守るナイチンゲール」、「薔薇の季節に」、「夢」
 シューベルト:ます D.550 (オッタ―), 夕映えの中で D.799 (オッタ―)
        シルビアに D.891 (オッタ―)、  若き修道女 D.828 (オッタ―)
 メンデルスゾーン:渡り鳥の別れの歌 Op.63-2 (デュエット)
           すずらんと花々 Op.63-6 (デュエット)
 マイアベーア:シシリエンヌ(ティリング)、 来たれ、愛する人よ(オッタ―)、
          美しい漁夫の娘(オッター)
 マスネ:喜び!(デュエット)
 フォーレ:黄金の涙 Op.72 (デュエット)
 R.シュトラウス:憩え、わが魂よ op.27-1 (オッタ―)、たそがれの夢op.29-1(ティリング)
         どうして秘密にしておけようか op.19-4 (オッタ―)、
         ひそやかな誘い op.27-3{ティリング)、明日!op.27-1 (オッタ―)
         ツェツィ-リエ op.27-2 (ティリング)

プログラムで歌の名を知っているのは「ます」だけ。ソロがフォン・オットーが10曲、ティリングが11曲、デュエットが6曲。全部で27曲。
ステージに登場した時からフォン・オッターはオーラを発していた。背が高く美しい容姿は優雅で気品に満ちていた。最初に発した歌声は何とも形容し難い美しさ。ティリングの声量豊かで表現力のある歌声も若さに満ち溢れていた。最初のデュエットにはスッカリ聴き惚れた。
プログラムが進むにつれて、歌詞は解らなくても歌声からドラマ性も伝わってきた。ソリストが歌い終わった後にピアノが静かに曲を閉じる場面も結構多かったが、聴衆のフライイングが無かったのも良かった。落ち着いた静かな雰囲気で聴衆は素晴らしいリサイタルを堪能した。
小ホールでの声楽の楽しさをたっぷり味わえたコンサートで出演者も大満足の様子だった。アンコール曲は3曲もあった。
①オッフェンバック:舟歌 (《ホフマン物語》より)
②ブラームス:姉妹 
③フンパーテイング:「夜には私は眠りに行きたい」(《ヘンゼルとグレーテル》より)
          

佐々木典子ソプラノ・リサイタル

ふきのとうホールのオープニングフェスティバルに参加するのも26日が最後の予定であった。26日に5階のエレベーターを降りたところで声をかけられた。Kitara Club会員でKitaraボランティアとしても活動している顔見知りの女性であった。31日で終了する六花亭のコンサートに来る予定があるかと訊かれたが、6回も通ったので今日が最終回だと告げると、チケットを無駄にしたくないので良ければ使ってほしいとの話であった。“喜んで”と答えると、妻の分も含めて2枚頂くことになった。彼女の手元には事情があってチケットが何枚かあったようで、無駄になることを気にしていた様子であった。コンサートの開催日も押し迫って音楽好きの人に譲ろうとしていたように思えた。断るのは簡単だったが、遠慮なく頂いた方が良いと判断した。声楽のコンサートで以前にソリストとしてその歌声を聴いたことのある歌手が出演するコンサートだった。

2015年7月30日(木) 開演時間 19:00

佐々木典子  R.シュトラウスを歌う

佐々木典子(Noriko Sasaki)は熊本県出身。武蔵野音楽大学を卒業後、モーツァルテウム芸術大学オペラ科を首席で修了。その後、ウィ-ン国立歌劇場オペラ研修所を経て、同歌劇場専属歌手(1986-91)として活躍。ウィ-ンを始めヨーロッパ各地の劇場に出演の他、マーラーやR.シュトラウスなどのコンサートにも数多く出演。帰国後は二期会などで活躍。特に、R.シュトラウスの作品で傑出した演唱で高い評価が定着。現在、東京藝術大学教授。東京二期会会員。

2009年2月、佐々木典子は天羽明恵の代役としてピアノの仲道郁代とデュオ・コンサートに出演した。その時の彼女の話で鮮明に記憶していることがある。指揮者やオーケストラと共演するピアニスト、ヴァイオリニストなどと違って、歌手の場合は公演契約時から代役が決まっているということである。世界中のどこでも同じ慣習であると伺った。
その後、彼女は12年5月の札響定期演奏会のプログラム「ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス」でソプラノのソリストとして出演していた。生で彼女の歌声を聴くのは今回が三度目になる。

野平一郎(Ichiro Nodaira) は1953年、東京生まれ。東京藝術大学、同大学院修士課程作曲家修了後、フランス政府給費留学生としてパリ国立高等音楽院で作曲とピアノ伴奏法を学ぶ。ソリストとして内外の著名オーケストラと共演し、室内楽奏者としても多くの演奏会に出演。間宮芳生や日本の作曲家の作品の世界初演、リゲティの「ピアノ協奏曲」の日本初演など多彩な活動で芸術選奨文部大臣賞など受賞も数多い。2005年より静岡音楽館AOI芸術監督。現在、東京藝術大学教授。
彼のピアノは今回が3回目。98年は渡辺玲子ヴァイオリン・リサイタルのピアノ伴奏を担当。08年は「メシアン生誕100年記念プログラム」で藤井一興との共演におけるピアノ連弾、2台ピアノでの演奏は記憶に残る演奏会だった。

