トヨタ・マスター・プレイヤーズ、ウィーン2017 札幌公演

《ウィーン・プレミアム・コンサート》札幌公演

2000年にトヨタの社会貢献活動の一環として始まったコンサートは日本国内7都市で開催されているが、札幌もその中に入っているのは幸せである。チケットを買い遅れると完売になっていることが度々あって、今年は3ヶ月前に購入していた。ただ、ここ数年は必ずしも満席でない状況が続いている。ステージ後方のP席に客がいなかったことは初めてのような気がした。
しかし、演奏会は年に一度の特別なものとして期待感に溢れた雰囲気の中で始まった。

2017年4月24日(月) 19:00開演  札幌コンサートホール大ホール
〈PROGRAM〉
 ベートーヴェン:「コリオラン」序曲 ハ短調 Op.62
 ハイドン:チェロ協奏曲 第2番 ニ長調 Hob.Ⅶb-2(チェロ:ロベルト・ノージュ)
 モーツァルト:交響曲 第35番 ニ長調 「ハフナー」K.385
 シューベルト:交響曲 第6番 ハ長調 D.589

鮮烈な序曲が開演を彩った。古代ローマの悲劇の英雄コリオラヌスを題材とした芝居「コリオラン」からインスピレーションを得て書いたといわれる「序曲」は実際の舞台上演では演奏される機会は無かったようである。コンサートの演目として単独でしばしば取り上げられている曲。7分ほどの演奏終了後にブラヴォーの声を上げる人もいた。

ハイドンの「チェロ協奏曲」はマイスキーや藤原真理のCDで十年以上前は何度か聴いていた。最近はコンサートで聴く機会もなかった。この曲はハイドンが指導するオーケストラのメンバーのために書かれたといわれる。華々しい演奏効果を持つ曲にするためにヴィルトゥオーゾの腕前を持つチェリストの助言を得て作り上げたようである。
第1楽章は優雅な響きで、終わり近くにカデンツァが入った。第2楽章は美しい調べで静謐な緩徐楽章。溌溂として生気に満ちたフィナーレ。
ウィ-ン・フィルのソロ・チェロ奏者Robert Nagyの苗字はナジとも日本では表記されている。彼は20年前からKitaraのステージには度々登場している。1966年ハンガリー生まれで、09年よりウィ-ン国立芸術大学教授も務めているチェロの名手。PMF2017の教授陣として7月にも来札予定。

ウィーン古典派のハイドンに続くモーツァルトの曲はハフナー家のために書いた華やかな交響曲。後期三大交響曲が余りにも有名で少々陰に隠れていて、それほど演奏機会は多くないがタイトルが付けられていてモーツァルトの交響曲の中でも親しまれている曲ではある。原曲がモーツァルトがハフナー家の祝宴のために創ったセレナードだったことは解説を読んで知った。多楽章のセレナードが4楽章シンフォニーになり、フルートとクラリネットが加わったそうである。
第1楽章が力強く終わった時に曲の終了と勘違いした客が拍手をしたが、コンサートに慣れていないのだから仕方がないだろう。懲りずに次回も会場に足を運んでほしいと思った。

先月の札響定期で「シューベルト:交響曲第5番」を聴いたばかりだが、今回は「シューベルト:交響曲第6番」。聴く機会の少ない曲が演目に入ると個人的には嬉しい。コンサート前日にムーティ指揮ウィーン・フィルのCDで予め聴いておいたが、シューベルトらしいなかなか良い曲だと思った。

シュトイデ率いる室内オーケストラを通して素晴らしい音楽に触れるコンサート。今回はプログラム構成もあってかウィ-ンの香りが漂う雰囲気を満喫した。ブラヴォー、アンコールの声が飛び交い、いつものコンサートとは一味違う会場の興奮の高まりが通じたのか、盛大な拍手に応えて恐らく予定外の「美しく青きドナウ」を演奏してくれた。これには聴衆も大喜びで一段と大きな歓声が沸き起こった。

