直木賞・本屋大賞受賞作「蜜蜂と遠雷」を読んで聴こえる音楽

現在はクラシック音楽鑑賞が最大の趣味ではあるが、映画も20年前から鑑賞機会が増えている。高校時代には読書にも親しんでいた。世界文学全集はかなり読んだ。大学に入ってからは専門の英語の勉強の合間に日本文学にも親しんだ。就職してからは気晴らしに松本清張の推理小説を新書版で100冊以上は読んだと思う。30年前は何百冊かの本は図書館に寄贈できた。100冊余りの世界文学全集を購入していたが積読で終わって、今年の初めに廃棄処分にした。シェイクスピアの原文の全集だけは未だ手元にある。読書の習慣は以前より減ったが、元々、文学賞で話題になった本はめったに読まない。10年ほど前には図書館から音楽演奏家に関する著書を借りて呼んでいた時期もあった。
近年は文庫本は読んでも新版の単行本は読まない。村上春樹の小説も文庫本として出版されてから読みだしている。例外的に新刊「小澤征爾さんと音楽について話をする」は発売当時に直ぐ購入した。村上春樹が音楽に詳しいことをこの本を読んで知って、彼の著書を読んでみる気にもなった。「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」はリストの「巡礼の年」のCDを買う動機にもなった。彼の著作には音楽史上で有名な曲が出てくることもあって最近はよく手にする。
村上の最新作「騎士団長殺し」も丁度読み始めたところである。

実はこのブログを書いてみる気になったのは、先日読み終えたばかりの恩田陸著「蜜蜂と遠雷」。直木賞・本屋大賞受賞作で国際ピアノコンクールの様子が生き生きと描かれていて大変面白かったからである。正に文学と音楽が結びつく様を満喫できた。一気に読めるが演奏場面が心に浮かぶように、500ページほどの単行本を持ち歩いて15分程度乗車の電車の中でも読み続けた。

フィクションとはいえ、この本の舞台は実在する浜松国際ピアノコンクール。昨年逝去した日本が世界に誇るピアニスト中村紘子が審査委員長として活躍し、世界的に評価の高い国際コンクールに成長している。1991年に第1回が開かれ、3年ごとの開催で世界的ピアニストがこのコンクールから巣立っている。私のブログでも第4回優勝者ガブリリュクと、オンデマンドで聴いた2012年第8回コンクールの様子を書き綴った。2015年の第9回大会優勝者ガジェヴのリサイタルも日本国内で開かれて彼の演奏会を堪能した。次回は2018年開催である。

登場人物の姿がまるで実在する人物に思え、弾かれる曲目が音を伴って聴こえてくる。第一次予選、第二次予選、第三次予選、本選が行われる2週間と彼らを取り巻く審査員の様子も描かれて興味を増す。
出場ピアニストの個性も豊かであり、著者の音楽鑑賞のレヴェルも一流である。音の広がりの解釈は人それぞれであろうが、達者な表現力で言葉も判りやすい。目次が演奏曲目になっているのもあって興味を惹くタイトル。
主要な出演者の予選、決戦での演奏曲目一覧が載っていたのもストーリー展開の予想が自由に描けてワクワクした。50曲ほどのうち8割は聴いたことのある曲でCDもある。書斎でCDをかけながら読み進める試みもしてみた。

ファイナルの演奏曲目ではCDをかけながら今までKitaraなどで聴いたライヴの様子も思い浮かべた。「プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番」ではPMF2002 デュトワ&アルゲリッチの名演奏、「プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番」では2007年マゼール&ユンディ・リのライヴと小沢&ベルリン・フィルのCD、「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番」では2010年札響&横山、2013年佐渡&BBC&辻井の感動的なライヴを思い出す。ラフマニノフの第3番ではPMF2017のベレゾフスキーの演奏を思い出した。今回CDでは第2・3番のキーシンの演奏を改めて聴いた。
「バルトーク:ピアノ協奏曲第3番」は2月にブロムシュテット&シフのデジタル・コンサートホールで聴いた。「第3番」は今まで聴いたことが無くてアンドラシュ・シフ{*20年前のKitara開館の年にKitaraで演奏)の姿と独特な演奏を聴いて印象付けられた曲。

