札幌西高等学校管弦楽団第48回定期演奏会

日本の学校教育で合唱や吹奏楽が課外活動で盛んに行われているがオーケストラが高校レヴェルで設立されている学校は稀である。北海道内では札幌西高校だけである。四半世紀前に息子の入学式で札幌西高校のオーケストラの演奏を聴いた。同校の定期演奏会に足を運んだのは今回が初めてである。

札幌西高校オーケストラ部は60年を越える歴史と伝統を誇り、1970年(昭和45年)の第1回定期演奏会以降は毎年1回定期演奏会が開催されてきている。道内の有数の進学校で伝統を守り続ける姿は誠に頼もしい。

2017年8月12日(土) 18:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
〈PROGRAM〉
 ドヴォルザーク:「スラヴ舞曲第1集」より 第8番
 ハチャトゥリアン:組曲{仮面舞踏会」しt
 ドヴォルジャーク:交響曲 第8番 ト長調 作品88

演奏会の初めに「札幌西高等学校校歌」と「札幌第二中学校校歌」が部長の指揮のもとで演奏された。校歌は本来、オーケストラ用ではないので、盛り上がりに欠ける演奏だったのは止むを得ない。

正式なプログラムが顧問の高橋利夫先生のタクトで始まるとオーケストラは見違えるような音を発した。
スラヴ舞曲は第1集は8曲から成るが、「第8番」はコンサートのアンコール曲としても演奏機会が多く親しまれている。スラヴ舞曲ならではの音楽で色彩感も豊かで活気あるリズムは高揚感を搔き立てた。最初のプログラムに相応しい選曲と思った。

ハチャトゥリアンは当時のグルジア生まれのソ連の作曲家。ロシアの作家レールモントフが書いた戯曲「仮面舞踏会」にハチャトゥリアンが音楽を付けた。帝政ロシアの貴族社会を舞台に嫉妬にかられた夫が妻を殺してしまう悲劇の物語。この劇音楽の中から5曲が組曲として編まれた。
第1曲の「ワルツ」が浅田真央がフィギュア・スケートで使用した曲で一気に有名になり日本だけでなく世界で親しまれるようになった。第2曲ノクターン、第3曲マズルカ、第4曲ロマンス、第5曲ギャロップ。タイトルで曲の展開がある程度判断できる。抒情的で美しいメロディ、ポーランド風の舞曲、悲しいドラマの後で様々な人間模様が時には静かに、時には賑やかにと描かれて華やかなフィナーレとなる。
曲に変化があり、弦楽器、管楽器、打楽器の活躍がそれぞれあって勢いのあるドラマテイックな音楽が繰り広げられた

前半は85名の部員がほぼ全員が参加しての演奏。26名の新入部員を加えてのまとまりのある演奏に顧問の先生の苦労は並大抵でなかった様子がプログラムの中の言葉からも窺がえた。短期間でこれだけの成果を上げるのは大したものである。

後半は馴染みのドヴォルザークの「第8番」。この曲の演奏ではOB・OG5名の協力を得て総勢65名の出演者。在学中の短期間でまとまった演奏に仕上げるのは簡単ではない。顧問の叱咤激励を得ながら苦しい練習を積み重ねてきたことは容易に想像できる。とにかく違和感なく演奏を最初から最後まできちんと聴けた。勉強と両立しながら部活動を行い、この夏休みは最後の仕上げで猛練習したことだろう。
この大曲を届けてくれた高校生を称えたい。プロの道に進む人も中にはいると想像されるが、高校で活動に終止符を打つ者もいるだろう。でも、音楽は何らかの形で彼らと繋がっていくことを確信している。

演奏終了後に会場に集まった1200名以上の聴衆から盛大な拍手が沸き起こった。今年で現役を退く顧問と部長の挨拶に際してはプロや他のアマチュア・オーケストラのコンサートとは少々違った聴衆の応援と感謝の気持ちが広がって感動的であった。
アンコール曲は85名の部員全員で「エルガー:ニム・ロッド」と「ヨーゼフ・シュトラウス:鍛冶屋のポルカ」。

※今回の定期演奏会に際して札幌西高でコントラバス奏者を務めた卒業生が寄稿文を載せていた。彼は高校卒業後イタリアの弦楽器製作所に入学して、卒業後も工房に通って約8年間修業。2012年に帰国して、現在は名古屋で弦楽器の修理工をしているという。彼は今年の初めに西高を訪れて当時の楽器に触れる機会を得た時の感慨も綴っていた。西高オケに出会って現在の自分があると記している。いろんな道で引き続き音楽と関わって人生を歩んでいる人の姿は美しいと思った。

