札幌西高等学校管弦楽団第48回定期演奏会

日本の学校教育で合唱や吹奏楽が課外活動で盛んに行われているがオーケストラが高校レヴェルで設立されている学校は稀である。北海道内では札幌西高校だけである。四半世紀前に息子の入学式で札幌西高校のオーケストラの演奏を聴いた。同校の定期演奏会に足を運んだのは今回が初めてである。

札幌西高校オーケストラ部は60年を越える歴史と伝統を誇り、1970年(昭和45年)の第1回定期演奏会以降は毎年1回定期演奏会が開催されてきている。道内の有数の進学校で伝統を守り続ける姿は誠に頼もしい。

2017年8月12日(土) 18:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
〈PROGRAM〉
 ドヴォルザーク:「スラヴ舞曲第1集」より 第8番
 ハチャトゥリアン:組曲{仮面舞踏会」しt
 ドヴォルジャーク:交響曲 第8番 ト長調 作品88

演奏会の初めに「札幌西高等学校校歌」と「札幌第二中学校校歌」が部長の指揮のもとで演奏された。校歌は本来、オーケストラ用ではないので、盛り上がりに欠ける演奏だったのは止むを得ない。

正式なプログラムが顧問の高橋利夫先生のタクトで始まるとオーケストラは見違えるような音を発した。
スラヴ舞曲は第1集は8曲から成るが、「第8番」はコンサートのアンコール曲としても演奏機会が多く親しまれている。スラヴ舞曲ならではの音楽で色彩感も豊かで活気あるリズムは高揚感を搔き立てた。最初のプログラムに相応しい選曲と思った。

ハチャトゥリアンは当時のグルジア生まれのソ連の作曲家。ロシアの作家レールモントフが書いた戯曲「仮面舞踏会」にハチャトゥリアンが音楽を付けた。帝政ロシアの貴族社会を舞台に嫉妬にかられた夫が妻を殺してしまう悲劇の物語。この劇音楽の中から5曲が組曲として編まれた。
第1曲の「ワルツ」が浅田真央がフィギュア・スケートで使用した曲で一気に有名になり日本だけでなく世界で親しまれるようになった。第2曲ノクターン、第3曲マズルカ、第4曲ロマンス、第5曲ギャロップ。タイトルで曲の展開がある程度判断できる。抒情的で美しいメロディ、ポーランド風の舞曲、悲しいドラマの後で様々な人間模様が時には静かに、時には賑やかにと描かれて華やかなフィナーレとなる。
曲に変化があり、弦楽器、管楽器、打楽器の活躍がそれぞれあって勢いのあるドラマテイックな音楽が繰り広げられた

前半は85名の部員がほぼ全員が参加しての演奏。26名の新入部員を加えてのまとまりのある演奏に顧問の先生の苦労は並大抵でなかった様子がプログラムの中の言葉からも窺がえた。短期間でこれだけの成果を上げるのは大したものである。

後半は馴染みのドヴォルザークの「第8番」。この曲の演奏ではOB・OG5名の協力を得て総勢65名の出演者。在学中の短期間でまとまった演奏に仕上げるのは簡単ではない。顧問の叱咤激励を得ながら苦しい練習を積み重ねてきたことは容易に想像できる。とにかく違和感なく演奏を最初から最後まできちんと聴けた。勉強と両立しながら部活動を行い、この夏休みは最後の仕上げで猛練習したことだろう。
この大曲を届けてくれた高校生を称えたい。プロの道に進む人も中にはいると想像されるが、高校で活動に終止符を打つ者もいるだろう。でも、音楽は何らかの形で彼らと繋がっていくことを確信している。

演奏終了後に会場に集まった1200名以上の聴衆から盛大な拍手が沸き起こった。今年で現役を退く顧問と部長の挨拶に際してはプロや他のアマチュア・オーケストラのコンサートとは少々違った聴衆の応援と感謝の気持ちが広がって感動的であった。
アンコール曲は85名の部員全員で「エルガー:ニム・ロッド」と「ヨーゼフ・シュトラウス:鍛冶屋のポルカ」。