※例年より少し高めの鑑賞料金のせいもあって、客の入りが8割を切っていたように思えた。“東北復興チャリティとして売り上げの一部が子供たちへの育成支援のために寄付される”コンサートでもあったのだが、オーケストラ・メンバーの意向が届く広報活動がもう一工夫あっても良かったのではないかと思った。








 
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札響第598回定期演奏会(広上淳一・友情客演指揮者就任記念)

広上淳一は現在、京都市交響楽団常任指揮者兼ミュージック・アドヴァイザー、東京音楽大学指揮科教授を務め、全国各地のオーケストラに客演する他に、オペラ指揮などで日本の音楽界の牽牛役として目覚ましい活躍をしている。京都市響を関西随一のレヴェルに引き上げた手腕も高く評価されている。2012年からは毎年Kitaraのステージで札響に客演している。今年のKitaraのニューイヤーに続いての札響指揮。2017年4月から札響友情客演指揮者に就任。珍しいタイトルであるが、札響に対する深い想いと愛情から日本人指揮者としてを何らかの役割を果たしたい思いに駆られたのではないかと推察する。

2017年4月22日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

《コルンゴルト生誕120周年&没後60年記念》

指揮/広上 淳一     ヴァイオリン/ ダニエル・ホープ
女性合唱/札響合唱団    合唱指揮/長内 勲

〈Program〉
 コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
 ホルスト:組曲「惑星」 op.32

コルンゴルト(1897-1957)の名は現代音楽や映画音楽で知られるアメリカの作曲家と思い込んでいた。最近のコンサートで彼の曲が演奏される機会が増えているようである。3月に漆原啓子がヴァイオリン曲で「から騒ぎ」を弾いた。その時に目にした作曲者の名前の綴りからドイツ系と思った。Korngoldはオーストリア=ハンガリー帝国(現在のチェコ)に生まれ、4歳でウィ-ンに移住。1934年に渡米して映画音楽をたくさん書いた。1943年にアメリカに帰化。近年、コルンゴルトの再評価が進んでいるらしい。
札響初演となったこの曲を1974年2月定期(指揮:秋山和慶、ヴァイオリン:藤原浜雄)で聴いていたことが判った。当時の会場は札幌市民会館で全然記憶に残っていない。余程のことがないと忘れているほうが普通かもしれない。
 
この曲はフーベルマンのために着想されたが、彼の急死でハイフェッツに献呈。初演が1947年、セントルイス響の演奏で行われた。どの楽章も彼が書いた映画音楽が基になっている。ハリウッドで活躍した作曲家の様子も分る理解しやすい現代音楽になっている。ヴァイオリンの名手に捧げた高度な技法が用いられている曲のように思えた。

ヴァイオリンのDaniel Hopeは1974年英国生まれ。メニューインと60回を越す共演を重ねたとされる。数多くの著名なオーケストラや一流演奏家たちと共演を重ね、録音も多く、ラジオやテレビの司会者としても活躍している。
ダニエル・ホープは珍しい曲の演奏で聴衆を魅了し、大喝采を浴びた。アンコールに弾いた曲も今までに聞いたことがなく、普通のクラシック音楽とは違う感じの曲だった。難しいと思われる曲でも集中して聴く耳を持つ日本人の礼儀正しさも常日頃すごいと思っている。

ホルスト(1874-1934)が残した「ジュピター」は人気曲。全7曲から成る組曲を聴く機会はめったにない。札響の全曲演奏は今回が20年ぶりで3回目のようである。2000年にカラヤン指揮ウィーン・フィルのCDで一時は聴き親しんで、10年にレヴァイン指揮シカゴ響のCDで金管の響きを好んだ。その後は殆ど耳にしていないが、ここ数年はPMFのテーマ曲として「ジュピター」は気に入りのメロディとなっている。