今回は特別な読み方をしたが、別な機会に本だけに集中してもう一度読み直してみたいと思う。

※2013年本屋大賞を獲得した「海賊とよばれた男」を読んで大変面白かったことを覚えている。映画化もされたが本の面白さを失わないように映画は敢えて観なかった。原作者が社会的に発言する内容は意に沿わないが、本は非常に面白く読んだ。
今回も話題の本を読んで全国の書店員が選ぶ大賞への興味が募った。
※「蜜蜂と遠雷」の中で書かれたカタカナ語「アンラック」が3回でてきて気になった。英語のluckyの反対語はunluckyであるが、名詞で使うと“bad luck”が適当である。「アンラック」が“unlucky”の意味で使っていると思って読み流したが、実際に日本語でも普通に使われだしたのかと思った次第である。(*もと英語教師として、こんなことも気になるので書いてみた。)
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三上亮(Vn)&宮澤むじか(Pf) デュオリサイタル

元札響コンサートマスター(2007-11)の三上亮と札幌在住のピアニスト宮澤むじかによるデュオリサイタル。三上は4年間の札響在籍中にNew Kitara ホールカルテットのメンバーとしても活躍。その後、東京を拠点として自由な音楽活動をしているようである。札幌には14年に〈ヴィルタス・クヮルテットwith宮澤むじか〉のKitara公演を聴く機会を持った。15年にはチェリストとのデュオや室内楽公演も聴いた。デュオとはいえ、リサイタルのような感じでコンサートを聴きに来た。

2017年4月27日(金) 7:00PM開演  ザ・ルーテルホール
〈Program〉
【第一部】
 モーツァルト:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ホ短調 K.304
  シューベルト=リスト:水の上で歌う 作品72(ピアノ・ソロ:宮澤むじか)
               糸を紡ぐグレートヒェン、  どこへ 
 ミルシテイン:パガニニアーナ(ヴァイオリン・ソロ:三上亮)
【第二部】 
 R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 作品18

人気のヴァイオリニストと地元のピアニストの共演ということで会場に入った途端ドアーからロビーに通じる空間が人であふれかえっていた。このホールには先月も来ているが整理券を配って番号順に入場させているのは初めてであった。余りに混雑していて、整理券を渡している係の人の姿も見えずに受付近くに行って整理券が必要なことが判った。主催者の要領の悪い対応に少々いらつきを覚えた。2階のホールに入ると間もなく満席状態になった。やはり客席が埋まると気分も高揚する。

モーツァルトの曲は長調が大部分で軽快で明るい曲が多いのが特徴。ヴァイオリン・ソナタで短調の曲は「K304」だけである。この曲は2楽章構成。第1楽章はアレグロで悲しみが漂う陰鬱な感じの曲。謙虚で打ち解けた調べもあり、飾り気のない美しさも感じれた。第2楽章のメヌエットはメランコリーに陥りながらも気品を失わない姿も感じ取れた。巡業ピアニストとして旅をするモーツァルトの心境を思い浮かべながら聴いてみた。この曲はコンサートでもよく耳にするが、演奏前に三上のトークもあってそれを参考にしながら聴けた。

宮澤むじかは現在、札幌コンセルヴァトワール専任講師で実績を積んだピアニスト。今までにコンチェルトや前回のヴィルタス・クヮルテット室内楽公演でも演奏を聴いたことがあるが、非常に堂々とした力強い演奏で印象に残っている。
今回はシューベルト=リストのピアノ曲を3曲続けて演奏した。3曲共に原曲はシューベルトの歌曲。第1曲は初めて聴いたと思う。第2曲は聴く機会の多い曲で、シューベルトはゲーテのファウストに曲をつけた。第3曲の「どこへ?」はキーシンが弾くCDに3分ほどの曲が入っているのに気づいた。有名な曲なのだろうが、メロディには慣れていなかった。
宮澤の演奏は綺麗な歌心に包まれていた。