※今回の定期演奏会に際して札幌西高でコントラバス奏者を務めた卒業生が寄稿文を載せていた。彼は高校卒業後イタリアの弦楽器製作所に入学して、卒業後も工房に通って約8年間修業。2012年に帰国して、現在は名古屋で弦楽器の修理工をしているという。彼は今年の初めに西高を訪れて当時の楽器に触れる機会を得た時の感慨も綴っていた。西高オケに出会って現在の自分があると記している。いろんな道で引き続き音楽と関わって人生を歩んでいる人の姿は美しいと思った。

※帰路、Kitaraを出ると通路を戻ってくるレセプショニストと出会った。間もなく友人の姿が目に入ると、ステッキをついていたがコンクリートに躓く瞬間を見て慌てて彼の名を呼んで声を掛けた。彼もすぐ気づいてくれた。伝えてあげたコンサートの情報で、まさかと思っていたら、連日のKitara通い。翌日の西高OBオーケストラの時間も訊かれた。日曜日の教会の話が早く終わったら、また鑑賞に来るとのことだった。オルガニストのフェアウエル・コンサートのチケットは先日買い求めたと言っていた。今月末のソプラノ・リサイタルの招待状の申し出を受けたが東京からの帰りの飛行機の中の時間になるということでお断りした話など、いろいろ話をしてくれた。全盲など感じさせない力強い生き方に刺激を受けつつ、相手の立場で考えることも学んでいる。
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HBCジュニアオーケストラ2017サマーコンサート

コンサートのチケットは通常3ヶ月~6ヶ月前から購入している。鑑賞予定でも、全席自由席の大ホールのコンサートは早くても1ヶ月前くらいに手にする。8月のチケットは3回分だけで、今月はスケジュールに余裕があった。例年なら行かないような演奏会を3つ追加した。中高生が中心のアマチュアオーケストラを今日、明日と続けて鑑賞することになった。

2017年8月11日(金・祝) 開演15:00  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/阿部 博光  ヴァイオリン/森田 昌弘

HBCジュニアオーケストラは1964年創立で、小学4年生から高校3年生までが入団対象。今回の出演者113名中、小学生1割、中学生3割、高校生5割、OB・OG1割。
北海道放送(HBC)が創設して、札幌市内だけでなく道内各地で演奏。札幌の姉妹都市の米国ポートランドやロシア・ノボシビルスクに親善公演旅行を実施している。近年では07年にウィ-ン楽友協会、チェコ海外演奏旅行、12年に再びウィ-ン楽友協会を含む海外演奏旅行を行った。15年の「北海道文化賞」に続いて16年には文化庁から「地域文化功労者表彰」を受賞。

このオーケストラのことは知っていたがコンサートに来たのは今回が初めてである。5年前のジルベスター・コンサートで札幌出身のヴァイオリニスト成田達輝がHBCジュニアオーケストラに入っていてKitaraのステージに上がっていたがそれ以来初めての大ホールのステージと語っていたのを懐かしく思い出した。

〈Program〉
 ドヴォルザーク:スラヴ舞曲集 作品46から第1番
 ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26
 ワーグナー:楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー』から第1幕への前奏曲
 チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調 作品64

指揮の阿部博光は東京藝術大学在学中より日本フィル首席フルート奏者を務め、1995年北海道教育大学岩見沢校助教授に就任。札幌でリサイタルや室内楽コンサートを開催。97年HBCジュニアオーケストラ常任指揮者に就任。札幌音楽家協議会オーケストラの指揮者を務めていて、度々彼の指揮は観たことがある。彼は札幌音楽界の重鎮として活躍中だが、ジュニアオーケストラに20年も関わっていたことは知らなかった。
小ホールで30名程度の室内オーケストラを指揮している時と違って100名程度のオーケストラを指揮している様子は段違いである。オーケストラ全体を掌握して体全体を大きく使っての小気味の良い指揮ぶりは力強い印象を残した。

