新進演奏家育成プロジェクト オーケストラ・シリーズ 第36回札幌

文化庁・日本演奏家連盟・札幌交響楽団が主催するプロジェクトとして昨年になって初めて知ったオーケストラ・シリーズ。平成28年度オーディションで選ばれた5名の新人演奏家が札響と協演するコンサート。時間があれば瑞々しい若者の演奏を耳にするのも楽しい。
円光寺雅彦は45歳ごろの98ー02年に札響正指揮者を務めて若手の指揮者として活躍してKitaraで聴く機会も比較的多かった。国内オーケストラへの客演も多く、現在は名古屋フィル正指揮者、桐朋学園大学院大学特別招聘教授。彼の指揮ぶりを見るのは今回が8回目。

2017年2月16日(木) 19:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ 円光寺 雅彦    管弦楽/ 札幌交響楽団

【1部】
 田中 望末(ピアノ)
   メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲第1番 ト短調 作品25
 吉田 真樹子(ソプラノ)
   ビゼー:歌劇「カルメン」より “ミカエラのアリア”、“不安にさせるものなどない”
 三輪 主恭(バリトン)
   ベッリーニ:歌劇「清教徒」より “あぁ! 永遠に私はあなたを失ってしまった”
   ヴェルディ:歌劇「ドン・カルロ」より “私の最後の日”
【2部】
 佐藤 友美(フルート)
   ライネッケ:フルート協奏曲 ニ長調 作品283
 島方 瞭(ヴァイオリン)
   ドヴォルジャーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品53

昨年に続いて2回目の『新進演奏家育成プロジェクト オーケストラ・シリーズ』を聴いたが、さすが厳しいオーディションに合格して選ばれた演奏家だけあって満足度の高いコンサート。プロを目指す若者のレヴェルの高さと音楽の広がりを感じた。今までのシリーズで2人の札響楽団員が出演していることからもレヴェルの高さが推し量れる。
公演冊子によると、札幌のオーディション参加者は30名(ピアノ10名、声楽6名、弦楽器4名、管打楽器10名)。

声楽の2名は学業を終えて、プロとして音楽活動を展開しているようである。歌手活動を続けるには声を磨くだけでなく、演唱に耐えれる体力も必要らしい。海外のオペラ歌手の容姿を見慣れるとスタイルにこだわっていられない気がする。
三輪はステージ・マナーを含めて堂々たる歌声で聴衆を魅了した。将来を嘱望されるバリトン歌手への成長が大いに期待される。吉田の歌も良かったが、オペラの主役のアリアを歌ってくれた方が聴衆の心に響くのかなと感じた。

「ライネッケ:フルート協奏曲」は昨年のコンサートで一度耳にしたこともあって、聴きやすかった。プロと同レヴェルの熱演で相当な実力の持ち主。フルートという楽器の魅力が伝わった。

メンデルスゾーンとドヴォルジャークの協奏曲は久しぶりで耳にする。最近の演奏会でも耳にすることもなく、自宅でCDを聴くことも暫くなかった。それだけに新鮮な気持ちで聴けた。
コンサートの最初に登場した田中は溌溂とした演奏で切れ目なく続く楽章を力強く引き切った。メンデルスゾーンは多方面にわたって才能を発揮したが、ピアノ曲では他の作曲家のような特徴が読み取れない。単純で爽やかで、整然としたスタイルで書かれているように思った。ピアノ協奏曲としてもっと変化に富んだ曲の方が味わいがある。技量は示せる曲ではあるが、聴く者の心に響く曲として少々物足りないものを感じた。

コンサートの取りを務めた島方はドヴォルジャークが残した唯一のヴァイオリン協奏曲を熱演した。正に満を持して披露した演奏は圧巻であった。メロディメーカーとして秀でたドヴォルジャークの美しい旋律、ボヘミアの民俗音楽に満ちたスラヴの音楽的魅力が満喫できる曲。演奏終了後にはブラヴォーの声も上がった。ホルンの響きとともに演奏する場面が何度かあって特別な感慨もあった。(*父と子の共演かなと類推したが確かではない。)
桐朋学園大学1年在学中で今後の活躍が楽しみである。