Richard Strauss 歌曲の夕べ  R. Strauss Program

「夜」Die Nacht, op.10-3 作詞:H.v.ギルム
「万霊節」Allerseelen, op.10-8 作詞:H.v.ギルム
「思いの全ては」All mein Gedanken, op.21-1 作詞:F.ダーン
「私の心の王冠」Du meines Herzens Kronelein, op.21-2 作詞:F.ダーン
「矢車菊」Kornblumen, op.22-1 作詞:F.ダーン
「ばらの花冠」Das Rosenband, op.36-1 作詞:F.G.クロプシュトック
「ツェチーリエ」Cacilie, op.27-2 作詞:J.ハルト
「献呈」Zueignung, op.10-1 作詞:H.v.ギルム
「あすの朝」Morgen, op.27-4 作詞:J.H.マッケイ(独奏ヴァイオリン付き)

★歌劇《ばらの騎士》より 「元帥夫人のモノローグ
 Marschallin's Monologue from “Der Rosenkavalier”

★四つの最後の歌 Vier letzte Lieder
1.「春」 Fruhling 作詞:H.ヘッセ
2.「九月」 September 作詞:H.ヘッセ
3.「眠りゆくとき」 Beim Schlafengehen 作詞:H..ヘッセ
4.「夕映え」 Im Abendrot  作詞:J.v.アイヒェンドルフ

歌曲の分野ではシューベルトの曲は親しむ機会はあったが、シューマンやR.シュトラウス、ラフマニノフなどは多くの作品を作っていることは判っても聴く機会がない。それでもR.シュトラウスやマーラーの作品を最近は聴く機会がでてきた。
木の香りの漂う新しいホール。30年も寝かせていた乾燥材が使われているそうである。木の温もりも伝わってくるホールは何とも心地よい。

Richard Strauss(1864-1949)はシューベルトが作り上げた芸術歌曲を高度なドイツ歌曲に発展させた作曲家として知られる。彼は生涯を通して歌曲を作ったが、今回選ばれた曲目は彼の20代の若い頃の作品が主である。プログラムに載っている詩を演奏中に目を通すことも出来た。(プログラムをめくる音を立てる人は周囲にはいないのが幸いであった。読みやすい大きな字で書かれた歌詞とともに曲をより良く鑑賞できた)。自然やごく平凡な日常生活での出来事や恋心を何気なく描いている詩を選んでの曲つくり。

佐々木は8曲を一気に歌い上げた。1曲目からホールに響き渡る歌声に聴き惚れたが、歌手は聴衆の拍手が入る中断を好まずに8曲を通して歌った。歌手が歌に集中できる環境を用意してあげるのも聴衆の役割でないかと思った。誰一人歌手の邪魔をする人がいなかったのは好ましかった。拍手したくなる場面が何度かあったが、1曲ごとの拍手はプログラムによっては相応しくないと常々思っている。歌曲ではR.シュトラウスを得意として世界のホールで活躍してきた佐々木が格調高く、見事な演唱を繰り広げた。

8曲目の「献呈」が終って拍手大喝采。聴衆はそれまで抑えていた感情を大拍手で表現。野平一郎のピアノ伴奏も超一流だった。ピアノはベーゼンドルファー。(*ピアノは今までのコンサートでスタインウェイも使われていたが、ヤマハも用意されているのかなと余計なことも気になった。)

9曲目のヴァイオリン独奏はエーリッヒ・へーバルト(Erich Hobarth)。今回のオープニング・フェスティバルで「モザイク・カルテット」の一員として三夜に亘って出演の予定があったが今夜は特別出演。「モザイク・カルテット」はニコラウス・アーノンクールが主宰するウィ-ン・コンツェルトゥス・ムジクスのソリストやメンバー。古楽器による弦楽四重奏団では世界最高のひとつとされる。アーノンクール率いるウィ-ン・コンツェルトゥス・ムジクスは06年にKitaraで公演。へーバルトはこのオーケストラのコンサートマスターも務めている。彼を含むカルテットのメンバーも客席でコンサートを楽しんでいた。

後半はオペラ用の衣装で登場。《ばらの騎士》は1911年ドレスデンで上演されて大成功を収め、ウィ-ンからドレスデンまで特別列車が走ったというエピソードがあり、今日でも人気の演目。おそらく、佐々木はウィ-ン国立歌劇場を始め他の歌劇場で何度もステージに立ち演じたと思われる役の曲だったのではないかと思った。