ヴァイオリンの森田昌弘は現在、NHK響次席奏者。大ホールに来てプログラムを読んで初めて知った。HBCジュニアオーケストラには小学3年時より入団し、卒団まで10年間在籍。桐朋学園大学在学中に在京オーケストラのゲスト・アシスタント・コンサートマスターなどを務め、室内楽メンバーとしても活動し、卒業後の1995年にN響入団。
04年のHBCジュニアオーケストラ創立40周年サマーコンサートではチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏。

ブルッフのヴァイオリン協奏曲はPMFで素晴らしい演奏を聴いたばかりの曲。ジュニアオーケストラをバックにしての演奏と比べる方が無理と言えよう。森田は勿論オーケストラの健闘を称えていた。

前半3曲に比して、後半のチャイコフスキーはメンバーの練習量の多さと曲の持つ壮大さのためかも知れないが、その響きは十分に聴きごたえがあった。特に管楽器の響きが優れていた印象を受けた。オーケストラの練習日は普段は日曜日だけということだが吹奏楽部に所属するとか個人での練習で経験豊富な高校生が多くいるように見えた。
聴き慣れたメロディが多くて人気のオーケストラ曲の演奏終了後には盛大な拍手大喝采が沸き起こった。中高校生や出演者の家族と思われる人々の姿も目立って、P席を除く客席は8割ほどの客の入り。1400名ぐらいは入っていたのではないか。

アンコールに「エルガー:威風堂々第1番」。鳴りやまぬ拍手喝采に応えて、アンコール曲の最後のパートを再演奏。演奏機会が多くて得意な演目と思えた。管楽器が40本もあると迫力が違う感を強くした。

Kitaraの外に出ると、レセプショニストに手を引かれた目の不自由な友人と出会った。彼女のサポートを引き継いで彼に話しかけ、地下鉄大通り駅まで同行した。彼はアマチュアの演奏会にも結構、来ている様子で今日のアンコール曲は毎回恒例の演奏曲だと言った。ヴァイオリニストの名を口にしたら、N響のヴァイオリニストと知って驚いていた。
明日の札幌西高オーケストラの演奏会を話題にしたら、“いい話を聞いた”と言った。演奏会情報を100%得ているわけでは無いらしい。この面でも援助できることがあれば良いかもしれないと思った。

パールマン&バレンボイムの《ベートヴェン:ヴァイオリン協奏曲》

先月末にベルリン・フィルハーモニーからemailでnewsletterが届いた。1992年2月に本拠地のホールではなく、ジェンダルメンマルクトのシャウスピールハウスで行われた《パールマンとバレンボイム指揮ベルリン・フィルの「ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲」であった。PMFで忙しい最中であったが、映像で観るパールマンとバレンボイムの演奏をワクワクしながら聴いた。

イツァーク・パールマンは1991年9月に元北海道厚生年金開館でリサイタルを聴いた。ドビュッシーやフォーレのヴァイオリン・ソナタを弾いたが、この頃の思い出は余り記憶に残っていない。当時、演奏曲目の知識は全く持ち合わせていなかった。世界的なヴァイオリニストに憧れて聴きに出かけたようである。
Perlmanが98年3月のKitaraでリサイタルを開いた時の様子はかなり鮮明に記憶している。彼は幼少時に小児麻痺になり、下半身不随となるが、障害を克服して演奏家として世界の頂点を極めた。Kitaraでのプログラムはモーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスのソナタ。完璧な技巧と艶やかで透き通った音質は表面的にしか音楽が分らない自分でも素晴らしいと感動したものである。
その後、来札の機会が無くて残念に思っていた。