5人の演奏家にはオーケストラをバックに演奏した喜びを大切にして今後の一層の精進を期待したい。

※メンデルスゾーンのピアノ協奏曲には思い出がある。2002年5月にぺライアがアカデミー室内管を率いて来札した折に、演奏会終了後のサイン会が小ホールのエントランスの廊下で行われた。(*大ホールのホワイエが10時には閉められるのでサイン会の会場が移された。) その時に「バッハ:ピアノ協奏曲第1・2・4番」と「メンデルゾーン:ピアノ協奏曲第1・2番」の2枚のCDを購入し、丁寧に書かれたフルネームのサインをもらって嬉しい対応があったのが今でも忘れられない。その感激を5年前のブログに書いた。

※ドヴォルジャークのヴァイオリン協奏曲のCDはブダペスト祝祭管弦楽団が諏訪内晶子とKitaraで演奏会を開いた2000年5月に買い求めた。イヴァン・フィッシャーとゾルタン・コチシュが設立したオーケストラ。コンサートで諏訪内のCDを買ったが、サインはフィッシャーのものだった。(:*最近のブログではコチシュとハンガリーに関しての記述が偶々続いている。)

記憶をたどって昔のプログラムを読み返すのも楽しみになっている。暇な時間があるからできることなのだろう。
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札響名曲シリーズ2016-17 Vol.5 さっぽろ(高関健&牛田智大)

森の響フレンドコンサート 《さっぽろ:雪あかりの物語》

今シーズンの名曲シリーズの都市物語は今回が最終回。北海道は真冬の只中。今冬は雪の多さと厳しい寒さに身もこごむ。札幌をはじめ、小樽、旭川、紋別など北海道のあちこちの都市で冬を少しでも楽しく過ごす祭りが行われる。夜は雪あかりが街を彩る。「さっぽろ」と作曲家の繋がりはないが北海道の自然と似た風土を持つ北欧で厳しくも美しい自然の中で一生を過ごして名曲を遺した作曲家の想いに心を通わせた。

2016年2月4日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ 高関 健     ピアノ/牛田 智大    管弦楽/ 札幌交響楽団

高関は2003年から2012年まで札響正指揮者を務めた。現在は東京シティ・フィル常任指揮者、京都市響常任客演指揮者、群馬響名誉指揮者。東京藝大指揮科教授としても後進の指導に当たっているが、前回のKitaraでは新進演奏家育成プロジェクトに出演していた。札響指揮を目にするのは今回が30回目。14年5月札響定期での伊福部昭・生誕100年記念プログラムの印象が鮮烈である。

牛田は4年前のリサイタルが鮮烈な足跡を残した。“可愛いい”という声がコンサートの最初から最後まで耳に飛び込んできた珍しいコンサートだった。14歳の少年が奏でるピアニズムは驚嘆に値した。その頃に私が書いたブログは反響を呼んだようであった。彼はモスクワ音楽院ジュニア・カレッジに現在も在籍中。2014年のウィーン室内管とは「ショパン:ピアノ協奏曲第2番」を演奏した。(*今年の秋、2日連続で当時のヴラダー指揮ウィーン室内管が札響首席奏者とコンチェルトの調べ)。牛田の演奏は精神的にも成熟しているものだった。2015年にはプレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管の日本公演でソリストを務めて絶賛を浴びた。

〈Program〉
 グリーグ:「ベールギュント」第1組曲 作品46
 ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21(ピアノ/牛田智大)
 シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 作品43

19世紀にデンマークの支配下にあったノルウエーが独立を求めて自らのアイデンティティーを確立しようとしていた動きがあった。「人形の家」などの戯曲で知られるイプセン(1828-1906)が書いた詩劇「ペール・ギュント」は民族ロマン的主題を自然主義の筆致で綴った。劇付随音楽の委嘱を受けたグリーグ(1843-1903)は30曲ほどの小品を再構成して「第1組曲4曲」と「第2組曲4曲」を作り上げた。音楽は劇の進行と関係がないが、グリーグの管弦楽作品として人気が高い。
第1曲「朝のすがすがしさ」は牧歌的な音楽、第2曲「オーセの死」は悲しみの音楽で弦楽器合奏、第3曲「アニトラの踊り」は東洋的なマズルカ舞曲、第4曲「山の魔王の宮殿にて」はグロテスクで荒々しい音楽。