「四つの最後の歌」はR.シュトラウスの死の前年1948年に書かれた曲で演奏会での演目になることが多い。以前、生で日本人歌手でも森麻季、昨年はテレビで藤村実穂子の歌声を聴いた。(昨年3月、藤村がKitaraでリサイタルを開いてR.シュトラウスを歌った。)ソプラノ、メゾ・ソプラノで声の種類が何通りかあるようで、詳しくは判らない。同じソプラノでも、イタリアものが似合う歌手、ドイツものが似合う歌手がいるような気がする。佐々木典子はどちらかと言えば重厚なドイツものに向いている感じがした。 

全ての曲が終ってステージに再登場した時に、彼女は“アンコール曲は用意していない”と言ったが、盛大な拍手に応えて、前半で歌った「献呈」を想いを込めて熱唱した。

小ホールでも収容人数が200~500ぐらいのものまで様々であるが、「ふきのとうホール」は響きの良さ、交通の利便性、適正な収容人数などの観点から開催可能なコンサートも絞られるだろう。月2回程度の常設のコンサートが開催されるようである。しばらく聴いていない「天満敦子のリサイタル」(11月14日)は一応計画に入れてある。

今月は新設された「ふきのとうホール」で7回、Kitaraで7回と月14回のコンサート鑑賞は13年7月の13回を超える新記録であった。歩くのに支障が出たり、病院通いも続く状況で無事に7月も過ぎ去る。趣味が高じて道楽になった感が無いでもないが、いつまでも続くわけではない。ただ8月(5)、9月(8)、10月(8)、11月(5)、12月(3)のチケットは購入済みで数回は増える見込み。大きな病気をしないようにと願っている。予定が狂った時はそれまでと達観している。

 

ミニコンサート(by 中江早希)in Steinway Studio

旭川出身のソプラノ歌手、中江早希は昨年6月のオルガンサマーナイトコンサートで第16代札幌コンサートホール専属オルガニスト、オクタヴィアン・ソニエと共演した。 その時の彼女の歌声が素晴らしかったので、身近に感じれるホールで聴いてみようと思った。

ピアニスト新堀聡子と株式会社井関楽器の企画によるミニコンサートが二年半前に始まった。月一の企画で今回が30回目という。私が初めてスタインウェイスタジオでのミニコンサートに出かけたのが昨年2月の下司貴大(*現在イタリア留学中)のバリトンのコンサート。凄く近い距離で、音をすべて聞き取れるので迫力のある美声を楽しめた。2度目は先月のヴァイオリニスト鎌田泉のコンサートでサロン風な雰囲気で他のホールとは違った趣があるのが良かった。それに続いて今回が3度目である。

2015年3月29日(日) 14:00~14:45  井関楽器札幌3F スタインウェイスタジオ

中江早希(Nakae Saki)は旭川出身。今まで数々の音楽コンクールで入賞し、第12回中田喜直記念コンクールで大賞、第25回ハイメス音楽コンクール声楽部門で第1位、第11回東京音楽コンクール声楽部門第3位(1位なし)。現在、東京藝術大学大学院博士後期課程に在籍。東京芸大の各種コンサートで高関健や湯浅卓雄などと共演。オペラでの活躍が目立つ。東京・札幌・旭川でリサイタルや室内楽などでも活躍中で将来を嘱望される若手ソプラノ歌手。

[PRPGRAM]
すべてリヒャルト・シュトラウスの作品。
~香り漂う花の歌曲~
 ○バラのリボン  ○矢車菊  ○ポピー
~オペラチック歌曲~
 ○セレナード  ○言われたことは それでおしまいではない ○15ペニヒで ○アモール
 
◎4つの最後の歌
 1.春  2.九月  3.眠りにつこうとして 4.夕映えの中で

R,シュトラウス(1864-1949)はドイツの作曲家。交響詩の作品が多くて有名であるが、昨年は彼の生誕150周年に当って各地で演奏される機会が多かった。「家庭交響曲」「アルプス交響曲」などの交響曲も書いているが4楽章から成る伝統的な交響曲は知られていない。偉大な作曲家で、歌曲は160曲以上も作品を残している。「2つの歌」、「3つの歌」、「4つの歌」、「5つの歌」、「6つの歌」、「8つの歌」と一まとめにして数多くの作品を書いた。

プログラム最初のテーマは「花」。配布された〈ちょこっと解説〉によると、「矢車菊」は4月に咲く青い花。「ポピー」は夏に咲く花。花のカラー写真も載せられていた。
次はオペラ風の4曲。中江はオペラの曲が似合う。歌詞の日本語訳も見ながら聞いたが表情豊かな演唱で面白かった。
“Amor”は「愛」の歌。[ソプラノのための3つの賛歌]がオーケストラと独唱付きで1921年の作品にあるので、その3曲目かなと思った。(*帰宅して調べて判った。)
コロラトゥーラの技巧が愛の神様キューピットのケラケラ笑いや飛び回る様子などが描かれる。超絶技巧が駆使された曲。簡単に披露できる曲ではない、彼女ならではの曲。改めて素晴らしい声の持ち主だと感心するばかり。