※帰路、Kitaraを出ると通路を戻ってくるレセプショニストと出会った。間もなく友人の姿が目に入ると、ステッキをついていたがコンクリートに躓く瞬間を見て慌てて彼の名を呼んで声を掛けた。彼もすぐ気づいてくれた。伝えてあげたコンサートの情報で、まさかと思っていたら、連日のKitara通い。翌日の西高OBオーケストラの時間も訊かれた。日曜日の教会の話が早く終わったら、また鑑賞に来るとのことだった。オルガニストのフェアウエル・コンサートのチケットは先日買い求めたと言っていた。今月末のソプラノ・リサイタルの招待状の申し出を受けたが東京からの帰りの飛行機の中の時間になるということでお断りした話など、いろいろ話をしてくれた。全盲など感じさせない力強い生き方に刺激を受けつつ、相手の立場で考えることも学んでいる。
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HBCジュニアオーケストラ2017サマーコンサート

コンサートのチケットは通常3ヶ月~6ヶ月前から購入している。鑑賞予定でも、全席自由席の大ホールのコンサートは早くても1ヶ月前くらいに手にする。8月のチケットは3回分だけで、今月はスケジュールに余裕があった。例年なら行かないような演奏会を3つ追加した。中高生が中心のアマチュアオーケストラを今日、明日と続けて鑑賞することになった。

2017年8月11日(金・祝) 開演15:00  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/阿部 博光  ヴァイオリン/森田 昌弘

HBCジュニアオーケストラは1964年創立で、小学4年生から高校3年生までが入団対象。今回の出演者113名中、小学生1割、中学生3割、高校生5割、OB・OG1割。
北海道放送(HBC)が創設して、札幌市内だけでなく道内各地で演奏。札幌の姉妹都市の米国ポートランドやロシア・ノボシビルスクに親善公演旅行を実施している。近年では07年にウィ-ン楽友協会、チェコ海外演奏旅行、12年に再びウィ-ン楽友協会を含む海外演奏旅行を行った。15年の「北海道文化賞」に続いて16年には文化庁から「地域文化功労者表彰」を受賞。

このオーケストラのことは知っていたがコンサートに来たのは今回が初めてである。5年前のジルベスター・コンサートで札幌出身のヴァイオリニスト成田達輝がHBCジュニアオーケストラに入っていてKitaraのステージに上がっていたがそれ以来初めての大ホールのステージと語っていたのを懐かしく思い出した。

〈Program〉
 ドヴォルザーク:スラヴ舞曲集 作品46から第1番
 ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26
 ワーグナー:楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー』から第1幕への前奏曲
 チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調 作品64

指揮の阿部博光は東京藝術大学在学中より日本フィル首席フルート奏者を務め、1995年北海道教育大学岩見沢校助教授に就任。札幌でリサイタルや室内楽コンサートを開催。97年HBCジュニアオーケストラ常任指揮者に就任。札幌音楽家協議会オーケストラの指揮者を務めていて、度々彼の指揮は観たことがある。彼は札幌音楽界の重鎮として活躍中だが、ジュニアオーケストラに20年も関わっていたことは知らなかった。
小ホールで30名程度の室内オーケストラを指揮している時と違って100名程度のオーケストラを指揮している様子は段違いである。オーケストラ全体を掌握して体全体を大きく使っての小気味の良い指揮ぶりは力強い印象を残した。

ヴァイオリンの森田昌弘は現在、NHK響次席奏者。大ホールに来てプログラムを読んで初めて知った。HBCジュニアオーケストラには小学3年時より入団し、卒団まで10年間在籍。桐朋学園大学在学中に在京オーケストラのゲスト・アシスタント・コンサートマスターなどを務め、室内楽メンバーとしても活動し、卒業後の1995年にN響入団。
04年のHBCジュニアオーケストラ創立40周年サマーコンサートではチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏。

ブルッフのヴァイオリン協奏曲はPMFで素晴らしい演奏を聴いたばかりの曲。ジュニアオーケストラをバックにしての演奏と比べる方が無理と言えよう。森田は勿論オーケストラの健闘を称えていた。