ダニエル・バレンボイムは彼のCDをかなり所有していることもあって、早くからピアニストとしてファンになっていた。彼は今や世界の指揮界のトップに君陣して来日公演も多い。Kitara にはベルリン・シュターツカペレを率いて2005年2月に一度来演しただけである。彼の自信に溢れた堂々たる姿を見たのはその時の1回だけである。当時は「ベート―ヴェン:ピアノ協奏曲第2番」を弾き振りした。彼のピアノ演奏を聴けたのには満足した。交響曲は「マーラー:第5番」だった。今ではマーラーの曲の中で親しんでいる方だが、当時は鑑賞が難しかった。2曲共に余りポピュラーな曲でないこともあって、客の入りが少なかった。世界一流のオーケストラと指揮者を迎えて“もったいない”と思った印象が残っている。

この二人の指揮ぶりと演奏の様子をそれぞれ、20年、12年ぶりに観れて心も躍った。二人ともに現在は70代であるが、この映像では40代で当然ながら若々しく見えた。特にバレンボイムの姿が若々しくて生き生きとした指揮ぶりであった。パールマンの車椅子でのステージの出入りはKitaraでのコンサートの様子が眼前に浮かんだ。
ヴァイオリン協奏曲の中で最も親しまれたメロディを持つ偉大な曲の演奏はアッという間に終わってしまったが、素晴らしい演奏に引き込まれて生演奏を聴いているような感じさえした。

演奏中にはオーボエ奏者アルブレヒト・マイヤー(*試用期間中の来日公演の際に彼の様子を追っていたテレビ番組で彼の名をずっと記憶していて今では首席奏者)の初々しい入団早々の姿、当時の第一コンサートマスター安永徹も目に入って懐かしく思った。

反田恭平ピアノ・リサイタル 2017 全国縦断ツアー(札幌公演)

待望のSorita Kyoheiのリサイタル。Soritaが高校在学中の2012年に日本音楽コンクールで優勝した様子を偶々テレビで観ていた。その後、モスクワ音楽院に在学中にホロヴィッツ愛用のピアノを使ってのCD「リスト」が発売され、2年前には購入していた。透明感のある音色で他のCDとは違って生き生きとした響きに気分が高揚した。CDを聴いて興奮するのは珍しいことであった。その頃、Twitterをしていたので彼がロシアと日本を忙しく行き来する様子も分かっていた。
昨年11月Kitara 主催公演でサクソフォン奏者上野耕平とのデュオ・リサイタルがあって、反田恭平もリストの「愛の夢」や「タランテラ」を弾いたが彼のピアノを存分に楽しむまでには至らなかった。 
今回のリサイタルは札幌生まれの彼にとっても家族にとっても念願のリサイタルとなった。チケットは2月中旬から早々に売り出されていて完売となっていた。昨日はコンサートの前に彼のCDを聴いて出かけた。地下鉄を降りた時間帯にはKitaraに向かう人の群れで活気があった。エントランスホールも入場中で人々の期待度も高まっていた。札幌市民にとっても待ち望んでいたリサイタルであったことが演奏中の聴衆の鑑賞態度や帰りのサイン会に並ぶ長蛇の列にも表れていた。

2017年8月3日(木) 7:00PM開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
〈Program〉
 武満 徹:遮られない休息
 シューベルト:4つの即興曲 D899/op.90
 ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
 リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178

武満のこのピアノ作品は初めて聴く。悲しい調べが静かに響き渡る。抽象的な現代音楽で、3分ほどの2曲の後に“愛の歌”が奏でられた。不規則な音の展開にいろんな心模様を想像して耳を傾けた。

シューベルトは亡くなる前年に「4つの即興曲」 op.90 とop.142の作品を計8曲書いた。シューベルトが気のおもむくままに書いたような曲は「即興曲」として親しまれている。心地よい響きで「楽興の時」と同じように人気の調べに包まれたピアノ曲。
2000人の客が入ると曲の切れ目にパラパラと拍手が起こりがちだが、昨日の公演では一切、それが無かった。聴きなれていない人もいただろうが、聴衆の鑑賞の仕方に感心した。