ショパンが最初に書いたピアノ協奏曲。「第1番」が「第2番」より先に出版されたため、番号に違いがある。ショパン国際コンクールなどでは「第1番」を選んで演奏するピアニストが多い。「第2番」は全体的に淡い詩情性豊かな作品。ショパン初恋の人、コンスタンツィア・グラドコフスカに対する恋慕の情が動機となって書かれたと言われる曲。
牛田は前回のコンサートの折に“「第1番」より感情移入しやすく、自分の原点と言える曲”と述べていた。東日本大震災の折に祖父母のことを思って「第2番」を弾き始めたというから、彼にとって思い入れのある協奏曲なのだろう。
今日は最初の第1音から音色が生き生きとして心が動かされる響き。ほぼ満員の聴衆が息をのんで聴き入る35分間を圧倒的な魅力あふれるピアニズムで綴った。彼は常に楽しそうに情感豊かに音を紡ぐ。いくら音楽的に成熟しているとは言え、前回までは幼い感じが拭えなかったが、今回はまことに堂々たる演奏に感服した。
2015年のショパン国際コンクールでチョ・ソンジンと優勝を競ったシャルル・リシャール=アムランが昨年1月の入賞者ガラ・コンサートでも「第2番」を弾いて聴衆を魅了したが、彼は牛田より10歳年上。それぞれの音楽性に違いがあるといっても、16歳の若者は素人にも分かる音楽性の豊かさには称賛の言葉が見つからない。
演奏終了後のホールを包んだ独特の空気感は前例がないほどのものであった。期待感はあってもこれほど凄いとは、改めて音楽の素晴らしさを味わった人も多かったのではないだろうか。度肝を抜かれた聴衆のアンコールの声に応えての曲は「ショパン:幻想即興曲」。聴きなれたメロディが聴く者の心奥深くに美しく響いた。

シベリウス(1865-1957)の曲は北海道の冬に良く似合う。「交響曲第2番」は彼の交響曲全7曲の中でも最も有名で人気がある。生誕150年の折には尾高名誉音楽監督による交響曲チクルスも行われ、他の曲にも親しむ機会もあった。それでも「第2番」が演奏されると一層親しみを覚える。訪れたことはない国ではあるが、フィンランドの自然を身近に感じる機会ともなる。何度聴いてもこの曲の良さが伝わる。フィナーレのトランペット、トロンボーン、ホルンなどのブラス・セクションの豪快な響きを肌で感じた。

高関のタクトは丁寧で安定感がある。定期演奏会とは少々違う雰囲気の名曲コンサートをいつもと違う座席から鑑賞したが、個人的には同じ座席ばかりからの鑑賞は好みではないので、変化があって良かった。
アンコール曲は〈シベリウス:組曲「恋人」より 第1曲「恋人」〉(弦楽オーケストラと打楽器)。


札響第596回定期演奏会(ポンマーのバッハ『管弦楽組曲』全集)

札響初のバッハ「管弦楽組曲全曲演奏」はシーズン当初のプログラム発表時から注目していた。
ポンマーにとってJ.S.バッハは神だという。“アーノンクールのバッハ演奏はウィーンのバッハ、私はライプツィヒのバッハを演奏する”と語るポンマーのバッハ解釈によるコンサート。

2017年1月28日(土) 14:00開演 札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/ マックス・ポンマー(Max Pommer)
フルート/ 高橋 聖純(Seijun Takahashi)(札幌交響楽団首席奏者)
チェンバロ/ 辰巳 美納子(Minako Tatsumi)

管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068
管弦楽組曲 第2番 ロ短調 BWV1067 (フルート独奏/ 高橋 聖純)
管弦楽組曲 第1番 ハ長調 BWV1066
管弦楽組曲 第4番 ニ長調 BWV1069

日本で最も多く演奏されるクラシック音楽の作曲家はベートーヴェンとモーツァルト。音楽雑誌の統計によると二人が毎年1・2位を争う。3位がバッハ。私自身のCD所有枚数もベートーヴェンとモーツァルトが断然1・2位を占める。バッハの曲で最も聴きなれているのはヴァイオリン曲。管弦楽曲に関しては「ブランデンブルク協奏曲」と「管弦楽組曲」をコンサートの曲目として演奏される機会に改めてCDで聴く程度である。今回は所有しているバウムガルトナー指揮ルツェルン弦楽合奏団のCD(第2番のフルートはオーレル・ニコレ)を数回繰り返して聴いてみた。(*ニコレは昨年1月90歳で亡くなった。1969年札響4月定期に出演した際の音源を数年前に札響くらぶの会合で耳にして感激したことを思い出した。)