前半3曲に比して、後半のチャイコフスキーはメンバーの練習量の多さと曲の持つ壮大さのためかも知れないが、その響きは十分に聴きごたえがあった。特に管楽器の響きが優れていた印象を受けた。オーケストラの練習日は普段は日曜日だけということだが吹奏楽部に所属するとか個人での練習で経験豊富な高校生が多くいるように見えた。
聴き慣れたメロディが多くて人気のオーケストラ曲の演奏終了後には盛大な拍手大喝采が沸き起こった。中高校生や出演者の家族と思われる人々の姿も目立って、P席を除く客席は8割ほどの客の入り。1400名ぐらいは入っていたのではないか。

アンコールに「エルガー:威風堂々第1番」。鳴りやまぬ拍手喝采に応えて、アンコール曲の最後のパートを再演奏。演奏機会が多くて得意な演目と思えた。管楽器が40本もあると迫力が違う感を強くした。

Kitaraの外に出ると、レセプショニストに手を引かれた目の不自由な友人と出会った。彼女のサポートを引き継いで彼に話しかけ、地下鉄大通り駅まで同行した。彼はアマチュアの演奏会にも結構、来ている様子で今日のアンコール曲は毎回恒例の演奏曲だと言った。ヴァイオリニストの名を口にしたら、N響のヴァイオリニストと知って驚いていた。
明日の札幌西高オーケストラの演奏会を話題にしたら、“いい話を聞いた”と言った。演奏会情報を100%得ているわけでは無いらしい。この面でも援助できることがあれば良いかもしれないと思った。

PMF GALAコンサート2017(ゲルギエフ指揮「ザ・グレイト」他)

PMF GALA コンサートが2012年にスタートしてから6年目に入った。ガラ・コンサートにはPMFオーケストラ・Cプログラムが含まれるが、以前は独立していた。Cプログラムも2公演で会場はKitaraと芸術の森。必ず、どちらかには参加していた。14年と15年は両方に出かけていた。昨年は事情があって両方のコンサートに行かなかった。その後、PMFオン・デマンドでプログラムCがハイビジョン映像でストリーミング配信されて幸い楽しむことができた。何よりもカヴァコスの演奏を聴き逃したのが残念に思っていたので、何とか気持ちが晴れた。

2017年7月29日(土) 15:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
【第1部】
①モーツァルト:エクスルターテ・ユピラーテK.165から“アレグロ”、“アレルヤ”
 〈出演〉天羽明恵(ソプラノ)、ダニエル・マツカワ(指揮)、PMFオーケストラ

ガラ・コンサートが始まった当初から司会(MC)はソプラノ歌手の天羽(Amou)が務めている。歌のタイトルには「踊れ、歌え」のような意味があるらしい。“アレルヤ”は1937年のアメリカ映画「オーケストラの少女」で歌われたらしい。天羽自身は詳しく知らないと話したが、映画のタイトルから当時のフィラデルフィア管弦楽団指揮者レオポルド・ストコフスキー(1882-1977)のことを思い出した。彼は映画に出演していたが、指揮棒を使わないで両手の指を使って指揮する指揮者として有名であった。学生時代(たぶん1960年)に札幌狸小路の名画座で鑑賞した記憶がある。曲が馴染みだったわけではないが、何となく親しみを感じる音楽だった。天羽の歌の上手さは言うまでもない。

日系アメリカ人のMatsukawaはフィラデルフィア管の首席ファゴット奏者でPMFには2001年以降17回目の参加。09年から指揮活動も活発に展開している。司会の天羽がマツカワに日本語でインタヴュー。マツカワは“モーツァルトを聴くとIQが高くなる”と真面目に持論を語った。

②モーツァルト:弦楽五重奏曲第5番 ニ長調 K.593 から第1・4楽章
 〈出演〉ライナー・キュッヒル(ヴァイオリンⅠ)、伊藤瑳紀(ヴァイオリンⅡ)、
       Nayoung Kim (violaⅠ)、 Zhongkun Lu(violaⅡ)、Ryan Donohue(cello)

2年前にもアカデミー生と室内楽を演奏したキュッヒルは今年も楽しそうに一緒に演奏していた。共演のアカデミー・メンバーにとっては一生の財産になることであろうことは疑いない。天羽もそんな印象を話していた。
キュッヒルは前半のファカルテイの活動を終えた後も、PMFに関わって帯広や苫小牧での演奏活動を行い、司会者のインタビューに日本語で答えて来年のバーンスタイン生誕100年にもPMFに参加すると力強く話した。多分、PMF30周年の再来年も来札が続きそうである。