久しぶりにワインを飲んでホワイエでひと時を過ごした休憩後のフランス音楽は美しいラヴェルのピアノ曲。個性的なリストの大曲を前に色合いの違う作品を演奏して対照性を浮き彫りにした。ここまでの曲は楽譜を見て、自ら譜めくりをしながらの演奏で少々意外であった。何らかの思いがあったと思われる。楽譜に忠実に丁寧に弾いたのであろう。

リストの「ロ短調」をライヴで初めて聴いたと思うコンサートが2006年小山実稚恵の演奏だったが、強烈な印象を与えられた演奏は09年ケマル・ゲキチ。それ以後、それまで聴き慣れていなかった曲をアルゲリッチやリヒテルのCDで親しむようにして何度か聴いた。ライヴの前には必ず数回は耳にしているが、最近では昨年はガジェヴ、紗良・オット、今年5月は牛田と続けてライヴで聴く機会があってそれぞれ素晴らしい演奏だった。
今回は予めオグドン(*イギリスのピアニストで1960年ブゾーニ・コンクール、61年リスト・コンクールに優勝。62年チャイコフスキー・コンクールでアシュケナージと共に優勝。89年に急逝)の演奏(*64年)を予め聴いておいたがCDでも曲の凄さが伝わってきた。

,ヴィルトオーゾ的な華やかさと溢れるファンタジーを盛り込んで、リストが試みた大胆で革新的なソナタの傑作。緩徐楽章的要素も取り入れた構成の変則的なソナタ形式で3部から成る長大な単一楽章。
第1部に「ファウスト風の主題」、「メフィスト風の主題」が出てくるが、人間の二面性の葛藤を描いた表現だろうか。第2部のアンダンテでは美しいメロディ(ファウストの恋の主題か?)とメフィストの音型。第3部の再現部に入って、メフィストの音型が再現され、最後には様々な主題が組み合わさって壮大なコーダで結末を迎える。

今では鑑賞力も高まって曲の理解がかなり深まった。以前はただ漠然と聴いていてピアニストの魔術に魅せられていた感があった。反田は「ロ短調」を楽譜なしで、リストの演奏に没入していた。2月中旬にはチケットを購入していたが、その時点で演奏者の運指が見える1階席が取れずに、1階席最後部の中央ではあるが、指の動きが見えない席だったのが残念であった。リストの集大成ともいえる作品を若くして堂々と弾きこなすピアニストが増えているが、それぞれのピアニズムを発揮しているように思った。
鑑賞が難しい作品だと思うが、聴衆は演奏技術に魅せられるので興味を持続できたようであった。聴衆の集中度は高くて演奏終了後の拍手は一段と大きくなっていた。会場は札幌出身のピアニストへの歓迎と称賛が入り混じった大声援に包まれた。

赤ん坊の頃に札幌を離れたとはいえ祖父母の家に来てKitaraに通い、いつかKitaraのステージにという想いが巡って迎えたソロ・リサイタル(*昨年のデュオ・コンサートの折に本人が話していた)。感慨も一入であったと思う。アンコール曲は2曲で終わりかと思ったら3曲も弾いてくれた。第2曲の{月の光」が余りにも美しくて、今まで何十回も聴いたであろうメロディが一段と美しく心に響いた。
アンコール曲は①ショパン:12の練習曲より「第1番」 ②ドビュッシー:月の光  ③シューマン=リスト:献呈

※反田恭平はロシアに在住して一時ロシアと日本を行き来して音楽活動を行っていた。ロシア音楽を得意としているが、現在は多分パリに移っているとTwitterに書いていたのを記憶している。今回のプログラムにフランス音楽が入っていて、ロシア音楽とは趣の違った曲に集中しているのかなと勝手に想像した。
弱冠22歳で輝きながら、個性的な活動を続けるピアニストの今後がますます楽しみである。