壮大な宇宙をテーマにした“THE PLANETS”.。4管編成でホルン6本、多数の打楽器やオルガンも使われ、札響メンバーのほかに30名に近い客演奏者が出演した。
第1曲「火星」は戦争を予感させる緊迫感に満ちたダイナミックな曲。第2曲「金星」は穏やかで安らぎに満ちた平和な曲。第3曲「水星」は陽気で軽やかな曲。第4曲「木星」は6本のホルンが奏でる朗々とした快活な気分の主題で始まる。この楽章は全曲の中心で規模も大きく、英国的な雰囲気が出ている印象を受ける。第5曲「土星」は年老いて感じる想いの曲。第6曲「天王星」は魔術師に導かれるような曲。第7曲「冥王星」は幽玄な雰囲気が漂う神秘的な曲で女性合唱を伴う。

約50分を要する大オーケストラによる演奏を最初から最後まで広上は小柄な体を大きく使ってとてもダイナミックな指揮ぶりだった。拍手大喝采に包まれて、ホルン首席の山田圭祐、オーボエの関美矢子はじめ木管・金管奏者、打楽器奏者たちの健闘を湛え札響の全メンバーに拍手を贈る広上の姿も好ましいものであった。
コンサートの終わりに広上淳一は聴衆に向けて札響の奏でる音楽の素晴らしさを語り、札幌と北海道のオーケストラとして世界に誇るオーケストラのために聴衆とともに彼自身も精進していくと力強い挨拶をした。
 
※彼の挨拶の中で“オーケストラは街のレストランである”という言葉が印象に残った。









 

札響第597回定期演奏会(エリシュカ&札響ブラームス交響曲全曲達成)

ラドミル・エリシュカが2008年4月に札幌交響楽団の首席客演指揮者に就任してから、日本の音楽界に多大な反響を呼び起こした。当初はモーツァルトも定期演奏会プログラムに入っていたが、チェコ音楽シリーズとして最初の6年間はドヴォルジャーク、ヤナーチェクが取り上げられた。ドヴォルジャークの交響曲も「第5番」~「第9番」が演奏された。特に最初の年から年1回、第6番、第7番、第5番の順に日本での演奏回数の少ない交響曲が選曲されたのが印象深い。
エリシュカはシーズン最初の4月定期に客演していた。4年目には東日本大震災の発生で予定のコンサートを辞退した音楽家が多かったが、エリシュカは予定をキャンセルせずに「ドヴォルジャーク:スターバト・マーテル」の祈りの曲を演奏して被災者に捧げた。
5・6年目の「第9番」、「第8番」でドヴォルジャーク交響曲シリーズが終了した。

2013-14シーズンから定期2回の客演がスタート。13年10月、ブラームスの交響曲「第3番」に始まり、14年11月の「第2番」、15年6月の「第4番」と続いて、今回が「第1番」で〈ブラームス交響曲全曲達成〉の運びとなった。

※〈チャイコフスキー後期三大交響曲シリーズ〉は14年4月の「第6番」、16年3月の「第4番」、16年10月の「第5番」で一足先に終わっている。16年3月定期と同プログラムの東京公演が大成功を収めている。

2017年3月11日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

〈PROGRAM〉
 メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」 Op.26
 シューベルト:交響曲第5番 変ロ長調 D485
 ブラームス:交響曲第1番 ハ短調

メンデルスゾーンの有名な演奏用序曲は2つあるが、2作とも「海」を描いた作品でコンサートでも演奏されている。彼が20歳の時にスコットランドを旅行した時に楽想を得たとされる。「フィンガルの洞窟」と「静かな海と幸福な航海」。
「フィンガルの洞窟」の原題は“The Hebrides”(へブリディーズ諸島)。ひどい船酔いのせいか、作曲家自身による洞窟の記述はないとされるが、改訂の過程で出版者がスタッフ島の景勝「フィンガルの洞窟」(Fingal's cave)というタイトルとなったようである。
穏やかな海の様子がゆったりとした動きで美しく描かれるが、旅の不安も繰り返し出現する。絵画的表現とともに美しい音楽に浸れた。親しみやすい名曲である。