ミルシテイン(1904-92)はロシア国内でホロヴィッツと組んで演奏会を行っていたヴァイオリンのヴィルトオーソ。グラズノフの協奏曲でデビューし、たまたま彼のこの曲のCDを所有している。「パガニニアーナ」は“パガニーニあれこれ”という意味でミルシテインがパガニーニ作品から聴きどころを集めて編曲した。「24のカプリース」第24番を主題とする変奏など超絶技巧の旋律が次々とメドレーで綴られる曲。1954年頃にアメリカで作曲され、ミルシテインの看板曲になったという。
三上亮は無伴奏ヴァイオリン曲で難曲と思われる高度な技巧を要する曲を凄いスピードで弾き切った。彼のヴァイオリン・ソロを聴いて流石一流のヴァイオリニストで、聴きに来た価値があると思った。

R.シュトラウスが書いた唯一のヴァイオリン・ソナタは先月、漆原啓子のリサイタルでも聴いた。第1楽章は表情豊かにロマンティックでドラマティックな曲が展開される。第2楽章はアンダンテ・カンタービレ。甘美な旋律が面々と歌われる美しい緩徐楽章。第3楽章のフィナーレは情熱的な主題の数々が魅力的なメロディとなって瑞々しく展開された。
三上が昨年より貸与された1628年製のニコロ・アマティを手にして彼の紡ぎだす音も一層輝きを増しているように感じた。

ステージのライトが照り付けて30度を越す中で満席の聴衆に気分も高揚しての熱演。“北海道はいいですね!”と言ってアンコールに2曲。①ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女  ②モンティ:チャルダッシュ。

次回の三上のコンサートに是非来ようと思わせるコンサートだった。帰りにミニ・バー“Old Classic”に立ち寄って珍しいデュ・プレの
映像(1962年)を見て感激した。彼女が17歳当時の白黒の貴重な映像だった。帰る頃にお世話になっている札響くらぶのメンバーに会えて交流できたのも嬉しかった。


トヨタ・マスター・プレイヤーズ、ウィーン2017 札幌公演

《ウィーン・プレミアム・コンサート》札幌公演

2000年にトヨタの社会貢献活動の一環として始まったコンサートは日本国内7都市で開催されているが、札幌もその中に入っているのは幸せである。チケットを買い遅れると完売になっていることが度々あって、今年は3ヶ月前に購入していた。ただ、ここ数年は必ずしも満席でない状況が続いている。ステージ後方のP席に客がいなかったことは初めてのような気がした。
しかし、演奏会は年に一度の特別なものとして期待感に溢れた雰囲気の中で始まった。

2017年4月24日(月) 19:00開演  札幌コンサートホール大ホール
〈PROGRAM〉
 ベートーヴェン:「コリオラン」序曲 ハ短調 Op.62
 ハイドン:チェロ協奏曲 第2番 ニ長調 Hob.Ⅶb-2(チェロ:ロベルト・ノージュ)
 モーツァルト:交響曲 第35番 ニ長調 「ハフナー」K.385
 シューベルト:交響曲 第6番 ハ長調 D.589

鮮烈な序曲が開演を彩った。古代ローマの悲劇の英雄コリオラヌスを題材とした芝居「コリオラン」からインスピレーションを得て書いたといわれる「序曲」は実際の舞台上演では演奏される機会は無かったようである。コンサートの演目として単独でしばしば取り上げられている曲。7分ほどの演奏終了後にブラヴォーの声を上げる人もいた。

ハイドンの「チェロ協奏曲」はマイスキーや藤原真理のCDで十年以上前は何度か聴いていた。最近はコンサートで聴く機会もなかった。この曲はハイドンが指導するオーケストラのメンバーのために書かれたといわれる。華々しい演奏効果を持つ曲にするためにヴィルトゥオーゾの腕前を持つチェリストの助言を得て作り上げたようである。
第1楽章は優雅な響きで、終わり近くにカデンツァが入った。第2楽章は美しい調べで静謐な緩徐楽章。溌溂として生気に満ちたフィナーレ。
ウィ-ン・フィルのソロ・チェロ奏者Robert Nagyの苗字はナジとも日本では表記されている。彼は20年前からKitaraのステージには度々登場している。1966年ハンガリー生まれで、09年よりウィ-ン国立芸術大学教授も務めているチェロの名手。PMF2017の教授陣として7月にも来札予定。