PMF GALAコンサート2017(ゲルギエフ指揮「ザ・グレイト」他)

PMF GALA コンサートが2012年にスタートしてから6年目に入った。ガラ・コンサートにはPMFオーケストラ・Cプログラムが含まれるが、以前は独立していた。Cプログラムも2公演で会場はKitaraと芸術の森。必ず、どちらかには参加していた。14年と15年は両方に出かけていた。昨年は事情があって両方のコンサートに行かなかった。その後、PMFオン・デマンドでプログラムCがハイビジョン映像でストリーミング配信されて幸い楽しむことができた。何よりもカヴァコスの演奏を聴き逃したのが残念に思っていたので、何とか気持ちが晴れた。

2017年7月29日(土) 15:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール
【第1部】
①モーツァルト:エクスルターテ・ユピラーテK.165から“アレグロ”、“アレルヤ”
 〈出演〉天羽明恵(ソプラノ)、ダニエル・マツカワ(指揮)、PMFオーケストラ

ガラ・コンサートが始まった当初から司会(MC)はソプラノ歌手の天羽(Amou)が務めている。歌のタイトルには「踊れ、歌え」のような意味があるらしい。“アレルヤ”は1937年のアメリカ映画「オーケストラの少女」で歌われたらしい。天羽自身は詳しく知らないと話したが、映画のタイトルから当時のフィラデルフィア管弦楽団指揮者レオポルド・ストコフスキー(1882-1977)のことを思い出した。彼は映画に出演していたが、指揮棒を使わないで両手の指を使って指揮する指揮者として有名であった。学生時代(たぶん1960年)に札幌狸小路の名画座で鑑賞した記憶がある。曲が馴染みだったわけではないが、何となく親しみを感じる音楽だった。天羽の歌の上手さは言うまでもない。

日系アメリカ人のMatsukawaはフィラデルフィア管の首席ファゴット奏者でPMFには2001年以降17回目の参加。09年から指揮活動も活発に展開している。司会の天羽がマツカワに日本語でインタヴュー。マツカワは“モーツァルトを聴くとIQが高くなる”と真面目に持論を語った。

②モーツァルト:弦楽五重奏曲第5番 ニ長調 K.593 から第1・4楽章
 〈出演〉ライナー・キュッヒル(ヴァイオリンⅠ)、伊藤瑳紀(ヴァイオリンⅡ)、
       Nayoung Kim (violaⅠ)、 Zhongkun Lu(violaⅡ)、Ryan Donohue(cello)

2年前にもアカデミー生と室内楽を演奏したキュッヒルは今年も楽しそうに一緒に演奏していた。共演のアカデミー・メンバーにとっては一生の財産になることであろうことは疑いない。天羽もそんな印象を話していた。
キュッヒルは前半のファカルテイの活動を終えた後も、PMFに関わって帯広や苫小牧での演奏活動を行い、司会者のインタビューに日本語で答えて来年のバーンスタイン生誕100年にもPMFに参加すると力強く話した。多分、PMF30周年の再来年も来札が続きそうである。

③ヴォーカル・アカデミーによるオペラ・アリア
 〈出演〉黒田詩織(ソプラノ)、アンナ・ミガロス(ソプラノ)、サミュエル・ヒンクル(バリトン)、チョンファ・キム(バリトン)、PMFピアニスト岩淵慶子
今年のヴォーカル・アカデミー生は4名。 担当教授はイタリア出身で世界の一流歌劇場で活躍したガブリエラ・トッチで2015年以降3回目の参加。日本公演でのマリオ・デル・モナコとの共演に触れて天羽が興奮した様子でTucciを紹介していた。彼女ははイタリア語の通訳を介して札幌の素晴らしさを語った。
 〈曲目〉ベッリーニ:歌劇『清教徒』から「ああ、永遠にお前を失ってしまった」(Samuel Hinkle)
      プッチーニ:歌劇『ボエーム』から「あなたの愛の呼ぶ声に」(Anna Migallos)
プッチーニ:歌劇『トゥ-ランドット』から「お聞きください、王子様」(Shiori Kuroda)
ヴェルデイ:歌劇『マクベス』から「あわれみも、誉れも、愛も」(Chonghwa Kim)