③ヴォーカル・アカデミーによるオペラ・アリア
 〈出演〉黒田詩織(ソプラノ)、アンナ・ミガロス(ソプラノ)、サミュエル・ヒンクル(バリトン)、チョンファ・キム(バリトン)、PMFピアニスト岩淵慶子
今年のヴォーカル・アカデミー生は4名。 担当教授はイタリア出身で世界の一流歌劇場で活躍したガブリエラ・トッチで2015年以降3回目の参加。日本公演でのマリオ・デル・モナコとの共演に触れて天羽が興奮した様子でTucciを紹介していた。彼女ははイタリア語の通訳を介して札幌の素晴らしさを語った。
 〈曲目〉ベッリーニ:歌劇『清教徒』から「ああ、永遠にお前を失ってしまった」(Samuel Hinkle)
      プッチーニ:歌劇『ボエーム』から「あなたの愛の呼ぶ声に」(Anna Migallos)
プッチーニ:歌劇『トゥ-ランドット』から「お聞きください、王子様」(Shiori Kuroda)
ヴェルデイ:歌劇『マクベス』から「あわれみも、誉れも、愛も」(Chonghwa Kim)

4人ともに歌の持ち味を生かして、それぞれ素晴らしい歌声を披露した。フィリピンとアメリカの国籍を持つマガロスは体躯を生かした堂々たる歌声が印象に残った。韓国のバリトンも恵まれた体躯で難曲と思われる変化のあるアリアを圧倒的な熱唱で聴衆を魅了して一段と大きな喝采を浴びた。

④PMF賛歌~ジュピター~(ホルスト/田中・カレン編、井上項一作詞)
 〈出演〉ワレリー・ゲルギエフ(指揮)、PMFオーケストラ、札幌大谷大学合唱団

恒例の聴衆を巻き込んでのPMF賛歌の斉唱は6回目ともなると慣れてきている人が多くなった。このプログラムはそれなりに充実感が湧くが、第1部が時間厳守で余計なトークが減ってスムーズに流れたとはいえ、GALA・CONCERTの内容は少しマンネリ化した感は否めない。

【第2部】
 〈演奏曲目〉
  ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲(ドレスデン版)
  ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26
          (ヴァイオリン独奏:ダニエル・ロザコヴィッチ)
  シューベルト:交響曲 第8番 ハ長調 D.944 「ザ・グレイト」

歌劇『タンホイザー』は13世紀の初頭ワルトブルクの城を背景に騎士タンホイザーと城主の娘エリザベートの悲恋物語。愛の女神ヴェーヌスと清純な女性の間で揺れるタンホイザーの精神的葛藤とお互いの激しい愛の闘争。「序曲」ではこの物語の内容が描かれる。
「巡礼の合唱」として名高い聖歌で始まるが耳にする機会が多く親しまれているメロディが次々と出てくる。夜の世界の狂乱と朝の巡礼の聖歌の響きが対照的である。この序曲のメロディは有名でもコンサートで近年耳にしたのは第12代Kitara専属オルガニストのオルガン演奏を通してであった。トロンボーン3本の勇壮な音を含めて久しぶりに壮大なオーケストラ曲を楽しめた。

ブルッフ(1838-1920)は19世紀後半を代表するドイツの作曲家のひとりであるが、現在では演奏機会の多い曲として「ヴァイオリン協奏曲第1番」と「スコットランド幻想曲」が有名である。「ヴァイオリン協奏曲第1番」はPMF2013でレーピンが同曲を演奏した。今回の演奏で日本デビューを飾った弱冠16歳のロザコヴィッチは聴衆全員の耳を虜にした。曲全体のメロディが生き生きとして美しい。カデンツァにも若いエネルギーがほとばしる。彼の奏でる音がまるで歌のような優しさでホールに広がった。
Daniel Rozakovichは2001年ストックホルム生まれ。10年にスピヴァコフ指揮モスクワ・ヴィルトオージ室内管と共演というから天才児。以降、王立ストックホルム管、モスクワ・フィルなどヨーロッパ全域のオーケストラと共演を重ね、ヴェンゲーロフやギトリスと室内楽でも共演している様子は驚くばかりである。
演奏終了後の割れんばかりの聴衆の拍手に応えてアンコール曲に「バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番より“アルマンド”を弾いた。ゲルギエフが2年前と同じようにステージ下手で彼の演奏を聴いていたのが印象的でもあった。