シューベルトの8つの交響曲のうち、「第7番 未完成」と「第8番 ザ・グレイト」は演奏機会も多くて最も親しまれている。この2曲以外はコンサートで聴く機会が殆ど無い。ムーテイ指揮ウィーン・フィルのシューベルト交響曲全集も輸入盤で全曲持っているが、数回耳にして聞き流す程度では曲の良さは分らないままである。
コンサートで聴くのは初めてのような気がする。ウイーン生まれのシューベルトがハイドンやベートーヴェンの流れの中で作り上げたウィーン風の曲の感じで、特に美しい優しい音楽が紡がれた。こじんまりとしているが、エリシュカが丁寧にメリハリを付けて曲をまとめた。彼はやはり巨匠といえる大指揮者として、どんな作曲家の曲でも聴かせる術を手にしていると思った。生で聴くと生き生きした音楽となる。「第5番」はこんなに良い曲なのだと印象付けられた。

ブラームスの交響曲は今では4曲ともに気に入っているが、昔はLPで親しんだせいで「第1番」が大のお気に入りであった。第4楽章の旋律は何とも言えなくて、そのメロディを耳にすると自然と心が浮き立って来る。
ブラームスが21年の長きにわたって練り上げて完成した「第1番」。ウィーン古典派のスタンダードを継承して書き上げた英雄的で堂々たる音楽。
1月21日、ベルリン・フィル・デジタル・コンサートホールでブロムシュテット指揮による「ブラームス:交響曲第1番」を堪能した余韻が今も脳裏にある。演奏終了後の15分ほどのインタビューでメロディを口ずさみながら話すブロムシュテットの姿が焼き付いたのと、本日の休憩後の開演直前に寒気を感じてくしゃみが出そうになったことが重なって、曲への集中力を聊か欠いてしまったのが残念ではあった。

重厚で力強く、緊張感あふれる第1楽章、静けさに満ちた第2楽章、詩的で牧歌的な第3楽章、第4楽章は暗い序奏で始まるが、暗さを一掃するホルンの安らぎに満ちた吹奏が極めて印象的。讃美歌のようで国家を統一するようなメロディはベートーヴェンの第9交響曲の“歓喜の主題”に似ているといわれる所以。(*ベートーヴェンの第10交響曲と呼ばれる理由にもなっている。)山田圭祐が吹くホルンは秀逸! トロンボーンが最終楽章で活躍するが、木管・金管の響きがティンパニ、弦楽器とのハーモニーと合わさって壮大な音楽を作り上げた。
まもなく86歳を迎えるエリシュカが生気溢れるタクトでオーケストラからまるで魔術師のように生き生きとした音楽を作り出し、オーディエンスをカリスマ性で包み込む姿は感動的である。

※2016年1月ー12月の定期演奏会の会員アンケートの集計結果が発表になった。第1位が10月定期(エリシュカ指揮、チャイコフスキー第5番 ほか)、第2位が3月定期(エリシュカ指揮、チャイコフスキー第4番 ほか)、第3位が9月定期(ポンマー指揮、モーツァルトのレクイエム ほか)。「音楽の友」誌でも外国からの来日指揮者のリストに名が入るエリシュカとポンマーの2人は札響が誇るべき世界的指揮者と言えるようである。

※「音楽の友」の2009年コンサート・ベストテンで36人の音楽評論家と音楽記者のうち3人がエリシュカ指揮による九響、N響、札響の演奏「わが祖国」を選んでいる。1人は10月31日、札響名曲シリーズ「わが祖国」をベストワンに選んだ。36人が札幌や福岡で鑑賞する可能性は低いにも拘わらずに選出されている重みは大といえる。