ウィーン古典派のハイドンに続くモーツァルトの曲はハフナー家のために書いた華やかな交響曲。後期三大交響曲が余りにも有名で少々陰に隠れていて、それほど演奏機会は多くないがタイトルが付けられていてモーツァルトの交響曲の中でも親しまれている曲ではある。原曲がモーツァルトがハフナー家の祝宴のために創ったセレナードだったことは解説を読んで知った。多楽章のセレナードが4楽章シンフォニーになり、フルートとクラリネットが加わったそうである。
第1楽章が力強く終わった時に曲の終了と勘違いした客が拍手をしたが、コンサートに慣れていないのだから仕方がないだろう。懲りずに次回も会場に足を運んでほしいと思った。

先月の札響定期で「シューベルト:交響曲第5番」を聴いたばかりだが、今回は「シューベルト:交響曲第6番」。聴く機会の少ない曲が演目に入ると個人的には嬉しい。コンサート前日にムーティ指揮ウィーン・フィルのCDで予め聴いておいたが、シューベルトらしいなかなか良い曲だと思った。

シュトイデ率いる室内オーケストラを通して素晴らしい音楽に触れるコンサート。今回はプログラム構成もあってかウィ-ンの香りが漂う雰囲気を満喫した。ブラヴォー、アンコールの声が飛び交い、いつものコンサートとは一味違う会場の興奮の高まりが通じたのか、盛大な拍手に応えて恐らく予定外の「美しく青きドナウ」を演奏してくれた。これには聴衆も大喜びで一段と大きな歓声が沸き起こった。

※例年より少し高めの鑑賞料金のせいもあって、客の入りが8割を切っていたように思えた。“東北復興チャリティとして売り上げの一部が子供たちへの育成支援のために寄付される”コンサートでもあったのだが、オーケストラ・メンバーの意向が届く広報活動がもう一工夫あっても良かったのではないかと思った。








 

札響第598回定期演奏会(広上淳一・友情客演指揮者就任記念)

広上淳一は現在、京都市交響楽団常任指揮者兼ミュージック・アドヴァイザー、東京音楽大学指揮科教授を務め、全国各地のオーケストラに客演する他に、オペラ指揮などで日本の音楽界の牽牛役として目覚ましい活躍をしている。京都市響を関西随一のレヴェルに引き上げた手腕も高く評価されている。2012年からは毎年Kitaraのステージで札響に客演している。今年のKitaraのニューイヤーに続いての札響指揮。2017年4月から札響友情客演指揮者に就任。珍しいタイトルであるが、札響に対する深い想いと愛情から日本人指揮者としてを何らかの役割を果たしたい思いに駆られたのではないかと推察する。

2017年4月22日(土) 14:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール

《コルンゴルト生誕120周年&没後60年記念》

指揮/広上 淳一     ヴァイオリン/ ダニエル・ホープ
女性合唱/札響合唱団    合唱指揮/長内 勲

〈Program〉
 コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
 ホルスト:組曲「惑星」 op.32

コルンゴルト(1897-1957)の名は現代音楽や映画音楽で知られるアメリカの作曲家と思い込んでいた。最近のコンサートで彼の曲が演奏される機会が増えているようである。3月に漆原啓子がヴァイオリン曲で「から騒ぎ」を弾いた。その時に目にした作曲者の名前の綴りからドイツ系と思った。Korngoldはオーストリア=ハンガリー帝国(現在のチェコ)に生まれ、4歳でウィ-ンに移住。1934年に渡米して映画音楽をたくさん書いた。1943年にアメリカに帰化。近年、コルンゴルトの再評価が進んでいるらしい。
札響初演となったこの曲を1974年2月定期(指揮:秋山和慶、ヴァイオリン:藤原浜雄)で聴いていたことが判った。当時の会場は札幌市民会館で全然記憶に残っていない。余程のことがないと忘れているほうが普通かもしれない。
 
この曲はフーベルマンのために着想されたが、彼の急死でハイフェッツに献呈。初演が1947年、セントルイス響の演奏で行われた。どの楽章も彼が書いた映画音楽が基になっている。ハリウッドで活躍した作曲家の様子も分る理解しやすい現代音楽になっている。ヴァイオリンの名手に捧げた高度な技法が用いられている曲のように思えた。