※今回初めてロザコヴィッチの名を耳にしたが、ゲルギエフの様子を見ていて思い出した。ゲルギエフはソ連時代の1987年にレ-ピンとキーシンを西側諸国に先駆けて日本に彼らをデビューさせた。彼らは共に1971年生まれで当時15歳であった。Kitaraにもロシアの若手をどんどん連れてきていたことを思い出した。ロザコヴィッチはスウェーデン生まれであるがロシアとのつながりが深いのは彼のプロフィールから判る。優れた音楽家を日本に次々と紹介してくれることは嬉しい。

昨日のメイン・プログラムはシューベルトの第8番。「ザ・グレイト」をPMFで聴くのは10のきょうそう年ぶりのことで、前回はムーティがKitaraに初登場した2007年だった。ゲルギエフはロンドン響、マリインスキー劇場管を率いて何度もKitaraに登場してロシアものを演奏し続けていたが、近年は必ずしも拘っていない。現在はミュンヘン・フィルの首席指揮者も兼任していて、あらゆる曲を指揮しているのは当然であろう。彼はマリインスキー劇場でコンサート、オペラ、バレエに全て対応している。トランス・シベリア芸術祭にも関わっていて、来年オープンする札幌文化芸術劇場にも将来出演することも期待できる指揮者である。彼は世界を股にかけて八面六臂の活躍をしていた時期もあったが、指揮界ではカリスマ性を持つ偉大なマエストロとの評価が高い。

シューベルトの集大成となった「The Great」は文字通り偉大な交響曲と実感して、最近は聴いていて惚れ惚れする気分になるお気に入りの曲になっている。
第1楽章アンダンテはホルン2本で始まるノーブルな感じのイントロが気分を高揚させる。クロアチア民謡に由来するらしい調べも印象的。第2楽章アンダンテ・コン・モートはオーボエが奏でるメロディが歌謡的で実に美しい。第3楽章スケルツォ、アレグロ・ヴィヴァーチェはオーボエ、フルートなど管楽器の美しい響きが心を踊らす。長大なスケルツォとなっているが、シューベルトが亡くなる直前に完成された曲として4楽章がほぼ同じ長さで各楽章が念入りに描かれた巧みな構成力がうかがえる。第4楽章は壮麗で華やかな終楽章。オーボエ(*サンフランシスコ響首席イゾドフ演奏)の美しさがここでも際立ったが、トロンボーンが全曲で使われているのも目立って印象に残った。リズム感のある歌謡性に富んだ曲作りは歌曲に優れた作品を数多く書いたシューベルトならではの歌心に満ちたオーケストラ曲になっていた。曲が終わって“GREAT”と心で叫んだ。満足のいく席から、演奏者の姿も視線に入れながら曲を堪能した。

ゲルギエフのタクトは第1部最後の「PMF賛歌」からオーラを放っていたが、第2部の全3曲で期待通りの指揮ぶりだった。身体全体を使ってのダイナミックなタクトもエネルギッシュで疲れを知らない超人的な指揮者ぶりを遺憾なく発揮していたのは良かった。

昨日の座席は2階CB3列15番。ステージ全体が見渡せ各奏者の動きが判って曲の醍醐味を味わえた。友人は予め隣り合わせのチケットを購入していたが、当日は偶然にKitaraボランティアが隣り合う席になり休憩時間中に話ができて良い交流となった。彼とはホワイエで今までに何十回も会っているが大ホールで座席が隣り合う確率は極めて低く珍しいことだと思って一層楽しくて思い出に残るコンサートになった。

今年は7回PMFのコンサートに通って楽しんだ。天候に恵まれれば本日のピクニックコンサートに出かけるつもりはしていたが、無理はしないことにした。会場で録画中継をしていたが、たぶん昨年と同様にPMFオン・デマンドで10月初旬にはパソコンで観れるのではと予想している。今頃、ピクニックコンサートで演奏中だろう。今日はアカデミー・メンバーだけで演奏しているはずだが、続く川崎・東京公演で有終の美を飾ってほしい。