4人ともに歌の持ち味を生かして、それぞれ素晴らしい歌声を披露した。フィリピンとアメリカの国籍を持つマガロスは体躯を生かした堂々たる歌声が印象に残った。韓国のバリトンも恵まれた体躯で難曲と思われる変化のあるアリアを圧倒的な熱唱で聴衆を魅了して一段と大きな喝采を浴びた。

④PMF賛歌~ジュピター~(ホルスト/田中・カレン編、井上項一作詞)
 〈出演〉ワレリー・ゲルギエフ(指揮)、PMFオーケストラ、札幌大谷大学合唱団

恒例の聴衆を巻き込んでのPMF賛歌の斉唱は6回目ともなると慣れてきている人が多くなった。このプログラムはそれなりに充実感が湧くが、第1部が時間厳守で余計なトークが減ってスムーズに流れたとはいえ、GALA・CONCERTの内容は少しマンネリ化した感は否めない。

【第2部】
 〈演奏曲目〉
  ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲(ドレスデン版)
  ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26
          (ヴァイオリン独奏:ダニエル・ロザコヴィッチ)
  シューベルト:交響曲 第8番 ハ長調 D.944 「ザ・グレイト」

歌劇『タンホイザー』は13世紀の初頭ワルトブルクの城を背景に騎士タンホイザーと城主の娘エリザベートの悲恋物語。愛の女神ヴェーヌスと清純な女性の間で揺れるタンホイザーの精神的葛藤とお互いの激しい愛の闘争。「序曲」ではこの物語の内容が描かれる。
「巡礼の合唱」として名高い聖歌で始まるが耳にする機会が多く親しまれているメロディが次々と出てくる。夜の世界の狂乱と朝の巡礼の聖歌の響きが対照的である。この序曲のメロディは有名でもコンサートで近年耳にしたのは第12代Kitara専属オルガニストのオルガン演奏を通してであった。トロンボーン3本の勇壮な音を含めて久しぶりに壮大なオーケストラ曲を楽しめた。

ブルッフ(1838-1920)は19世紀後半を代表するドイツの作曲家のひとりであるが、現在では演奏機会の多い曲として「ヴァイオリン協奏曲第1番」と「スコットランド幻想曲」が有名である。「ヴァイオリン協奏曲第1番」はPMF2013でレーピンが同曲を演奏した。今回の演奏で日本デビューを飾った弱冠16歳のロザコヴィッチは聴衆全員の耳を虜にした。曲全体のメロディが生き生きとして美しい。カデンツァにも若いエネルギーがほとばしる。彼の奏でる音がまるで歌のような優しさでホールに広がった。
Daniel Rozakovichは2001年ストックホルム生まれ。10年にスピヴァコフ指揮モスクワ・ヴィルトオージ室内管と共演というから天才児。以降、王立ストックホルム管、モスクワ・フィルなどヨーロッパ全域のオーケストラと共演を重ね、ヴェンゲーロフやギトリスと室内楽でも共演している様子は驚くばかりである。
演奏終了後の割れんばかりの聴衆の拍手に応えてアンコール曲に「バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番より“アルマンド”を弾いた。ゲルギエフが2年前と同じようにステージ下手で彼の演奏を聴いていたのが印象的でもあった。

※今回初めてロザコヴィッチの名を耳にしたが、ゲルギエフの様子を見ていて思い出した。ゲルギエフはソ連時代の1987年にレ-ピンとキーシンを西側諸国に先駆けて日本に彼らをデビューさせた。彼らは共に1971年生まれで当時15歳であった。Kitaraにもロシアの若手をどんどん連れてきていたことを思い出した。ロザコヴィッチはスウェーデン生まれであるがロシアとのつながりが深いのは彼のプロフィールから判る。優れた音楽家を日本に次々と紹介してくれることは嬉しい。