ヴァイオリンのDaniel Hopeは1974年英国生まれ。メニューインと60回を越す共演を重ねたとされる。数多くの著名なオーケストラや一流演奏家たちと共演を重ね、録音も多く、ラジオやテレビの司会者としても活躍している。
ダニエル・ホープは珍しい曲の演奏で聴衆を魅了し、大喝采を浴びた。アンコールに弾いた曲も今までに聞いたことがなく、普通のクラシック音楽とは違う感じの曲だった。難しいと思われる曲でも集中して聴く耳を持つ日本人の礼儀正しさも常日頃すごいと思っている。

ホルスト(1874-1934)が残した「ジュピター」は人気曲。全7曲から成る組曲を聴く機会はめったにない。札響の全曲演奏は今回が20年ぶりで3回目のようである。2000年にカラヤン指揮ウィーン・フィルのCDで一時は聴き親しんで、10年にレヴァイン指揮シカゴ響のCDで金管の響きを好んだ。その後は殆ど耳にしていないが、ここ数年はPMFのテーマ曲として「ジュピター」は気に入りのメロディとなっている。

壮大な宇宙をテーマにした“THE PLANETS”.。4管編成でホルン6本、多数の打楽器やオルガンも使われ、札響メンバーのほかに30名に近い客演奏者が出演した。
第1曲「火星」は戦争を予感させる緊迫感に満ちたダイナミックな曲。第2曲「金星」は穏やかで安らぎに満ちた平和な曲。第3曲「水星」は陽気で軽やかな曲。第4曲「木星」は6本のホルンが奏でる朗々とした快活な気分の主題で始まる。この楽章は全曲の中心で規模も大きく、英国的な雰囲気が出ている印象を受ける。第5曲「土星」は年老いて感じる想いの曲。第6曲「天王星」は魔術師に導かれるような曲。第7曲「冥王星」は幽玄な雰囲気が漂う神秘的な曲で女性合唱を伴う。

約50分を要する大オーケストラによる演奏を最初から最後まで広上は小柄な体を大きく使ってとてもダイナミックな指揮ぶりだった。拍手大喝采に包まれて、ホルン首席の山田圭祐、オーボエの関美矢子はじめ木管・金管奏者、打楽器奏者たちの健闘を湛え札響の全メンバーに拍手を贈る広上の姿も好ましいものであった。
コンサートの終わりに広上淳一は聴衆に向けて札響の奏でる音楽の素晴らしさを語り、札幌と北海道のオーケストラとして世界に誇るオーケストラのために聴衆とともに彼自身も精進していくと力強い挨拶をした。
 
※彼の挨拶の中で“オーケストラは街のレストランである”という言葉が印象に残った。









 

富士山眺望に恵まれた静岡旅行

北海道に住んでいて中部地方を旅行する機会がなかった。名古屋を訪れたのも昨年が初めてだった。伊豆の石廊崎には50年以上前に修学旅行で行ったことがあるが、今回は静岡県内の東部・中部・西部を隈なく巡る3日間の旅に出かけた。初日は雨で富士山は見えなかったが、残り2日間で富士山の眺望を存分に楽しめたのは幸運であった。

小雨の富士山静岡空港に到着して、美しい茶畑を眺めながらのバスの旅。満開の時期は過ぎて葉桜の木が多かったが、道中で咲いている桜の並木も楽しめた。大井川鉄道を利用して昭和15年に作られてJRでの引退まで北海道で走行していたという列車の旅も50年前の修学旅行の気分を味わえて懐かしい思いがした。雨脚が強くなって列車からの眺めは良くなかったが、バスから見渡す大井川は大河であった。「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」と歌われ、橋を架けなかった江戸時代の背景が歴史上の観点から実感できた。
夕食を摂ったのが江戸の宿場町・丸子(鞠子)の名物茶店。東海道五十三次の内の「鞠子」にも描かれた場面。看板に「名物とろろ汁」と書かれていた。“梅若葉まりこの宿のとろろ汁”と歌った芭蕉の句もある。食事は珍しいだけで好みではなかったが、店内に葛飾北斎、安藤広重、喜多川歌麿の復刻版などを含めて十数点展示されていた。本物も1点額に入っていた。浮世絵の影響を受けたドビュッシーの「海」の記述もあって興味深かった。慶長元年(1596年)創業の店で歴史と伝統を守りながら経営を続けていることに敬意を抱いた。