PMFオーケストラ演奏会・プログラムB(メルクル&PMFコンダクティング・アカデミー)

PMF前半のウィ-ン・フィル、ベルリンフィル教授陣のアカデミー・メンバー指導が終わって、後半の指導はアメリカの教授陣が担当し始めた。オーケストラ・アカデミー・メンバーは90名であるが、他にコンダクティング・アカデミー・メンバーが3名選出されている。3人の指導は準・メルクルが行った。その成果の発表が23日のプログラムBで行われた。

2017年7月23日(日) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
〈出演者〉 準・メルクル、PMFコンダクティング・アカデミー(指揮)
       PMFアメリカ(アメリカの主要オーケストラのメンバー12名) 
       PMFオーケストラ
〈PROGRAM〉
 リスト:交響詩「レ・プレリュード」(指揮:柳澤 謙)(日本・USA)
 ドビュッシー:管弦楽のための「映像」から「イベリア」(指揮:Su-Han Yang)(台湾)
 R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」(指揮:Dawid Runtz)(ポ-ランド) 
 バルトーク:管弦楽のための協奏曲(指揮:準・メルクル、PMFアメリカも参加)

先週のプログラムAに加えてプログラムBもPMF首席指揮者のメルクルがオーケストラを指導、前半の3曲はメルクルから個人指導を受けたアカデミー生が指揮の舞台に立った。

リストは交響詩の分野の先駆者として知られているが、「前奏曲」以外の交響詩は殆ど知らない。カラヤン&ベルリン・フィルのCDで聴くのみである。かなり以前に演奏会で聴いた記憶はある。「人生は死への前奏曲」として曲が綴られ、ドラマティックな展開で華やかなフィナーレとなり、演奏終了後にはブラヴォーの声も上がった。多分、親しい日本の友人たちの声援のように思えた。
出だしは緊張もあったのか、指揮もやや単調で金管楽器奏者も調子に乗りきれないようだった。次第にリズムを取り戻して後半はダイナミックな演奏を引き出した印象を受けた。

ドビュッシーには「映像」というピアノ作品が2集あるが、第3集に管弦楽作品があるのは初めて知った。「海」、「牧神の午後への前奏曲」、「夜想曲」以外で耳に出来て大変良かった。ドビュッシー独特の印象派音楽の世界に浸った。ピアノ曲より現代音楽の作曲家としての色彩の強い新しい試みの工夫がなされていて非常に興味深かった。打楽器やチェレスタの多用も興味を引いた。
安心して観ていられる指揮ぶりで新鮮な曲を楽しんだ。

交響詩を数多く書き残したリヒャルト・シュトラウス(*フランスのイベール同様に日本の紀元2600年奉祝記念にドイツ代表として作品を書いたことでも知られる偉大な作曲家)が最初に書いた交響詩「ドン・ファン」。ハンガリーの詩人レーナウの叙情詩に基づく曲。理想の女性を追い求めて女から女へと遍歴を続けて、最後には決闘に傷つき人生を終える悲劇の男性の物語。
ステージに登場した時点からオーケストラを自分のペースに引き込んだような指揮者。非常に手慣れた格好の良い指揮ぶりが最初から最後まで魅力的であった。演奏機会も多く、聴きなれたメロディも多かったが、20分近い曲が終るのが早く感じた。

指揮者も演奏者も全て若々しい音楽家の姿は生き生きとしていた。プロの演奏家のコンサートとは違う若さに満ち溢れたエネルギーを頼もしく思った。
札響の定期演奏会では必ずしも満足のいく最高の座席ではないので、PMFオーケストラ演奏会では自分が望む最高の座席(2階CB1-3列中央)から鑑賞している。Kitaraは一般的にはどの座席からでも音楽が楽しめる音響を備えているとはいえ、オーケストラ鑑賞ではステージ上の奏者が全て見渡せて、音を奏でる奏者が直ぐ判る座席は観る楽しみが増える。奏者の直接音が直ぐ伝わり、演奏の様子もより生き生きと伝わる。オーケストラの迫力ある音楽を楽しむのに最近、好んでいる座席である。(*指揮者に注目する時には廉価だということもあって、以前はP席を好んで買い求めた)。