先日、「第3番」をデジタル・コンサートホールで“聴いて観る”機会があった。16日にベルリン・フィルハーモニーでブンデスユーゲント管(National Youth Orchestra of Germany)による宗教改革500周年記念演奏会が行われた。指揮がアレクサンダー・シェリーで12年12月札響定期に客演した英国の若手指揮者だと気づいた。全曲にバレエが付いていたのが興味を引いた。ヨーロッパの斬新な芸術的な試みだと感じた。成程と思い直したのは、この組曲はドイツの民衆の間で発展してきた舞踏音楽と華麗なフランスの宮殿音楽を組み合わせたものである。20分程度の各曲はフランス風序曲で始まる。

「第3番」は序曲、エール、ガヴォット、ブーレ、ジーグから成る。3本のトランペット、ティンパニ、2本のオーボエ、チェンバロ、弦5部の楽器編成。トランペットが高らかに響き渡る壮麗な序奏で始まり、前列に陣取ったオーボエに弦が加わる。序曲は曲の半分ぐらいを占める。第2曲「エール(アリア)」は弦楽合奏だけで演奏される抒情的な調べ。チェンバロの旋律も魅力的。ドイツのヴァイオリニスト、ヴィルへルミがヴァイオリンのG線だけで演奏できるように編曲し、「G線上のアリア」として広く親しまれている。この後で活発な舞曲が3曲続いて、明るい雰囲気を盛り上げる。勇壮で華麗な曲。

「第2番」は序曲、ロンド、サラバンド、ブレー、ポロネーズ、メヌエット、パディヌリ。独奏フルート、チェンバロ、弦5部の編成。花形楽器フルートが曲全体で主導権を握る。優雅さに溢れた曲。サラバンドではフルートとチェンバロの間でカノンが歌われ、ヴァイオリンとヴィオラも魅力的な旋律を奏でる。繊細さがあふれ出る調べ。聴いていて自然と舞曲に乗って踊りたくなるような軽やかな旋律は心地が良い。終曲のパディヌリは“冗談”を意味するフランス語で舞曲ではない。弦のスタッカート伴奏を従えて、フルートが飛ぶような軽快な旋律で曲を終える。
4曲中で最も親しまれている曲。四十路を超えた高橋が期待通りの名演。フルートの魅力が横溢した曲で聴衆を魅了。長身で堂々たる体躯でのステージ映えする高橋の容姿は名演を浮き上がらせた。実に堂々として世界一流のソリストに負けない演奏だと感じた。5年前の札響特別演奏会では尾高尚忠のフルート協奏曲を披露した。暗譜で現代曲を吹き切って素晴らしい演奏だった。今回の演奏終了後には力強いブラヴォーの声が飛び、感動した人々の途切れない拍手大喝采は近来にない名曲の演奏でホールに詰めかけた人々の心を揺さぶった。高橋聖純は札響定期演奏会での活躍ぶりを通して会員の高い評価も定着している。今回はソリスト・指揮者・オーケストラ・聴衆の一体感で音楽が作り上げられた印象を強くした。鳴りやまない拍手にカーテンコールが繰り返され、アンコール曲に第7曲「バディヌリ」を再び演奏。フルーティスト自身にも聴衆の感動の心が伝わったと思った。

「第1番」は序曲、クーラント、ガヴォット、フォルラーヌ、メヌエット、ブレー、バスピエ。楽器編成はオーボエ2、ファゴット、チェンバロ、弦5部。バロック時代にはクラリネットの楽器はまだ無く、オーボエが主要な木管楽器だったことが分かる。
流れるようなリズムのクーラント、快活なガヴォット、ヴェネツィアの踊りに由来する活発な動きのフォルラーヌ、平明なメヌエット、軽快で歯切れのよいブレー、終曲はブリュターヌ起源の陽気なバスキエ。オーボエの響きが心地よかった。