1日目は伊豆地方北部の沼津市で宿泊。夜中に激しい雨が降り続いて、下田では洪水に見舞われるところもあったらしい。雨上がりの2日目は風はあったが好天気。公園内の柿田川湧水(富士の湧き水)を鑑賞。三島の伊豆フルーツパークではイチゴ狩り。果物狩りは初めての経験で20個くらいは食べて楽しめた。

戦国時代の末期に北条が築城した山中城は豊臣軍の攻撃(1590年)によって落城。三島市は400年間埋もれていた山中城の発掘調査を昭和48年に開始して、戦後の世を今に伝える文化遺産として「山中城跡」を復元。往復60分かけて山道を上り下り。チョット辛かったが見ごたえのある山城の様子が分かって普通の城の見学とは違った面白味があった。
富士市を通って山道を下る途中でバスの中から目にする鮮やかな富士山が見えると車内で一斉に歓声が起こった。最近は新幹線の車中から遥か遠くに見える富士山しか見ていなかったので、近くから観る富士山は格別であった。

すっきりと晴れ上がった午後は清水港ベイクルーズ。四方八方から富士山の全景が見渡せる状況下での湾内クルーズ。多くの中国人も乗船したが、彼らの大部分は船内での昼食で席が別なこともあってか満席の船でも比較的落ち着いた雰囲気でのクルーズとなった。清水港はヨットハーバーとしても使われているが、湾内には多くの工場があって巨大な外国船も停泊していた。
三保の松原も素晴らしかった。太い松の木々を通る“神の道”を抜けて樹齢何百年と思われる「羽衣」をはじめとする巨大な木は目を奪う。砂浜に入って臨む富士山は名状しがたい美しさ。富士山もいろいろな表情を持つが「三保の松原と富士山」は何か神々しい特別な感情が伝わった。

静岡市内の家康ゆかりの駿府城は戦いで壊滅状態にあって、石垣が一部残った。平成の時代に入って二の丸東御門と巽櫓が復元。駿府城公園の外側に通りを挟んで城内中学校が建っていた。歴史的建造物の復元が平成時代に入ってからとは驚いた次第。石垣を復元する事業を通して城の復元に至ったようである。

最後に訪れた浜松市内の中田島砂丘。今年の大河ドラマのロケが行われた場所でもあると知った。遠州灘の風紋美しい砂浜の光景を一望しただけで奥まで入って行かなかった。砂丘といえば鳥取砂丘しか知らなかったが、ここも静岡では名所なのだろうか、駐車場が広々としていた。
浜松といえば名物ウナギ。修学旅行で駅弁は苦手だったが、浜松のウナギ弁当だけは今でも記憶に残る美味さだった。夕食に「うな重」を浜松で評判の名店で味わった。

その夜は浜松に宿泊して、3日目は大河ドラマ館に入館。今年の大河ドラマは小説を読み終えていた。朝早くから館内は混み合っていたが、テレビも見て状況を知っているので短い時間でも要領よく見て回った。次の見学場所が井伊家の菩提寺「龍潭寺」。話題の寺とあって凄い賑わい。小堀遠州が作った庭園(*札幌中島公園内の八窓庵の茶室も小堀遠州作)が美しくてその姿を何枚も写真に撮った。

家康が天下統一を果たして駿府に入城した後、浜松城は主に家康ゆかりの譜代大名が城主となった。戦国時代の出世城といわれる浜松城。天守は17世紀に姿を消し天守台のみが現在に伝わる。野面積みの石垣で有名。浜松城公園内に平成26年、天守門が140年ぶりに復元された。天主台に着くまで急な道路の階段を上っていくのは息切れがして大変だった。

最後の観光場所が掛川城。山内一豊は戦乱で傷んだ城の改築や城下の整備を実行し、天守閣を作った。天守閣の狭い階段の上り下りは年寄りには大変であったが、市街を見下ろす景観はなかなかのものだった。御殿から見上げる掛川城は東海の名城にふさわしい美しい景観である。
予定の見学場所が終わってバスは一路空港へ。空港を離れるまで富士山が見送ってくれた。
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Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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