バルトークはハンガリーが生んだ最も有名な現代音楽作曲家で現今の世界中の演奏会で取り上げられる作品も数多い。1940年、バルトークは第ニ次世界大戦中にハンガリーからアメリカに亡命した。ハンガリーからアメリカに亡命して大成した指揮者は数多いが、彼はアメリカでは無名で作曲活動はストップしてしまった。彼は友人たちの尽力でボストン響のための新作を依頼され、1943年にこのユニークな作品を白血病の病床にありながら3ヶ月足らずで書き上げた。
「協奏曲」は独奏楽器とオーケストラによる作品というのが通例であるが、バルトークのこの作品では独奏者はオーケストラ全体を指す。様々な楽器にスポットが当てられるので、CDで聴いていてもある程度分るが、ライヴで観ていると極めて楽しい。

曲は5楽章構成。「序章」、「対の遊び」、「悲歌」、「中断された間奏曲」、「終曲」。
メルクル指揮でオーケストラにPMFアメリカの教授陣が加わった(*ハープはウィ-ン国立歌劇場のパップがプログラムAに続いてプログラムBにも参加)。アカデミー生が登場する前にPMF初参加の教授を含むファカルテイ数名がステージに現れて準備を始めて彼らの意気込みを感じた。ファゴット奏者のソロをアカデミー生が務めるのがこの時点で分った(*フィラデルフィア管首席のマツカワは昨年もソロをアカデミー生に担当させていたのを思い出した)。
第1楽章では金管楽器のカノンが楽しい。第2楽章では同種の管楽器が「対」になって音楽が進められた。ファゴット2本、オーボエ2本、クラリネット2本、フルート2本、トランペット2本が次々と対になって演奏される様子は観ていて非常に面白かった。曲想もユーモラスだった。第3楽章はエレジーで夜の音楽。第4楽章には民謡風の旋律が奏でられるが、ショスタコーヴィチの交響曲がバロディ化されるところも出てくる。第5楽章は、オーケストラのトッティで派手なフィナーレとなって勇壮であった。
打楽器、管楽器の活躍で色彩感あふれる音楽が展開されて聴きごたえのある楽しい曲。金管楽器が13本もあると迫力がある。現代音楽でこのような興味深い曲を作り上げたバルトークの偉大さを改めて感じた。

一昨年は札響で、昨年は名古屋フィルでライヴで聴いていてこの曲の良さを味わっているのであるが、まだまだ鑑賞力が足りずに
いた。オーケストラの各楽器担当の細かい観察ができて新たな発見をしたところもあった。
準・メルクルが指揮台に上がり、曲の要所をPMFアメリカが占めるので当然ながら曲が引き締まった、演奏終了後の鳴りやまぬ拍手とカーテンコールにメルクルも最後はコンマスの手を取って一緒に退場した。

2階CB最前列の席で鑑賞することは多くはない。その恩恵に浴した友人と妻にもオーケストラの醍醐味を味わってもらった。ホールを出ても公園内は暑い陽ざしが照りつけていたので、普段は通らない木陰が多い道を通って地下鉄駅に向かった。いつも同じ道を歩いているが、やはり女性の感覚は違うようである。ボートが行きかう菖蒲池の周りにはブルーのアジサイのほかに見慣れないピンクのアジサイの花を見つけた。周りの自然をもっと楽しむ余裕も生活の中に取り入れることも大切と気づいた。

夕食を取るには早い時間だったが、食事の準備も大変な妻のことを考えて外食をして帰宅した。自分は料理が出来ずに、食事の後片付けをするくらいなので偶にはと思って休養日にしてあげた。




PMFオーケストラ演奏会・プログラムA[準・メルクル指揮《ダフニスとクロエ》]

2017年のPMFオーケストラ演奏会も3つのプログラムが用意されている。日本人を母に持つドイツ人指揮者の準・メルクルは05年、08年は客演指揮者として参加して、13年、15年は首席指揮者を務めPMFには5回目の参加。3つのプログラムは札幌ではそれぞれ2公演開催。

2017年7月16日(日) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara 大ホール

〈出演者〉 j準・メルクル(指揮)、PMFヨーロッパ、 PMFオーケストラ
       (*PMFヨーロッパはウィ-ン・フィル、ベルリン・フィルの教授陣)
〈演奏曲目〉
 ベルリオーズ:序曲「海賊」 作品21
 細川 俊夫:夢を綴る
 ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」