「第4番」は序曲、ブレー、ガヴォット、メヌエット、レジュイサンス。4曲中で最も大きな楽器編成。3本のオーボエとファゴットの独奏グループと弦楽器群の対比が特徴。3本のトランペット、ティンパニ、チェンバロも加わる。今回が札響初演とはいえ、昨年10月末にムジカ・アンティカ・サッポロがKitara小ホールで演奏している。
トランペットのファンファーレで始まる威風堂々たる華やかな序曲。ブーレではオーボエ群とファゴットだけのアンサンブルもあって違う雰囲気が醸し出される。ガボットは全楽器による演奏。メヌエットは組曲中のオアシスともいえる典雅な調べ。レジュイサンスは舞曲ではなく“歓喜”を意味する言葉で、明るく溌溂としてユーモアに富んだフィナーレ。テンポが速くて勢いのある娯楽性に富んだ曲。

バロック音楽を存分に満喫できた演奏会となった。30名程度のオーケストラ・メンバーだけで全曲目が演奏されるのも珍しい。大編成のオーケストラによる音楽とは違う楽しい陽気な雰囲気の札響演奏会も変化があって良かった。バッハ当時の楽譜をめぐって専門的にはいろいろな経過はあるようであるが、ともかくライプツィヒ生まれでバッハ音楽研究に基づいてポンマーが満を持して札響と演奏した《管弦楽組曲》は素晴らしかった。

客の入りも最近ではいつもより良く3階席も結構埋まっているように思えた。毎回同じ決まった席だが今回は周囲にいつもと違う人の姿も少し見えた。定期演奏会で目にする招待の中学生の姿の代わりにバロック音楽とフルート奏者に関心が集まって聴きに来た学生の姿にも多く出会った。

Kitaraのレセプショニストの対応が一段と向上しているのがコンサートの入退場時に気づく。開館以来、他のコンサート会場ではない客への心のこもった対応は20年も経つと退化しがちだが、入退場での温かい言葉や心遣いには感心している。“お寒い中よくいらっしゃいました”、“お気をつけてお帰りください”などの言葉かけは素晴らしい。ホール内やホワイエの対応は開館当初と基本的に変わらないが、エントランス・ホールでの対応が見違えて良くなった。お客様対応の人数を増やしているのかもしれない。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて“おもてなし”の心に一段と磨きがかかるとしたら喜ばしいことである。
東京サントリーホールをモデルにして始まったレセプショニストの活動が気持ちの良い音楽鑑賞に関わる影響は大である。関係者のご努力に感謝するとともに今後も進化した活動を目指してほしい。

Kitaraランチタイムコンサート 《モーツァルトはお好き?》

1月27日はモーツァルトの誕生日。彼の261回目の誕生日にあたる。【モーツァルトはお好き?】のコンサートを聴くのは2014年、16年に続いて3度目。札幌音楽協議会メンバーによるオール・モーツァルト・プログラム。

2017年1月27日(金) 13:00開演  札幌コンサートホールKitara小ホール

指揮/ 阿部博光     ソプラノ/ 土谷 香織、 矢野 愛実
管弦楽/ 札幌音楽協議会室内オーケストラ    お話/ 八木 幸三

〈プログラム〉
 歌劇《フィガロの結婚》より
     「序曲」、「やっと待ってた時が来た」、「さあ早く来て、愛しい人よ」
 歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》より
     二重唱「ねえ、見てよほら」、 「岩のように動かずに」
 交響曲 第39番 変ホ長調 K.543

札幌の音楽界で作曲家・音楽評論家として八面六臂の活躍を見せる八木幸三氏が進行役を務めて楽しい雰囲気のうちに進められるコンサートもすっかりお馴染みになった。
色鮮やかなドレスに身を包んだ女性演奏陣の姿を初めて目にする観客から一瞬どよめきが起こった。ステージでオーケストラ・メンバー大勢の華やかな衣装を見る機会など稀である。