※来週火曜日、3月14日の東京公演が東京芸術劇場コンサートホールで今回の札響定期と同じプログラムで行われる予定である。東京のエリシュカ・ファンと札響ファンの期待に応える成果を願う。

新進演奏家育成プロジェクト オーケストラ・シリーズ 第36回札幌

文化庁・日本演奏家連盟・札幌交響楽団が主催するプロジェクトとして昨年になって初めて知ったオーケストラ・シリーズ。平成28年度オーディションで選ばれた5名の新人演奏家が札響と協演するコンサート。時間があれば瑞々しい若者の演奏を耳にするのも楽しい。
円光寺雅彦は45歳ごろの98ー02年に札響正指揮者を務めて若手の指揮者として活躍してKitaraで聴く機会も比較的多かった。国内オーケストラへの客演も多く、現在は名古屋フィル正指揮者、桐朋学園大学院大学特別招聘教授。彼の指揮ぶりを見るのは今回が8回目。

2017年2月16日(木) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ 円光寺 雅彦    管弦楽/ 札幌交響楽団

【1部】
 田中 望末(ピアノ)
   メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲第1番 ト短調 作品25
 吉田 真樹子(ソプラノ)
   ビゼー:歌劇「カルメン」より “ミカエラのアリア”、“不安にさせるものなどない”
 三輪 主恭(バリトン)
   ベッリーニ:歌劇「清教徒」より “あぁ! 永遠に私はあなたを失ってしまった”
   ヴェルディ:歌劇「ドン・カルロ」より “私の最後の日”
【2部】
 佐藤 友美(フルート)
   ライネッケ:フルート協奏曲 ニ長調 作品283
 島方 瞭(ヴァイオリン)
   ドヴォルジャーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品53

昨年に続いて2回目の『新進演奏家育成プロジェクト オーケストラ・シリーズ』を聴いたが、さすが厳しいオーディションに合格して選ばれた演奏家だけあって満足度の高いコンサート。プロを目指す若者のレヴェルの高さと音楽の広がりを感じた。今までのシリーズで2人の札響楽団員が出演していることからもレヴェルの高さが推し量れる。
公演冊子によると、札幌のオーディション参加者は30名(ピアノ10名、声楽6名、弦楽器4名、管打楽器10名)。

声楽の2名は学業を終えて、プロとして音楽活動を展開しているようである。歌手活動を続けるには声を磨くだけでなく、演唱に耐えれる体力も必要らしい。海外のオペラ歌手の容姿を見慣れるとスタイルにこだわっていられない気がする。
三輪はステージ・マナーを含めて堂々たる歌声で聴衆を魅了した。将来を嘱望されるバリトン歌手への成長が大いに期待される。吉田の歌も良かったが、オペラの主役のアリアを歌ってくれた方が聴衆の心に響くのかなと感じた。

「ライネッケ:フルート協奏曲」は昨年のコンサートで一度耳にしたこともあって、聴きやすかった。プロと同レヴェルの熱演で相当な実力の持ち主。フルートという楽器の魅力が伝わった。

メンデルスゾーンとドヴォルジャークの協奏曲は久しぶりで耳にする。最近の演奏会でも耳にすることもなく、自宅でCDを聴くことも暫くなかった。それだけに新鮮な気持ちで聴けた。
コンサートの最初に登場した田中は溌溂とした演奏で切れ目なく続く楽章を力強く引き切った。メンデルスゾーンは多方面にわたって才能を発揮したが、ピアノ曲では他の作曲家のような特徴が読み取れない。単純で爽やかで、整然としたスタイルで書かれているように思った。ピアノ協奏曲としてもっと変化に富んだ曲の方が味わいがある。技量は示せる曲ではあるが、聴く者の心に響く曲として少々物足りないものを感じた。