ベルリオーズ(1803-69)の「幻想交響曲」はあまりにも有名で好んで聴くが、「海賊」は一度テレビで聴いた記憶がある程度の曲。
パリ音楽院在学中にローマ大賞を受賞して、イタリアに留学。この曲はローマ滞在中にバイロンの物語詩「海賊」に触発されて書いたという演奏会用序曲。フランスの作曲家らしい雰囲気のあるロマンティックな作品。2管編成だが、金管楽器が12本で管楽器の響きに特徴があった。10分程度の曲。

細川俊夫((1955- )は武満徹とともに日本現代音楽を代表する海外で人気の作曲家。この管弦楽曲は2010年ルツェルン音楽祭で初演された作品だそうで、もちろん初めて聴いた。日本を連想させる曲想が印象的で、打楽器が静かに奏でる音楽は神秘さを湛えている。海外で喜ばれる曲でもあり、現代曲の良さが伝わった。チェレスタをはじめ様々な打楽器の音色とそれを支える弦楽器の技法にも現代曲の工夫が見られた。15分程度の曲で聴衆の心を動かした作品。

ラヴェル(1875-1937)には輝かしいオペレーションを施した魅力的な作品が沢山ある。彼の代表作の一つ「ダフニスとクロエ」はコンサートでバレエ音楽の全曲を聴くのは初めてのような気がする。管弦楽曲として編まれた第2組曲を演奏会で何回か聴いている。15年にケント・ナガノ指揮モントリオール響、最近では昨年6月にスラットキン指揮フランス国立リヨン管の演奏を聴いた。やはりフランス系のオーケストラによる演奏は独特の味がある。バレエ音楽の全曲のCDは所有しているが、詳しいストーリーは分らずに聴いていてもライヴで音楽を直接に聴く迫力が伝わらない。

この作品はロシア・バレエ団の依頼で書かれた、3部から成るバレエ音楽。1909-12年に作曲。台本は2・3世紀のギリシャの小説家ロンギュスによる物語に基づく。牧人のダフニスと羊飼いの娘クロエが様々な障害を乗り越えて結ばれるストーリー。この健康的な賛歌をラヴェルが巨大な音楽のフレスコ画にした。恋物語の感情表現というより、古代の壁画から作り出された音の叙事詩といった方が良い作品。50分を越える大曲。
【第1部】“序奏と宗教的な踊り”、“全員の踊り”、“ダフニスの踊りとダルコンのグロテスクな踊り”、“ダフニスの優しくて軽やかな踊り”、“ヴェールの踊り~海賊の来襲”、“夜想曲とニンフの神秘的な踊り”
【第2部】“序奏”、“戦いの踊り”、“クロエの踊り”
【第3部】“夜明け”、“無言劇”、“全員の踊り”
 
第1部の舞台は丘や洞窟を臨む野原。第2部は海賊の陣地。第3部の舞台は第1部と同じ。日が昇り、鳥がさえずる夜明けにダフニスは海賊たちにさらわれていたクロエと再会。ダフニスがクロエへの愛を誓い、若者たちが祝って賑やかに踊る。

指揮者のメルクルもリヨン管の音楽監督在任中には演奏機会が何度かあったと思う。彼はオペラの経験も豊富なのでバレエ音楽として「ダフニスとクロエ」は手中にあるようである。
PMFヨーロッパの14人の奏者がそれぞれのパートのソロを弾いて安定感を引き出していたように思った。特に第3部の夜明けでフルートの奏でる美しいメロディが魅力的であった。戦いの場面や踊りの場面でのオーケストラの盛り上がる演奏は聴きごたえがあった。オーケストラの魔術師と呼ばれたラヴェルならではの曲の盛り上げ方に心も弾んだ。
打楽器の種類も多くて奏者も大活躍、チェレスタはPMFピアニストが演奏していたのではないかと思った。

2階の正面席2列13.・14番の特等席からオーケストラの音を友人と一緒に観覧。時折、オペラグラスで演奏者の姿もハッキリ確認しながらコンサート全体を楽しんだ。前列や右側の数席が空いていたのは大雨の被害を受けたのか都合で来れない人がいたのは気の毒であった。

※PMFヨーロッパはメインプログラムだけの出演で、全体の演奏に加わるほかソロ・パートを受け持つのが通例でオーケストラの質を高めている。ところがホルン・ソロはサラでなく昨年に続いて今年もアカデミー・メンバーが行っていたようである。経験を積ませようとのサラ・ウィリスの配慮だと思った。
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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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