[4つの最後の歌]はシュトラウスが亡くなる前の1948年の文字通り、「4つの最後の歌」。ヘルマン・ヘッセの詞に曲をつけた。私は歌曲は余り知らないし、シュトラウスの歌で聴いたことがあり、曲名を知っている唯一の歌。「4つの歌」をたくさん書いているので《最後》のと付いている理由が今回初めて判った。今まで森麻季や藤村実穂子の歌で聴いたことはあるが、タイトルは知っていてもメロディなどには親しんでいない。一流の歌手が歌う難曲だという認識はあった。オーケストラを伴う曲なので、歌い甲斐のある作品なのだろうと思う。

ピアニストの新堀聡子も大したもの。普通のピアノ伴奏とは訳が違う。オーケストラのパートをピアノで表現するのは大変だったと思う。井関楽器ピアノ講師としての仕事よりも大変だったのではないかと勝手に想像した。でも、これが彼女の成長にも繋がると素人ながら思った次第。

[4つの最後の歌]は大曲である。博士課程リサイタルの曲目だったかも知れないと最後にふと思った。中江の将来を見据えた通過点なのだろう。とにかく素晴らしい歌声が聴けて楽しかった。80席ほどのホールで歌声を聴くと臨場感が得れる利点がある。
アンコールに「明日」を熱唱。また、いつの日か彼女の歌声を耳にしたい。近い将来に日本を代表するソプラノ歌手になっていることを願う。


松井亜樹ソプラノリサイタル~ロシアオペラの夕べ~

 先月20日(金)に朝日カルチャーセンター札幌主催の公開講座があった。札幌大学教授でピアニストでもある高橋健一郎氏が定期的に講座を開いているが、彼の講座「ラフマニノフと祖国ロシア」を受講した。講師自身のピアノ演奏やCD, DVDの鑑賞を交えながらの講座は興味深かったが、話の最後に「松井亜樹ソプラノリサイタル」の案内があった。25名ほどの講座参加者の中に彼女の姿もあった。
実は2008年の「時計台コンサート」で二人が出演するコンサートを聴いていた。「歌とピアノで伝えるロシアの息吹」と題して行われたコンサート。高橋君は私の高校時代の教え子。彼が2年生の時に担当しただけだが、札幌北高校時代で英語の総合力は断然トップであった。当時から北海道ショパン学生ピアノコンクールでも優秀な成績を残していた。高1までは東京芸大を目指していたようだが、数学、物理に興味を持ち東大理Ⅰに進学した。大学では文系に転向。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。ロシア語学とロシア音楽が専門。

08年のコンサートではロシアの歌曲の他に、チャイコフスキー、ラフマニノフ、メトネルなどのピアノの小品も演奏された。松井さんは北海道教育大学札幌校芸術文化課程を卒業した後、ロシアで修業を積んでいた頃だったようである。新進の歌手としてスタートを切った初々しい感じがしていた。

昨年、音楽雑誌「音楽の友」で彼女の東京での活躍ぶりを知った。2月の朝日カルチャーセンターでの出会いで、リサイタル開催を知った。実は高橋君と言葉を交わしたのは彼の高校卒業以来初めてであった。25年ぶり。(彼が高3の折に札幌北高校を会場にノーベル賞受賞者のフォーラムが開かれ、彼が歓迎の辞を英語で述べることになった。その時の彼が用意したスピーチ原稿の内容はレベルの高い素晴らしいものだった。私は彼のスピーチの指導をすることになっていたが、フランス人の文学賞受賞者が日本の各地で英語ばかりがフォーラムで使われることに苦情をはさんだことで、当事者の突然の変更通知によって高橋君は日本語で挨拶することとなった。当日の同時通訳の英語は当初のスピーチの内容と比べて、格調の高さが欠けてしまった。本人が一番残念だったと思うが、私にも悔しくてたまらない出来事であった。)

前置きが長くなってしまった。いよいよリサイタルの開催である。

平成27年3月6日(金)19時開演。 ザ・ルーテルホール

出演:松井 亜樹(ソプラノ)、高橋健一郎(ピアノ)
 [ 賛助出演 ] 今野博之(バリトン)、中添由美子(ピアノソロ)、坂田朋優、國谷聖香(ピアノ連弾)、藪 淳一(ナレーション)

PROGRAM
[ 第一部 ]
 グリンカ:オペラ『ルスランとリュドミラ』から
         序曲(連弾) (坂田、國谷)
         リュドミラのアリア「ああ、運命よ、私のつらい運命よ!(松井、高橋)
 リムスキー・コルサコフ:オペラ『皇帝の花嫁』から
          グリャズノイのアリア「あの美しい人が忘れられない」(今野、高橋)
 ムソルグスキー:オペラ『ソローチンツィの定期市』から
          ハラ―シャのドゥムカ「悲しまないで、愛しい人よ」(松井、高橋)
          コバック(ラフマニノフ編)(ピアノソロ:中添) 
 ストラヴィンスキー:オペラ「放蕩者の遍歴」から
         アンのアリアとカバレッタ「トムからは何も便りがないーーーかれのところへ行こう」(松井、高橋)