コンサートの取りを務めた島方はドヴォルジャークが残した唯一のヴァイオリン協奏曲を熱演した。正に満を持して披露した演奏は圧巻であった。メロディメーカーとして秀でたドヴォルジャークの美しい旋律、ボヘミアの民俗音楽に満ちたスラヴの音楽的魅力が満喫できる曲。演奏終了後にはブラヴォーの声も上がった。ホルンの響きとともに演奏する場面が何度かあって特別な感慨もあった。(*父と子の共演かなと類推したが確かではない。)
桐朋学園大学1年在学中で今後の活躍が楽しみである。

5人の演奏家にはオーケストラをバックに演奏した喜びを大切にして今後の一層の精進を期待したい。

※メンデルスゾーンのピアノ協奏曲には思い出がある。2002年5月にぺライアがアカデミー室内管を率いて来札した折に、演奏会終了後のサイン会が小ホールのエントランスの廊下で行われた。(*大ホールのホワイエが10時には閉められるのでサイン会の会場が移された。) その時に「バッハ:ピアノ協奏曲第1・2・4番」と「メンデルゾーン:ピアノ協奏曲第1・2番」の2枚のCDを購入し、丁寧に書かれたフルネームのサインをもらって嬉しい対応があったのが今でも忘れられない。その感激を5年前のブログに書いた。

※ドヴォルジャークのヴァイオリン協奏曲のCDはブダペスト祝祭管弦楽団が諏訪内晶子とKitaraで演奏会を開いた2000年5月に買い求めた。イヴァン・フィッシャーとゾルタン・コチシュが設立したオーケストラ。コンサートで諏訪内のCDを買ったが、サインはフィッシャーのものだった。(:*最近のブログではコチシュとハンガリーに関しての記述が偶々続いている。)

記憶をたどって昔のプログラムを読み返すのも楽しみになっている。暇な時間があるからできることなのだろう。

札響名曲シリーズ2016-17 Vol.5 さっぽろ(高関健&牛田智大)

森の響フレンドコンサート 《さっぽろ:雪あかりの物語》

今シーズンの名曲シリーズの都市物語は今回が最終回。北海道は真冬の只中。今冬は雪の多さと厳しい寒さに身もこごむ。札幌をはじめ、小樽、旭川、紋別など北海道のあちこちの都市で冬を少しでも楽しく過ごす祭りが行われる。夜は雪あかりが街を彩る。「さっぽろ」と作曲家の繋がりはないが北海道の自然と似た風土を持つ北欧で厳しくも美しい自然の中で一生を過ごして名曲を遺した作曲家の想いに心を通わせた。

2016年2月4日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ 高関 健     ピアノ/牛田 智大    管弦楽/ 札幌交響楽団

高関は2003年から2012年まで札響正指揮者を務めた。現在は東京シティ・フィル常任指揮者、京都市響常任客演指揮者、群馬響名誉指揮者。東京藝大指揮科教授としても後進の指導に当たっているが、前回のKitaraでは新進演奏家育成プロジェクトに出演していた。札響指揮を目にするのは今回が30回目。14年5月札響定期での伊福部昭・生誕100年記念プログラムの印象が鮮烈である。

牛田は4年前のリサイタルが鮮烈な足跡を残した。“可愛いい”という声がコンサートの最初から最後まで耳に飛び込んできた珍しいコンサートだった。14歳の少年が奏でるピアニズムは驚嘆に値した。その頃に私が書いたブログは反響を呼んだようであった。彼はモスクワ音楽院ジュニア・カレッジに現在も在籍中。2014年のウィーン室内管とは「ショパン:ピアノ協奏曲第2番」を演奏した。(*今年の秋、2日連続で当時のヴラダー指揮ウィーン室内管が札響首席奏者とコンチェルトの調べ)。牛田の演奏は精神的にも成熟しているものだった。2015年にはプレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管の日本公演でソリストを務めて絶賛を浴びた。