今回のプログラムの特徴はオペラ。演奏会のアンコール曲としても聴くことも多い《フィガロの結婚》序曲で幕開け。喜歌劇の陽気で浮き立つ雰囲気が醸し出された。
オペラの第4幕の山場で歌われるスザンナの歌が2曲。ソプラノは矢野愛実。初々しい姿で登場して、透明感のある歌声でレチタティーボ「やっと待ってた時が来た」とアリア「さあ早く来て、愛しい人よ」を熱唱した。まだ舞台慣れしていない新人のようであったが、場を踏んでの成長を期待したい。

《コジ・ファン・トゥッテ(女はみんなこうしたもの)》も《フィガロの結婚》と同じように他愛もないストーリーだが、どの時代にも当てはまる人間の恋愛模様を描いたオペラ。モーツァルトのオペラ作品でも人気が高く上演機会も多い。女は貞淑なわけがないと主張する老哲学者が、互いの恋人の気持ちを試そうと、二人の男たちに別人のふりをさせるオペラ・ブッファ。内容はつまらないがオペラ中の音楽が聴きものではある。
歌劇の第1幕で歌う土谷香織の歌声は艶やかで声量があり、堂々とした二重唱となった。華やかなコロラトゥーラは素晴らしかった。アリア「岩のように動かずに」もコロラトゥーラを駆使して魅力ある歌声となってホールに響いた。土谷の名は聞いたことがあるので経験豊富で実力のあるソプラノ歌手だと思った。

「交響曲第39番」はモーツァルトの晩年に書かれた後期三大交響曲の一つ。明るくてロマンティックな雰囲気の曲。この曲の楽器編成ではオーボエが使われていなく、木管ではクラリネット2本の音色を際立たせているようである。
緩やかなアダージョの序奏後は明るい旋律がアレグロで駆け抜ける。第2楽章はアンダンテ、第3楽章がメヌエット。第4楽章は躍動感のあるフィナーレ。

1時間のコンサートがアッという間に過ぎた。1週間ほど前に今まで罹ったことのないインフルエンザで病院に通った。幸い軽くて高熱が出ないうちに治ったが、その間、書斎に床をとって睡眠時間も多くして体を休めた。通院を除いて家に籠りっきりで体も何となくだるくて体調が良くなかった。昨夜は早寝して今日のコンサートに備えた。今日も音楽が体調を戻してくれたようであった。





Kitaraのニューイヤー2017(広上淳一&三浦文彰)

2012~15年まで4年連続して〈Kitaraのクリスマス〉に登場していたマエストロ広上が、今年は新年を祝う〈Kitaraのニューイヤー〉のステージに登場。十年ほど前までは世界を舞台に欧米で大活躍していたマエストロが本拠地を日本に移した。08年から京都市交響楽団の常任指揮者に就任して同響のレヴェルを飛躍的に押し上げた。国内では日本フィル正指揮者(1991-2000)を務め、札響との共演も増え2012年からは毎年途切れることなく来演が続いている。京都市響ではミュージック・アドヴァイザーも兼任。東京音楽大学指揮科教授も務めながら後進の指導に意欲的に取り組んでいる。私の好きなタイプの指揮者である。パーヴォ・ヤルヴィとともに指揮者を目指す若者の指導に当たっている様子をテレビで見て一層頼もしく感じている。

昨年のNHK大河ドラマのメイン・テーマの演奏で一層人気を高めた三浦文彰は昨年5月のリサイタルに続いてのKitaraのステージ。6歳で師事した日本ヴァイオリン界の大御所、徳永ニ男が三浦の成長に刺激を受けて現役を続けているというから、三浦の実力は計り知れないものがあるのだろう。三浦は今回が3回目のKitaraのステージ。

2017年1月14日(土) 15:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
  
指揮/ 広上 淳一     ヴァイオリン/ 三浦 文彰
管弦楽/ 札幌交響楽団

〈Program〉
 モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲
 クライスラー:中国の太鼓(ヴァイオリン独奏/三浦文彰)
 サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ( 〃 )
 服部隆之:大河ドラマ「真田丸」メイン・テーマ( 〃 )
 ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「楽しめ人生を」 作品340
 ヨーゼフ:シュトラウス:ポルカ・マズルカ「燃える恋」 作品129
 ヨハン・シュトラウスⅡ:ヴェルディの歌劇「仮面舞踏会」によるカドリーユ 作品272
 チャイコフスキー:バレエ音楽「眠りの森の美女」より “ワルツ”
 リヒャルト・シュトラウス:歌劇「ばらの騎士」組曲より “ワルツ”
 ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「美しく青きドナウ」 作品314