[ 第Ⅱ部 ]
  チャイコフスキー:オペラ『イオランタ』から
              イオランタのアリオーソ
                「なぜ私は前には知らなかったのかしら」(松井、高橋)
        :オペラ『スペードの女王』から
            リーザのアリア「この涙はどこから」(松井、高橋)
            エレツキーのアリア「私はあなたを愛しております」(今野、高橋)
            リーザのアリオーソ「もう真夜中に近い」(松井, 高橋)
        :オペラ『エヴゲニ―・オネーギン」から
            ポロネーズ(連弾)(坂田、國谷)
            オネーギンとタチアナの二重唱「ああ、なんて苦しいの! 再びオネーギンが私の前に現れる」(松井、今野、高橋)

第一部の作曲家の管弦楽曲は知っていても、オペラのタイトルで知っているのは「ルスランとリュドミラ」だけである。といっても序曲だけで、演奏会でアンコール曲として聴く程度である。活気に満ち溢れた曲がピアノ連弾で流れた。

コンサートのナレーションを元HBCアナウンサーを務めていた方(*どこかで見た顔だと思っていたら当時テレビで見ていた)が担当して、オペラのストーリーを話したうえでコンサートが進められた。
最初のオペラは悪魔に奪われたリュドミラを求婚者ルスランが救出するという民話に基づくオペラ。囚われの身になったリュドミラが魔術師には決して従わないと力強く歌い上げるアリア。

ストーリーの展開に沿って、音楽に変化を持たせてピアノを奏でる高橋の演奏は最初から素晴らしい技量を発揮。松井も透明感のある歌声でリュドミラの清らかな心と精神の強さを表現した。

R.コルサコフ、ムソルグスキーは19世紀後半、ストラヴィンスキーは20世紀に活躍したロシアの作曲家で偉大な作品を残しているが、オペラのタイトルは初めて耳にするものばかりである。
賛助出演したバリトンの今野は北海道二期会での活躍が目立ち舞台経験が豊富な様子が歌唱だけでなく舞台での振る舞いにも表れていた。

第二部は全てチャイコフスキーの作品で親近感が持てた。ただし、オペラは他のジャンルに比べて親しんでいない。「スペードの女王」は小澤征爾得意のオペラだと思うが観たこともなく、何の知識もない。「イオランタ」は先月にMET上演があったばかりで鑑賞を予定している。「エヴゲニ―・オネーギン」は13年11月のMETビューイングを観たので印象深い。(その時の模様は次のブログに書いてある。http://teruoblog687.blog.fc2.com/blog-entry-151.html)。

後半に松井は赤のドレスで登場。会場が一瞬華やかな雰囲気に包まれた。年頃になったイオランタが淡い気持ちを乳母に訴える歌。前半のプログラムでは舞台の立ち位置を変えずに歌っていたのが、オペラのシーンに合った状況で可憐な表情で歌い上げたのは良かった。

「スペードの女王」から3曲が歌われたが、ストーリーの内容が良く解らずに集中力が欠けたのかボヤケタ印象になってしまった。鑑賞の仕方がまずかったようである。

「ポロネーズ」はオペラだけでなく演奏会で単独で演奏されるが、昨年もKitaraで聴いた覚えがある。舞踏会の華麗な音楽が、ピアノ連弾で演奏された。率直に言って、グリンカの曲での演奏より心地よく聴けた。
オネーギンとタチアーナの二重唱はタチアーナがオネーギンの告白に動揺しながら、申し出を断り別れを告げる場面はオペラの実際の場面が浮き上がって聴衆の心を動かした。会場に感動の声が湧きあがった。1年半前に観たオペラの場面が蘇って良かった。リサイタルにバリトン歌手の客演があって最後の二重唱で盛り上がった。

最初から最後までピアノの演奏も素晴らしかった。ただ単なる伴奏の域を超えて、全体的に音楽を深く理解した上でのピアノ伴奏だったと思った。短い曲の中で曲調の変化や音の強弱に応じて巧みに鍵盤を操る所作にも凄さを感じ取ったのは私だけであろうか。プロとしてピアノリサイタルを聴いてみたいものである。

松井亜樹はロシア歌曲を得意としていると思うが、アンコールにロシアの歌曲を2曲歌った。1曲は「ラフマニノフ:春の流れ」。もう1曲の曲名は聞き逃した。
最後に出演者と聴衆が一緒に「カチューシャ」を歌って終了。ホールの1回ロビーで、バリトン歌手、ピアニスト、ソプラノ歌手に感想を述べて外へ出た。余韻を楽しむために音楽を大音量で聴けマスターと話ができるBARへと足が向いていた。


     