〈Program〉
 グリーグ:「ベールギュント」第1組曲 作品46
 ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21(ピアノ/牛田智大)
 シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 作品43

19世紀にデンマークの支配下にあったノルウエーが独立を求めて自らのアイデンティティーを確立しようとしていた動きがあった。「人形の家」などの戯曲で知られるイプセン(1828-1906)が書いた詩劇「ペール・ギュント」は民族ロマン的主題を自然主義の筆致で綴った。劇付随音楽の委嘱を受けたグリーグ(1843-1903)は30曲ほどの小品を再構成して「第1組曲4曲」と「第2組曲4曲」を作り上げた。音楽は劇の進行と関係がないが、グリーグの管弦楽作品として人気が高い。
第1曲「朝のすがすがしさ」は牧歌的な音楽、第2曲「オーセの死」は悲しみの音楽で弦楽器合奏、第3曲「アニトラの踊り」は東洋的なマズルカ舞曲、第4曲「山の魔王の宮殿にて」はグロテスクで荒々しい音楽。

ショパンが最初に書いたピアノ協奏曲。「第1番」が「第2番」より先に出版されたため、番号に違いがある。ショパン国際コンクールなどでは「第1番」を選んで演奏するピアニストが多い。「第2番」は全体的に淡い詩情性豊かな作品。ショパン初恋の人、コンスタンツィア・グラドコフスカに対する恋慕の情が動機となって書かれたと言われる曲。
牛田は前回のコンサートの折に“「第1番」より感情移入しやすく、自分の原点と言える曲”と述べていた。東日本大震災の折に祖父母のことを思って「第2番」を弾き始めたというから、彼にとって思い入れのある協奏曲なのだろう。
今日は最初の第1音から音色が生き生きとして心が動かされる響き。ほぼ満員の聴衆が息をのんで聴き入る35分間を圧倒的な魅力あふれるピアニズムで綴った。彼は常に楽しそうに情感豊かに音を紡ぐ。いくら音楽的に成熟しているとは言え、前回までは幼い感じが拭えなかったが、今回はまことに堂々たる演奏に感服した。
2015年のショパン国際コンクールでチョ・ソンジンと優勝を競ったシャルル・リシャール=アムランが昨年1月の入賞者ガラ・コンサートでも「第2番」を弾いて聴衆を魅了したが、彼は牛田より10歳年上。それぞれの音楽性に違いがあるといっても、16歳の若者は素人にも分かる音楽性の豊かさには称賛の言葉が見つからない。
演奏終了後のホールを包んだ独特の空気感は前例がないほどのものであった。期待感はあってもこれほど凄いとは、改めて音楽の素晴らしさを味わった人も多かったのではないだろうか。度肝を抜かれた聴衆のアンコールの声に応えての曲は「ショパン:幻想即興曲」。聴きなれたメロディが聴く者の心奥深くに美しく響いた。

シベリウス(1865-1957)の曲は北海道の冬に良く似合う。「交響曲第2番」は彼の交響曲全7曲の中でも最も有名で人気がある。生誕150年の折には尾高名誉音楽監督による交響曲チクルスも行われ、他の曲にも親しむ機会もあった。それでも「第2番」が演奏されると一層親しみを覚える。訪れたことはない国ではあるが、フィンランドの自然を身近に感じる機会ともなる。何度聴いてもこの曲の良さが伝わる。フィナーレのトランペット、トロンボーン、ホルンなどのブラス・セクションの豪快な響きを肌で感じた。

高関のタクトは丁寧で安定感がある。定期演奏会とは少々違う雰囲気の名曲コンサートをいつもと違う座席から鑑賞したが、個人的には同じ座席ばかりからの鑑賞は好みではないので、変化があって良かった。
アンコール曲は〈シベリウス:組曲「恋人」より 第1曲「恋人」〉(弦楽オーケストラと打楽器)。


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fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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