陽気で浮き立つ雰囲気のモーツァルトの序曲で始まったコンサート前半は2016年NHK大河ドラマでクラシック・ファン以外の人々の関心も惹きつけた若き俊英ヴァイオリニスト三浦文彰のステージ。
ヴァイオリンの名手であったクライスラーは「愛の喜び」や「愛の悲しみ」などが最も有名だが、「中国の太鼓」は歯切れの良いリズムで異国情緒に溢れる旋律で知られる。サンフランシスコのチャイナタウンで耳にした旋律をもとに書いたとされる作品。
パガニーニと並び称される名バイオリニスト、サラサーテのために書かれた「序奏とロンド・カプリチオーソ」はスペイン情緒が漂うヴァイオリンと管弦楽のための名曲。
「真田丸」メイン・テーマの演奏前に指揮者が三浦にインタヴュー。広上も大河ドラマのメインテーマでN響を指揮した際に視聴者から“毎週、大変でしたね。”と言われたことを前提に、放送のために何回演奏したかを尋ねていた。(勿論、返答は“1回”)。
興味深い質問は作曲家の注文は何? “美しくとか上手とかでなく、土臭く”というようなドラマでの戦の雰囲気が滲むような演奏を依頼されたらしい。ヴァイオリン独奏で始まるメイン・テーマの音楽は近年の大河ドラマのテーマ曲でも最も印象に残る曲。オーケストラに尺八が加わったのも非常に良かった。

例年にない大雪で最低気温がマイナス10度以下が3日も続く札幌。1ヶ月前には今日のコンサートのチケットは完売だったようで、空席は殆ど見当たらない満席状態。巧みな演出と熱演で会場の雰囲気も盛り上がった。ソリストのアンコールはパガニーニの曲。

5・6年前からKitara New Year Concertにおける後半のプログラムは「ワルツ」や「ポルカ」など新年を祝う軽くて楽しい曲で構成されるようになった。7・8年ぐらい前には重たい曲で客の入りが5割程度の時もあって寂しい感じさえしたが、最近は客の入りも上々である。ウィーン・フィルが正月に演奏する曲目がいくつか並んだ。オペラやバレエ音楽からワルツの曲も演奏された。二人のシュトラウスのワルツの選曲が興味を引いた。R.シュトラウスの《ばらの騎士》は全曲を聴いたことがない。METライブビューイングで観たいと思っているがまだ実現していない。本日の「ワルツ」を聴いて実際のオペラへの関心が募った。
後半の6曲中、馴染みのある曲は《「眠りの森の美女」よりワルツ》と「美しく青きドナウ」だけ。聴いたことの無さそうな曲がいくつか入っている方が興味が湧く。6曲の小品からなる「劇場カドリーユ」も面白かった。久しぶりで耳にするチャイコフスキーのワルツも豪華絢爛でオーケストラ曲として満喫。
恒例の締めの曲「美しき青きドナウ」の後に、広上が“今年も良い年でありますように!”と話して、アンコール曲に恒例の「ラデッキー行進曲」。指揮者・オーケストラ・聴衆が一体となってフィナーレを飾った。
 
今回は2階CB席の中央に席を取った。大ホールに入って隣の席に座る上品な御婦人に気づいてビックリ。Kitaraボランティアとして活動して毎月のように会って親しく話をする機会の多い方。私のブログも毎回読んでくださっているようで恐縮している。長いブログを読むのは音楽に相当の関心がないと難しいと思うのだが、彼女は辛抱強く読み続けているという。ブログを書き始めて4年半ほどになるが、私自身はそろそろ止めようかと思っている。
コンサートが始まる20分ほど前に座席についたので、指揮者やヴァイオリニストの話題を中心にして話が弾んだ。いつも一人で来て静かに聴いて帰ることが多いので、今日はいつもと違う楽しみ方ができて良かった。Kitaraボランティアを含めて友人にホールやホワイエで会う機会は多々ある。小ホールで友人と偶然に席が隣り合わせになったことはあるが、2008席の大ホールで偶然に席が隣り合う確率は極めて低い。人口195万人の街での出来事である。



プロフィール

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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