錦織 健 テノール・リサイタル

錦織健コンサート ロック to バロック’98 を旧北海道厚生年金会館で聴いた記憶がある。何となく頭の片隅に残っているだけである。はっきり覚えているのは04年2月のKitaraにおける「錦織健プロデュ―ス オペラ「セビリアの理髪師」のアルマヴィ-ヴァ伯爵役である。錦織は日本オペラ界を代表するテノールとして第一線で華々しく活躍していた。
10年にはリサイタルを聴いた。彼得意のヘンデルのオラトリオ「メサイア」をはじめ、ロッシーニやプッチーニのオペラの有名なアリアを歌った。珍しく日本の歌曲もプログラムに入っていた。トークをはさみながら、ステージを下りて客席を周るサービスをしていた。
今回は12年に続く2年ぶりのリサイタルとなった。

2014年10月10日(金) 7:00開演 札幌コンサートホール Kitara大ホール

〈プログラム〉
 日本古謡「さくらさくら」、 日本古謡・山田耕筰・曲/「箱根八里は」
 石川啄木・詞/越谷達之助・曲:「初恋」
 北原白秋・詞/山田耕筰・曲:「かやの木山の」「この道」「松島音頭」「からたちの花」
 土井晩翠・詞/滝廉太郎・曲:「荒城の月」
 野上彰・詞/小林秀雄・曲:「落葉松」
 岩井俊二・詞/菅野よう子曲:「花は咲く」
 プッチーニ:歌劇《トゥランドット》より「誰も寝てはならぬ」
 ドニゼッティ:歌劇《愛の妙薬》より「人知れぬ涙」
 ティリンディルリ:「おお春よ」、 カッチーニ:「アマリッリ」、 ロッシーニ:「踊り」
 ショパン:「別れの曲」
 サルトリ&クァラントット:「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」
 バーンスタイン:ミュージカル《ウエストサイド物語》より“Maria”
 ロジャース:ミュージカル《回転木馬》より“You'll never walk alone”
 
錦織健(Ken Nishikiori)は1960年、島根県出雲市生まれ。国立音楽大学卒業。文化庁オペラ研修所を経てミラノ、ウイーンで研鑚を積んで帰国後、輝かしい活躍で脚光を浴びテノール歌手として揺るぎない評価を得た。オペラやクラシック・コンサートだけでなく幅広いジャンルにわたる音楽活動に携わっている。

プログラム前半は日本の歌10曲。「さくらさくら」は日本を象徴する名曲がイタリアのカンツォーネ風に歌われたので少々違和感があった。声量を生かして変化に富んだ歌い方にはなっていた。口を大きく開け、高い張りのある声で歌い上げる歌い方は彼独特のものかもしれない。4年前のリサイタルより声量がある印象を受けた。
抒情的な味わいよりドラマティックな要素が強い歌い方で受け取り方が違ってしまった。

ピアノ伴奏は河原忠之。毎回、錦織と共演し、お互いを知り尽くした同士でプログラム曲の編曲も全て担当している様子。ピアニストの他に指揮者としても活動している。

後半のプログラムは洋もの。オペラ曲は2曲だけだったが、“世界3大テノール”と呼ばれたドミンゴ、パヴァロッティ、カレーラスの歌声を予め家でCDを数回聴いて歌詞も味わってきた(カレーラスは「マリア」)。「人知れぬ涙」は2年前のMETビューイングの場面を思い出しながら何度もCDを聴いた。2曲ともオーケストラ演奏だと前奏が入っていたり、歌が終っても演奏が続いて余韻が残るが今日はそれが味わえなかったのが残念! 「誰も寝てはならぬ」では最後の“Vincero! Vincero!”でもっと盛り上げても良かったように思った。

オペラのアリアに続いてイタリアの歌曲が5曲。錦織も楽しそうに早いテンポに合わせて気持ち良さそうに歌い上げた。
ショパンの名曲にイタリア語の歌詞をのせた歌曲は興味深かった。サルトリ&クァラントットの曲名は英語だがイタリア語で歌われた。

プログラム後半最後の2曲はミュージカル・ナンバー。両曲とも英語で歌われた。「ウエストサイド物語」はオーケストラで聴く機会は結構あるが、歌は何年も聴いていないように思う。TonyがMariaの名を繰り返して呼び、彼女を讃美する歌の歌詞を数十年ぶりに思い出す機会になって良かった。錦織は英語の発音に留意して丁寧に歌っていた。

トークを少なくして2時間のコンサートをこなすのは大変なようで、途中ピアニストのソロもはさんだ。ピアノ・ソロは「プッチーニ:歌劇《マノン・レスコー》より「間奏曲」。
アンコール曲も「オー・ソレ・ミオ」のカンツォーネ以外は、“We are the champion”, “Stand by me”など英語で4曲。
コンサートでいろいろなジャンルの音楽を歌っているのは解っていたが、ポピュラー・ミュージックを取り上げる機会が増えている感じがした。
1000名弱の聴衆も錦織の音楽を求めて聴きに来ている年輩のファンが多いようであった。演奏終了後の拍手、声援は固定したファンの多さを物語っていた。今月2日の朝日新聞の夕刊によると「錦織の趣味はボイストレーニング」と言う。毎日2時間の練習を欠かさないそうである。今日の演奏会で彼の声量が50歳を越えて衰えるどころか、進化しているのではないかと思ったほどである。
来年2-4月にはオペラ・プロデュ―ス「モーツァルト:後宮からの逃走」を手掛ける予定と聞く。