昨日のメイン・プログラムはシューベルトの第8番。「ザ・グレイト」をPMFで聴くのは10のきょうそう年ぶりのことで、前回はムーティがKitaraに初登場した2007年だった。ゲルギエフはロンドン響、マリインスキー劇場管を率いて何度もKitaraに登場してロシアものを演奏し続けていたが、近年は必ずしも拘っていない。現在はミュンヘン・フィルの首席指揮者も兼任していて、あらゆる曲を指揮しているのは当然であろう。彼はマリインスキー劇場でコンサート、オペラ、バレエに全て対応している。トランス・シベリア芸術祭にも関わっていて、来年オープンする札幌文化芸術劇場にも将来出演することも期待できる指揮者である。彼は世界を股にかけて八面六臂の活躍をしていた時期もあったが、指揮界ではカリスマ性を持つ偉大なマエストロとの評価が高い。

シューベルトの集大成となった「The Great」は文字通り偉大な交響曲と実感して、最近は聴いていて惚れ惚れする気分になるお気に入りの曲になっている。
第1楽章アンダンテはホルン2本で始まるノーブルな感じのイントロが気分を高揚させる。クロアチア民謡に由来するらしい調べも印象的。第2楽章アンダンテ・コン・モートはオーボエが奏でるメロディが歌謡的で実に美しい。第3楽章スケルツォ、アレグロ・ヴィヴァーチェはオーボエ、フルートなど管楽器の美しい響きが心を踊らす。長大なスケルツォとなっているが、シューベルトが亡くなる直前に完成された曲として4楽章がほぼ同じ長さで各楽章が念入りに描かれた巧みな構成力がうかがえる。第4楽章は壮麗で華やかな終楽章。オーボエ(*サンフランシスコ響首席イゾドフ演奏)の美しさがここでも際立ったが、トロンボーンが全曲で使われているのも目立って印象に残った。リズム感のある歌謡性に富んだ曲作りは歌曲に優れた作品を数多く書いたシューベルトならではの歌心に満ちたオーケストラ曲になっていた。曲が終わって“GREAT”と心で叫んだ。満足のいく席から、演奏者の姿も視線に入れながら曲を堪能した。

ゲルギエフのタクトは第1部最後の「PMF賛歌」からオーラを放っていたが、第2部の全3曲で期待通りの指揮ぶりだった。身体全体を使ってのダイナミックなタクトもエネルギッシュで疲れを知らない超人的な指揮者ぶりを遺憾なく発揮していたのは良かった。

昨日の座席は2階CB3列15番。ステージ全体が見渡せ各奏者の動きが判って曲の醍醐味を味わえた。友人は予め隣り合わせのチケットを購入していたが、当日は偶然にKitaraボランティアが隣り合う席になり休憩時間中に話ができて良い交流となった。彼とはホワイエで今までに何十回も会っているが大ホールで座席が隣り合う確率は極めて低く珍しいことだと思って一層楽しくて思い出に残るコンサートになった。

今年は7回PMFのコンサートに通って楽しんだ。天候に恵まれれば本日のピクニックコンサートに出かけるつもりはしていたが、無理はしないことにした。会場で録画中継をしていたが、たぶん昨年と同様にPMFオン・デマンドで10月初旬にはパソコンで観れるのではと予想している。今頃、ピクニックコンサートで演奏中だろう。今日はアカデミー・メンバーだけで演奏しているはずだが、続く川崎・東京公演で有終の美を飾ってほしい。
プロフィール

fsuterry

Author:fsuterry
年間60回以上札幌コンサートホールKitaraに通うクラシック音楽ファン。クラシック全般に関心があるがオーケストラ・ピアノ曲が特に好きである。 

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