*錦織健はテニスで活躍している錦織圭と間違えられてパソコン等で検索されることが多くなったそうである。錦織圭も島根県出身であるが、島根県には「錦織」という姓が多くて、学校時代にはクラスに3名は同じ苗字の人がいたと言う。名前の呼び方は5通りはあって、彼自身の苗字の読み方も「にしきごおり」であったと言う。(「にしごおり」だったかも?)。大学時代から面倒になって現在の呼び名で通すようになったそうである。

札幌交響楽団第570回定期演奏会(2014年6月)

2014年6月28日(土) 14:00開演 札幌コンサートホール Kitara大ホール

ヴェルディ: レクイエム

指揮/ 尾高忠明
独唱/ 安藤赴美子、 加納悦子、 吉田浩之、 福島明也
合唱/ 札響合唱団、札幌放送合唱団、ウィスティリア アンサンブル、
    どさんこコラリアーズ
合唱指揮/ 長内勲

「レクイエム」とはキリスト教において死者の追悼のために歌われる宗教音楽である。レクイエムの歌詞を読むと、葬儀に参加する人たちが最後の審判、神の怒りの日に死者が昇天するようにイエスに懇願する内容となっている。
私自身、宗教音楽には余り関心が高くなく、バッハの「マタイ受難曲」のテキストを見ながらコンサートを聴いたことがある程度である。モーツァルトの「レクイエム」も一度は聴いたことはある。ベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」のCDも所有しているだけ。そんな程度で宗教音楽には親しんでいない。

今日は札響の定期のプログラムにあるので聴きに行ったが、期待度が大というわけではなかった。ところが、いざコンサートが始まって、スタートから140名の大合唱団がオーケストラと共に歌い始める場面にすぐさま惹きつけられた。予想していた音楽の展開とは全く違っていた。オペラを思わせる展開で85分間、終始4人のソリストたちの素晴らししい歌声と4つの合唱団の今迄とは一味もふた味も違う音楽作りを鑑賞できた。

新国立劇場オペラ芸術監督でもある尾高札響音楽監督は札響最後のシーズンに当って、満を持して日本最高のソリストたちを選んで今回の演奏会に臨んだ気構えを感じた。
札響の前回の演奏は03年で合唱団は一つだけであったようなので、今回は合唱の迫力が違ったと想像される。
聴衆の関心度も高く、いつもの定期公演よりも客が入っていたように思われた。終演後の歌手たちや合唱団への拍手も一段と長く続き、感動の度合いも大きいように思えた。もう一度聴いてみたいと思えるコンサートになった。

*音楽雑誌《音楽の友》アンケートでチョット心に引っかかっていることがありました。
「あなたが好きな声楽曲は?」のアンケートで有効回答数が約2400票のうち
「モーツァルトのレクイエム」580票で第1位、「ヴェルディのレクイエム」439票で第3位、「フォーレのレクイエム」334票で第4位。
私自身の心に浮かぶ「声楽曲」のイメージと余りに違うのでギャップを感じて、アンケートの回答者には合唱団所属の人が多かったのかなと思ったりしてました。声楽曲というとオペラの有名なアリア、イタリアのカンツォーネ、日本の歌曲などを思い浮かべるので、この雑誌の設問には違和感があったのです。
今日のコンサートを聴いてみて、人々の中には自分は歌わなくても「レクイエム」を好きな声楽曲と答える人もいるのだろうと思い少し納得しました。

藤村実穂子 メゾソプラノリサイタル 歌曲の夕べ

ソプラノリサイタルに比べてメゾソプラノリサイタルが開催される機会は極めて少ない。著名なメゾソプラノ歌手のリサイタルはこの10年で2回聴いただけである。
1つは〈Kitara10周年記念コンサートシリーズ〉で2007年12月に開かれた《フィオレンツァ・コッソットのデビュー50周年リサイタル》。コッソットは世界の歌劇場でメゾソプラノの女王として活躍し、マリア・カラスとの共演も多く、その名を永遠に残す大プリマドンナであった。
もう1つは〈Kitaraワールドソリストシリーズ〉で2011年11月に開催された《白井光子&ハルトムート・ヘル リートデュオリサイタル》。白井とヘルは1972年の結成以来「歌と伴奏」という概念を越えた「リートデュオ」。白井光子は74年シューマン・コンクールをはじめ数多くのコンクールに優勝し、国際的リート歌手として世界にその名を馳せた。Kitara小ホールでのコンサートで複数の日本人女性から“Bravi”と声が掛かった珍しい経験が忘れられない。(PMFの演奏会で日本人が“ブラボー”、イタリア人のアカデミー生が“Bravi”と掛け声をかけるのを聞いて以来の出来事であった。)

藤村実穂子(Mihoko Fujimura)はウィ―ン国立歌劇場、バイロイト音楽祭など世界の最高峰の舞台で活躍している現代最高のメゾソプラノ歌手として名高い。オペラだけでなく、コンサートの交響曲の歌い手としての活動の場も多い。

今夜はリヒャルト・シュトラウスとマーラーの曲をたっぷりと楽しめるドイツ・リートの世界。

2014年3月17日(月) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

〈プログラム〉

R.シュトラウス:薔薇のリボン op.36-1、白いジャスミン op.31-3、高鳴る胸 op.29-2、
          愛を抱きて op.32-1、愛する人よ、別れねばならない op.21-3、
          憧れ op.32-2、静かな歌 op.41-5、解放 op.39-4、岸で op.41-3、
          帰郷 op.15-5、小さな子守唄 op.49-3、子守唄 op.41-1
マーラー:歌曲集「子供の魔法の角笛」より
        ラインの小伝説、 この世の生活、 原初の光
        魚に説教するパドゥアの聖アントニウス、 この歌を想い付いたのは誰?
        不幸の中の慰め、 無駄な努力、 高い知性への賞賛
                   ピアノ/ヴォルフラム・リーガー(Wolfram Rieger)

シューベルトが作り上げた《芸術歌曲》を発展させたのがR.シュトラウス(1864-1949)と言われる。「4つの歌」などコンサートで取り上げられる曲はあっても具体的な曲名は全然知らない。意外と言ったら変だが、今回の12曲はいずれも詩も曲も美しかった。詩を読んで歌を聴くと情景が浮かんでくる。

藤村が声を発した途端、彼女の歌声に魅了される。1曲が終ったあと聴き惚れて、満席の聴衆は6曲が終るまで拍手する気持ちを抑えていた。(実際、1曲終わる度に拍手をしていると、演奏家の集中度が途切れてしまう恐れがある。)曲が進むにつれて彼女の世界に引き込まれていく。
歌の専門家はともかく、素人の自分には初めて聴く曲ばかりであった。Sold outになった客席は女性が9割弱。周囲に男性の姿は殆どなし。声楽を専攻した人たちか音楽大学の出身者が多かったのかもしれない。

R.シュトラウスの交響詩を聴く機会は結構あるが、彼は歌曲の巨匠でもあることが何となく判った。シューベルトやシューマンの後に続くドイツ歌曲に接する機会にはなった。

マーラー(1860-1911)の歌曲集は近年よく耳にする。この歌曲集は名前だけは知っている。交響曲からの主題の借用や交響曲への転用などで知識を得ている。2011年のPMFでトーマス・ハンプソンが歌った「亡き子をしのぶ歌」、「リュッケルトの詩による歌」は一応名前だけは知っている程度である。勿論、この時はハンプソンの歌に酔いしれた。

前半のシュトラウスの詩や曲と対照的に、マーラーのこの作品はアイロニーが多分に含まれていて面白い。戯画化されて皮肉ったり、ユーモアを込めた作品にも興味が湧いた。交響曲から得ている印象とは違ったのである。

オペラの有名なアリアと違って、外国の歌曲はメロディや歌詞は馴染みが薄い。数曲聴いただけで向こう受けする曲は無い気がするが、今晩のようなコンサートで世界一流の歌手が、ある程度まとまった曲を歌ってくれると、その良さが断然聴く者の心に響いてくる。
 
後半の曲風が前半とガラリと変わった味が素晴らしく良く出ていた。艶のある声の響きは言うまでもないが、詩の表現力が凄いと思った。前半とは違う歌手が歌っている感じさえした。彼女が世界の舞台で活躍している様子が実感できた。

ピアニストのリーガーとの呼吸もピッタリあった演奏会。ピアノがステージ上で少々斜めに配置されて聴衆に鍵盤が見えやすくなっていたので、ピアニストの運指や歌手との微妙な呼吸が読み取れて興味深かった。

藤村がステージを下がる度ごとに客席に顔を向けながら退場する様は、歌っているときの凛としたクリアな響きと重なって、実に堂々としていてプリマドンナのようであった。歌曲では歌手が聴衆の顔を見つめながら歌い、心を伝えている様子が感じ取れた。退場の時の態度にも同じことが言えるのかなと思った。いずれにしても、他のコンサートでは余り見られない一貫した態度に注目した訳である。

〈アンコール曲〉
マーラー:ハンスとグレーテ、 たくましい想像力。
2曲を終えたのち、鳴り止まぬ拍手に応えて「マーラー:別離と忌避」で終了。

帰りの小ホールのホアイエはクロークに並ぶ人と、サイン会のため並ぶ人で大混雑。このような盛況ぶりは久しぶり。とにかく藤村実穂子の名はクラシックファンには知れ渡っていたので、今日のリサイタルを待ちわびていた人は多かったはずである。私自身も旅行計画を少し変更して聴く機会を持てた。


プロフィール

fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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